#66 『氷針・・・』の巻
(サッ!!)
死頭火が握っていた軍駆馬を離した。
(ゴロンゴロンゴロン・・・)
回転して雪女の髪を避けた。
(ブヮーーーン!! バサッ!!)
雪女の髪が降り積もった雪面を打った。
間一髪、死頭火はその攻撃から逃れた。
だが、
回転から止まって顔を上げた瞬間、
死頭火の顔が青ざめた。
目の前にいる雪女が、大きく息を吸っていたからだ。
氷針息吹のために。
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つづく
#67 『白虎の符』の巻
(ヒラヒラヒラ・・・)
呪符が舞い落ちた。
一枚の呪符が。
白虎の符だ。
それと同時に、
(スゥ〜)
白虎が消えた。
死頭火の白虎が。
雪女の右手を銜(くわ)えて放さなかったあの白虎が。
(プッ、シューーー!!)
死頭火の腹部から血飛沫(ちしぶき)が上がった。
腹部を真横に一刀(いっとう)。
符術が敗れたダメージだ。
「グハッ!?」
死頭火は苦痛に顔を歪めた。
一方、雪女は・・・
その時既に大きく息を吸い終わっていた。
氷針息吹を吐き出すのに充分な量の息を。
そして息を止めた。
そのままユックリと狙いを定めた。
苦痛と恐怖に引き攣った顔で自分を見つめている死頭火のその顔に。
左腕は相変わらず軍駆馬が食い込んだままだが、自由になった方の右手をユックリと降ろしながら、
徐(おもむろ)にその死頭火に向かい勝ち誇ったように、
(ニヤッ)
笑った。
余裕のヨッチャンこいたのだ。
だが、
そのこいたヨッチャンが・・・
余計だった。
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つづく
#68 『勝利を信じて』の巻
(フゥーーー!!)
氷針息吹だ!?
終に、雪女の氷針息吹が至近距離から死頭火を襲った。
死頭火 vs 雪女。
その距離約3メートル。
まるで至近距離から発せられた散弾銃の弾丸のように無数の氷針が死頭火を襲う。
最早、死頭火になす術(なす)なし!?
死頭火、絶体絶命!?
一度は壁城結界を張る態勢に入ったが、死頭火がまだ破れた訳ではない事を知り改めて静観していた13人の戦士並びに中道が顔を背けた。
死頭火の敗北が決定的だったからだ。
だが、外道は・・・
外道だけはまだ諦めてはいないかった。
目を逸(そ)らす事無くジッと母、死頭火の戦いを見つめている。
母、死頭火の命を懸けた戦いを。
死頭火の勝利を信じて。
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つづく
#69 『正にその時』の巻
その時だった。
外道を除く女切刀の戦士達全員が死頭火の敗北を見かねて顔を背けた、正にその時だった。
(ガバッ!!)
突然、死頭火に向かって飛んで来る氷針の前に一匹と言うべきか一頭と言うべきか?
巨大な亀が立ちはだかった。
後ろ二本の足で立ち、向きは死頭火向きで甲羅(こうら)を雪女に向けた身の丈(たけ)死頭火とほぼ同じ、
死頭火と等身大の巨大な亀が。
ン!?
巨大な亀!?
も、もしや!?
四霊獣・玄武(げんぶ)・・・・・・か!?
そぅ、玄武。
式神・玄武だ。
死頭火は白虎が敗れた直後、雪女が余裕のヨッチャンこいたその一瞬。
それを逃さなかった。
その機を逃す事無く死頭火は “式神・玄武の符” を使ったのだ。
そして、その分厚(ぶあつ)い甲羅で氷針をブロックしたのだ。
成る程、玄武は攻撃には向かない。
だが、
この状況下ではこれ程役に立つ物はない。
瞬時にこういった技を使える。
これが死頭火の強さだ。
死頭火に負けは許されない。
そぅだ!? 負けは許されないのだ!?
天才戦士、死頭火の辞書に敗北の文字はない。 否 有ってはならない。
女切刀呪禁道最強の戦士、破瑠魔死頭火、反撃開始・・・
か?
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つづく
#70 『玄武の甲羅』の巻
(バリッ!! バリ、バリ、バリ、バリ、・・・、バリッ!!)
甲羅が砕け散った。
玄武の甲羅が。
雪女の氷針息吹を全て受け止めた直後に。
そして、
玄武は死んだ。
犠牲になったのだ、死頭火の身を守って。
玄武は身を挺して死頭火を守ったのだ。
(スゥ〜〜〜)
玄武の姿が消えた。
(ヒラヒラヒラ・・・)
四霊獣・玄武の符が宙に舞った。
それと同時に、
(プッ、シューーー!!)
死頭火の背中から血飛沫(ちしぶき)が舞った。
符術が破られたダメージだ。
「グハッ!?」
又しても死頭火の顔が苦痛に歪んだ。
これで四霊獣の符全て出し切った事になる。
今・・・
死頭火の体には4か所、傷がある。
符術が破られたダメージによる切り傷のような傷が四つ。
背中に二つ。
胸と腹に夫々(それぞれ)一つずつ。
腹は横一線、胸と背中は袈裟懸(けさが)けだ。
背中の二つはクロスになっている。
それは、
その豊かな胸を固定するために巻いていた純白の晒(さら)しの所々に真っ赤な染(し)み跡を残した。
「ハァハァハァ・・・」
死頭火の呼吸が荒い。
雪女の振り下ろした長髪に打たれたダメージ。
符術が敗れた事による4ヵ所の切り傷。
及びそれによる出血。
粉雪舞う中、全裸同然、それによる冷え。
今の死頭火は最早立っているのがやっとだった。
だが・・・
その時。
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つづく