#146 『縦に』の巻



(ドスッ!!



ば、蛮娘がーーー!!


蛮娘が蛮娘が蛮娘がーーー!!


自分の胸に自分の胸に自分の胸にーーー!!


小太刀を突き刺したゾーーー!!



(ブッ、シューーー!!



ち、血飛沫(ちしぶき)だーーー!!


血飛沫が上がったゾーーー!!



(グッ!! グッ!! グッ!! ・・・)



む、胸を切り裂き始めたゾーーー!!



「ヒグァーーー!! ゥオオオオオーーー!!


蛮娘の絶叫だーーー!!



(グッ!! グッ!! グッ!! ・・・)



「ヒグァーーー!! ゥオオオオオーーー!!


蛮娘は今、小太刀で胸の中心線よりヤヤ左寄り、咽の僅(わず)か下から自らの胸を “縦(たて)” に切っている。

受ける痛みで絶叫しながら。


しかし蛮娘は・・・


絶対に・・・



(グッ!! グッ!! グッ!! ・・・)



「ヒグァーーー!! ゥオオオオオーーー!!


絶対に絶対に絶対に・・・











止めない。







つづく







#147 『まるで夜叉だ!?』の巻



や、夜叉(やしゃ)だ!?


ま、まるで夜叉だ!?



蛮娘は今、



(グッ!! グッ!! グッ!! ・・・)



自らの胸を、胸骨(きょうこつ)のヤヤ左よりを、咽(のど)の僅(わず)か下から腹部上部までを、


“縦”


に切り裂いている。


「ヒグァーーー!! ゥオオオオオーーー!!


激しい悲鳴と共に。


そして終にそれを、



(グッ!! グッ!! グッ!!



切り裂き終えると、


「ヒグァーーー!! ゥオオオオオーーー!!


激しい悲鳴を上げながらも、次に蛮娘は右手で胸骨を抑えた。



こ、今度は何をする気だ蛮娘ー!?

ろ、肋骨なんか掴んでー!?



既に両目のない蛮娘。

その蛮娘が、



(キッ!!



両目を見開き、



(バキバキバキ)



激しい軋み音を上げ、左手で左胸の肋骨(ろっこつ)を掴(つか)み出した。


「ヒグァーーー!! ゥオオオオオーーー!!


激しい悲鳴を上げながらも左手で左胸の肋骨(ろっこつ)を。



(バキバキバキ)



「ヒグァーーー!! ゥオオオオオーーー!!


と。


そして、


つ、終に蛮娘が、ひ、左胸郭(ひだり・きょうかく)を広げたゾーーー!!



(ボタボタボタボタボタ・・・)



ち、血だーーー!!


す、凄い血だーーー!!


は、激しく出血してるゾーーー!!


な、内臓が剥(む)き出しだーーー!!


な、内臓が剥(む)き出しになったゾーーー!!


み、見える!! 見えるゾーーー!!


蛮娘の内臓がーーー!!


蛮娘の内臓がハッキリと見えるゾーーー!!



終に蛮娘の内臓が露(あらわ)になった。


「ハァハァハァ・・・」


蛮娘の激しい息遣いだ。


それと共に左肺が大きく収縮するのが分かる。


い、胃だ、胃も見える。


肝臓の色も鮮やかだ。


その他、切り裂かれズタズタになった小腸、結腸・・・色々の臓器が見えている。


夫々(それぞれ)が生命を保つために活動しているのもハッキリと見て取れる。


だが、


ここで我々の目を最も引き付ける物は、肺でもなければ胃でもない。

ましてや腸でもなければ肝臓でもない。


ここで我々の目を釘付けにする物、


そ、れ、は、



(ドックン、ドックン、ドックン・・・)



真っ赤に充血し、激しく脈打っている物。


そぅ・・・


真っ赤に充血し、激しく脈打っている臓器。


人の生命を保つ最も重要な臓器・・・











それは・・・







つづく







#148 『妖 玄天(あやし・げんてん)』の巻



「何事じゃ!?


騒ぎを聞きつけ妖の頭領、蛮娘の乳 否 父、妖 玄天(あやし・げんてん)が駆け付けて来た。


「な、中で蛮娘様がー!! こ、小屋の中で蛮娘様がー!!


その場の一人が叫んだ。

その時、

小屋の中から、


「ヒグァーーー!!


悲鳴が聞こえた。

蛮娘の悲鳴が。


玄天が、



(ドンドンドン・・・)



小屋の戸を叩きながら叫んだ。


「ば、蛮娘!! な、何をしておる蛮娘!! ワ、ワシじゃ、玄天じゃ!! ここを開けょ!! い、今すぐ開けょ!!


だが、


蛮娘が戸を開ける気配は全く感じられなかった。



(ドンドンドン・・・)



「は、早くここを開けょ!! あ、開けぬかー!!


もう一度、玄天は戸を叩きながら叫んだ。


しかし、やはり蛮娘が戸を開ける気配は全くなかった。

否、

それどころか再び、


「ヒグァーーー!!


凄まじい悲鳴を上げた。


耐え切れず玄天が皆に命じた。


「と、戸じゃ!! 戸を破るのじゃ!! 構わん!! 戸を蹴破(けやぶ)るのじゃ!!


そして妖の腕自慢の一人が小屋の戸を蹴破ろうとした。











その時・・・







つづく







#149 『小屋の中』の巻



「ならぬーーー!! 入ってはならぬーーー!!


蛮娘の絶叫する声が聞こえた。

その声のあまりの凄まじさに、



(ビクッ!!



腕自慢の男が動作の途中で固まってしまった。

戸を蹴破ろうと右足を上げた状態のままで。


玄天達も皆一瞬動きが止まった。

全員がまるで金縛(かなしば)りにでも掛かっているかのようだった。


暫(しば)し誰も動こうとする者はいなかった。

否、動けなかったのだ蛮娘の絶叫のあまりの迫力に押されて。


その時彼らに出来る事と言ったらただ一つ。

耳を欹(そばだ)てる事。

唯それだけだった。

皆、一様に耳を欹(そばだ)てている。

小屋の中で何が起こっているのかを感じ取るために。


だが、

先程の凄まじい絶叫を最後に、小屋の中から聞こえていた蛮娘の物と思われるあの叫び声、悲鳴、呻き声が、



(ピタッ!!



止まった。



(シーン)



物音一つしなくなった。

否、

それどころか、人のいる気配すら消えてしまった。


しかし皆まだ、その場で身動きが取れず固まったままだった。


『一体中で何事が起こっているのだろう?』


それを言葉ではなく感覚で感じ取ろうと必死だった。


次の瞬間、


『ハッ!?


玄天が我に返った。

そして再び命じた。


「と、戸じゃ!! と、戸を蹴破るのじゃ!!


それを切っ掛けに全員金縛り状態から脱して正気を取り戻した。

そして、

先程の男が今度は固まる事なく、



(ドカッ!!



小屋の戸を思い切り蹴破った。


中は暗かった。

小さい蝋燭が数本立っているだけだった。



(ピュー!!



小屋の中に蹴破られた戸から風が入った。

その風で中にある蝋燭の火が揺らめいた。

そのうちの何本かが消えた。

小屋の中がより暗くなった。


力自慢の男が、今、蹴破った戸口の脇に寄った。

玄天を先に通すために。


玄天が敷居を跨(また)いだ。


「蛮娘!! 何処(どこ)じゃ!?


蛮娘に声を掛けた。


が、


返事はなかった。


「誰(たれ)か、明かりじゃ!! 明かりを持ってまいれ!!


その声に応じて、その場にいた者の一人が持っていた松明を、



(スッ!!



玄天に手渡した。

玄天がその松明で小屋の中を照らした。


全員が一斉に前を見た。











その瞬間・・・







つづく







「雪女の秘密編」 #150 『剥き出しの心臓』の巻



(シーン)



その場に居合わせた者達全員がその場で凍て付いていた。

瞬(まばた)き一つせずに、否、出来ずに。

唯、愕然として目の前の状況に釘付けになっていた。


ヤヤあって、玄天の口から小さく驚きの言葉が漏れた。


「ば、蛮娘!?


それが弾みとなって


「蛮娘様!?


「蛮娘様!?


「蛮娘様!?


 ・・・


皆、口々に蛮娘の名を呼んだ。


再び玄天が叫んだ。


「オォー!! 蛮娘ー!? な、なんたる事を!? なんたる事をしたのじゃ、蛮娘ー!?



(ドサッ、ドサッ、ドサッ・・・)



玄天を除く全員がその場に崩れ落ちるように跪(ひざまず)いた。

皆、目から大粒の涙を流しながらすすり泣いている。


目前の悲惨な状況を目の当たりにして声も出せずにただ泣くばかりだった。


玄天達の目前には・・・


上半身裸で左胸郭を剥(む)き出しにした全身血塗れの妖の女・蛮娘が、眼球を抉(えぐ)り出した両目を大きくひん剥(む)いて仁王立ちしていたのだ、こちらを向いて。

しかも既に絶命しているのが一目で分かった。

誰の目にもそれがハッキリと。


だが次の瞬間、



(ゾーーー!!



玄天以下全員の身の毛がよだった。

世にも恐ろしい姿をそこに見たからだった。

それは蛮娘のその無残な姿ではない。


それは蛮娘の直ぐ横・・・蛮娘の真横にそれは有ったのだ。


蛮娘の真横にはナ、ナンと!?

全身が蛮娘の流した血に塗(まみ)れ、



(クヮッ!!



両目を見開いた女神像が立っていたのだ。


しかもその女神像は、

その左胸、心臓部分をくりぬかれた穴の中に剥(む)き出しにはめ込まれた真っ赤に充血した何かを



(ドックン、ドックン、ドックン・・・)



動かしていたのだ。

真っ赤に充血した何かを 『ドックン、ドックン、ドックン』 と。

そぅ・・・

真っ赤に充血した何かを 『ドックン、ドックン、ドックン』 と。


そしてその真っ赤に充血した何か、それは・・・蛮娘の心臓。


それを・・あたかも・・遥か昔からあった自らの心臓のように・・その女神像は動かしていたのだ。


『ドックン、ドックン、ドックン』 と。


全く止まる様子も見せず、力強く、まるで・・・











遥か昔からそこにあったかのように。







つづく