#46 『攻撃その弐』の巻



(ドコッ!!



突然、

背後から何者かに突き飛ばされ、雪女がバランスを崩し空中から地上へと吹っ飛んだ。



(ゴロンゴロンゴロン)



雪の上を2度3度回転して雪女は止まった。


「クッ!? 何ヤツ?」


雪女は降りしきる粉雪(こなゆき)の中、宙(ちゅう)を見上げた。

その瞬間、雪女の顔は恐怖と驚愕で引き攣(つ)った。



(ボァーーー!!



目前に火炎放射器で発射されたような、否、宇宙戦艦ヤマトが発射する波動砲のような、眩(まぶ)しく光る白光色の炎が凄まじい勢いで迫って来ていたのだ。


眩しく光る白光色の炎!?


それは四霊獣・青竜(せいりょう)が口から吐いた炎だった。

青竜は背後から雪女を地上に突き飛ばすと同時にその口から炎を吐いていたのだ。


だが、


この青竜は一体どこから・・・?


それは・・・死頭火。

そぅ、

それは死頭火が体勢を立て直すと同時に放っていた式神(しきがみ) “四霊獣・青竜(せいりょう)の符” だった。


雪女が死頭火の投げ付けた手裏剣を繁々と見ている間に出来た僅(わず)かな隙(すき)。

死頭火はそれを逃さなかった。

雪女が余裕のヨッチャンこいてる魔 否 間に、死頭火は素早く次の技を仕掛けていたのだ。

式神・青竜の技を。


女切刀呪禁道深奥秘儀(めぎと・じゅごんどう・じんのうひぎ)・『“式神” その弐(に)』・・・











攻撃開始。







つづく







#47 『ユックリと・・・』の巻



「フーーー!!


・・・息吹!?


雪女の息吹だ!?


雪女は反射的に自らの息吹の冷気で青竜の吐く白光色の炎を消そうとしていた。



(ボァーーー!!



青竜の炎。



(フーーー!!



雪女の息吹。



(ボァーーー!!


(フーーー!!



(ボァーーー!!


(フーーー!!



(ボァーーー!!


(フーーー!!



 ・・・



雪女と青竜の息吹合戦が続く。


今、


相変わらず粉雪が吹き荒れる中、

雪女の全神経は青竜に向けられている。

死頭火に向ける余裕はない。

そして大地に降り立っている。

死頭火と同じ大地に。

死頭火の手の届く・・・・・・・・・・大地に。



(ヒタヒタヒタヒタヒタ・・・)



左手で軍駆馬の鞘を握り締め、

その手を左腰に強く押し付けて軍駆馬を安定させ、

息を殺し、

足音を立てず、

死頭火は雪女の背後に回った。


その距離約10メートル。



(ピタッ!!



死頭火が立ち止まった。

同時に、雪女の様子を窺(うかが)った。


まだ雪女と青竜の息吹合戦は続いている。

雪女が死頭火に気付いた様子は全く見受けられない。


雪女の背後からその息吹合戦を見つめながら、



(グィ!!



死頭火は左手を体幹から10センチ前方に押し出した。

勿論、軍駆馬を握ったまま。



(カチャ!!



左手親指で鍔(つば)を強く前に押し出し、軍駆馬の鯉口(こいぐち)を切った。

軍駆馬を引き抜くために。



(スゥ〜)



静かに死頭火は軍駆馬の柄(つか)に右手を掛けた。



(スルスルスルスルスル・・・)



ユックリと音を立てずに軍駆馬を引き抜き始めた。


そぅ・・・


ユックリと・・ユックリと・・死頭火は軍駆馬を・・神剣・軍駆馬を・・引き抜き始めた。

ジッと雪女の背中を見つめながら。


終に、死頭火が勝負に出たのだ。











決着を付けるために・・・







つづく







#48 『奇(あや)しい輝き』の巻



(ギラン!!



終に神剣・軍駆馬がその全貌を現した。

それは不気味なまでに眩(まばゆ)く輝く。


それは誰の眼(め)にも “名刀” と一目で分かる拵(こしら)えだった。


大きく延びた鋭い切先(きっさき)。

反(そ)りのない直刀(ちょくとう)である筈の上古刀(じょうことう)でありながら、若干反りのある長い刀身。

豪快で、あたかも大波が弾(はじ)けんばかりの濤乱刃(とうらんば)の刃文(はもん)。

表には不動明王を象徴する 『カンマン』 の梵字が、裏には 『魔王権現』 と彫り込みが入れられてある。


それはある者が抜けば神剣に・・・

抜き手によっては妖剣に・・・


そう思えるほど奇(あや)しい輝きだった。


死頭火は雪女の背中を見つめながら、音を立てないように注意してソッと地面に軍駆馬の鞘を置いた。

攻撃の邪魔にならないように。

少しでも身軽になるために。


そして、



(スゥ〜)



軍駆馬を地面と平行にし、その “刃(やいば)” を上に向けた。

柄を右手で、刃を下から左手で、槍(やり)を持つように持った。

大きく息を吸い、息を止めた。


次の瞬間・・・


全く足音を立てずに雪女に向かってそのまま一直線に突っ込んだ。


雪の上でも全く足音を立てずに走る。

これが無二の “くノ一(くのいち)” 破瑠魔死頭火の体術だ。

しかも、

徒(いたずら)に大上段に構えず、槍のように持つ。

この状況では、これが最上(ベスト)。

そして、瞬時にこの構えを取る。

これからも又、無敵の戦士・破瑠魔死頭火のその戦闘能力の高さが窺(うかが)える。



(ヒタヒタヒタヒタヒタ・・・)



音もなく雪女の背後に迫る無双の “くノ一(くのいち)” 破瑠魔死頭火。

雪女はそれに全く気付いてはいない。



(ヒタヒタヒタヒタヒタ・・・)



死頭火が迫る雪女に。

既に雪女は目前。



(ギラン!!



妖しく輝く神剣・軍駆馬。


だが、











その時・・・







つづく


参考 : 『カンマン』 ↓

http://www.google.co.jp/search?hl=ja&q=%E4%B8%8D%E5%8B%95%E6%98%8E%E7%8E%8B%E3%80%80%E3%82%AB%E3%83%B3%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%80%80%E6%A2%B5%E5%AD%97&lr=







#49 『勝った!?』の巻



青竜の全身が・・・



(パリパリパリパリパリ・・・)



氷と化した。



(ピキピキピキピキピキ・・・)



ヒビが入った。



(ビシビシビシッ!! ビシーーー!!



粉々に砕け散った。


死頭火の青竜が。

式神・青竜が。


式神と言えども所詮は紙。

ただの紙切れ一枚。

それを死頭火の恐るべき呪力を持って実体化したに過ぎない。


しかし、

相手は幼女 否 妖女(ようじょ)・・・妖女・雪女。


その圧倒的パワーの前には紙屑同然。

ほんの数秒しか持たなかった。


だが、

それで充分だった。


雪女を空中から地上に落とし、

ほんの僅(わず)かでも注意を逸(そ)らす事が出来れば、

死頭火にはそれで充分だった。



(ヒタヒタヒタヒタヒタ・・・)



降りかかる粉雪の中、雪女は既に目前。

最早、雪女の背中は死頭火の目と鼻の先。

その距離後僅(きょり・あと・わず)か。

死頭火の歩幅で後4〜5歩か?


走りながら死頭火は槍のように手にした軍駆馬を、



(グイッ!!



懐(ふところ)深く引き込んだ。

アソビを持ったのだ。

雪女の体を刺し貫くために。


その距離・・・残り3歩!!


雪女は死頭火に全く気付いていない。

後は一気に刺し貫くのみ。


『勝った!?


死頭火は思った。


否、


皆そう思った。


『勝った!?


と。











だが・・・







つづく







#50 『勝負の分かれ目』の巻



(パッ、シューーー!!



死頭火の胸から血飛沫(ちしぶき)が上がった。

あたかも鋭い刃物で切られたかのように。

青竜の符が破られたダメージだ。



(バババッ!!



飛び散った死頭火の血が降り積もった雪の上に降り注いだ。

しかしそれだけではなかった。

それは雪女の体にも掛かってしまった。



(ピトッ!!



・・・頬に一滴。


雪女の頬にも一滴掛かってしまったのだ。


『ヌッ!?


雪女が振り返った。


だが時既に遅し!?

死頭火がその距離後2歩まで迫っていた。


しかし死頭火も苦しい。

呼吸を止めている上に、

背中のみならず胸にもダメージ。


『クッ!?


死頭火は唸った。


その影響が足に来た。


そのため、僅(わず)か。

ほんの僅かだがスピードが落ちた。


そぅ、ほんの僅か・・・











だけだったのだが。







つづく