『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #61
「ズキッ!!」
背中に強烈な痛みが走った。
「ウッ!!」
その余りの痛さに佳彦が呻いた。
そして、
『ハッ!?』
気付いた。
『い、否。 ア、アレはただの夢なんかじゃない!? こ、この背中の痛み!? こ、この痛みはあの時・・・。 あの地獄の鬼に突き飛ばされた時の痛みと全く同じだ!? ならばさっき汚縄が言った事も・・・』
そう思った佳彦、
「こうしちゃ、いられない!!」
そう自分に言い聞かせるように言って、今度はなるべく痛みを感じないようにユックリと体を起こした。
今度は体に力が入り、上手く上体を起こす事が出来た。
それを見て看護師が、
「ダ、ダメですょ! まだ寝てなくちゃ!! 一応、どこにも異常は見られないらしいですヶど、それでもチャ〜ンと先生の許可取ってからじゃないと」
そう言って、
「い、否。 そ、そう言う訳にもいかないんだ」
そう抵抗する佳彦を強引に再び寝かし付けた。
そして、
「担当の先生、たった今、緊急搬送されて来た患者さん見に行ったばかりで今ここいないヶど。 じき又、戻って来ますからね。 その先生の指示でこれから点滴、打つんですからね。 おとなしく寝てなきゃダメですょ。
つー、まー、りー、・・・
『駄目ーーー!! 駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目ーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!』
ですょ」
そう言って、佳彦に点滴を打とうと注射針を取りだした。
その時・・・
「オゥ!! 邪魔するぜ!!」
超高ビーな声がした。
看護師がそれに反応した。
「あ!? 先生!?」
その声の主は医者だった。
それも佳彦の担当の。
その医者はたった今、緊急搬送されて来た患者を見に行った所、生憎(あいにく)畑違いだったためその患者をその病状の専門科に回し、すぐに引き返して佳彦の様子を見に戻って来た所だった。
そして意識を取り戻していた佳彦を見て、
「オゥ! オメェ!! 気が付いたんか!?」
そう言った。
だが、
この医者にあるまじき超高ビーな物の言い方・・・
も、もしや・・・
こ、この医者は・・・
つづく
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『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #61 お・す・ま・ひ
『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #62
「これから点滴、打つ所だったんですょ、ポチ先生」
看護師が医者の名を言った。
『・・・ポチ先生』
と。
そぅ。
何を隠そう。
やはりこの医者は・・・ポチだった。 (参考 : ポチ医者バージョン http://pocomaru.jugem.jp/?eid=2073 )
これに佳彦が反応した。
「ど、どっかでお会いした事が?」 (参考 : ポチと佳彦の関係 http://pocomaru.jugem.jp/?eid=1534 )
「ねぇ!!」
ポチがピシャッと否定した。
「他人の空似なんじゃねぇのか」
「た、他人の空似って・・・。 ネ、ネコが」
絶句する佳彦であった。
その絶句している佳彦にポチが聞いた。
「今、な〜んか言い争ってたようだが?」
横から看護師が答えた。
「はい。 この患者さんが起きようとなさったものですから」
「な〜に〜? 起きようだ〜? 起きようだと〜?」
「は、はい」
ここでポチが佳彦の顔を見た。
「オィ! オメェ!! 起きられんのか?」
「はい。 多分」
「良し!! なら起きてみろ」
「はい」
佳彦が掛け布団を撥(は)ね、ユックリと体を起こした。
そして体を回転させ、ベッドから両足を垂らし、床にあったスリッパに足を入れ、そのまま立ちあがった。
その様子をジッと見ていたポチが命じた。
「チョッと歩いてみろ」
佳彦がそれに従って、部屋の中を歩いて見せた。
その姿を観察していたポチが聞いた。
「どっか変なトコあったか?」
「いいぇ、どこも。 ただ、チョッと背中が・・・」
「な〜に〜? 背中が〜?」
「はい。 背中がチョッと痛みます」
「ウム。 良し。 なら、ここに座って上着を脱いで背中見せてみろ」
そう言って、ポチが傍に置いてあった見舞客用の背もたれのない椅子を指差した。
「ドッコイショ」
佳彦が座った。
そして患者着を下げて上半身を出した。
「どれどれ」
ポチが佳彦の背中を見た。
すると・・・
つづく
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『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #62 お・す・ま・ひ
『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #63
「ホ〜!? コイツぁスゲェなぁ!?」
ポチが驚嘆の声を上げた。
それもそのはず、佳彦の背中には巨大な掌(てのひら)の跡があり、その部分が真っ赤に膨れ上がっていたからだ。
「フ〜ン。 コイツぁ人間のもんじゃねぇな」
「え!? わ、分かります!?」
「おぅ。 分かっちまうぜ。 コイツぁ、鬼の手形だ」
まさかのポチのこの発言に、
「そそそ、そうなんです!? そそそ、その通りです!? ででで、でもどうしてそれを?」
思いっ切りどもりもまくる野駄目 姦蛇蛙鰭 佳彦(のだめ・かんたあびれ・よしひこ)であった。
その佳彦にポチが言った。
「おぅ。 ソイツぁな」
「は、はい」
「俺様と閻魔さんはマブダチでよう。 時々、地獄に遊びに行くんだ。 そん時、何度か見た事があらぁ」 (参考 : ポチと閻魔大王の関係 http://pocomaru.jugem.jp/?eid=1566 )
「え!? ェエェェェェーーーーー!!!!! え、閻魔大王と・・・。 マ、マブダチ?」
「おぅ」
「・・・」
余りに予想外の展開に佳彦が絶句した。
そんな佳彦にポチが問い質(ただ)した。
「オゥ! オメェ!!」
「は、はい」
「な〜んで、こんなもんがオメェの背中に付いてんだ? 訳を言え!!」
「は、はい。 じ、実は・・・」
佳彦がそれまでの経緯(いきさつ)、その全てをポチに正直に語った。
それを聞き終えると、
「フ〜ン。 そんな事があったんか?」
「はい」
「良し、分かった!! なら、いつ退院しても構わねぇぞ」
「え!? ホ、ホントですか!?」
「おぅ。 ウソ吐いてどうする」
「あ、有難うございます」
「ウム」
一言頷いて、横で鬼がどうだの閻魔大王がどうしただのと全く訳が分からず、メガンテ 否 目が点状態でこのやり取りをズ〜ッと見ていた看護師に、
「オィ!! 点滴はもう良(い)い。 それよっか、コイツと良く相談して退院手続きを取ってやれ」
ポチが佳彦を指差してそう言った。
つづく
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『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #63 お・す・ま・ひ
『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #64
退院手続きが済むや否や、
「ダァーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
脱兎の如(ごと)く汚縄の屋敷を目指す野駄目 姦蛇蛙鰭 佳彦(のだめ・かんたあびれ・よしひこ)。
佳彦が汚縄の屋敷に着いた丁度その時、タイミング良く汚縄の家族が荼毘(だび)に付(ふ)された汚縄の骨の入った骨壷を抱いて帰って来た。
庭先で汚縄の家族に挨拶し、汚縄の骨壷に両手を合わせ、チョッと黙祷を捧げてから佳彦が汚縄の女房に聞いた。
「ご主人が亡くなられてから、何か変わった事はありませんでしたか?」
「ん!? それは? どういう・・・?」
「いぇね。 実はワタシも仮死状態でお宅のご主人と地獄で一緒だったんですょ」
「え!? じ、地獄!? しゅ、主人が地獄に!?」
「はぁ。 誠に申し上げにくいのですが、そうなんです」
それを聞き、
「ピクピクピクピクピク・・・」
汚縄の女房の顔が怒りでみるみる引き攣(つ)った。
そしてヒステリックに、
「こ、こん時に良くそんなウソが言えますね、ア、アナタって人は!? 聞けば主人とはトラブルになってたそうじゃないですか、アナタは!? か、帰って! 帰って下さい!!」
佳彦に罵声を浴びせ掛け、
「プィ!!」
顔を背(そむ)け、
「ツカツカツカツカツカ・・・」
足早に庭の中に入って行った。
その後を追いながら庭に入り、
「い、否。 こ、これは決してウソなんかじゃ・・・」
言いすがる佳彦に対し、互いに目配せした汚縄の親せき筋の怪しい連中数人が、
「ツカツカツカツカツカ・・・」
足早に歩み寄り、
「オィ! オマエ!! いい加減にしねぇか!!」
そう凄み、佳彦を突き飛ばすようにして家の庭から外にホッポリ出した。
そして乱暴に、
「ガシャーーーン!!」
いつもは開けたままにしてあるスライド式のフェンスを閉めてしまった。
いつもそうしてあるのはセキュリティに万全を期しているからあり、又、その方が庭を含めた屋敷全体の見た目がデザイン的に良(よ)いからだった。
そんなフェンスを閉められ、門前払い同然に追い払われてしまったのだ、佳彦は。
この、汚縄の女房に全く相手にされず、けんもほろろに外に放り出されてしまった佳彦。
意気消沈して、
「・・・」
暫(しば)し無言でその場に佇(たたず)んだ。
折角、奪われた土地を取り戻せると喜んでいただけに受けたショックはデカかった。
「ウ〜ム。 どうしよう?」
まだ諦め切れず、立ち去ろうとしないでその場で考え込んだ。
すると突然、
『ハッ!? そ、そうだ!?』
ある考えが閃(ひため)いた。
そして、
「ダァーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
再びダッシュで、ある場所を目指した。
そのある場所。
そ、れ、は、・・・塵石の家。
そぅ。
あの塵石東(ごみいし・あずま)の家だった。
つまりその時佳彦は、地獄で一緒だったはずのあの塵石東に証人になってもらおうと思ったのだ。
だが・・・
つづく
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『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #64 お・す・ま・ひ
『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #65
「ェエーーー!? そ、そんなー!?」
佳彦は愕然とした。
今、佳彦は塵石の家の前にいる。
そして呆然として立ち尽くしていた。
ナゼなら・・・
塵石も又、既に荼毘(だび)に付されていたのだったノダメ・カンタービレ。
生き返る事が出来ぬままに。
『こ、こんな事が・・・。 こ、こんな事が起こっていいのだろうか?』
佳彦は自問した。
『確かに塵石も俺と一緒にこの世界に戻って来たはずだ、生き返るために。 それも汚縄の残りの命数まで加わって。 なのに現実は・・・。 やはりアレは・・・。 アレは単なる夢だったのだろうか』
佳彦は塵石のこの現状を見て、自分の経験が真実だったのかどうか自信が持てなくなって来た。
そしてボソッと呟いた。
「仮にあれが現実だったとしても塵石がこれでは、最早これまでか」
そして元気なく帰路に着いた。
しか〜〜〜し・・・
つづく
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『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #65 お・す・ま・ひ