#71 『唸りを上げて』の巻
(ピシピシピシ・・・)
雪女の氷の左腕にひびが入った。
神剣・軍駆馬を受け止めている左腕に。
(ピキピキピキ・・・)
それは深いひび割れに変わった。
(パリンパリンパリン・・・)
雪女の左肩から指先まで全て砕け散った。
「クッ!?」
苦痛で雪女の顔が歪んだ。
同時に、
(ドサッ!!)
雪女の左腕に突き刺さっていた軍駆馬が地に落ちた。
雪女は腕の痛みで息を呑んでいる。
このダメージは神剣から受けた物ゆえ、五指氷柱のような訳には行かない。
すぐには回復しないのだ。
そのため雪女は、腕の痛みで息を呑んでいるのだ。
当然、氷針息吹は吐けない。
透かさず死頭火が、
(ゴロンゴロンゴロン!! サッ!!)
素早く軍駆馬に回転して近付きそれを拾い上げるや、
(シュッ!!)
即座に雪女の懐に飛び込み、
瞬時に右膝を地に着き、左足を立て、体勢を整え、
そのまま一気に軍駆馬で雪女の胴体を下から上へ切り上げた。
全身傷つき、疲れ果てているとはいえ流石稀代(さすが・きだい)の戦士、破瑠魔死頭火ならではの連続した動きだ。
(ブヮーーーン!!)
鋭く風を切って軍駆馬が唸る。
激しく雪女の胴体目掛けて軍駆馬が迫る。
最早、雪女に逃げる間なし。
どうなる雪女!?
コレを避けきれるのか!?
だが・・・
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つづく
#72 『呪文』の巻
雪女に向け、下から猛然と襲い掛かる神剣・軍駆馬。
終に雪女真っ二つか!?
そう思われた次の瞬間。
(シュッ!!)
雪女が真上に飛んだ。
間一髪逃れた。
そして空中高く留まった。
空中浮遊だ。
その高さ地上から約5メートル。
雪女の顔は左腕を失った痛みでまだ歪んでいる。
呼吸も整ってはいず、まだ氷針息吹を吹ける状態ではなかった。
苦痛に顔を歪めたまま死頭火を見下ろし雪女が言った。
「ナ、ナント恐ろしきオナゴじゃ!? ソチといふオナゴは・・・」
「・・・」
しかし死頭火は何も言わない。
それどころか既に立ち上がり、左手に軍駆馬の柄を持ち、右手は剣印(グー、チョキ、パーのチョキの形)を組んでいた。
そしてその右手剣印を立て、その人差し指の先を多量の出血のため血の気を失っている下唇に置き、顔を上げ目を半眼にし、
「#※*$%ЭЩ・・・ (ブツブツブツ) 」
何か訳の分からない呪文を呟(つぶや)いている。
すると・・・
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つづく
#73 『風』の巻
(ピューーー!! ピューーー!! ピューーー!! ・・・)
ン・・・風が!?
(ピューーー!! ピューーー!! ピューーー!! ・・・)
風が舞う!?
(ピューーー!! ピューーー!! ピューーー!! ・・・)
雪女の起こす吹雪とは違う風が・・・
(ピューーー!! ピューーー!! ピューーー!! ・・・)
こ、この風は一体・・・!?
一体どこから・・・?
も、もしやこの風は・・・!?
死頭火は五大力 “風輪” の使い手。
と、するとこの風は・・・
そぅ、この風こそは死頭火の念法が生み出した風だった。
次の瞬間、
(クヮッ!!)
死頭火が目を見開いた。
(キッ!!)
地表から雪女を見上げ睨(にら)み付けた。
そして右手剣印を下唇から離し一旦左肩に押し付け、そのまま一気にその剣印で上空に留まっている雪女を下から切るように振り上げた。
こう叫んで、
「秘儀!! 神風流れ!!」
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つづく
#74 『秘儀』の巻
(ゴォォォォォーーー!!)
突然、
どこからともなく吹き起こっていた風が一つに纏(まと)まった。
死頭火の念法の起した風が。
直ぐさま、それは旋風(せんぷう)となって舞い上がった。
(ゴォォォォォーーー!!)
雪女が余裕のヨッチャンこいて吹雪を収めていた所為(せい)もあり、
旋風は粉雪など訳もなく吹き飛ばし一気に雪女に迫った。
雪女は左腕を失った痛みがまだ癒えてはいなかった。
顔は苦痛に歪んだままだ。
加えて、空中浮遊には両腕でバランスを取る必要があった。
だが、今の雪女には左腕がない。
指と違い腕の復元には時間が掛かるのだ。
まして神剣から受けたダメージゆえ尚更だ。
今・・・
雪女は失った左腕の付け根部分を右手で抑えている。
そこへ、
(ゴォォォォォーーー!!)
耳を劈(つんざ)くような轟音(ごうおん)を上げ、凄まじい勢いで旋風(つむじかぜ)が襲い掛かって来た。
死頭火の念法が生んだ旋風(せんぷう)が。
まるで大嵐のように。
終に、
達人・破瑠魔死頭火・・・
その・・・
秘儀炸裂(ひぎ・さくれつ)か!?
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つづく
#75 『最早竜巻』の巻
(ゴォォォォォーーー!!)
激しい轟音(ごうおん)を上げ、死頭火の念法の旋風(せんぷう)が雪女に迫る。
対抗しようにも左腕を失った雪女は上手くバランスが取れない。
(クヮッ!!)
両目を大きく見開き、驚愕の表情で雪女が言った。
「コ、コレは!? な、何とした事じゃ!?」
雪女は必死にバランスを取り直し吹雪のパワーをアップしようとした。
だが、
(ゴォォォォォーーー!!)
そこへ旋風(つむじかぜ)が 否 最早竜巻(もはや・たつまき)が・・・
それが凄まじい勢いで雪女に襲い掛かった。
これに飲み込まれたらいかに雪女と言えども一溜(ひとた)まりもない。
「クッ!?」
焦る雪女。
雪女、終に一巻の終わりか?
と、
思われた正にその瞬間。
(ビュービュービュー!!)
ン!?
若干吹雪のパワーが上がった・・・・・・か?
流石(さすが)は無尽蔵(むじんぞう)のエネルギーを有する雪女。
土壇場で踏み止まった。
何とか体勢を立て直し、必死で吹雪のパワーを上げた。
「キィィィィィーーー!! リィィィィィーーー!!」
鬼のような顔をして、あたかも竜巻を手で押し止めるかのように右手を伸ばしている。
もう左肩を抑えてはいなかった。
竜巻対吹雪。
(ゴォォォォォーーー!!)
(ビュービュービュー!!)
念力戦だ!?
それも空中戦。
左腕を失い上手くバランスの取れない雪女 vs 満身創痍の破瑠魔死頭火。
『逆上した獅子 vs 手負いの虎』 の戦いだ。
雪女の形相が凄まじい。
歯を食いしばりながら何とか右腕一本でバランスを取っている。
その食いしばった歯が牙のようだ。
髪は逆上して逆立ち、眉間に皺を寄せ、目はゾッとする程恐ろしい角度で釣り上がっている。
その姿は、まるで薬叉(やしゃ)だ。
一方死頭火はと言えば、全身傷つき苦しい筈なのに明鏡止水の境地か?
信じられない程穏やかな表情をしている。
再び目を半眼にし、右手で剣印を組み、それを血の気の失せた下唇に置き呪文を上げ続けていた。
死頭火は今、邪念を一切捨て去り完璧に無の境地で念法を操っているのだ。
これぞ正に達人。
達人の境地だ。
(ゴォォォォォーーー!!)
(ビュービュービュー!!)
念力戦は続く。
その勝負は五分と五分。
戦いは持久戦の様相を呈し始めて来た。
・・・・・・かに見えた。
だが・・・
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つづく