Rick's Cafe Tokio

 

 

 

この 『 Rick's Cafe Tokio 』 は 2006/10/292006/11/19 に渡り、有栖川呑屋コマルが今はなき Doblog に投稿した作品に若干手を加えた物です。

 

 

 

 

#0 「 Opening

 

 

はじめまして 皆さん

 

当 『 Rick's Cafe Tokio 』 へ

ようこそ

 

私が当店のオーナー店長、

 

リチャード・古井

通称 : リック(時に リッキー)

です。

 

どうぞお見知りおきを。

 

 

オープンに当り、簡単に当店のご案内を致しましょう。

 

名称 : Rick's Cafe Tokio

 

所在地 : 東京都内某所に在る雑居ビルの1階

 

特徴 : そこそこのスペースは確保してあるが、周りにケバイ店が多い為あまり目立たない

 

客層 : 一見(いちげん)お断りのため、ほとんど常連客

 

営業時間 : pm5:00am1:00

 

定休日 : 特になし

 

 以上

 

 

全てにおいて

『適当』

がモットーのクラブ。

 

 

今後共

どうぞよろしく

お・ひ・き・た・て・の・ほ・ど・を・・・

 

 

 

「やぁ、リッキー。 今晩は。 景気はどうだい」

 

「やぁ、トミー。 ま、 『相変わらず』 かな」

 

そろそろ常連客がやって来始めた。

トミーにキリコだ。

 

今、手元の時計は pm5:10

 

「ハ〜ィ、リック。 元気?」

 

「ハ〜ィ、キリー。 久しぶり。 まぁまぁってトコ。 キリコは?」

 

「絶好調。 リックの顔見たから尚更ね」

 

「そいつぁ、ナイスだ」

 

「又後でね。 カウンターにいるわょ」

 

OK

 

と、まぁこんな調子で店はオープンする。

 

さぁ、今夜も又忙しいのかな。

じゃ、今日はこの位で。

 

最後に一言。

ミンナに贈ろう。

 

Here's looking at you, kid. (君の瞳に、乾杯) 」 

 

君のヒトミに

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

乾杯!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

#1 アリス

 

 

「リチャードさん、今晩は」

 

名前を呼ばれて振り返ったら、そこにアリス。

古い友人の子供だ。

 

「はい、アリス。 今晩は。 今日は独(ひと)り?」

 

「うん。 ・・・」

 

頷きながら店内を見回すアリス。

そんなアリスに聞いてみた。

 

「どうした、アリス? そんなにキョロキョロして、誰か探してる?」

 

「うん」

 

「誰?」

 

「玄龍斎(げんりゅうさい)先生」

 

「今日はまだだょ」

 

「・・・」

 

一瞬、アリスの顔が曇る。

 

「心配ないょ。 もぅ、そろそろ来る頃だから。 でも、玄龍斎先生に会いたいなんてどういう風の吹き回しかな?」

 

「占って欲しい事があって」

 

「フ〜ン。 ・・・。 じゃ、3番テーブルがいいょ。 4番の隣り。 今空いてるから」

 

「3番テーブル?」

 

「あぁ、そうだょ。 玄龍斎先生は4番。 そぅ、4番テーブルって決まってるから。 先生お気に入りのテーブルって訳」

 

パチッっとアリスに右目でウインク。

そしてケンを呼ぶ。

 

「ケ〜ン!! チョッと来てくれ」

 

『ケン』とは、三田村健一。

二十歳(はたち)

店のウエイターだ。

高卒だが頭は悪くない。

客あしらいが上手い上に流暢に英語を話す。

うちに来てまだ2年だが、定着してくれたらいずれは私の片腕だ。

 

「御用ですか? 店長」

 

「あぁ、この子を3番。 玄龍斎先生の直ぐ隣りになるように。 知り合いのお嬢さんなんだ」

 

「はい」

 

ケンが軽く頷く。

そして、

 

「こちらにどうぞ。 3番テーブルはあの壁の脇になります」

 

ケンがアリスを3番に案内。

直ぐに一言(ひとこと)言い忘れていたのを思い出す。

 

「あ、そうそう。 その子、童顔だけど未成年じゃないからアルコール OK

 

「分かりました」

 

ここで、今、名前の挙がった玄龍斎先生を簡単に紹介しておこう。

だが、その前にチラッっと手元の時計を見てみた。

 

『オットー!? もぅ、こんな時間か』

 

時間がないのでそれは次回に。

 

最後に一言。

ミンナに贈ろう。

 

Here's looking at you, kid.

 

君のヒトミに

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

乾杯!!

 

 

 

 

 

#2 奥村玄龍斎(おくむら・げんりゅうさい)

 

 

その人の名は、

 

『奥村玄龍斎《おくむら・げんりゅうさい》』

 

年齢不詳。

見た目では40歳位か?

何処(いずこ)に住み、何処(どこ)からやって来るのか・・・分からない。

 

占いを生業とする(自称)霊能者?

らしい。

が、

真偽の程は定かではない。

又、

知る必要もない。

 

余計な詮索は一切しない。

それが、当 『 Rick's Cafe Tokio 』 のルールだ。

 

物腰はゆったりしていて話し上手。

面白い話を沢山持っている。

その話が聞きたくて来てくれる客もいる。

 

無欲という訳ではなさそうだが、

栄利や名声なんかには全く興味を示さない。

本人曰く、

 

『酒さえあればいい』

 

だ、そうだ。

もっとも傍で見る限りでは、それに オ・ン・ナ を加えた方が正しいような気もするが・・・

 

酒は、 『ワイルドターキー12年』 オンリーだ。

50.5°・700mlを一晩で一本必ず開ける。

それで顔色一つ変えずに帰るからかなりの酒豪だ。

酒は好きだがすぐに酔ってしまう私とはえらい違いだ。

全く尊敬に値する。

 

当店の4番テーブルが気に入っているらしく、空いていないと何もせずに帰ってしまう。

だから4番テーブルはいつも空けてある。

というのも毎日欠かさずに来てくれるからだ。

 

決まって、

pm700に来て

pm1100に帰って行く。

 

その間、楽しい話を聞かせてミンナを楽しませてくれる。

だが、ココで占いはしない。

ココへは占いをしにではなく、飲みに来ているからだそうだ。

ウチとしては 「どうぞご自由に」 なのだが。

 

だから、果たしてアリスを占ってくれるかどうか?

こいつぁ、チョッと見物かも。

なにせあの女好きの中年のスケベなオッサンが、アリスのような若くて可愛い女の子の頼みを簡単に断れるかどうか。

 

しかし、

 

『断る』

 

に今夜のアリスの飲み代(しろ)を賭けよう。

 

全く愉快な人だ。

そして、

誰からも愛される人でもある。

 

だからミンナはその人を、尊敬と親愛の情を込めてこう呼んでいる。

 

『玄龍斎先生』

 

と。

 

そろそろ来てもいい頃だが・・・。

 

 

最後に一言。

 

Here's looking at you, kid. (君の瞳に、乾杯)

 

玄龍斎先生に

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

乾杯!!

 

 

 

 

 

 

#3 奥村玄龍斎登場

 

 

「よ!? 大将!?

 

噂をすればナントやら・・・

玄龍斎先生の登場だ。

 

「今晩は、玄龍斎先生」

 

「いつも通りで・・・」

 

「いゃ、先生。 今夜はいつも通りという訳には」

 

「ん? どういう事かな?」

 

「お客さんですょ。 3番テーブル。 可愛いお客さん」

 

と、アリスを指差す。

先生がアリスを見つめる。

そして何かを思い出す。

 

「ウム。 あの子は、あの子は確か・・・」

 

「そぅ。 この間紹介しましたょね。 友人の子」

 

「お〜ぉ、そうだったそうだった。 あの美人の、あのナイスバデイの、あのボインボインの、あのお母さんの。 そ、そうだったそうだった。 あ、あのボインボインをムニュムニュの。 あのボインボインをムニュムニュの。 あのボインボインをムニュムニュの。 あ、あ、あ〜。 あのチチがー、あのチチがー、あのチチがー、ウォーーー!!

 

(プチッ!!

 

奥村玄龍斎が白目をむいてのけぞる。

それを素早く抱き抱(かか)えて。

 

「ケ〜ン、来てくれ。 玄龍斎先生がコワレタ。 早く早く」

 

「又ですかぁ?」

 

「あぁ」

 

ケンと二人がかりで4番テーブルに運ぶ。

 

「ターキー」

 

「はい」

 

私が椅子に座らせてる間に、ケンが 『ワイルドターキー8年』 を持って来る。

 

「コレじゃダメだ。

 

つー、まー、りー、・・・

 

『駄目ーーー!! 駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目ーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!

 

だ。 12年の方。 この人はソレしか飲まない」

 

慌ててケンが取りに戻る。

アリスはと見ると 『鳩に豆鉄砲』 だ。

それでなくても大きな目を更に大きく見開いて、どうしていいか分からないという表情をしている。

 

「心配ないょ。 いつもの儀式さ。 すぐに正気に戻る」

 

アリスに左目でウインク。

ついでに右手の親指を立てる。

アリスは安堵して軽く微笑む。

その笑顔が可愛い。

 

勝手知ったる常連客が、ニヤニヤ笑いながら集まって来る。

 

「ヤダー、先生ったら又?」

 

キリコが言う。

 

「玄龍斎先生、オン・ステージ!!

 

トミーが吼える。

 

「イッツ・ショータイム!!

 

別の客が茶化す。

 

そして、

みんなが笑う。

 

ホントなのかワザトなのか?

玄龍斎先生は、時々・・・

コ・ワ・レ・ル。

 

 

そして一言。

 

Here's looking at you, kid. (君の瞳に、乾杯)

 

玄龍斎先生とその愉快な仲間たちに

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

乾杯!!

 

 

 

 

 

#4 占い

 

 

「ご馳走様でした、リチャードさん」

 

アリスがペコリとお辞儀をする。

その姿が実にチャーミーだ。

 

「もう帰るの?」

 

「はい。 明日(あした)早いから」

 

「そぅ。 ところでどうだった。 占ってもらえた?」

 

「う〜ん?」

 

「ダメだった?

 

つー、まー、りー、・・・

 

『駄目ーーー!! 駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目ーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!

 

だった?」

 

「って、ゆ〜か。 手相とかは見てくれなかったンだヶど〜。 アタシの後ろをボンヤリ見ながら 『やってご覧』 って言われちゃいました。 アタシ何にも言わなかったのに」

 

「いつ?」

 

「玄龍斎先生が正気に返って、リチャードさんが席を離れてすぐ」

 

「フ〜ン。 じゃ、占ってくれなかったんだ」

 

「うぅん。 それがアタシの聞きたかった事だから、占ってくれたんだと思います。 お金受け取らなかったし、手相や人相みてくれなかったヶど・・・でも。 でも、占ってくれたんだと思います。 だってアタシ、スッキリしっちゃて、やってみる決心付いちゃったから」

 

「やってみる決心? 何をだい?」

 

思わず聞いてしまった。

慌てて打ち消す。

 

「あ!! いゃ、いい。 いいょ言わなくて。 『何も聞かない。 何も言わない』 それがウチのルールだ」

 

「いいんです。 聞いてくれても。 独立です。 独立しようかどうか悩んでたんです、アタシ。 だから、さっき玄龍斎先生にイキナリ 『やってご覧』 って言われて心が決まっちゃいました」

 

「独立って、独り暮らしするの」

 

「いぃえ、仕事です」

 

「仕事? 何のシゴ・・・。 い、いゃ。 上手くいくといいね」

 

「はい」

 

今夜の俺はどこか可笑しい。

余計な事は言わない聞かない。

それが俺流だった筈だ。

チョッと酔ったか?

それとも・・・。

 

フッ。

 

どうやら俺は賭けにも負けたが、アリスにも・・・。

この子にはオーラがある。

いいオーラだ。 実にいい。

 

アリスはレジに向かう。

チョッと離れて付いて行く。

 

「お会計お願いします」

 

「千円頂戴致します」

 

横から手を伸ばしてレシートを取る。

 

「今日はいいょ。 店のおごりだ。 いゃ、私のおごりだ」

 

「エッ!?

 

レシートを破く。

 

「いいんだょ、アリス。 君の勝ちだ」

 

「エッ!?

 

「いいんだじょ、アリス。 いいんだ。 丁度いい前祝だ。 今日は私におごらせてくれ」

 

「ホントにいいんですか?」

 

「もちろん」

 

一瞬、ためらうアリス。

その仕草が微笑ましい。

気を取り直してこう言う。

 

「じゃぁ。 ご馳走になります。 せっかくだから」

 

「あぁ」

 

「有難うございました」

 

ペコリと頭を下げる。

 

『頭なんか下げなくていいんだょ、アリス。 客なんだょ、君は』

 

そう言ぉうと思った。

が、

こうなった。

 

「うん。 又おいで」

 

「はい、リチャードさん。 又来ます」

 

明るいナイスな笑顔だ。

アリスはそそくさと駅に向かう。

まだ7時半だというのに。

 

その後姿に向かって一言。

 

Here's looking at you, kid. (君の瞳に、乾杯)

 

アリスのオーラに

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

乾杯!!