#76 『分かっていながら』の巻



(グィ!!



死頭火は一旦右肘を後ろに大きく引き、


「キェィ!!


甲高い気合と共に、組んでいた右手剣印を今度は竜巻の中心目掛けて鋭く突き出した。


すると、



(ビヒューーーン!!



竜巻の中から何かが飛び出した。


何かが!?


それは吹雪の中、逆風など物ともせず一直線に雪女に向かって飛んだ。



(ビヒューーーン!!



雪女に向かって何かが飛んで来る。


『ヌッ!?


雪女がそれに気付いた。



(クヮッ!!



雪女が目を見開いた。

それを睨み見つけた。


凄まじい勢いで雪女目掛け、それは真正面から飛んで来る。

だが、雪女は避けられない。

ギリギリの状態でバランスを保っているからだ。



(ビヒューーーン!!



猛然と雪女に迫る何か。


分かってはいるがそれをかわす事の出来ない雪女。











そして・・・







つづく







#77 『えぐるように』の巻



(ドコッ!!



鳩尾(みぞおち)をえぐるように竜巻から飛び出した何かが雪女に強烈にぶち当たった。


「グハッ!?


雪女は思わず前屈(まえかが)みになった。

それまでの薬叉のような形相から一転、苦痛に顔を歪めた。



(ヒュ〜〜〜。 ボトン!!



雪女にぶち当たった何かが地表に落ちた。


何かとは何か?


それは神剣・軍駆馬の鞘(さや)だった。


死頭火は風の技の達人。

手足のように風を操る事が出来る。

だから軍駆馬を抜いた時、地表に置いたその鞘を念法で起した竜巻の中に巻き上げ忍ばせる事位朝飯前なのだ。

そして頃合を見計らい、それで雪女を攻撃したのだった。


気力、体力とも既に限界を越えている死頭火。


その死頭火が見せた・・・











執念の一撃である。







つづく







#78 『呪文』の巻



(ドコッ!!



軍駆馬の鞘(さや)がぶち当たり、



(グラッ!!



雪女がバランスを崩した。

それと同時に雪女の起している吹雪が弱まった。



(ゴォォォォォーーー!!



その弱まった吹雪を死頭火の起している竜巻が蹴散らした。


そして、



(ゴォォォォォーーー!!



そのまま一気に雪女に迫る。


「クッ!? ちょ、猪口才(ちょこざい)な」


一言そう言って、雪女は体勢を立て直そうとした。

しかし間に合わない。

ならば竜巻をかわしてやり過ごすしかない。


だが、

左腕を失っているため上手くバランスが取れない。

動きが鈍い。


そこへ、



(ゴォォォォォーーー!!



轟音(ごうおん)を上げ、猛然と竜巻が襲い掛かった。

雪女はコレをかわせない。


一声、


「キィィィィィーーー!! リィィィィィーーー!!


不気味な嬌声(きょうせい)を上げ、

終に竜巻に呑まれてしまった。


そして一気に空中高く舞い上げられ、



(ブヮーーーン!!



バランスを崩したまま高速回転し始めた。


「キィィィィィーーー!! リィィィィィーーー!!


雪女は甲高い叫び声を上げながら、天地逆様(てんち・さかさま)の状態で竜巻の上げる轟音と共に凄まじい勢いで振り回されている。


その様子をジィーっと見つめながら、

竜巻の中心目掛け鋭く突き出した右手剣印を先程のように下唇に置き、再び死頭火が竜巻を起こした時と同じ呪文を上げ始めた。


その呪文とは・・・



「南無・一目連大神(なむ・いちもくれん・だいじん)

 南無・一目連大神(なむ・いちもくれん・だいじん) 

 南無・一目連大神(なむ・いちもくれん・だいじん) 


 ・・・ 


 南無・一目連大神(なむ・いちもくれん・だいじん)」











だった。







つづく







#79 『一目連大神』の巻



解説しよう。



一目連大神(いちもくれん・だいじん、 ひとつめのむらじ・の・おおがみ)とは・・・?


江戸時代に信仰された風雨(特に台風)を司る神で、旋風(つむじかぜ)や暴風雨、突風、竜巻などを操るとされる。


この神を祭る神社としては三重県桑名市多度町にある多度神社が有名だ。

その神社社伝によると、この一目連大神は天目一神(あめの・まひとつの・かみ)の事であるらしい。



余談だが、


『一目散に逃げる』


という言葉がある。


それはこの一目連大神が怒り狂い暴風雨や竜巻、突風などを起こした時、


“脇目も振らず一所懸命(いっしょけんめい)に逃げねばならぬ”


という所から生まれたとされる。


因(ちな)みに、

女切刀の里においては、この一目連大神社(いちもくれんだいじん・しゃ)は魔王権現大社の・・・











末社だった。







つづく







#80 『異様な光景』の巻



「キィーーー!! ゥエィ!!


鋭い気合一閃、死頭火は右手剣印を真上に高く振り上げ、あたかもそれで竜巻を斬り下(くだ)すかのように一気に左腰付近まで切り下(さ)げた。


その瞬間・・・


その瞬間、信じられない事が起こった。


それまで



(ゴォォォォォーーー!!



激しい轟音を上げて凄まじい勢いで回転していた竜巻が、



(ピタッ!!



一瞬止まったのだ。


ほんの一瞬だが、確かに竜巻が回転するのを止(や)めたのだ。

だが、動きを止(と)めたのは竜巻のみ。

雪女は高速回転したままだった。

そのため、勢い余って弾き飛ばされた。



(ブヮーーーーン!! ドッ、カーーーン!!



雪女は大地に強烈に叩きつけられた。

そこには雪女の降らせた雪が厚み30センチ位であろうか、降り積もっていた。

しかし、その降り積もった雪もクッションの役目を果たす事は出来なかった。

それほど強烈に叩きつけられたのだ・・・雪女は。


バウンドする事無く大地に叩きつけられた。

終に雪女即死・・・・・・か!?

そう思われた。


当然、


そこに居合わせた者達全員、即ち、中道、外道、13人の戦士達、そしてこの戦いの主役である死頭火もそう思った。


だが・・・











事はそれほど単純ではなかった。







つづく