#81 『砕け散ったクリスタルグラスのように』の巻
一声、
「キィィィィィーーー!! リィィィィィーーー!!」
不気味な嬌声(きょうせい)を上げ、
(ドッ、カーーーン!!)
降り積もった雪の中、雪女が強烈に大地に叩き付けられた。
その衝撃の余りの激しさのため、
ナ、ナント全身が砕け散ってしまった。
五体がバラバラ、否、粉々(こなごな)と言うべきか?
あたかもクリスタルグラスが砕け散ったかのように、雪女の五体が辺り一面飛び散った。
一滴の血を流す事もなく。
そぅ、たったの一滴も。
勝負あったー!?
この瞬間死頭火の勝利が確定した。
史上最強の妖怪、雪女は死んだ。
否、亡(ほろ)んだ。
終に、この激しい戦いに終止符が打たれた。
戦いに勝利したのは死頭火、
女切刀呪禁道最強の戦士、破瑠魔死頭火だった。
雪女の最後を見届けると同時に死頭火は、
(ガクッ!!)
力を出し切り、出血と疲労の余り、雪面に両膝を付いた。
軍駆馬を地に突き刺し、それを杖代わりにして上体を預けた。
「ハァハァハァ・・・」
呼吸が荒い。
両手で握った軍駆馬の鞘に額を付け、俯(うつむ)いたまま呼吸を整えている。
しかし直ぐに、
『ハッ!?』
っと我に返った。
『ま、まだだ!? まだ終わってはいない。 雪女に止めを刺さねば・・・』
そぅ・・・
戦いはまだ終わってはいなかったのだ。
雪女を倒すには、その頭(こうべ)を潰す必要があった。
ナゼなら、
雪女の・・・その司令塔である脳が生存している間はその肉体は何度でも復元可能だからだ。
気を取り直し、気持ちを立て直し、死頭火は雪女の頭を捜すため顔を上げた。
その瞬間・・・
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つづく
#82『身の毛もよだつシーン』の巻
(ゾォォォォォーーー!?)
ここで我々は、かつて経験した事もないような身の毛もよだつ衝撃のシーンを目撃する事になる。
しかし、
それを知る前に死頭火の現在の立ち位置を知っておく必要がある。
死頭火は今、魔王権現大社に背を向ける格好で大社の正面階段の中央付近、階段から5、6メートル離れた場所にいる。
結果、外道と中道の隠れている階段正面右横の直ぐ近くにいる事になる。
・・・・・・これが今現在の死頭火のポジションだ。
雪女の頭(こうべ)を捜すため死頭火は顔を上げた。
そして辺りを見回そうとした。
だが、
(ドキッ!!)
心臓が激しく音を打った。
自分の正面10メートル程の場所に、その辺り一面に長くて艶やかな黒髪を広げ、雪女の頭(こうべ)が転がっていたからだ。
それも頭(あたま)を立てて。
しかもその頭(こうべ)は、両目をクヮッと見開き恐ろしい形相で目の前の魔王権現大社を 否 死頭火を睨(にら)み付けていたのだ。
次の瞬間、死頭火はハッとした。
恐ろしい形相で自分をにらみ付けている雪女と目が合ったのだ。
しかもその瞬間、雪女の表情が変わったからでもあった。
雪女は死頭火に向かって・・・
不敵にも・・・
ニャっと・・・
笑ったのである。
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つづく
#83 『頭(こうべ)目指して』の巻
雪女の肉体が粉々に砕け散ったのを見て、13人の戦士達が身を起こそうとした。
だが・・・
その瞬間、信じられない事が起こった。
(ゾクゾクゾク・・・)
死頭火を含めそこにいる者達全員に衝撃が走った。
そしてその場に凍(い)て付いた。
誰一人動こうとはしなかった。
否、動けなかった。
確かに、
雪女の肉体は粉々に砕け散った。
そぅ、粉々に。
まるでクリスタルグラスが割れて飛び散ったかのように。
どころが、
雪女の頭(こうべ)が死頭火に向かってニヤッと無気味な笑いを浮かべたその直後。
13人の戦士達が身を起こそうとした正にその瞬間。
砕け散った雪女の体の破片の一つ一つが突如動き出したのだ。
(ヒクヒクヒク・・・)
しかも、それらは全て同じ一点に向かって、まるで尺取虫(しゃくとりむし)が地を這(は)うかのように動いていた。
まるでそれらが皆そう申し合わせたかのように。
ヒクヒクヒク・・・と不気味に動いていたのだ。
雪女の頭(こうべ)目指して。
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つづく
#84 『唯見ているだけ』の巻
即死だった・・・・・・筈だ。
人間なら即死だった筈だ。
しかし相手は雪女。
妖女・雪女。
(ヒクヒクヒク・・・)
雪女の体のパーツが頭(こうべ)目指して集まって行く。
(ゾクゾクゾク・・・)
死頭火、外道、中道以下全員の体に悪寒が走って身動きが取れない。
人間という生命体は “未知の事態” に遭遇すると全く反応出来ずに身動きが取れなくなる。
それにどう対処して良いか分からず思考が停止してしまうからだ。
よって、行動するという能力はその瞬間無能になってしまうのだ。
そのような状況下で人間に出来る事はたったの一つ。
呆然として動かず 否 動けず、唯見ているだけ。
そぅ、唯見ている・・・だけ。
唯それだけだ。
この背筋も凍る程不気味、
且、
起こり得る筈のない光景の前に死頭火の反応もこれと全く同じだった。
如何(いか)に達人とはいえ死頭火も又、一人の人間。
この未(いま)だかつて経験した事のない未知の出来事に直面し、全く身動きが取れなかった。
何も出来なかったのである。
唯黙って見ている以外には・・・
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つづく
#85 『順に形を』の巻
雪女の目が下を向いた。
あたかも自分の首から下を見るかのように。
すると、
それが合図だったのだろうか、雪女の体のパーツが一つに纏(まと)まり始めた。
まるで、
綺麗に組み上がっているジグソーパズルを辺(あた)り一面にばら撒(ま)くシーンをビデオで撮影し、それを逆回転して見ているかのように。
そして、
顎の下にそれを載せる首が出来上がった。
次にそれらを載せるための肩。
それから徐々に胸、チチ、乳輪、乳首、両腕、腹・・それから・・それから・・それから・・ (エヘッ、エヘッ、エヘッ) ・・アー、ソー、コー、のー、ケ (ケケケケケ!!) ・・それから・・それから・・それから・・ (エヘッ、エヘッ、エヘッ) ・・ア〜〜〜、ソ〜〜〜、コ (キャーーー!!)。
の順に形をなし始めた。
「ウグッ!?」
一声喘(あえ)いで長い髪を地面に垂らし、俯(うつむ)いたままユックリと形をなして組み立て上がって、否、起こり上がって行く雪女。
ユックリとユックリと雪女が形をなして起こり上がって行く。
愕然として、その異様な光景を見つめる事しか出来ない死頭火達。
しかし、如何(いか)に雪女とはいえ流石にこのダメージは大きかったのだろう。
全く顔を上げようとはしない。
当然、纏(まと)まり始めた長く豊かな黒髪の先は地面に着いたままだ。
ジッと俯(うつむ)いたまま顔を上げようとせず、唯その場で体が完全に復元するのを待っているかのようだった。
見る間に雪女の体が復元して行く。
『ハッ!? し、しまった!?』
死頭火が再び我に返った。
正気を取り戻した。
こうなると死頭火は速い。
(サッ!!)
素早く立ち上がると直ぐさま軍駆馬を構えた。
槍を持つように・・・
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つづく