#161 『奇妙な・・・』の巻



「如何(どう)やらウヌの最後の時が来たようじゃな」


玄丞が言った。


「さぁ、それは如何(どう)かな」


大道が言い返した。


「ほざけー!!


玄丞が斬り掛かった。

玄丞には大道の小太刀など全く恐るるに足りなかった。

不死身の玄丞には文字通り肉を切らせて骨を絶つという捨て身の戦法が可能だからだ。

そぅ。

斬られても斬られても直ぐに復活する妖 玄丞には、文字通り肉を切らせて骨を絶つという捨て身の戦法が。


この戦い、果たして大道に勝ち目はあるのだろうか?



(ビヒューーーン!!



玄丞が太刀を振り下ろした。



(シュッ!!



大道はコレを後ろに飛んで間合いから出る事によってかわした。



(サッ!!



玄丞が直ぐさま間合いを詰めて来た。



(シュッ!!



再び後ろに飛んでこれをかわす大道。



(サッ!!



走ってコレを追いかける妖 玄丞。

右手に太刀を持ち、玄丞は陸上競技の選手のように 『タタタタタ・・・』 と普通に走っている。

つまり全く隙だらけだ。

それでも不死身の玄丞にはそれも構えの内だ。

構えても構えなくても玄丞にしてみれば大して問題ではない。

相手を捕まえさえすればそれで良いのだ。

勝てるからだ。


暫(しば)しこの奇妙な追いかけっこが続いた。



(シュッ!!


(サッ!!



(シュッ!!


(サッ!!



(シュッ!!


(サッ!!



という奇妙な追いかけっこが・・・











続いた。







つづく







#162 『足元に』の巻



突然、



(ブヮン!!



大道が無防備に走って間合いを詰めてくる玄丞に向け、手にしていた小太刀を投げ付けた。



(ビヒューーーン!!



それは真っ直ぐ玄丞の体目掛けて飛んだ。

突然の事に玄丞はそれに対処出来なかった。

まさか大道がこのような奇襲に出るとは思いも掛けていなかったからだ。


そして大道の投げた小太刀が、



(ドン!!



鈍い音を立てて玄丞の胸に突き刺さった。

丁度心臓のある辺りに。



(プッ、シューーー!!



まるで噴水のように血が吹き上がった。

真っ赤な血が。


だが、

玄丞は一旦立ち止まり、左手でその小太刀を引き抜いた。

すると直ぐに又、嘘のように傷口が塞がって行く。

それと同時に噴出した真っ赤な血もみるみる消えてなくなって行く。

ホンの数秒後にはもう何の跡形もなく傷口は消えていた。

当然、出血した血も。


そして大道から目を切り、玄丞は引き抜いたその小太刀を繁々(しげしげ)と見つめた。

大道がそのような奇策を用いたからには、恐らく何らかの仕掛けを施しているのではなかろうか。

そう思い、小太刀に何か細工がないか調べていたのだった。

全く大道の存在を意に介さずにだ。


こんな戦いの最中なのに余裕のヨッチャンこいて、

柄、鍔(つば)、刀身、・・・の順にジックリと見た。


特に変わった所はなかった。

それらを調べ終わってからその小太刀を投げ捨てた。

そしてもう一度胸に目をやり、左手の指先で胸を触りながら何か変わった所がないか傷口を調べた。

確かに羽織には小太刀の刀身分の切れ目が入っていた。

だが、小太刀で受けた傷は既に無く、胸に全く異常は見られなかった。

全(すべ)て元のままだった。


それから、

玄丞がユックリと顔を上げた。

大道を見つめ不信そうに聞いた。


「何の真似じゃ!? これは?」


「・・・」


何も答えず大道は黙って立っていた。


「逃げられぬと知って諦めたとでも申すか?」


玄丞のこの問い掛けに大道が初めて答えた。


「否。 諦めてなどおらぬ。 ただ、ヌシの動きを止めただけじゃ」


「フン。 愚かな」


そう言って玄丞が大道に歩み寄ろうとした。


だが、



(ピタッ!!



「う、動けぬ!? か、体が、体が動かぬ!? こ、これは、これは何とした事か!?


玄丞はまるで金縛りにあってでもいるかのように頭以外全く動かす事が出来なかった。


その様子を



(ジィーーー!!



大道は黙って見つめていた。


玄丞が怒鳴った。


「クッ!? な、何をした?」


「・・・」


大道は黙ったままだった。


「な、何をしたかと聞いておる!! 答えょ!! 大道!!



(ズサッ!! ズサッ!!



大道が2歩玄丞に歩み寄った。


そして言った。


「ヌシの足元を見てみょ」


「ナ〜ニー!? 足元だぁ?」


玄丞はそう言って



(チラッ!!



足元を見た。


すると・・・











そこに・・・







つづく







#163 『念法』の巻



「ヌッ!? い、何時(いつ)の間に!?


自らの足元を見て玄丞はチョッと驚いた。


そこには、まるで玄丞の首から上を除く全身の影をトレースするかのように五寸釘が十数本突き刺さっていたのだ。



!?


影をトレースするかのように五寸釘が・・・?


も、もしや!?


こ、これは!?


あの!?


あの念法・・・!?



「こ、これは一体!?


玄丞が口走った。


それを聞き、


「フッ」


大道は含み笑いを浮かべた。


「教えてやろう。 影留めじゃ」 (“影留め” 知らん人は 怨霊バスター・破瑠魔外道 http://ncode.syosetu.com/n6352br/9/ #44 『種明かし』の巻の解説参照)


「影留めェ!? 影留めじゃとー!?


「そうじゃ。 影留め。 念法・影留めじゃ。 影をそれが映っておる物に縛り付ける事によりその本体の動きを止める技じゃ」


そぅだ!?


大道はただ逃げ回っていたのではなかったのだめカンタービレ!?


逃げ回る振りをしながら影を捉えるベストポジション、つまり回りに遮蔽物のない日だまりに玄丞を誘き出していたのだ。

不死身である事に絶対の自信を持つ玄丞はそんな事とは露知らず、何の考えもなく大道を追い掛け回していたのだった。


大道が続けた。


「ヌシの影を縛った。 ワシの太刀を胸より引き抜いた後、愚かにもご丁寧にユルリと調べておったあの時にな。 ヌシはもう動けぬ」


「動けぬー!? 動けぬじゃとー!?


「あぁ、そうじゃ。 ヌシはもう動けぬ」


「ナ〜ニー。 ウォォォォォーーー!!


玄丞が動こうと必死にもがいた。

否、もがこうとした。


「ウォォォォォーーー!!


もう一度やった。


「ウォォォォォーーー!!


更にもう一度。


「ウォォォォォーーー!!


「ウォォォォォーーー!!


「ウォォォォォーーー!!


 ・・・


これを何度か繰り返した。


しかし無駄だった。


つー、まー、りー、・・・


『無駄ーーー!! 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!


だった。


ここで玄丞は、


「クッ!?


一度呻(うめ)いただけで、諦めたのか?

もがくのを止め、開き直った。


「ならば何じゃ? ワシを如何(どう)すると言うのじゃ?」


「始末する」


「フン。 無駄じゃ無駄じゃ。 ウヌ如(ごと)きにこのワシは殺せぬヮー!!


「好きに申せ」


そう言って大道は先程玄丞が投げ捨てた小太刀を拾い上げ、玄丞に歩み寄った。

そしてその小太刀で玄丞の首を刎(は)ねようと振り上げた。


だが・・・











その瞬間。







つづく







#164 『もがく素振り』の巻



(ガクン!!



大道が地面に右膝を付いた。


「クッ!? こ、これは!? これは何とした事!? あ、足が。 足が痺れる。 痺れて力が入らぬ」


それを見て玄丞が言った。


「だ〜から言ぅた筈じゃ、ウヌにワシは殺せぬと」


「クッ!? な、何じゃ? 何をした?」


「ウヌの右足を見てみょ。 良〜く見てみょ」



(チラリ!!



大道は右膝を地面に付けたまま右足太ももに視線を向けた。

するとそこに髪の毛ほどの細さの長さ1p程の針が刺さっていた。


「こ、これは!?


「含み針じゃ。 ワシの吹いた。 如何(どう)じゃ? 驚いたか」


「・・・」


大道は黙っていた。



(タラ〜!!



大道の額から一筋の汗が滴(したた)り落ちた。


「先程ワシがもがく素振りを見せた時ょ。 何度かのぅ。 アレは振りじゃ。 ウヌに気付かれぬための振りじゃ。 ウヌに気付かれずにそれを吹くためののぅ」


「クッ!?


「ウヌの装束ではそこしか狙う所がのぅてのぅ。 顔を狙えばウヌの事じゃ。 きっとかわされてしまう。 だからそこじゃ。 そこを狙ろうたのじゃ」


大道も玄丞も羽織袴姿だった。

袴は勿論、膝下から足首までを絞った動きやすい伊賀袴(いが・ばかま)だ。

色は大道が全身赤、それも紅蓮の炎を思わせるほど華やかな。

そして玄丞が一点の曇りもない純白だった。

ただし今は、大道達の返り血を浴び所々ベッタリと赤いシミが付いている。


「如何(どう)じゃ、大道。 足は? 足の具合は? それには痺れ薬が仕込んである。 直ぐに効く奴がのぅ。 直ぐに効く痺れ薬がのぅ。 如何じゃ、大道? 動けまい。 ウヌがご大層に影ナンタラの能書きたれておる間に薬が効き始めたようじゃのぅ。 さぁ、如何する大道? フフフフフ・・・。 後(あと)半時も有れば日は沈む。 さすれば影も消ゆる。 さすればワシは自由。 自由の身じゃ。 フフフフフ・・・。 さぁ、大道ょ。 如何する? 次は如何する? フッ、フフフフフ。 フッ、ハハハハハ。 ワッ、ハハハハハ。 ワハハハ、ワハハ、ワッ、ハハハハハ・・・」


不敵に笑う玄丞。

その玄丞に大道がキッパリと言い切った。


「こうする!!


それと同時に、手にした小太刀を地面に置き、直ぐさま右手を手刀の形にし、その変えた手刀を自分を見下ろしながらせせら笑っている玄丞の胸目掛けて下から突き上げた。











そして・・・







つづく







#165 『胸目掛けて』の巻



(ズボッ!!



大道の右手手刀が玄丞の胸を貫(つらぬ)いた。

それも心臓のある辺りを。


その瞬間、



(プッ、シューーー!!



まるで噴水(ふんすい)のように血が噴出(ふきだ)した。



(バババババ・・・!!



その血が大道の全身に掛かった。


「グハッ!!


玄丞が苦痛に顔を歪めた。


だが、

それはホンの一瞬に過ぎなかった。


奇妙な事に玄丞はその次の瞬間には、上から大道を見下ろし


「ニヤッ」


っと笑っていた。


「何をする気じゃ? 大道」


大道が答えた。


「ヌシの心の臓を掴(つか)み出す」


玄丞が再び聞いた。

しかも余裕のヨッチャンで。


「出来ると思ぅておるのか? そのような真似が」


「思ぅておらねばせぬ」


大道が言い返した。


「フン。 ならばやってみょ」


玄丞が大道を小ばかにして言った。

まだ余裕のヨッチャンだ。


大道は右手で玄丞の心臓を掴むと、その手を



(グイッ!!



と引いた。


否、引こうとした。











だが・・・







つづく