『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #31
「ウッ、ヒャーーーーー!? こ、これが俺ーーーーー!?」
ポッポは鏡を見て驚いた。
鏡の中には見事に変身した、小錦ポッポの姿があったからだ。
目玉は相変わらずキモ〜く下品に飛び出してはいるが、頬はプゥ〜っと膨れ上がり、顔付きはキモ〜く下品に目ん玉の飛びだしたペコちゃん人形状態。
腹は三段腹どころか十段腹。
両足は脂肪が邪魔して膝と膝をくっ付ける事が不可能。
つまり、全身肉襦袢姿であった。
そのポッポの姿を満足そうに眺めながら、
「随分とまぁ、見事にお肥えになられて。 ウフフフフ」
含み笑いを浮かべる女将。
「い、いやぁ。 お、お恥ずかしい。 こ、これじゃぁ、折角のボクちゃんの美形も台無しですなぁ。 カカカカカ」
「いぇいぇ。 そのような心配はま〜たく必要ございませんゎ〜。 まだまだと〜っても、スッ、テッ、キッ。 ウフッ」
そう言って女将がポッポの耳元に軽〜く、
「フゥ〜」
息を吹き掛けた。
「エヘッ。 エヘエヘエヘ」
全く悪い気のしないポッポであった。
当然、股間は、
「ウ〜ム。 モッコリ!!」
特盛り上がり。
そんなポッポに、
「さ。 一献どうぞ」
相変わらず酒を勧める女将。
「では又、ご相伴に与(あずか)りましょうかな」
「そうこなくては」
そう言って女将がポッポに酌(しゃく)をした。
「オッ、トッ、トッ、トッ、トッ」
「ささ、グイッと、一気に」
「頂きましょう」
嬉しそうにそう言って、
「ゴクリ!!」
注がれた酒を一気に飲み干す鳩山ポッポ。
「お楽しゅうございますか、ポッポ様?」
「も、勿論!! て、天国です、ここは!!」
「それは宜しゅうございました。 ならばポッポ様」
「ハィ〜?」
「いつまでもここにいて下さいますか?」
「え!? い、良いんですか!? い、いつまでもいても!?」
「当然でございます」
「そ、そっかー。 こ、こんなゴージャスな生活がいつまでも・・・」
「はい。 『いー、つー、まー、でー、もー』 でございます。 でも」
「ん!? でも?」
「はい。 一つだけお願いがございます」
「お願い?」
「はい」
女将が徐(おもむろ)に立ち上がり障子を開けた。
そして・・・
つづく
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『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #31 お・す・ま・ひ
『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #32
「ここから外に出るのは構いません。 他のお部屋に入っても構いません。 ただし!!」
ここで女将が離れを指差した。
「あの離れにだけは絶対に近付かない!! そうお約束頂けますか?」
「あの離れにだけは絶対に近付かない?」
「はい。 お約束頂けますか?」
「分かりました。 お約束致しましょう」
「必ずでございますょ」
「はい。 必ず」
「ウフッ。 ウッ、レッ、シッ、イッ。 ならば、ポッポ様」
「ハィ〜?」
「もう一献」
「ウム。 頂きましょう」
又、同じ事が繰り返された。
つづく
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『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #32 お・す・ま・ひ
『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #33
そんなある日の夜遅く。
「ゥ、ウ〜ン」
ポッポの目が覚めた。
便意を催したのだ。
トイレに行き、用を足し、戻って来た。
だが、
すぐには眠る気にはなれず夜風に当たろうと障子を開け、濡れ縁に出た。
その日は満月だった。
濡れ縁の端に腰掛け、
『なんと美しい!?』
そう思いながら、暫(しば)し満天の星空の中で更に一層の輝きを見せている満月を眺めていた。
すると、
『ん!?』
不意に、何やら物音が聞こえて来た。
その物音が何かを判断するため、聞き耳を立てた。
物音はどうやら離れから聞こえて来るようだった。
静かに立ち上がり、ポッポは女将との 『決して離れには近付かない』 という約束をすっかり忘れてその物音の出所、即ち離れに近付いた。
近付いて初めて分かった。
その物音は、
「ゥゥゥ、ウ〜〜〜〜〜」
呻き声だった。
それも男の。
しかも苦しそうな。
気になったので音を立てないよう注意し、静か〜に静か〜に離れの障子戸の傍により、人差し指を舐めて唾を付け、その指で障子戸の障子に小さな穴を開け、そ〜っと中を覗いた。
その瞬間・・・
つづく
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『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #33 お・す・ま・ひ
『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #34
「あ!?」
思わずポッポは声を上げそうになり、慌てて両手で口を押さえた。
目の前に信じられない光景が展開していたからだ。
離れの真ん中に設(しつら)えてある囲炉裏(いろり)の中では大量の炭が真っ赤っ赤に焼かれ、その上に掛けられている大鍋はその火でグラグラと煮えたぎり、部屋の中はその大鍋から出た湯気がモァモァモァと立ちこもっていたのだ。
だが、如何(いか)に小心もんのポッポとはいえ、そんな事で驚く訳がない。
ポッポは他の事に驚いたのだ。
それは大鍋の上にあった物。
後ろ手に縛り上げられ、天井から逆さ吊りにされた今のポッポと寸分違(すんぶん・たが)わぬデブのオッサンの姿だった。
先ほど聞こえたのはそのデブのオッサンの呻き声だったのだ。
そしてそのデブのオッサンの全身からは、
「タラッ。 タラッ。 タラッ。 タラッ。 タラッ。 ・・・」
汗が噴き出しており、その汗が、
「ポタッ。 ポタッ。 ポタッ。 ポタッ。 ポタッ。 ・・・」
音を立てて大鍋の中に滴(したた)り落ちていた。
気が動転しながらもポッポはそれを何とか堪(こら)え、ジッと目を凝らして良〜く見ると、
その、
「ポタッ。 ポタッ。 ポタッ。 ポタッ。 ポタッ。 ・・・」
と音を立てて大鍋の中に滴(したた)り落ちているのは汗ではなく脂(あぶら)だった。
それがその哀れな姿のオッサンの目、口、鼻、それに耳、果ては全身から滴(したた)っていたのだ。
「ゴクッ!!」
ポッポは生唾を飲み込んだ。
そのままユックリ視線を下げた。
瞬間、
「ドキッ!!」
ポッポは心臓が口から飛び出すのではないかとさえ思えるほどの衝撃を受けた。
炉端にはあの女将がこちら向きに座っていたからだ。
女将は大鍋を覗き込み、その煮立った大鍋を杓文字(しゃもじ)のような、あるいはヘラのような物で杓(しゃく)っては混ぜ、杓っては混ぜして味見をしていた。
こんな事をブツブツ言いながら。
「ウム。 そろそろ良い味加減になって来たょ。 もうあとチョッとだ。 これにあのポッポの脂を足せば出来上がり。 あのバカにはしこたま旨(うま)い酒を飲ませた上、美味(うま)い物をたらふく食わせて来た。 きっと、良(い)い出汁(だし)が取れるはずだ。 フフフフフ」
つづく
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『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #34 お・す・ま・ひ
『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #35
ジーっと覗き穴から目を逸らさず視線を女将に向けたまま、静かにポッポは後ずさりした。
女将に気付かれないよう静か〜に静か〜に。
そのまま慎重にも慎重に音だけは立てまいと静か〜に静か〜に、ユックリとユックリと、一歩一歩、否、半歩半歩、姿勢を崩さずに後ずさりした。
そしてバランスを崩さないよう慎重に、
「クル〜リ」
向きを変えた瞬間、
「ボキッ!!」
足元に転がっていた枯れ枝を踏んでしまった。
『ハッ!? し、しまった!?』
焦るポッポ。
その時、
「誰じゃー!?」
離れの中から、とても女の声とは思えないような野太い女将の声が聞こえた。
その声を聞き、
「ドキッ!!」
一瞬、その場に凍て付くポッポ。
だが、
『ハッ!?』
すぐに我に返った。
そして、
「ダァーーーーー!!!!!」
というよりも、
「ドタドタドタドタドタ・・・」
と、館の門目掛けて一目散にダッシュした。
それと同時に、
「ガラッ!!」
離れの障子の開く音が背後から聞こえた。
もう、その余りの恐ろしさに脱糞寸前のポッポ。
その背後から、
「待てー!!」
先ほどの野太い女将の声が聞こえた。
何者かが迫って来るのを感じながらも恐ろしさの余り振り返る事が出来ず、只管(ひたすら)館の門目掛けて・・おデブになっちゃったお陰で歩くのとおんなじ速さで・・ダッシュする鳩山ポッポ。
本人は、
「ダァーーーーー!!!!!」
のつもりで、
「ドタドタドタ・・・」
って。
それも、
『追い付かれたら命がない!?』
そう自分に言い聞かせながら走った。 否 歩いた。 否 走った。 否 歩いた。 否 ・・・。
ウ〜ン。 どっちだ?
ま!? どっちでもいいや!?
だが・・・
つづく
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『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #35 お・す・ま・ひ