『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #41
「世に物欲ほど恐ろしい物はないんですね」
静かにポッポが呟(つぶ)いた。
直人同様ポッポも又、完全素面(しらふ)になっていた。
そんなポッポに雲竹斎が言った。
「君にとってはな」
「え!?」
ポッポが顔を上げ、雲竹斎を見た。
「女、酒、金、ギャンブル、富、名声。 人それぞれさ」
「・・・」
言われている事がまだ良く飲み込めず、ポッポは黙っていた。
それを察して雲竹斎が続けた。
「君の弱点はな、鳩山ポッポ君」
「あ!? はい」
「怠惰(たいだ)だ!!」
「え!? 怠惰?」
「そう。 怠惰だ。 それが君の一番の弱点なんだょ、鳩山ポッポ君」
「・・・」
ポッポは黙った。
返答に窮したのだ。
更に雲竹斎が、今度はズバリ。
ポッポの弱点を指摘した。
「君は人を頼り過ぎる!!」
核心を突かれ、
「あ!?」
反射的にポッポが声を上げた。
暫(しば)し、ポッポは雲竹斎の目を見つめた。
それから視線をテーブルに移し、一言一言自分に言い聞かせるように呟(つぶや)き始めた。
「そうかも知れません。 確かに僕は、人を・・・。 人を頼り過ぎるかも知れません。 特に母を。 いつも母に頼ってばかりでした。 その母もつい先日亡くなりました。 しかもなんの因果か僕の誕生日に・・・」
ここでポッポは再び黙った。
目頭がジンワリと熱くなって来ているようだった。
暫(しばら)く両手で包み込むようにあのグラスを持ち、それを見つめていた。
だが突然、
「ウム」
何かを悟ったように頷き、熱くなっていた目頭を右手人差し指でこすり、顔を上げ、雲竹斎の目を見つめ、キリッとしてこう言った。
「それじゃ、いけないんですょね。 ダメなんですょね。
つー、まー、りー、・・・
『駄目ーーー!! 駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目ーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!』
なんですょね、人を当てにしていてばかりいちゃぁ」
「ウム」
「先生!?」
「ん!?」
「分かりました。 今日から・・・。 否、たった今から心を入れ替えます。 これからは人を当てにしたり頼るんじゃなくって、僕が、この僕が人に当てにされたり頼られたりされるよう頑張んなくっちゃぁって」
「あぁ、そうだ。 その通りだ」
「ウム。 良し!! な〜んか急にやる気が出て来たぞー!! 頑張っちゃうぞー!!」
「ウムウム。 結構結構。 それで良いそれで良い。 ワッハハハハハハ」
「アハハハハ」
暫(しば)し、明るく笑うポッポと雲竹斎であった。
加えて、これを見ていた直人が、
「ニヤリ」
訳知(わけし)り顔で笑った。
だが、
その場に居合わせていたもう一人の男には、その意味はからっきし理解出来なかった。
つづく
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『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #41 お・す・ま・ひ
『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #42
雲竹斎は・・・
三人目の男、つまり自分の向かって右側にいる男の空のグラスに酒を注いでいた。
前二人同様、ツーフィンガーだ。
注ぎ終えると雲竹斎が言った。
「さぁ、最後は君だ。 それを一気にグイッといきなさい」
「はい」
一言頷き、
「グイッ!!」
男は、雲竹斎に注(そそ)がれた酒を飲んだ直後の、前二人のあの訳の分からない妙な反応を目の当たりにしてはいたが、それでも何ら躊躇(ためら)う事なく今注がれたその酒を一気に呷(あお)った。
飲み終えるとすぐ、
「フヮ〜ゥ」
その男も又、大欠伸(おお・あくび)が始まった。
それも一度ならず、連続して何度も。
既に、目はトローンとしている。
先ほどの菅直人(かん・ちょくと)、鳩山ポッポの時と全く同じように。
男がボソッと呟いた。
「あれ〜。 どうしたんだろう、急に眠気が。 もうそんな時間か?」
それからこの男も又、
「チラッ!!」
腕時計を見た。
「ま〜だ11時20分かぁ」
そう言った時にはもうすでに、両瞼(りょうまぶた)は開いてはいなかった。
一方、
雲竹斎はといえば、前回、前々回同様、ジッとその男を見つめたまま、
「ブツブツブツブツブツ・・・」
小声で、それも隣りに座って一心不乱に聞き耳を立てている者達にさえ何をほざいているのか全くからないほど小さな声で、何にやらブツブツ言い続けている。
そして、他の二人が興味津々(きょうみ・しんしん)見つめる中、その雲竹斎のブツブツがまるで子守唄ででもあるかのように、
「スゥ〜」
終に、男が眠りに落ちた。
それはそれは、深〜い深〜い眠りに。
しかも、
「グォー、グォー」
大鼾(おお・いびき)をかいて。
しかも一瞬にして。
それも直人、ポッポの時と寸分違わず。
そして・・・
今、眠りに就いた男・・・
それはその名を・・・
野駄目 姦蛇蛙鰭 佳彦(のだめ・かんたあびれ・よしひこ)といい、年齢は32才だった。
つづく
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『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #42 お・す・ま・ひ
『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #43
「フヮ〜ゥ」
一発、大欠伸(おお・あくび)こいて野駄目 姦蛇蛙鰭 佳彦(のだめ・かんたあびれ・よしひこ)の目が覚めた。
四肢を大きく伸ばしながらからユックリ上体を起こした。
瞬間・・・
『え!?』
チョッと驚いた。
3人掛けの総革張りの超高級ソファーの上で項垂(うなだ)れて、うつらうつらしていたからだ。
そして、
『ん!? こ、ここは!? え!? こ、ここは!? ェエー!? こ、ここは!? ェェエーーー!? ここはここはここは、一体どこだー!?』
ビックリした。
今までいたはずの場所と景色が全然違っていたからだ。
反射的に素早く辺りを見回した。
するとテーブルを挟んで反対側に、スッゴク良〜く見慣れた、醜悪な極悪人面(ごくあくにん・づら)丸出しこいた悪党野郎が自分を見て座っていた。
その醜悪な極悪人面(ごくあくにん・づら)丸出しこいた悪党野郎と目が合った瞬間、
「え!? ェェェェエーーーーー!? お、汚縄さん!? え!? ェェェェエーーーーー!?」
佳彦が驚きの声を上げ、そのま絶句した。
そぅ。
佳彦の目の前に座っていたのは誰あろう。
手の施しようのないほど金に意地汚い上、自己保身のためなら仲間を売る事などなんとも思わないあの超ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー、極悪人の汚縄一郎(おなわ・いちろう)だったノダメ・カンタービレ。
「え!? ェェェェエーーーーー!? ううう、雲竹斎は!? ううう、雲竹斎はどこに!? あああ、あの超ー、キモ怪しい小磯雲竹斎とかいうオッサンは一体、ど、どこに!? え!? ェェェェエーーーーー!?」
状況がつかめず困惑する佳彦。
そんな佳彦に汚縄が言った。
「な〜に寝ぼけた事言ってやがんだ、佳彦。 オマエんトコの親の遺産の相談をしてたんじゃねぇか」
「え!? 遺産!? え!? どどど、どういう事!? え!? ェェェェエーーーーー!?」
「バ〜カ。 いつまでもな〜にほざいていやがる。 『妹に親の遺産の半分、分けてやんなきゃなんねぇ。 ヶど、そうしたくねぇ。 だから相談に乗ってくれ』 ちゅうてここ来たのオマエじゃねぇか。 それもこんな夜遅く。 今、何時だと思ってんだ!? え〜!? 夜中の11時20分だぞ!! ったく、しょうがねぇ野郎だー!!」
「あ!?」
佳彦は思い出した。
1ヶ月前、佳彦の両親は飛行機事故で死んだ。
莫大な財産を子である佳彦と、まだ年齢15で高校生になったばかりの佳彦とは17才も年の差のある妹に残してだ。
その内訳は、多額の銀行預金と父親が起業した会社の株券、それに家と土地だった。
そして法定相続人はこの兄妹(きょうだい)二人だけ。
他にはいなかった。
そのため遺産を綺麗に二等分し、この二人で分ける必要があった。
だが、強欲な佳彦は妹の取り分をなるべく少なくしたかった。
そのため、そういう事には極めて狡知(こうち)に長(た)けた郷土の大先輩であると同時に幼い頃からの馴染(なじみ)でもあった、汚縄の所に相談に来ていたのだった。
「あ!? あぁ。 そうそう。 そうだった、そうっだった」
「もぅ。 な〜に寝ぼけてやがる。 大丈夫か、オマエ?」
「は、はい。 も、もう、大丈夫っす」
「ウム。 そうか。 だったら、確認のためもう一度聞く。 一体、オマエは親の遺産をどうしたいんだ?」
「あ、あぁ。 それなんだヶどさぁ」
「ウム」
「さっきも言ったように、法定相続人は俺と妹の二人。 だから遺産の半分をアレにやらなきゃなんねぇ。 でもょ〜、一郎アンちゃん」
佳彦は大先輩ではあったが幼い頃からの馴染であったため、汚縄一郎を 『一郎アンちゃん』、 あるいは単に 『アンちゃん』 と呼んで慕っていた。
そう呼ばれる汚縄も悪い気がせず、それを当たり前の事として受け入れていた。
その汚縄が聞き返した。
「ん!? なんだ?」
「いゃな〜、一郎アンちゃん。 アンちゃんも知っての通り、俺はさぁ、大学を出てからのこの10年間、オヤジを助けて必死に働いて来たんだ。 というより、実質経営者は社長のオヤジじゃなくって、専務の俺の方だったんだ。 そして会社を10倍の規模にまで膨れ上がらせ来たのも殆(ほとん)ど俺の力だ。 この俺の。 それは知ってるょな」
「ウム」
「それに二部とは言え豚証(とんしょう)に上場だって果たした。 それだって他でもねぇ、この俺の働きがあったればこそだ。 そのためにゃ随分きたねぇ事もやって来たし、したくねぇ我慢だってして来たんだ。 なのに今までな〜んもしてこんかった妹に、遺産の半分をくれてやらなきゃなんねぇなんて不公平じゃねぇか。 え〜。 だってそうだろ〜。 妹のこれまでの養育費や学費だってぜ〜んぶ、俺が・・・。 この俺が面倒みて来たようなもんなんだぜ。 なのに半分もだ〜。 こ〜んな不公平な事ぁねぇょな。 で!? アンちゃんトコに相談に来たって訳だ。 どうかなぁ? 妹の取り分を減らす、な〜んか良い知恵はねぇもんかなぁ?」
「ウム。 そうだな〜。 言われてみりゃぁ、不公平だな」
「だろ? な」
「あぁ、そうだ。 不公平だ。 ・・・。 でもょ〜。 チョッと聞くヶどょ〜」
「ん!?」
「遺産は全部オマエが握ってんのか?」
「あぁ。 握ってる。 一応、俺は妹の後見人だからな。 妹が二十歳になるまでの」
「だったら、隠しちまえばいいじゃねぇか」
「あぁ。 それなんだヶどさぁ。 金ならある程度までならなんとか隠せる。 ヶどな〜、一郎アンちゃん」
「ん!?」
「一つ。 問題があんだ。 それも大きな」
「え!? 一つ? 問題? 大きな?」
「あぁ」
「なんだ? その一つ大きな問題っちゅうのは?」
「いゃ〜。 実を言うとな。 その問題ってのはな。 うちの会社の株券と土地なんだ」
「うちの会社の株券と土地?」
「あぁ」
「それがどうした?」
「いゃな〜。 うちの会社の株券を半分分けちまうと、俺と妹は株式保有率で同率3位まで下がっちまうんだ」
「だったら、妹から買い取りゃ良いじゃねぇか」
「あぁ。 俺もそのつもりだし、弁護士にも相談しているところだ」
「なら、後は土地か?」
「あぁ、そうなんだ」
「どのぐらいあるんだ?」
「それなんだがな・・・」
ここまで言って佳彦がチョッと言葉を切った。
そして・・・
つづく
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『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #43 お・す・ま・ひ
『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #44
「田舎に山を四つとそれなりに結構だだっ広い土地。 でも、まぁ、それらは大したこたぁねぇんだ。 なにしろ知っての通り、俺らの郷土のあのド田舎の土地だからな。 だが、問題は世田谷の土地なんだ。 今、畑として使ってる」
「え!? セタガヤの土地?」
「あぁ」
「セタガヤって東京のあの世田谷か?」
「あぁ、そうだ」
「どのくらいあるんだ?」
「一万坪」
「え!? い、一万坪!?」
「あぁ」
「・・・」
一万坪と聞き、汚縄は黙った。
「・・・」
釣られて佳彦も。
「ウ〜ム」
暫(しば)し汚縄は考えた。
それから興味深げに聞いた。
「今、畑として使ってるちゅうたな、その土地?」
「あぁ。 オヤジとお袋の趣味でな。 二人とも元々、農家の出で、野良仕事(のらしごと)が好きだったから東京出て来てすぐ買ったらしいんだ。 祖父(じい)さんが残してくれた遺産で。 で、ここ数年は会社は俺に押し付けて自分らは土いじり。 つー訳だったんだ」
「フ〜ン。 そうか。 でもょ〜、佳彦。 その畑の事、妹も当然知ってるょなぁ?」
「あぁ。 勿論、知ってる。 でも、まだ子供だからその土地が誰のもんで、法律上所有権がどうだこうだってとこまでは分かってねぇ」
「フ〜ン。 そうか。 法律上のこたぁ、まだ分かってねぇのか?」
「あぁ。 分かってねぇ」
「そうか。 ウ〜ム」
再び汚縄が考え込んだ。
目を瞑(つぶ)り、腕組みをしながら。
暫(しば)しその状態が続いた。
この間、
「・・・」
佳彦は何も言わずそんな汚縄をジッと見つめていた。
すると突然、
「クヮッ!!」
汚縄が目を見開いた。
「お!?」
佳彦が驚いてチョッと引いた。
そんな佳彦の目を見つめ、身を乗り出し、汚縄が腹に一物(いちもつ)持ったような様子で話し始めた。
「なぁ。 佳彦」
「ん!?」
「その気んなりゃ、上手(うま)い手がなくもねぇぞ」
「え!? な、なくもない?」
「あぁ」
「ど、どんな?」
「売っちまうのょ、その土地を」
「え!?」
「会社の運転資金にするとか何とか理由を付けてだなぁ、来年の確定申告までにその土地を金に換えちまうんだ。 そしてその金を上手に隠す。 スイスかどっかの銀行に預けちまうかなんかしてな。 相続税やらなんたらについてはなるたけ安く付くよう、俺が税務署に上手く話をつてやる。 あっこにゃぁ、この俺が痔罠党時代、散々、旨い汁を吸わせて置いたヤツらが腐るほどいるからな。 だから顔が利くんだ」
「ウ〜ム。 し、しかし、土地は売りたくねぇなぁ」
「ナゼだ?」
「だってょ〜、一郎アンちゃん。 あの土地にゃぁ、親の思いがこもってんだぜ。 そんな親の思いのこもった大事な土地を売っちまうのはなぁ、チョッと気が進まねぇ」
そんな佳彦の答えを予期していたかのように、
「ニヤッ」
汚縄が笑った。
汚縄は、佳彦の強欲だが人一倍親思いの性格を熟知していたのだ。
そして更に身を乗り出し、したり顔でこう言った。
「だったら、こうすりゃ良い」
「ん!? どうすりゃ?」
「俺に売るんだ」
「え!? アンちゃんに?」
「あぁ。 俺にだ。 この俺に安く売れ」
「え!? 安く?」
「あぁ、そうだ。 格安でだ。 そして遺産の分与が終わって一息付いてから俺から買い戻せば良い。 取得税なんかの掛った経費とスズメの涙程度の利息を付けてな」
これを聞き、
「パチン!!」
佳彦が手を打った。
そして佳彦も身を乗り出し、チョッと上気(じょうき)して続けた。
「なるほど!? ソイツぁ上手い手だ!?」
「だろ」
「あぁ」
ここで佳彦は黙った。
「・・・」
そして、少し考えてから徐(おもむろ)に切り出した。
「ヶどょ、一郎アンちゃん」
「ん!? なんだ?」
「そのスズメの涙程度の利息ってどんくらいだ?」
「あ〜ぁ、そうょな〜。 ま。 俺とオマエの中でもあるし・・・。 そうょな〜。 ・・・。 ウム。 3パーセントっちゅうトコでどうだ?」
「1パーセント」
「なら、2パーセント」
「おk。 それで手を打とう」
「良し!! なら決まりだ!!」
ここで二人とも上体を引いて、ユッタリとくつろぐ姿勢を取った。
話が決まり、それまでの緊張感が解(ほぐ)れたからだった。
それから佳彦が少し身を乗り出して、こう切り出した。
「でもょ、一郎アンちゃん」
「ん!?」
「如何(いか)に架空の取引とはいえ、一応、登記なんかもしなきゃなんねぇんだろ?」
「あぁ。 そうだ」
「だったら、チャ〜ンと仲介人を立ててぇんだが。 良(い)いか?」
「あぁ。 当然だ。 誰が良い?」
「誰かいるか、この計画の適任者は?」
「ウ〜ム。 そうだなぁ・・・。 オマエの知ってるヤツが良いょな?」
「あぁ。 勿論、その方が・・・」
「だったら、塵石(ごみいし)なんかどうだ?」
「塵石!? 塵石って、あの罠腫党(みんしゅとう)の元幹事長の塵石か? 塵石東(ごみいし・あずま)」
「あぁ、そうだ。 塵石東だ。 ヤツなら土地登記の経験もあるし、その資格も持ってる。 適任なんじゃねぇか、今回のこの計画にゃぁ」
「うん。 そうだなぁ。 ヤツなら腹黒いからチョッと金つかましゃぁ、言ぅ事聞きくかもな」
「あぁ、聞く。 アイツはそういうヤツだ」
「ウム。 良し、分かった!! それで決まりだ!!」
「なら、俺はすぐに塵石に連絡入れてこの話を進めて置く、オマエも土地の権利書その他、必要書類を用意して、揃ったら連絡くれ」
「あぁ、そうする」
そう嬉しそうに言ってから佳彦は汚縄の屋敷を後にした。
その後ろ姿を見つめながら、
「ニヤッ」
汚縄が意味深(いみ・しん)に笑った。
つづく
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『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #44 お・す・ま・ひ
『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #45
さて・・・
塵石東(ごみいし・あずま)。
この塵石東だが・・・
見てくれはご存知、貧相下劣で下品な骸骨。
それに知っての通り、あの糞の集まりの罠腫党(みんしゅとう)の元幹事長。
だが、それは表の顔に過ぎなかった。
コイツは政治家(せいじ・や)でありながら、裏では汚縄一郎(おなわ・いちろう)と組み、結託して人を騙すペテン師野郎だったのだ。
兎に角、金に意地汚く、儲け話を聞き付けるとどんな汚い事でも平気でやる男だった。
そのため利害の共通する汚縄とは酷く気が合い、結託してこれまで数多くの資産家から公式、非公式を問わずあくどい手口で財産を騙し取って来ていた。
そのため一家離散や破産といった憂き目に遭ったり、果ては自殺に追い込まれた者も少なくはなかった。
残念ながら佳彦は塵石がそこまでの悪(わる)で、尚且つ汚縄と結託しているという事までは知らなかった。
そのため佳彦は後見人という立場を利用し、人が良く、まだ世間知らずの妹名無(いもうと・なな)から印鑑証明を騙し取り、一旦、土地を全部自分の名義に変え、それを汚縄の描いた絵通りに塵石を仲介人に立て、汚縄との間で見掛け上の土地の売買契約を結んでしまった。
しかもその契約上の額面は、それが見掛け上の取引であるという事に加え不動産取得税などの税率を低く抑えるため、時価の20分(にじゅう・ぶん)の1という破格の安さだった。
もっとも見掛け上の売買とはいえ、佳彦、汚縄間には一応、額面通りの金銭の授受はあったのだが。
そして佳彦は若干持っていた簿記の知識を駆使して、不自然にならないように自分から会社にその金を貸し付ける形にした。
この辺の事は汚縄が予め税務署に手を回していたため、なんらのトラブルも発生する事なくスムーズに進行した。
勿論、相続税等の税金が破格の安さだったのは言うまでもない。
それから佳彦は、親の遺産である多額の銀行預金を正確に二等分し、又、田舎にあった四つの山、及び、それなりの大きさではあったが何分(なにぶん)田舎の土地という事もあり路線価のかなり安い土地を二つに分筆し、それらの半分を自分の、残り半分を妹の名義にした。
又、自分の会社の株券はその時の時価に若干色を付け、弁護士と共にそれで妹を言いくるめ、全株自分の物とした。
そしてその5年後・・・
妹はまだ大学生ではあったが漸(ようや)く成人し、佳彦からそれまで佳彦が管理していた自分の正当な遺産の取り分を正式に譲り受け、自活を始める事になった。
これをチャンスと捉(とら)えた佳彦は、ほとぼりが冷めたのを確(しっか)りと確認し、見掛け上の売買だった世田谷の土地を買い戻すため汚縄の自宅を訪ねた。
つづく
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『 Rick's Cafe Tokio (リックス・カフェ・トキオ)』 Deluxe #45 お・す・ま・ひ