#201 『蓋』の巻



『クッ!? き、斬らねば!! 蓋が開ききる前にあの箱を斬らねば・・・』


大道は慌てた。

だが、

体の自由が利かない。

揺れが一向に収まらないのだ。



(ゴーーー!! グラグラグラグラグラ・・・)


(カタカタカタカタカタ・・・)



相変わらず本殿は激しく揺れている。


『い、急がねば!!


大道は焦った。

そうしている間も、



(ギィィィーーー!!



蓋はユックリと確実に開き続けている。



(ゴーーー!! グラグラグラグラグラ・・・)


(カタカタカタカタカタ・・・)



本殿は揺れている。

しかも大道は動けない。


しかし、



(ギィィィーーー!!



蓋は、箱は、開き続けている。

蓋はもうその角度45度付近まで開いていた。


激しい揺れの中、大道は体勢を入れ替えるため床に這(はい)い蹲(つくば)った。



(チラッ!!



そのままの体勢で箱を見た。











その瞬間・・・







つづく







#202 『影』の巻



(ギョッ!!



大道は、仰天(ぎょうてん)した

暗がりの中、

45度ほど開いた箱の中に、

殆んど真っ暗な箱の中に、



(ギラッ!!



妖しく光る二つの目のような何かが見えたのだ。

その妖しく光る二つの目のような何かは、



(ジィー!!



と大道の様子を窺っている。


『ハッ!? い、如何(いかん)!! や、奴を、奴を外に出しては・・・』


咄嗟に大道は悟った。

箱の中には何かがいる。

決して外に出してはいけない何かが。

その時、間違いなく大道はそれを悟ったのだ。


その瞬間、大道の体が独りでに動いた。

否、

軍駆馬に突き動かされていた。


「キェェェェェーーーイ!!!!!


激しい気合一閃、大道が飛んだ。


大ジャンプだ!?


だが、



(パカッ!!



同時に蓋が開いた。



(ギン!!



大道が箱を睨みつけた。


何かが飛び出そうとしている。

今にも何かが飛び出そうとしている。

影のような・・・異様な影のような何かが。













そこへ・・・







つづく







#203 『影か軍駆馬か』の巻



(ビヒューーーン!!



軍駆馬だ。

大道の振り下ろした軍駆馬が来た。


どっちが早いか?


影か軍駆馬か?


軍駆馬か影か?


二つの妖しく光る目を持つ影は、もう箱から出掛かっている。

影は一気に飛び出す気だ。

誰の目にもそれがハッキリと分かる。


そこへ、



(ビヒューーーン!!



軍駆馬が振り下ろされた。











そして・・・







つづく







#204 『突風』の巻



(ビリビリビリビリビリー!! パスッ!!



軍駆馬が影と一緒に箱を切り裂いた。

一瞬、ホンの一瞬、軍駆馬が早かった。

大道の勝ちだ。



(パカッ!!



女神像の掌の上で真っ二つに分かれた萬奴羅(ばんどら)の箱が、



(コトン!! コトン!!



床に転げ落ちた。

と、同時に、


「ゥゴ〜〜〜〜〜〜!!


重低音のサウンドとも声とも叫び声とも言えぬ凄まじい音がした。

その音は数秒間続いた。


その間本殿は、



(ゴーーー!! グラグラグラ・・・)


(カタカタカタ・・・)



より一層激しく揺れていた。

大道は最早立ってはいられない。

だが、それだけではない。

その揺れと共に



(ブヮーーー!!



凄まじい風が吹き始めたのだ。

大道が開けっ放しにして入って来た引き戸から吹き込んでいる。

突風だ。



(ガタン!! ガタン!! ガタン!! ・・・)



突風は小窓を全部、一気に吹き飛ばした。


大道は厨子の扉を左手で掴(つか)み跪(ひざまず)いた。

今、大道は厨子の中の女神像と首を刎(は)ねた女神像の間にいる。

風は後ろから吹いて来る。


『クッ!? マ、マズイ!? こ、このままではこの風に・・・』


風は益々勢いを増し始めた。


大道は最後にもう一度、首を刎ねた姫御子が如何(どう)なったか確認する必要があった。

というのも、雪の持つ呪力を考えた時、余りにも呆気(あっけ)なく倒せたからだ。

加えてその父、妖 玄丞は不死身だった。

従って大道は姫御子の最後をキッチリと確認しなければならなかったのだ。


大道は横を向いた。

首のない女神像を見た。











その時・・・







つづく







#205 『幣束と香油と・・・』の巻



(チラッ!!



風で吹き飛ばされた小さい方の幣束(へいそく)が大道の視界に入った。


『ハッ!? し、しまった!?


大道は焦った。


その幣束が、突風にも拘(かかわ)らずナゼかまだ消えていない4本ある蝋燭(ろうそく)の内の1本にブチ当たったのだ。

それはその蝋燭をなぎ倒すと共に、その蝋燭の火で燃え上がった。

しかも、運の悪い事にその蝋燭は護摩壇の上に倒れた。

その護摩壇には、お護摩用の蘇油(そうゆ)と積まれた護摩木が置かれてあった。

その蘇油の上に燃え上がった幣束が落ちた。

蘇油が一面に飛び散ると同時に幣束の火が護摩木の上に掛かった蘇油に燃え移った。

そこに、やはり風で飛ばされた三方(さんぽう)が飛んで来た。

それは積まれた護摩木にぶつかり、護摩木を数本床の上に弾き飛ばした。

その中には火の点いた護摩木もあった。

その火の点いた護摩木が落ちた先には、先程飛び散った蘇油があった。

蘇油に火が点いた。

蘇油の火は簡単には消えない。

その火が風に煽(あお)られ一気に広がった。


最早、大道に猶予なし。



(チラッ!!



大道は首のない女神像を見た。

それは心臓からドクドクドクとまだ血を流していた。

だが、刎ねた首が見当たらない。

どこかへ転がって行ってしまったようだ。


しかし大道は、状況が状況なだけに迷う事なくそれで良しとした。


『ウム!!


確認完了。


そして本殿から脱出するため、体の向きを突風の吹き込んで来る戸口へと向けた。

出口は他にない。



(ゴーーー!! グラグラグラグラグラ・・・)


(カタカタカタカタカタ・・・)



揺れが収まる気配は全くない。



(ブヮーーー!!



突風もだ。



(ヨロヨロヨロ・・・)



突風をまともに受け、激しい揺れの中、右手で抜き身の軍駆馬を確(しっか)と握り締めたまま大道は姿勢を可能な限り低くして、床を這(はい)い蹲(つくば)りながら戸口へと進んだ。



(メラメラメラメラメラ・・・)



女神像のある辺りは既に火が回り始めていた。



(ヨロヨロヨロ・・・)



その間(かん)大道は一度も振り返る事なく突風に逆らい、足元を激しい揺れに攫(さら)われながらも必死で歯を食い縛り、かなりの時間を費やし何とか本殿の外に出る事が出来た。


13段階段を飛ぶようにして走り降りた。


不思議な事に本殿の外は風一つなかった。

全くの凪(なぎ)だ。

そればかりか地鳴りもなければ揺れもない。


大道は振り返った。

出て来たばかりの本殿を見た。



(グラグラグラグラグラ・・・)



本殿が、本殿だけが揺れている。



(メラメラメラメラメラ・・・)



既にその中で燃えている火は、外からでもハッキリそうと分かる程になっていた。


大道は仁王立ちになり、その激しく揺れながら燃える盛る本殿を見つめた。


こう思いながら、


『雪・・・殿・・・』











・・・と。







つづく