#41 『息吹』の巻




『ハッ!?


死頭火は驚いた。


一瞬にして火の鳥が消えたかと思った次の瞬間・・・


自分に向かって一群の氷の粒が飛んで来たからだ。

それらは一つ一つがまるで小さい針のようだった。


!? 何!?


小さい針のような氷の粒?


そぅ・・・


それは雪女の息吹。

雪女の “氷針息吹” だ。


雪女は死頭火の火の鳥攻撃を避けられないと悟るや、


「フゥーーー!!


即座に激しく息を吐き出していた。

しかも、唯(ただ)吐き出したのではなく呼気を鋭い氷の粒に変えて。

そしてこの氷針息吹で火の鳥を撃ち落すと同時に死頭火を攻撃したのだ。


火の鳥は消えた。


「キィー!!


と一声残して。


それと同時に、



(パッ、シューーー!!



死頭火の背中から血飛沫(ちしぶき)が上がった。

まるで鋭い刃物にでも切られたかのように。



(バババッ・・・)



その血は降り積もった雪の上に音を立てて落ち、その辺りを真っ赤に変えた。


『クッ!?


死頭火は苦痛に顔を歪めた。


その直後、



(ヒラヒラヒラヒラヒラ・・・)



一枚の呪符が激しく降り注ぐ雪の合間を漂(ただよ)うように、既に一面雪で覆われた地面に舞い落ちた。

死頭火の放った “式神の符(しきがみ・の・ふ)” だった。

そうこれは、この火の鳥は “四霊獣(しれいじゅう)・朱雀(しゅじゃく)”。


死頭火はこの戦いを夫、破瑠魔内道の敗因から得た教訓から、持久戦を避け短期決戦で決着を着けるつもりだった。

故に、

最初から女切刀呪禁道最高難度の “式神戦” を仕掛けていたのだ。

比類なき呪力を持つ死頭火にのみ可能な攻撃だ。


しかし、

この式神戦は痛烈無比ではあるが、同時に消耗するエネルギーも半端ではない。

又、技を破られた時に受けるダメージも破壊的だ。

死頭火の背中の血飛沫はこのダメージに因(よ)る物だった。


よって、

そう何度も何度も繰り返せる程、難度の低い技ではない。


勝負の行方は・・・











いかに効率良く攻撃を仕掛けられるか否かに掛かっていた。







つづく







#42 『絶体絶命』の巻




(ヒュッヒュッヒュッヒュッヒュッ・・・!!



一群の氷針が飛んで来る。

死頭火に向かって飛んで来る。

まるで乱射された散弾銃の弾のように。


しかし、

死頭火は冷静だった。

あたかも体操の選手が床運動で見せるような素早い動きで地面を回転して、この攻撃を避けた。

式神・朱雀の符が破られたために受けたダメージで出血し、痛む背中を物ともせず。


これが破瑠魔死頭火の体術だ。

伊賀の “くノ一(くのいち)” の流れを汲んでいる死頭火だからこそ出来る芸当だった。


だが、

雪女は容赦ない。


「スゥ〜〜〜」


再び大きく息を吸い、それを一気に吐き出そうとした。

氷針息吹第二弾だ!?

雪女が狙いを定めた。


しかし死頭火は・・・


死頭火は前回の攻撃を回転して避けた体勢からまだ態勢を整えてはいない。

今、まともにこの攻撃を喰らったら、如何(いか)に類稀(たぐいまれ)なる体術を身につけている死頭火と言えどもそれを避けるのは100パーセント不可能に近い。


危うし死頭火!?


絶体絶命・・・か!?











だが・・・







つづく







#43 『背後から』の巻




(ドスッ!!



突然、

何かが背後から雪女の背中に突き刺さった。


何かが・・・突然!?


そして、


「ウグッ!?


雪女が息を詰まらせた。

当然、息は吐けない。

氷針息吹第二弾は。


どうした!?


何が起こった?


雪女に一体何が?


雪女に一体何が起こったんだ?


それは・・・手裏剣。

そぅ、

手裏剣だった。


しかし、そんな物が一体どこから・・・?


『ハッ!?


も、もしやそれは死頭火からか?

そぅだ!?

それは死頭火が投じた物だった。


死頭火は雪女の氷針息吹第一弾を回転してかわす直前、手裏剣を投げ付けていたのだ。

降り注ぐ雪の中をまるでブーメランのようにそれは飛び、雪女に全く気付かれる事なく背後から雪女の背中を襲ったのだった。

比類なき体術を極めた死頭火のみに許される芸当だ。


正に無類の “くノ一(くのいち)” 破瑠魔死頭火・・・その本領発揮である。


雪女は思った。











『クッ!? つ、強い!!







つづく







#44 『優勢?』の巻



雪女に死頭火。

死頭火に雪女。

次々に繰り出される技の応酬。


13人の戦士達並びに中道、外道が勝負の行方を声を出さずに手に汗握って見守っている。

皆、全身雪塗(まみ)れだ。

一応、木や建物の陰に隠れているとはいえ、吹き殴って来る雪を全てかわす事は無理だった。

その寒さたるや尋常ではない。

本来なら熱くて寝苦しい夏真直中(なつ・まっただなか)の筈なのに。

だが、

皆、その寒さの中誰一人ジッと動かず固唾(かたず)を飲んで見守っていた。


『雪女 vs 死頭火』


の戦いを。



死頭火に雪女。

雪女に死頭火。

互いに一歩も引かない。


否、

若干、雪女優勢か?


あるいは、

地の利も有り死頭火有利か?


『死頭火・・・』


『死頭火様ぁ・・・』


『死頭火様ぁ・・・』


『死頭火様ぁ・・・』


 ・・・


中道、外道及び13人の戦士達が祈るような気持ちで死頭火の戦いを見守っている。

雪女と互角に戦っている戦士死頭火の戦いを。


『死頭火・・・勝ってくれ!!


『死頭火様ぁ・・・勝って下さい!!


『死頭火様ぁ・・・勝って下さい!!


『死頭火様ぁ・・・勝って下さい!!


 ・・・


そう念じながら。

皆が、

そこにいる15人全員が、

祈るような思いで見守っている。


だが、一人。


否、一人。


この戦いを見守っている者15人中、唯(ただ)一人だけ冷静にこの戦いを見ている者がいた。


誰か?


外道だ。


外道には見えていたのだ。

母、死頭火の勝利が。


相手は圧倒的パワーを持つ雪女。

パワー勝負では勝負にならない。

しかし、死頭火には技が有る。

強力な雪女の攻撃を受けてかわし、受け流して抑え込める技が。

死頭火にはその技が有ったのだ。

外道にはチャンとそれが見えていた。

虹彩異色症(オッド・アイ)の外道の目にはそれがチャンと。


そして外道は確信していた。











『カー様の勝ちだ!?







つづく







#45 『やはり神剣・軍駆馬・・・』の巻



(ニヤッ)



背中に刺さった死頭火の手裏剣を右手で引き抜き、

繁々(しげしげ)とそれを見ながら雪女が無気味な笑いを浮かべた。


手裏剣の傷は何事もなかったかのように瞬時に消えていた。

五指氷柱を放った右手の指も既に復元している。


妖女・雪女。


それを倒せるのは、やはり神剣・軍駆馬・・・・・・・・・・のみ。


そこにいる者達全員がそれを思い知った瞬間だった。


体勢を立て直して見上げている死頭火を空中から見下ろし雪女が言った。


「オナゴと思うて油断したヮ。 だがこのような物でワラワを倒せると思うておるのか。 愚か者め」


そして、手にした手裏剣を死頭火に向けて投げ返した。











その時・・・







つづく