#36 『準備完了』の巻



「総員配置に着けー!!


死頭火の甲高い号令が飛んだ。


13人の戦士達が女切刀の里の中心部である魔王権現大社を等間隔で囲むように、

そして死頭火と雪女の戦いを見る事の出来る位置で、

更にその存在を雪女に悟られないために大社から充分な距離を取って、

既に一面雪で覆われ、所々(ところどころ)にしか地肌が見えなくなっている地面に身を伏せた。

それは死頭火が敗れた場合、間髪を入れず13佛の結界、即ち、壁城結界を張らねばならないからだ。


中道と外道は魔王権現大社の階段の正面右横に身を隠した。

死頭火の戦いを見守るために。


又、


この魔王権現大社こそが正に、この女切刀の里と下界を結ぶ出入り口になっていた。

大社の中に秘密の通路が設けられているのだ。

結結界後(けつ・けっかい・ご)、即、脱出出来るように大社の裏扉は開けられていた。


徐(おもむろ)に死頭火が目を半眼にし、法界定印(ほっかいじょういん)を結(むす)んだ。


そして、


「スゥ〜〜〜、フゥ〜〜〜」


大きく息を吸って吐いた。

呼吸法開始である。


「スゥ〜〜〜、フゥ〜〜〜」


「スゥ〜〜〜、フゥ〜〜〜」


「スゥ〜〜〜、フゥ〜〜〜」


 ・・・


さらにもう何度か大きく息を吸って吐いた。

次の瞬間、



(クヮッ!!



死頭火が大きく目を見開いた。

そして、



(スッ)



立ち上がり、



(ツヵツヵツヵ・・・)



足早に神剣・軍駆馬に近づくと、



(スゥ〜)



手を伸ばしてそれを掴み、

予めそのために巻いておいた軍駆馬用の黒い腰帯に差した。

それから、



(サッ!!



素早く身を翻(ひるがえ)し、

護摩壇横に事前に用意してあったこの戦いのための呪符の束を手に取り、

何枚かを選んで額(ひたい)の鉢巻に差し込み、

残りを懐に収め、



(スタスタスタスタスタ・・・)



神楽殿から降りた。

そして、



(キッ!!



表情を引き締め、風の吹き込んで来る方向に向かい仁王立ちになった。

目線を雪女が現れるであろうと思われる方向に向けて。


ここに、


女切刀呪禁道最強の戦士、破瑠魔死頭火・・・











戦闘準備完了。







つづく







#37 『雪女登場』の巻



「アハハハハハ、アハハハハハ、アハハハハハ・・・」


風の吹き込んでくる方角から僅(わず)かだが、女の甲高(かんだか)い笑い声が聞こえて来た。


『雪女だ!?


皆、そう思った。



(ピリッ!!



その場に緊張感が走る。

終に決戦の時は来た。



(ビューーー!!



吹雪が更に激しさを増した。

風の流れが女切刀の里の真上を旋回し始めた。

全員が見上げた。


突然!?



(スッ)



上空高く微(かす)かにではあるが豊かで艶やかで黒々とした美しい長髪以外、全身白一色の女の姿が現れた。


雪女だ!?


雪女は上空を素早く、しかし肉眼で捉(とら)えられる速さで旋回している。

そして、

旋回しながら少しずつ神楽殿に近づき始めた。

少しずつ少しずつ、確実に確実に、近づいて来る。


近づくにつれその姿が次第に大きくハッキリとして来た。


「アハハハハハ、アハハハハハ、アハハハハハ・・・」


相変わらず甲高い笑い声を上げている。


終に、

地上5、6メートルの高さまで降りて来た。


だが、

まだだ、まだ。


「アハハハハハ、アハハハハハ、アハハハハハ・・・」


笑い声を上げながら神楽殿上空を旋回している。

確かに笑い声を上げながら。

しかしその眼(め)は笑ってはいなかった。


その時、雪女は・・・


顔を上げてジッと自分を見つめている死頭火を・・・











ジックリと観察していたのである。







つづく







#38 『雪女 vs 死頭火』の巻



(タン!!



雪女が地面に降り立った。

降り積もった雪で地面はもう真っ白だ。

死頭火とはその距離約5メートル。

神楽殿の真ん前だ。

そして言った。


「その方か? 先程からワラワに対し妙な真似をしておるのは」


「・・・」


死頭火は黙っていた。

ジッと雪女の眼(め)を見つめている。


「・・・」


「・・・」


雪女も無言で死頭火の眼を見つめ返した。

互いに相手の力量を測っているのだ。


「・・・」


「・・・」


暫(しば)らくその状態が続いた。

が、

再び雪女が口を開いた。


「ワラワに何用じゃ?」


死頭火が静かに答えた。


「アナタを成敗(せいばい)致します」



(二ャ)



雪女が不気味な含み笑いを浮かべ、笑い始めた。


「アッ、ハ、ハハハハハハ・・・」


そして言った。


「ソチがか? オナゴのソチがこのワラワを。 このワラワを成敗するとな?」


再び笑い出した。


「アッ、ハ、ハハハハハハ・・・」


「そうです。 私(わたくし)がアナタを成敗致します」


「アッ、ハ、ハハハハハハ・・・」


一頻(ひとしき)り笑い終えてから、


「フゥ〜〜〜」


っと息を吐き出して雪女が言った。


「愚かな。 ソチごときがこのワラワに敵(かな)うと思ぅておるのか?」


「・・・」


死頭火は黙っていた。


ここで雪女の目が死頭火の腰に行った。


「ヌッ!? その太刀には見覚えが・・・」


透(す)かさず、


「そうです。 これは3年前我が夫破瑠魔内道がアナタを刺し貫いた剣です」


左手で腰に差してある軍駆馬の鞘(さや)を抑えて死頭火がそう言った。


「我が夫? ホゥ〜。 ソチはあの内道の妻か?」


「そうです」


雪女は改めてもう一度死頭火を見た。


一見穏やかではあるが、しかし激しい闘志を内に秘め、

燃え盛っている死頭火の眼差(まなざ)しを見つめたのだ。











氷のように冷ややかで、切るように冷たい眼(め)をして。







つづく







#39 『不敵な眼差し』の巻



「ホォ、不敵な眼差(まなざ)しをしておる。 言うだけの事は有りそうじゃ。 だがワラワの敵ではない」


そう言うと雪女は両手を左右に広げた。



(ビュービュービュービュービューーー!!



風の勢いが更に増した。



(サッ!!



死頭火が身構えた。

左足を半歩後ろに引き、若干腰を落として重心を安定させ、いつでも抜けるように左手で軍駆馬の鞘を握った。

右手は剣印(グー・チョキ・パーのチョキの形)にし、体の正面で体幹から30センチ程離して指先を雪女に向けている。

その指先からは雪女に向けエネルギーが発せられていた。

雪女の踏み込みを押さえると同時にその位置を掴(つか)み、見失わないためにだ。


『出来る!?


雪女は思った。

そして言った。


「ただのオナゴではなさそうじゃ。 面白い。 ならばワラワも本気で参る」



(シュッ!!



雪女は上空高く飛び上がった。

そのまま宙に留まった。

体を捻(ひね)って半身にし、右手を左肩まで上げている。

右手五指を氷柱(つらら)に変えて。


ここを以って終に、


『雪女 vs 破瑠魔死頭火』


その戦闘開始の・・・











ゴングは鳴った。







つづく







#40 『勝負有ったか?』の巻



(スパー!!



死頭火に向かって、風を切って何かが飛んで来る。


五指氷柱(ごし・ひょうちゅう)だ!?


3年前、あの内道を襲った五指氷柱が飛んで来た。

雪女が半身の体勢から鋭い勢いで体を捻り、同時に右手を左肩から振り下ろしていたのだ。



(シューーー!!



それは恐ろしいスピードで飛んで来る。


危うし死頭火!?


五指氷柱は目前だ。



ところが・・・



突然、雪女と死頭火の中間の空間に炎が現れた。


否、

炎じゃない!?


火の鳥だ!?


突然、火の鳥が現れたのだ。

それは思いも寄らない出来事だった。

不意に火の鳥が出現するや、

それは一瞬にして死頭火に向かって飛んで来る五指氷柱を溶かし、



(ビヒューーー!!



そのまま一気に雪女目掛けて突っ込んだ。


だが、雪女はまだ体勢が整ってはいない。

五指氷柱を投げ付けた直後ゆえ。

しかし火の鳥は既に雪女の目前。


『クッ!? か、かわせぬ!?


雪女は焦った。

まともにこれがぶち当たったら、いかに雪女と言えども受けるダメージは計り知れない。

命の危険さえ有り得る。


ウ〜ム。











イキナリ勝負有ったか?







つづく