『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #66
翌朝。
「トゥルルルルル。 トゥルルルルル。 トゥルルルルル。 トゥルルルルル。 トゥルルルルル。 ・・・」
佳彦の家の電話が鳴った。
「ガチャ!!」
受話器を取り、
「はい」
佳彦が出た。
すると、
「あ!? あの〜。 野駄目様のお宅でございましょうか?」
「はい。 そうですが」
「姦蛇蛙鰭 佳彦(かんたあびれ・よしひこ)様はご在宅でございましょうか?」
「姦蛇蛙鰭 佳彦はワタシだが・・・。 ソチラは?」
「あ!? は、はい。 も、申し遅れました。 私、汚縄一郎の妻の汚縄滓子(おなわ・かすこ)でございます。 さ、昨日は、大変失礼なマネを致しました」
「あ、あぁ。 はい。 あ!? いゃ。 こ、こちらこそ。 で!? ご用件は?」
「はい。 実は、昨晩。 我が夫、一郎が夢枕に立ちまして」
「え!? 夢枕に?」
「はい。 それでアナタ様の仰(おっしゃ)る事は全て真実であるから話を良く聞くようにと厳しく言われ、失礼を承知でお電話を差し上げた次第でございます」
「ん!? という事は?」
「はい。 もし、ご都合が宜しければ、何卒早い時期に当家にいらしては頂けませんでしょうか? そして事の次第を詳しくお聞かせ頂けませんでしょうか? 夢枕で主人がアナタ様に全てお願いしてあると強く申すものでございますから」
突然の事に一瞬耳を疑った佳彦ではあったが、諦めかけていた事に先が見えて来た喜びで、息せききって答えた。
「そ、そうですか!? わ、分わかりました!? そ、それではこれからすぐに伺います!? よ、宜しいですか!?」
「はい。 結構でございます。 何卒、宜しくお願い致します」
「いっ。 否。 こっ。 こちらこそ」
「ガチャ!!」
受話器を置くとすぐ、取る物も取り敢(あ)えず佳彦は汚縄邸に向かった。
当然、
「ダァーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
って、ダッシュで。。。
つづく
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『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #66 お・す・ま・ひ
『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #67
「これが事の真相です」
佳彦がそう言って話を終わらせた。
ここは汚縄邸。
真剣に汚縄一郎(おなわ・いちろう)の妻、滓子(かすこ)が聞き入る中、佳彦が地獄での一連の出来事を思いだせる範囲で全て語った所だった。
それは・・・
気が付けば自分が地獄にいた事から始め、大無真偽鏡(おおむ・しんぎ・きょう)という名の鏡を中心とする地獄の御白州(おしらす)での出来事、その全て。
その後、地獄の獄卒に引き立てられ地獄と現世との分かれ道まで来た時に汚縄が自分に託した事、その全て。
つまり・・・
滓子に自分のための法要を営むように言う事。
常識外れの安値で佳彦が汚縄に形式上譲り渡した事にした土地の権利書が、汚縄の部屋の金庫の中に入っている事。
その鍵は汚縄のデスクの右側の引き出しの上から2番目の奥にある封筒に入れてあり、その封筒には 『餓鬼』 と書いてある事。
それを約束通りの条件で佳彦が買い戻す事。
又、その金庫の中には佳彦の土地の権利書以外に20枚の法外な利息で貸し付けた借用書が入っていて、汚縄のせめてもの罪滅ぼしのためそれら全てをそのまま借主に渡し、全部ご破算にするように滓子に伝える事。
以上だった。
これを聞き、滓子が唸った。
「ウ〜ム。 全くその通りでございます」
「ん!? それは?」
「はい。 今のお話。 昨晩、夫、一郎が夢枕で私に申した事、そのままでございます」
「だったら、信じて頂けますか?」
「はい。 勿論」
「ならば、大至急金策を致します故、土地をお返し頂けますね」
「はい」
「それでは元手が揃ったらご連絡致します」
そう言って、佳彦は脱兎(だっと)の如く汚縄の屋敷を飛び出した。
ふ、た、た、び、
「ダァーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
って。
当然、・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ダッシュで。。。
つづく
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『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #67 お・す・ま・ひ
『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #68
「な!? 頼む!! この通りだ!! アンちゃんが悪かった!! だから頼む!! な!? 名無(なな)!!」
佳彦が妹に頭を下げていた。
ここは佳彦の妹・名無(なな)の家。
一度、会社倒産の憂き目を見た佳彦に信用はゼロ。
そんな佳彦に金を融通してくれる所など、どこにもなし。
金額が高額なだけに、それに相手が破産者ともなれば街金も相手にしてくれそうもなかった。
もっとも佳彦も、額が額だけに流石に街金に手を出すほど愚かではなかったが。
八方手を尽くしてはみたものの全く思うようには行かず、終に佳彦、妹・名無に真実を打ち明け、保証人を頼んだのである。
始め名無は佳彦の話を全く信じなかった。
しかし、その初めて見る佳彦の真剣さに心が動いた。
そして間違いなく世田谷の土地を折半するという念書と引き換えに保証人になる事を約束した。
ここを以って漸(ようや)く佳彦、その土地を担保に銀行から融資を受ける運びとなり、その金で殆ど騙し取られた土地をやっと取り戻す事が出来たのだった。
それに事例発生後、既に5年以上経過していたため仮に何か不備な点があったとしても、法律上の金銭関連事項は既に時効を迎えていたので気にする必要は全くなかった。
加えてこの時、妹・名無から融通してもらった金と、自身が相続していた田舎の山と土地を売っぱらって作った金で再び会社経営の目途もたった。
又、
汚縄滓子(おなわ・かすこ)のたっての頼みで汚縄一郎の法要は佳彦が段取りを決めると同時に、20枚の借用書も滓子の代わりに佳彦が借主に返したのだった。
これにより、全ては一見落着した・・・かに見えた。
だが・・・
つづく
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『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #68 お・す・ま・ひ
『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #69
我々は覚えている。
極悪人がもう一匹いた事を。
そう。
極悪人がもう一匹。
塵石東(ごみいし・あずま)という名の屑(くず)でクソのとんでもない極悪人が。
我々は間違いなく覚えているのだ。
塵石東という名の屑でクソのとんでもない極悪人が、もう一匹いた事を。
しか〜〜〜し・・・
あぁ、憐れ! 塵石東!!
命数が残っているにも拘らず荼毘(だび)に付され、帰るに帰れず、然(さ)りとて地獄にも戻れず、天国にへなどは以(もっ)ての外(ほか)。
そのため終に塵石。
浮遊霊となりその命数が尽きるまで彷徨(さまよ)える魂となってしまったのである。
そしてその日が来るまで、人から人へと憑依を繰り返して行かなければならない宿命を負ってしまったのである。
これがあの時、地獄の御白州(おしらす)で閻魔大王の言った、
「ウム。 ならば生き返るが良い。 ただし、死よりも辛い現実が待っておるぞ。 生き地獄という名のな」
この言葉の意味する所であった。
つづく
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『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #69 お・す・ま・ひ
『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #70
漸(ようや)く佳彦が、汚縄滓子に頼まれた借用書20枚を借主に返し終えたその晩、その深夜。
佳彦が自宅でホッと一息入れていると、
「ドンドンドンドンドン・・・」
けたたましく玄関のドアをノックする音が聞こえた。
『ん!? 誰だ!? 今頃、こんな時間に!?』
不審に思った佳彦、
「ツカツカツカツカツカ・・・」
玄関まで行き、
「ジロッ!!」
ドアの覗き穴から外の様子を窺(うかが)った。
だが、誰もいなかった。
「な〜んだ、誰かの悪戯かぁ。 ふざけた野郎もいたもんだ」
などとブツブツ言いながら元いた所に戻った。
すると再び、
「ドンドンドンドンドン・・・」
けたたましく玄関のドアをノックする音が聞こえた。
不審に思った佳彦、
「ツカツカツカツカツカ・・・」
もう一度玄関まで行き、
「ギロッ!!」
ドアの覗き穴から外の様子を窺った。
しかし、誰もいなかった。
「ちっ。 なんだ一体? 誰がやってんだ」
そうブツブツ言いながら元いた所に戻った。
すると三度(みたび)、
「ドンドンドンドンドン・・・」
同じ事が起こった。
これには流石に怒り心頭に発した佳彦、
「ドカドカドカドカドカ・・・」
急いで台所へ行き、
「サッ!!」
出刃包丁を引っ手繰(ひ・っ・たく)るようにつかむと、
「ドカドカドカドカドカ・・・」
玄関まで走り、
「バン!!」
勢い良く玄関のドアを開けた。
瞬間、
『ハッ!?』
佳彦は仰天した。
目の前に、ナ、ナント・・・
つづく
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『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #70 お・す・ま・ひ