『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #51
知っての通り、汚縄一郎(おなわ・いちろう)。
デブで下品で見るからに極悪人面(ごくあくにん・づら)。
そのデブで下品で見るからに極悪人面の汚縄は嘗(かつ)て痔罠党(じみんとう)時代、幹事長までやり、強大な権力を手にし、代々の総裁を陰で操っていた事もあった。
そしてその時既に財務官僚や最高裁にまで手を伸ばし、
『汚縄システム』
と呼ばれる、違法行為を正当化出来るとんでもないシステムを構築していた。
その汚縄システムとは、
『余程の事がない限り、脱税、収賄、贈賄程度では全く検挙される事はない』
という免罪符のような代物(しろもの)だった。
つまり金に関する事なら何をやっても、一定の限度さえ越えていなければ財務省や最高裁から圧力が掛り、汚縄は全くお咎めなしという事だ。
そのシステムは極めて強固で、例え裁判員制度で裁判に掛けられても楽勝で無罪を勝ち取れるレベルであった。
そぅ。
『国策無罪』
という名の無罪を。
そしてその事実を、
「あぁ、憐れ!?」
野駄目 姦蛇蛙鰭 佳彦(のだめ・かんたあびれ・よしひこ)は知らなかったのだ。
そ、れ、も、・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・全く。。。
つづく
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『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #51 お・す・ま・ひ
『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #52
怒り心頭のまま帰宅するとすぐ、佳彦は汚縄の罪状を訴状に認(したた)め、その翌日東京簡易裁判所に訴え出た。
訴訟は受理され、裁判の日取りが決まった。
そして簡易裁判が始まった。
しかし、汚縄は既に前述の汚縄システムを発動していた。
つまり最高裁からお達しが出ていたのだ。
『汚縄を勝訴させよ』
というお達しが。
そのため汚縄側はその裁判を華麗にスル―したにも拘らず、裁判官と佳彦の間で行われた、
「それほど多額の金銭のやり取りに、受領証等の授受がないのは甚だ不自然ではないのかね?」
「そ、それは常日頃(つねひごろ)親しく交わっていたので、すっかり相手を信用していたからです」
「だが、金銭の授受を証明する物が何もない以上、この訴訟は原告側敗訴とする」
という一方的なやり取りで・・これは法律上、全くあり得ない事なのだが・・佳彦は敗訴した。
これに我慢がならぬ佳彦は、その日の内に控訴した。
だが、
地裁、高裁での審議結果も全く同様の結果を見た。
それでも諦め切れない佳彦は、到頭(とうとう)最高裁に訴え出た。
しかし、
結果は言うに及ばずだった。
結局佳彦は、ムダな時間と費用と労力、
つー、まー、りー、・・・
「無駄ーーー!! 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
な!?
時間と費用と労力を費やしただけに終わってしまった。
そして最高裁でも敗訴し、絶望の淵に立たされた佳彦は意気消沈の余り会社経営にも身が入らなくなってしまい、そのため佳彦のワンマン経営だった会社の業績は一気に悪化し、又、長引く円高不況の所為(せい)もあり、信じられない事に僅か5ヶ月で終に倒産の憂き目を見るに至ってしまったのだった。
当然、汚縄に渡した手形も期限ギリギリで不渡りとなった。
最早、絶望のどん底まで突き落とされた佳彦。
自業自得とはいえ世を恨んだ。
そして会社の整理を済ませトボトボと自宅まで歩く帰り道、
『ハッ!? そ、そうだ!?』
終に佳彦、ある決断を下すに至ったのである。
つづく
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『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #52 お・す・ま・ひ
『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #53
「ダァーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
何を思ったか佳彦。
ダッシュで自宅近くの鎮守様(ちんじゅさま)、つまり神社に掛け込んだ。
時は夕暮れ。
そのため神社に人気(ひとけ)なし。
佳彦は懐から財布を引っ張り出すと、有り金全部、賽銭箱に投げ込んだ。
そして神前の石畳の上に土下座し、地面に額(ひたい)をこすり付けて神に祈った。
「あぁ、神ょ!! 既にご照覧の通り、我欲(がよく)に駆られつまらぬ真似を致しました。 それは重々承知(じゅうじゅう・しょうち)の上でのお願いでございます。 願わくば・・・。 あぁ、冀(こいねが)わくば神ょ!! 汚縄と塵石に・・・。 あの汚縄一郎(おなわ・いちろう)と塵石東(ごみいし・あずま)、ヤツらに・・・。 あの悪逆非道なヤツらに相応の天罰を与えたまえ!!」
佳彦は大粒の涙を流しながら、何度も何度も額を神社の石畳に打ち付けて祈った。
その時、佳彦。
石畳に額を打ち付けても全く痛みを感じぬほど真剣だった。
すると、
「ピュー!!」
一陣の風が舞った。
そぅ、風が。
それまで無風状態だったにも拘(かかわ)らず。
『ん!?』
それに気付いた佳彦が顔を上げた。
その時・・・
声がした。
否、
したような気がした。
「ウム。 汝の願いは聞き入れた」
という声が。
重厚で、厳(おごそ)かで、荘重、荘厳、厳粛な声が。
そしてその声らしき声を聞いた佳彦、
「アァ〜。 神ょ!! 有難うございます、有難うございます、有難うございます、・・・」
何度も何度も同じ言葉を繰り返しながら、更に額を激しく石畳に打ち付け、大粒の涙を流したのだった。
つづく
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『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #53 お・す・ま・ひ
『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #54
翌日・・・
汚縄一郎(おなわ・いちろう)が死んだ。
死因は心臓麻痺。
それを佳彦は知人からの電話で、汚縄が死んだ二日後に知った。
同日同刻・・・
塵石東(ごみいし・あずま)も死んだ。
死因は怨恨(えんこん)による撲殺。
それも佳彦は知人からの電話で、塵石が死んだやはり二日後に知った。
佳彦は思った。
『ま、まさか願いが・・・。 ね、願いがホントに・・・。 ホ、ホントに叶うなんて・・・』
そう思うと居ても立っても居られず、
「ダァーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
佳彦は取る物も取り敢(あ)えず、例のあの神社に向かってダッシュした。
前回同様、神社には人っ子一人(ひとっこ・ひとり)いなかった。
佳彦がやはり前回同様、石畳に土下座し、額を地面にこすり付けて、
「有難うございました、有難うございました、有難うございました、有難うございました、有難うございました、・・・」
何度も何度もそう繰り返していると、
「ピュー!!」
一陣の風が・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・舞った。
そぅ、一陣の風が。
それも又、前回と同様に。
当然、
『ん! 又、風? 』
佳彦がそれに気付いた。
すると、不意に佳彦の意識が遠くなって行った。
そして・・・
つづく
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『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #54 お・す・ま・ひ
『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #55
「ゥ、ゥ〜ン」
一言軽く唸って、静かに男が目を明けた。
男は横になっていた。
目が霞(かす)んで前がハッキリとは見えずボンヤリとしていた。
目の焦点も合わせられない。
頭の中がボーっとしている。
周りは左程(さほど)明るくはなかった。
しかし暗くもなかった。
まだ、意識がハッキリしない。
再び目を閉じた。
別に眠るためにではなかった。
目を開けているのが辛かっただけだ。
そのまま何も考えずにボーっとしていた。
夢と現実を行ったり来たりしている、そんな感じだった。
暫(しばら)くそのままでいると、音がしている事に気が付いた。
その音に注意を払った。
「キューン、キューン、キューン、キューン、キューン、・・・」
何かの鳴き声のようだと思った。
事実、それは極楽鳥の鳴き声だった。
『鳥か?』
男は思った。
そして、
「キューン、キューン、キューン、キューン、キューン、・・・」
何も考えずにその音を聞いていた。
相変わらず頭の中がボーっとしていて、何も考えられないのだ。
全身の感覚が麻痺しているようだった。
まるで雲の上にでも寝ているような、そしてそのまま虚空を漂(ただよ)ってでもいるかのような、全くの無感覚。
ただ、
鳥の鳴き声と思った音だけが耳の奥で反響しているだけだった。
男は暫(しばら)くジッとその音に耳を傾けていた。
すると、
「ポッ!!」
突然、体の中で何かが弾(はじ)けた。
それに同期し、
「ビクッ!!」
大きく一度、体が痙攣(けいれん)した。
それは、それまで遠〜くに置いてあった自分の意識が瞬時に戻って来て、いきなり体の中に飛び込んだ。
そんな感覚だった。
「ゾヮゾヮゾヮゾヮゾヮ・・・」
全身の血が一気に逆流するのを覚えた。
それと共に体温の急上昇も。
再び男は目を明けた。
意識は完全に、とは言わないまでもある程度戻っていた。
とは言っても思考能力は依然として停止したままだったのだが。
目の前は先ほど同様ボンヤリしていてハッキリとは見えない。
明かりが感じられたのでどうやら辺りは暗くはないらしい。
瞬(まばた)きは何度かしたが、目は閉じなかった。
しかし、
徐々に目の焦点を合わせられるようになって来た。
それは丁度、一眼レフカメラの望遠レンズの焦点がユ〜〜〜ックリと合う感覚に似ていた。
そして終に焦点が合った。
瞬間・・・
それまで思考が停止していたのが嘘のように一気に記憶が甦(よみがえ)って来た。
まるで真夏の夕立。
いきなり降り出す雷雨のように。
これを受け、
「ウン!!」
男は素早く起き上がろうとした。
だが、
体の自由が利かない。
いつもの百倍の重力が掛っていて全く身動きが取れないような、あるいは超高粘性の液体の中にでもいてその液体の強い抵抗を受けてでもいるかのような、完璧金縛り状態。
すると突然、
「ゾクッ!!」
男は何か得体の知れぬ恐怖を感じ、
『クッ!? な、何がどうなっているんだ? ・・・。 こ、ここは? ここは一体?』
自分の周囲を見回すため頭を動かそうとした。
しかし、それすらままならない。
必死で見える範囲でチェックした。
ここは暑くもなければ寒くもない。
今、自分は寝ているようだが、それはベッドや布団(ふとん)といった類(たぐい)の上ではない。
何か細かい砂の上にでも寝ている感覚だ。
しかもここには天井がない。
それに外気を感じる。
とすれば建物の中ではなく、その外だ。
あるいはギリシャのパルテノン神殿のような所か?
柱が見えない。
ならば建物の中ではなく、その外に違いない。
ん!?
空間全体の色がセピアだ!?
とすると、どこまでも広がる砂漠のような所か?
しかも、
「ゾクッ!!」
な、なんだ!?
さっきから感じるこの異様な恐怖感は。
ここにいるだけで精神を不安定にさせる、この異様な恐怖感は。
ハッ!?
も、もしやここは地獄の辺土(へんど)!?
う、噂に聞くあの地獄の辺土か!?
男はなんの裏付けもなかったが、直感的にそう思った。
否、
感じた。
そして、
「ブルッ!!」
身を震わせた。
その時・・・
つづく
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『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #55 お・す・ま・ひ