#91 『こんな筈じゃ』の巻
こ、こんな筈ではなかった。
ま、まさかこんな事になろうとは・・・
誰が・・・一体誰がこんな展開になると予想したであろうか?
今、死頭火は頭に黒い鉢巻、胸にはその豊かなチチを固定するために巻かれた純白の晒(さら)し。
そして身につけている物と言ったらこれだけ。
しかもトロンとした目でM字開脚中。
つまりアソコ丸出し。
一方、
雪女はと言えば・・・
一度全身が分解し、それから纏(まと)まったためそれまで着ていた純白の経の書いていない経帷子(きょうかたびら)は脱げたまま。
つまりスッポンポン。
当然、アソコ丸出し。
と!?
言ふ事は・・・
『アソコ丸出し女同士の戦い』
クッ!?
クッ!?
ククククク!?
作者好みじゃーーー!!
作者好みの展開じゃーーー!!
ウ〜ム。
予想外の展開になってしまった。
どうしよ?
決して意図してこうした訳ではなかったのだが。
話のなりゆき上こうなってしまったのだが。
ウ〜ム。
どうしよ?
どうしよ?
どうしよ?
・・・
ま・・・イッカ。
こう言ふの好きだし。
と!?
言ふ訳で・・・
・
・
・
・
・
つづく
#92 『勿体(もったい)をつけて』の巻
(ズサ、ズサ、ズサ、・・・)
雪女が歩き始めた。
全身完璧に復元している。
あの砕け散った左腕ももうすっかり元通りだ。
ニヤニヤ笑いながら、
トロンとした目でM字開脚中の死頭火に向かって一歩又一歩、ユックリとユックリと勿体(もったい)をつけて近付いて来る。
そぅ・・・
“つい勿体をつける”
あるいは、
“直ぐに余裕のヨッチャン”
これが雪女の悪い癖だ。
これさえなければ疾(と)っくに勝負は付いていたのに。
『ハッ!?』
死頭火が気を取り直した。
急いで辺りを見回して軍駆馬を探した。
その時、
(ズキッ!!)
全身に痛みが走った。
既に満身創痍(まんしんそうい)だった上に、雪女に投げ飛ばされた衝撃で受けた打撲が加わり、全く体に力が入らない。
「ウッ!?」
死頭火の顔が苦痛に歪んだ。
そしてその顔は焦りの表情に変わった。
そうしている間も、
(ズサ、ズサ、ズサ、・・・)
確実に雪女は迫って来ていたからだ。
その右手五指を氷柱(つらら)に変えて。
・
・
・
・
・
つづく
#93 『迫り来る雪女』の巻
(ズサ、ズサ、ズサ、・・・)
一歩又一歩、右手五指を氷柱(つらら)に変えた雪女が迫って来る。
もう一度、死頭火は痛みを堪(こら)えて辺(あた)りを見回した。
すると左側5メートルほど離れた所に軍駆馬が刺さっているのが目に入った。
急いで体を起そうとした。
だが、
(ズキッ!!)
再び全身に痛みが走った。
「ウッ!?」
苦痛に顔をゆがめる死頭火。
そうしている間(あいだ)も雪女が迫って来る。
しかし体は動かない。
死頭火は焦った。
(ズサ、ズサ、ズサ。 ピタッ!!)
雪女が立ち止まった。
死頭火との距離約5メートル。
あえて十分距離を取っている。
今戦っている相手は油断すると何をして来るか分からない、という事を骨身にしみて知っていたからだ。
(ニヤッ!!)
雪女は笑った。
そして言った。
「最早これまでのようじゃな。 ワラワを相手によぅ戦った。 褒めてとらす。 後はあの世でソチの夫内道に可愛がってもらうが良い」
雪女は五指を氷柱(つらら)に変えた右手を振り上げた。
五指氷柱を使うために・・・
・
・
・
・
・
つづく
#94 『絶処逢生』の巻
『絶処逢生(ぜっしょおうじょう)』 という言葉がある。
「絶地に立たされた人間が最早これまでという正にその瞬間、助けを得る事が出来たならば一躍活気を取り戻す」
というような意味だ。
あるいは、
『窮すれば通ず』 という言葉がある。
「生活や仕事等において完全に行き詰まってしまった人間が、腹を括(くく)ると返って活路が開ける」
というような意味で使う。
加えて、
『火事場の馬鹿力』 という言葉もある。
「人間は窮地に立たされ必死になった時、思いもよらない力を発揮する」
というような意味を持つ。
又、
『焼け野の雉子(きぎす)夜の鶴』 という言葉がある。
「(野を焼かれた母雉〔はは・きじ〕が我が身の危険を忘れて子雉を救い、又、冬の夜に巣篭〔すご〕もる母鶴がその翼で子鶴を覆〔おお〕って寒さから守るという話から)子を思う母の情愛の深さ」
を言う。
(サッ!!)
雪女が右手を振り上げた。
五指氷柱の体勢に入った。
狙いは死頭火。
目前にいる破瑠魔死頭火だ。
『クッ!? ち、力が・・・』
死頭火は身を起そうとした。
だが、
これまでに受けたダメージのため全身に全く力が入らない。
『い、軍駆馬、軍駆馬を・・・』
そう思い死頭火はもう一度軍駆馬を見た。
しかし次の瞬間、
『ハッ!?』
とした。
死頭火から見て軍駆馬の直ぐ手前にいる外道と目が合ったからだ。
唯ひたすら母、死頭火の身を案じている外道の目と。
そして何の偶然か?
それとも運命の悪戯(いたずら)か?
外道は、雪女にブチ当たった後、兆弾(ちょうだん)のように跳ね返り自分の足元に落ちた軍駆馬の鞘を両手に握り締めていた。
しかもそれを無意識に母、死頭火に差し出していたのだ。
この瞬間、一度は捨てた筈の子を思う母の心が死頭火に甦(よみがえ)った。
『ハッ!? げ、外道!?』
死頭火はこれを、言葉ではなく感覚でそう思った。
『こ、この子のために、この子のために・・・』
そう死頭火は感じていたのだ・・・
この時。
・
・
・
・
・
つづく
#95 『悪い癖』の巻
『ヌッ!?』
五指氷柱を放とうとした正にその瞬間、雪女は手を止めた。
もう身動き出来ないであろうと高(たか)を括(くく)って見下(みくだ)していたあの死頭火が、
(スッ!!)
立ち上がるや否や、どこにそんな力が残っていたのかと思われるような速さで、
一気に、
(ゴロンゴロンゴロン・・・)
中道、外道の前を回転して横切り軍駆馬に近付くや体勢を立て直し、
(サッ!!)
素早く左手で外道から鞘を引っ手繰(ひったく)るように受け取ると同時に、
(ギン!!)
雪女に鋭い一瞥(いちべつ)をくれ、地面に突き刺さったままの軍駆馬の背後にあたかもそれを五指氷柱の盾(たて)にでもするかのように屈(かが)込み、雪の上に鞘を置き、その上に左膝を乗せてそれを固定し、右足を立て、徐(おもむろ)に右手で軍駆馬の柄(つか)を掴(つか)んだからだ。
「ホゥ!? まだそのような力が。 全くソチというオナゴは・・・。 しかし面白い」
予想外の死頭火の動きに少しばかり驚いたように目を丸くし、ユックリと振り上げた右腕を降ろしながら、感心したような感嘆したような声で雪女がそう言った。
そのまま五指氷柱を放てば良いものを、又しても悪い癖を出して。
そぅ・・・
今回も又、余裕のヨッチャンこいたのだ。
・
・
・
・
・
つづく