『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #56
「オィ! オマエ!! 気が付いたか!?」
男の耳元で恐ろしい声がした。
その声に反応し、
「スゥ〜」
男は難なく上体を起こす事が出来た。
まるでその声に引っ張り上げられたかのように。
チョッと前まで全く身動き取れなかったのがウソのように。
そして声のした方を見た。
瞬間、
『ハッ!?』
男は驚愕した。
目の前に、至る所に鋭い針が突き出ている鋼鉄製の巨大な野球のバットに似た金剛棒(金剛杖の鬼バージョン)をもった赤鬼が、虎皮のパンツをはいたプレデターのような 否 プレデターを一回りも二回りも三回りも大きくしたような巨大な地獄の赤鬼が、恐ろしい形相で自分を見下ろしていたのだ。
そのプレデターよりも大迫力の赤鬼が、身も凍るような恐ろしい声でこう言った。
「オィ!! 野駄目 姦蛇蛙鰭 佳彦(のだめ・かんたあびれ・よしひこ)!! 閻魔大王様がお待ちかねだ!! 一緒に来い!!」
「え!? え、閻魔大王様・・・」
男は愕然(がくぜん)とした。
そぅ。
そこは地獄の辺土ではなく、本物の地獄だったのだ。
だから男は直感的に異様な恐怖感を感じたノダメ・カンタービレ。
そしてその男は誰あろう・・・
今回の主人公、我らが野駄目 姦蛇蛙鰭 佳彦(のだめ・かんたあびれ・よしひこ)に他ならなかった。
つづく
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『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #56 お・す・ま・ひ
『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #57
「野駄目 姦蛇蛙鰭 佳彦(のだめ・かんたあびれ・よしひこ)、汚縄一郎(おなわ・いちろう)、塵石東(ごみいし・あずま)前に出(い)でょ!!」
閻魔大王の、辺りを震撼させ、身も凍るほど恐ろしい響きを持った重厚で鋭い声が飛んだ。
佳彦、汚縄、塵石の3人が閻魔大王の前に引きずり出された。
3人は大王の前に、大王から見て左から佳彦、汚縄、塵石の順に土下座させられた。
大王が真っ先に佳彦に声を掛けた。
「汝、野駄目 姦蛇蛙鰭 佳彦(のだめ・かんたあびれ・よしひこ)」
「ハッ!! ハハァ〜!!」
佳彦が額(ひたい)を地面にくっ付けくまでひれ伏して、畏(かしこ)まった。
「余(よ)の前で、改めてソチの願(ねご)ぅ所を申し述べてみょ」
「は、はい」
佳彦が無礼にならないと思われる程度にチョッと上体を起こし、顔を左に向け、自分の左横で佳彦同様ひれ伏している汚縄と塵石を顎をしゃくって大王に指示(さししめ)した。
「こ、この二人の甘言に乗せられ、親の遺産である大切な世田谷の土地をあり得ぬ安さで買い叩かれた上、その訴訟に費やした費用と労力のため、終に私(わたくし)は一文無しになってしまいました。 その余りの悔しさを晴らさんと、我が家近くの鎮守様にその旨(むね)一心に祈願致しました所、気が付けばナゼか今ここに、この場にいる次第でございます」
「ウム」
大王は一言頷くと、次に汚縄を見た。
「汝、汚縄一郎(おなわ・いちろう)。 この者は斯様(かよう)に申しておる。 何か言いたい事があれば申してみょ」
「ハッ!! ハハァ〜!! お、お、恐れ多くも賢くも、え、え、閻魔大王様」
今度は汚縄が同じようにチョッと上体を起こし、顎をしゃくって佳彦を大王に指示した。
「い、今。 コ、コヤツめの言った事は全て出鱈目(でたらめ)。 わ、私めには全く身に覚えのない嘘八百(うそはっぴゃく)でございます」
「ホ〜? 嘘八百とな」
「ハハァ〜!! さ、左様でございます」
汚縄が地面に頭をこすり付けてそう答えた。
「ウム。 そうか」
一言頷(ひとこと・うなづ)き、大王はそんな汚縄の様子を見ながら暫(しば)し黙っていた。
そして、
「まぁ、良かろう」
そう言ってから、最後に塵石を見た。
「汝、塵石東(ごみいし・あずま)。 その方はどうじゃ?」
「ハッ!! ハハァ〜!! わ、私めは・・・」
塵石もやはり同様にして佳彦と汚縄を顎で指示した。
「そ、その契約の際・・・。 こ、この二人の間に入っただヶで、先ほどのような、あ、あのような言われ方をされる筋合いなど全くございません。 こ、今回、私めはこのような事件に巻き込まれ、い、いい迷惑でございます」
「ホ〜? いい迷惑か?」
「ハハァ〜!! そ、その通りでございます」
「ウム。 そうか」
ここで大王はチョッと間(ま)を取り、
「まぁ、良い」
そう締めくくった。
それから徐(おもむろ)に獄卒(ごくそつ = 地獄の鬼)に命じた。
「真偽鏡(しんぎ・きょう)をこれへ!!」
「ハハッ!!」
閻魔大王の命を受け、獄卒が直径3メートルはあろうかという真丸のピッカピカで見るからに重そうな大鏡を持って来て、
「ズシ〜ン!!」
佳彦達の目の前に置いた。
大王が言った。
「この鏡はその名を、大無真偽鏡(おおむ・しんぎ・きょう)と言ぅてのぅ。 ソチ達の業罪(ごうざい)を審(つまび)らかにする鏡じゃ。 中を覗いてみょ」
これを聞き、上体を起こし、不審そうな表情で佳彦達は互いの顔を見合わせた。
そんな3人に大王が厳しく申し渡した。
「何をしておる!! はよぅ、中を覗かぬかー!!」
「ハハー!!」
「ハハー!!」
「ハハー!!」
その大王の余りの恐ろしさに、3人がガクガクブルブル震えながら畏(かしこ)まった。
そして3人ともガクブルしながら膝立ちして身を乗り出し、恐る恐るその鏡の中を覗き込んだ。
す、る、と、・・・
つづく
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『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #57 お・す・ま・ひ
『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #58
『ハッ!?』
『ハッ!?』
『ハッ!?』
3人が一斉に驚いた。
そこには、佳彦と汚縄の見掛けの売買契約の打ち合わせの場面から始まり、汚縄と塵石の画策、塵石立会いの下行われた佳彦と汚縄の土地の売買契約、汚縄と佳彦の確執、更には汚縄システムの発動、何度か行われた裁判の場面、等々。
それらが全てまるでビデオかDVDでも見ているかのように克明に映し出されたからだった。
それらを佳彦達が見終わった瞬間、
「どうじゃ、汚縄一郎(おなわ・いちろう)!? 塵石東(ごみいし・あずま)!? それでもまだ余(よ)の前で白(しら)を切り通す気かー!? この愚か者どもめがー!!」
閻魔大王の厳しい声が飛んだ。
『ハハァー!!』
『ハハァー!!』
汚縄と塵石が必死の形相でその場にジャンピング土下座し、額(ひたい)を地面にこすり付けた。
二人とも返す言葉が見つからず、又、大王の恐ろしさに身を縮(ちぢ)こまらせ、ガタガタ震えながらひれ伏したままただ黙っているだけだった。
一方、佳彦は汚縄達同様その場にジャンピング土下座をしながらも、ホッと安堵の表情を浮かべていた。
その3人に大王が判決を下した。
「判決を申し渡す!! 心して聞けぃ!!」
「ハハァー!!」
「ハハァー!!」
「ハハァー!!」
佳彦、汚縄、塵石の3人がその場にひれ伏したまま返事をした。
大王が先ず汚縄に審判を下した。
「汝、汚縄一郎」
「ハハァー!!」
「その方の罪状、情状酌量の余地全くなし。 よって、地獄行きを命ず。 それも、もっとも重き無間地獄じゃ」
これを聞き、汚縄が条件反射的に身を起こし、
「え!? む、無間・・・」
閻魔大王を見つめてそう言ったっきり、言葉を発する事が出来なかった。
呆然として閻魔大王の顔を見つめていた。
そんな汚縄を、
「無礼者めー!!」
獄卒が一喝して、
「ツカツカツカツカツカ・・・」
傍に歩み寄り、片手で汚縄の少ない髪の毛をムンズとつかみ、
「グィッ!!」
恐ろしい力で汚縄の顔を地面に強引に押し付けた。
汚縄はその状態で無抵抗のまま何も出来ず、ただ顔面蒼白のままガタガタ震えているだけだった。
無間地獄の恐ろしさを思えばの故(ゆえ)だった。
次は塵石。
「汝、塵石東」
「ハハァー!!」
「その方のこの汚縄一郎と謀りし欺瞞(ぎまん)。 重々、軽からず。 じゃが、死を以って償うほどにはあらず。 よって、現世に戻りて相応の報いを受けょ」
「え!? な、なら・・・。 い、生き返れるんで?」
塵石が上体を起こし、信じられないという表情で大王を見つめた。
「あぁ、そうじゃ」
「そ、それは・・・」
塵石が嬉しそうにニッコリした。
それを見て大王が聞いた。
「嬉しいか?」
「そ、そりゃぁ、嬉しゅうございます。 だ、大王さま。 い、生き返れるんですから」
「ウム。 ならば生き返るが良い。 ただし、死よりも辛い現実が待っておるぞ。 生き地獄という名のな」
「え!?」
「しかも死にとうても当分は死ねん。 何せソチの寿命に、更に本来の汚縄一郎の残りの寿命を加えて置くのじゃからな」
「!?」
塵石は絶句した。
いままでニコニコしていたのがウソのように顔面蒼白となり、ガクガク震えている。
理由はハッキリしないが、何か途轍(とてつ)もなく恐ろしい物を塵石は直感的に感じたのだ。
そんな塵石を汚縄の顔を地面に押し付けている獄卒が、
「ギン!!」
睨み付けた。
『ハッ!?』
その気配を感じ取った塵石、
「ハハッー!!」
再び地面にひれ伏した。
最後は佳彦だった。
「汝、野駄目 姦蛇蛙鰭 佳彦」
「ハハァー!!」
「今回の件。 元はと言えばソチの我欲が事の発端。 もっとも、塵石同様、死を以って償うほどにはあらず。 又、既に相応の報いを受けてもおる。 よって、現世に戻る事を命ず。 以後改心するのじゃ。 良いな」
「ハハァー!! あ、有難うございます!! か、必ず改心致します!! か、必ず!! あ、有難うございます、有難うございます、有難うございます!!」
佳彦が額を地面に何度も何度もこすり付けた。
その姿を満足そうに見つめながら、
「ウム」
大王が頷いた。
そして、
「これにて一件落(いっけん・らく)ちゃ〜〜〜く!!」
大王のその〆(しめ)の言葉で地獄の審判が結審した。
つづく
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『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #58 お・す・ま・ひ
『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #59
獄卒に手荒く追い立てられ、汚縄、塵石、佳彦の3人が地獄の御白州(おしらす)を出た。
そして現世と地獄の分かれ道まで来た時、不意に汚縄が立ち止まった。
それに反応して佳彦と塵石も立ち止まった。
別れの言葉を告げたいのだろうと理解し、獄卒も立ち止まり、無言で暫(しば)しの猶予を3人に与えた。
汚縄が二人に言った。
「俺はもうダメだ。
つー、まー、りー、・・・
『駄目ーーー!! 駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目ーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!』
だ。 もうここから出る事は出来そうもない。 そこで折入ってアンタらに頼みたい事がある」
「なんだ?」
佳彦が聞いた。
「あぁ。 アンタらが戻ったら、女房に俺のために法要を営むよう言ってくれ。 ムダかも分からんが、
つー、まー、りー、・・・
『無駄ーーー!! 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!』
かも分からんが、気休めぐらいにはなるだろうからな」
「あぁ、分かった」
佳彦が請け負った。
その佳彦の目をジッと見つめ、汚縄が覚悟を決めたような口調で言った。
「オマエから騙し取った土地の権利書は俺の部屋の金庫の中に入っている。 鍵はデスクの右側の引き出しの上から2番目の奥にある封筒に入れてある。 封筒には 『餓鬼』 と書いてあるからすぐに分かる」
「・・・」
「あれを約束通りの条件で買い取ってくれ。 オマエから騙し取った手形は結局不渡りだったからな」
「え!?」
予想外の汚縄の言葉に、一瞬チョッと驚いた佳彦だったが、
「あ、あぁ。 分かった。 そうする」
すぐにそれを請け合った。
それを聞き、
「ウム。 そうしてくれ」
一言頷き、更に汚縄が続けた。
「それと、オマエの権利書と一緒にこれまで色んなヤツらに法外な利息で貸し付けて来た借用書が20枚ほど一緒に入っている。 それらを全てそのまま借主に渡してそれで全部ご破算(はさん)にするよう女房に言ってくれ。 せめてもの俺の罪滅ぼしだ」
「あぁ、承知した」
「ウム。 頼む」
ここで佳彦が、今、汚縄が言った事を証明する物はないかと聞こうとした。
しかし、地獄はそれ以上の時間を佳彦達にくれなかった。
それまで黙ってそのやり取りを見ていた獄卒が、
「何をしておる!! さっさと行かんかー!!」
恐ろしい声で厳しくそう言い放ち、
「ドン!! ドン!!」
佳彦と塵石の背中を手荒く突いたのだ。
いきなり背後から物凄い力で突かれ、
「オッ、トットットット!!」
「オッ、トットットット!!」
崖っぷちから地獄の底に転げ落ちそうになった佳彦と塵石。
両手を振り回してバランスを取り、前のめりになりながらもつま先立ちして必死で堪(こら)えた。
そこで塵石はなんとか踏み止まる事が出来た。
だが佳彦は、
「オッ!? オッ!? オッ!? オッ!? オッ!?」
必死で両手をブン回してバランスを取ろうとしたがその甲斐(かい)なく、
「ウッ!? ウワーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
悲鳴を上げながら、
「ピューーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
崖から転落してしまった。
その時・・・
つづく
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『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #59 お・す・ま・ひ
『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #60
『ハッ!?』
佳彦の目が覚めた。
そぅ。
佳彦は夢を見ていたのだ。
だが、
「ドキドキドキドキドキ・・・」
恐怖で心臓が高鳴っていた。
全身冷や汗でビッショリだった。
たった今味わった恐怖がまだ消えてはいないのだ。
そして目を明けたまま佳彦は思った。
『ゆ、夢・・・か?』
そのまま自分がどこでどんな状態でいるか何も考えられずにボーっとしていると、突然、
「あ!? 気が付きました?」
声がした。
慌てて声のした方を見た。
するとそこに一人の年若い女の姿があった。
見慣れぬ女だった。
女は看護着を着ていた。
とすれば、その女は看護師。
ならば、そこは病院。
つまりそこは、とある病院の一室で、佳彦はその病院のベッドに寝ていたのだった。
瞬間、
「え!?」
我に返った佳彦、
「こ、ここは? お、俺は一体・・・?」
訳が分からず声を上げ、
「ィヨットー!!」
上体を起こそうとしたがナゼか体に全く力が入らなかった。
『ヌッ!? こ、これは・・・。 ど、どうして・・・。 ね、寝起きの所為(せい)か』
理由は定かではないが、佳彦はかなり疲れているようだった。
そのため全身にまるで力が入らないのだ。
その佳彦に看護師がナゼ今、佳彦がそこにいるのかを説明した。
「患者さんは神社で、神様を土下座して拝(おが)んでいる最中、突然、意識を失ったそうですょ。 たまたまそれを見ていた人がいて、その人の通報で救急車でこの病院に運ばれて来たんですょ」
「そ、そうですか。 ウ〜ム」
神社でと言われ、なんとなく状況がつかめて来た佳彦が看護師に聞いた。
「お、俺。 い、否。 ワ、ワタシはいつからここに?」
「ホンのチョッと前です」
「え!? ホ、ホンのチョッと前!?」
「はい。 10分ぐらい前ですかね」
「え!? 10分ぐらい前!?」
「はい」
これを聞き、
『ウ〜ム』
佳彦は考えた。
『どうやら俺はあの神社にお礼参りに行ったあの時、あそこであのまま意識を失い、そのためここに運ばれたらしい。 でも、10分ぐらい前という事は・・・。 今のアレはただの夢か。 しっかし、それにしてはなんとリアルな・・・』
そしてもう一度起き上がろうとした。
すると今度は体に上手く力が入りそうな気がした。
だが・・・
つづく
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『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #60 お・す・ま・ひ