#191 『伝説の・・・』の巻



『ハッ!?


大道は驚愕した。



(ギン!!



怒り、憎しみ、侮蔑の入り混じった一瞥(いちべつ)を自らにくれたと思った次の瞬間、



(シュッ!!



雪が飛んだのだ。

そして両手を広げ、一旦空中高く留まり、



(ジィー!!



無言のまま大道を見つめた。


「・・・」


「・・・」


二人は暫(しば)しそのまま見つめ合った。

大道は驚きの顔で、雪は侮蔑、軽蔑、蔑(さげす)みの眼差(まなざ)しで。

そして雪はそのままの体勢で、

大道を冷たい眼(まなこ)で見下(みくだ)したままの体勢で、



(シュッ!!



何も言わずに飛び去った。


大道は愕然としていた。

無言で 否 言葉を出せずに。

唯黙って、ジッと己を蔑み見下したまま飛び去って行く雪の姿を見つめていた。



(ゴクッ!!



思わず生唾を飲んだ。

次の瞬間、思わずこんな言葉が口を突いて出た。


「あ、あれはナント・・・。 あの、あの伝説の大技・・・!?











・・・と。







つづく







#192 『伝説の大技』の巻



「あ、あれはナント・・・。 あの、あの伝説の大技・飛行夜叉(ひこうやしゃ)の術・・・か!?


大道は驚愕しながらそう口走った。


“飛行夜叉の術”


言い伝えには聞いていた。

だが、それは伝説として。

しかしまさか本当にその技が存在し、それを行なえる程の術者がいるなどとは今の今まで大道は思いも掛けていなかった。


それを目の当たりにした衝撃で大道はその場に呆然と立ち尽くしていた。


妖の姫御子・雪の底知れぬ力を垣間(かいま)見た今、


『ナ、ナント恐ろしき女子じゃ。 ワシでは、このワシでは妖が姫御子には勝てぬかも知れぬ』


大道はそれを思い知らされていた。

だが、大道に恐怖心はなかった。

しかし勝てる自信もなかった。

あの不死の術を使う玄丞とさえ冷静に戦い、打ち倒した大道がだ。


大道は、妖の姫御子・雪の飛んで行った方角を見ながらその場に釘付けされたかのように立ち尽くしていた。

暫(しば)らくその状態が続いた後、不意に大道が我に返った。

そしてこう思った。


『ハッ!? し、しまった!!


慌ててもう一度雪の飛び去った方向を見定めた。


『あれは、あの方角は魔王明神本殿の辺りか? ウム。 そうじゃ、そうに相違(そうい)ない』


一旦軍駆馬を鞘に収め、急いで大道は魔王明神本殿目指し走り出した。


こう思いながら・・・











『時がない!?







つづく







#193 『激しい頭痛』の巻



「ハァハァハァ・・・」


大道は走りに走ったため、息が上がっていた。


『ここを上り切れば本殿じゃ』


そう思った。


大道はたった今、鳥居の奥の階段に辿り着いた所だった。

勿論、魔王明神の鳥居だ。


階段の一段目に足を掛けた。

その瞬間、



(ガーン!!



激しい頭痛に襲われた。


『クッ!? こ、これは何とした事!?


そして大道はこう確信した。


『ハッ!? そうか。 これが昼間、雪殿の言っておった頭痛か。 これで間違いない。 姫御子はここじゃ。 間違いなくここにおる』


大道は一心に祈り始めた。


「南無魔王権現。 南無魔王権現。 南無魔王権現・・・」


と。


暫らくすると不思議な事に頭痛が止んだ。


意を決して階段を上がり始めた。

別に走った訳ではないが上り切るのにさほど時間は掛からなかった。



(ヒタヒタヒタヒタヒタ・・・)



上り切ると、音を立てないように用心しながら本殿に駆け寄った。

13段階段を草鞋(わらじ)を脱がずに駆け上った。


戸の鍵は掛かってはいなかった。

これを以って、雪がそこに逃げ込んだ事を大道は改めて確信した。

鍵は雪しか持っていない筈だからだ。


その時大道は、


『ン!? 鍵が開けられておる。 間違いない。 確かに姫御子はこの中に逃げ込んだに相違ない』


そう思ったのだった。











そして・・・







つづく







#194 『大道最強の敵』の巻



(カチャ!! スゥーーー!!



大道が再び軍駆馬を抜いた。



(ギラン!!



又しても、怪しく光る神剣・軍駆馬。


大道は左手を戸に掛けた。

ユックリと引いた。



(スゥー)



音もなく戸は開いた。

そのまま中の様子を窺った。


誰かが攻撃して来る気配はなかった。

人のいる気配もなかった。

しかし大道はこう思っていた。


『間違いなくこの中におる筈じゃ』


桁外(けたはず)れの雪の力を見せ付けられた大道にしてみれば、雪が気配を消すのなど雑作もないという事は疑いようもなかった。

用心深く鴨居(かもい)を跨(また)ぎ、音を立てずに中に入った。


本殿の中は薄暗かった。

が、

見るのに困る事はなかった。

それというのも、昼間は点(とも)っていなかった4本の極太蝋燭に火が点(つ)いていたからだった。


ナゼ火が点いていたのか?


それは雪が決まって1日に二度、夕刻に明かりを点(とも)し、明け方それを消しに来ていたからだ。

雪はそうやってこの本殿を管理していたのだった。


従って、夕方点した蝋燭がそのままになっていたのだ。

流石に極太蝋燭ともなると4本のみでも鍛えた目を持つ術者にとってみれば光量は充分で、中での行動に支障はなかった。

もっとも、暗さに目が慣れていた所為(せい)もあったが。


大道はユックリと用心しながら、慎重に辺りを見回しながら前に進んだ。

相変わらず人のいる気配は全く感じられなかった。


昼間同様、通路遮蔽用(つうろしゃへいよう)の玉垣が衝立(ついたて)のように置かれていた。


辺りに気を配り、回りに目を凝らし大道はその通路遮蔽用(つうろしゃへいよう)の玉垣の間から中に入った。


慎重の上にも慎重に前に進む大道。

敵が何時(いつ)、何処(どこ)から襲ってくるか分からないからだ。

しかもその敵は、大道がかつて相対峙した如何(いか)なる者をも圧倒する呪力を持っているのだ。


勿論、その敵とは・・・











妖の姫御子・雪である。







つづく







#195 『天井と床』の巻



(ジリッ!! ジリッ!! ジリッ!! ・・・)



大道は慎重に摺足(すりあし)で本殿奥へと進んだ。

いつ攻撃を受けても対処できる様に、上下左右隈(くま)なく気を配りながら。


そして天井を見上げた。

上からの攻撃を恐れての事だった。

しかし天井に雪のいる形跡はなかった。


次に、床を見た。

そこに何か細工はないかと。

落穴(おとしあな)のような仕掛けがないかを見極めた。

暗くてハッキリとは断言出来ないが、そのような細工はなさそうだった。


そして大道はユックリと顔を上げた。











その瞬間・・・







つづく