#56 『命中』の巻
(ドス、ドス、ドス、ドス、ドス)
命中!?
全弾命中だ!?
雪女の五指氷柱が間違いなく死頭火の体を捉えた。
それも5本全部。
(ドサッ!!)
死頭火がその場に倒れ込んだ。
激しく降り積もる雪の中に。
雪女の五指氷柱全てを全身に受け、死頭火が倒れ込んだのだ・・その場に・・激しく降り積もる雪の中に。
(シーン)
死頭火に動きはない。
全くない。
終に終に終に、
女切刀呪禁道最強にして雪女と戦える唯(ただ)一人の戦士、破瑠魔死頭火 堕(お)つ・・・・・・か?
(シンシンシンシンシン・・・)
最早、猛吹雪は終わり静かな降雪に変わっていた。
中道が左腕で隣に立つ外道の肩を抱き寄せた。
外道は言葉なく両目を見開き、動かぬ母、死頭火の姿を見つめている。
中道達も又同様だった。
皆、一様に言葉がなかった。
ただ、心の中で
『死頭火・・・』
『死頭火様・・・』
『死頭火様・・・』
『死頭火様・・・』
・・・
死頭火の敗北を口惜(くや)しむのみだった。
(ズサ、ズサ、ズサ、・・・)
既に復元している右手五指を再び氷柱に変え、
雪女が静かに死頭火に近寄った。
ユックリと油断なく、そして少しずつ。
死頭火の死を確認するために。
死頭火に止(とど)めを刺すために。
・
・
・
・
・
つづく
#57 『結界せょ』の巻
(サササッ!!)
中道が13人の戦士達に素早く目配せした。
『結界せょ』
の合図だ。
皆、既に気を取り直していた。
これは流石である。
未(いま)だ軍駆馬を抜くまでには至っていないとはいえ、日頃の並外れた修練の賜物、死頭火の敗北を見るや、即、気分転換し結界の態勢に入った。
だが・・・
・
・
・
・
・
つづく
#58 『又しても』の巻
『ヌッ!?』
雪女は驚いた。
と同時に、
(シュッ!!)
反射的に元いた所に大きく飛び退(の)いた。
死頭火が倒れ込んだ所には確かに死頭火の黒い羽織袴はあった。
だが、
死頭火の死体がなかったからだ。
雪女は焦った。
そして急いでその辺一帯を見回した。
死頭火の黒い羽織袴のある辺りから今自分のいる周り、およそ死頭火の隠れられそうな所全てを。
しかし、
死頭火の姿はどこにもなかった。
『クッ!? 又しても!?』
雪女は思った。
その時・・・
・
・
・
・
・
つづく
#59 『雪の塊』の巻
(ガサガサガサ・・・)
突然、
一面積もった雪の中、
大きな雪の塊(かたまり)が動いた。
それは徐々に雪女に近づいたかと思うと、雪女目掛け猛然と襲い掛かって来た。
そぅ・・・
粉雪降り注ぐ白銀の世界の中、どこからともなく現れた真っ白で巨大な塊が・・・
雪女に・・・
猛然と・・・
・
・
・
・
・
つづく
#60 『獰猛(どうもう)な咆哮(ほうこう)』の巻
一声、
「ガォーーー!!」
鋭く獰猛(どうもう)な咆哮(ほうこう)を上げ、その雪の塊が雪女に飛び掛った。
「クッ!?」
一声唸って、雪女は自分に襲い掛かってくるその塊を見上げた。
そして、
『ハッ!?』
と息を呑んだ。
それは雪の塊ではなかった。
全身真っ白な毛で覆(おお)われた大きな虎だった。
それは “四霊獣・白虎(びゃっこ)” だったのだ。
ン!? 四霊獣・白虎!?
式神か!?
そぅ・・・
それは死頭火の放った “式神・白虎の符” だった。
死頭火はまだ死んではいなかったのだ。
降りしきる雪の中、
素早く着ていた黒い戦闘服を脱ぎ、
“変わり身の術”
を使っていたのだ。
雪女は余りにも大きくジャンプし過ぎたため、
又、神楽殿の黒っぽい土台と自分の降らせている雪が返って邪魔となり、死頭火の変わり身の術を見破る事が出来なかったのだ。
だが実は、
これには “前” があった。
刻々と変わる戦況下。
この状況で雪女に大きく右にジャンプさせる。
否、
ジャンプさせるように仕向ける・・・鈴の音を使って。
これも又、瞬時に利かせた死頭火の機転だった。
この戦いの前から既に死頭火は計算していたのだ。
黒色の戦闘服姿の死頭火にとって、神楽殿の黒っぽい土台は当然無視できない存在である事を。
今回使ったように変わり身の術を使う可能性が有るからだ。
『攻撃には地の利を最大限生かす』
これは兵法の鉄則。
死頭火は兵法の鉄則通りに雪女に攻撃を仕掛けていたのだ。
これまでの雪女への意表をついた連続攻撃・・・それも背後から。
そして、その攻撃が引き起こすであろう雪女の異常なまでの警戒心。
更に降り積もった雪、その上に降り注いでいる粉雪。
加えて神楽殿の黒っぽい土台、といった地の利。
死頭火はそれら全てを計算に入れた上で雪女を攻撃していたのだった。
これこそが “達人” 破瑠魔死頭火の底力だ。
『女切刀呪禁道深奥秘儀 “式神・その参”』
攻撃開始。
・
・
・
・
・
つづく