#226 『最後の言葉』の巻
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話は少し前に戻って・・・
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「父さーん!! 母さーん!! ・・・」
名もなき訓練機の名もなき訓練兵最後の言葉だ。
被弾し炎上した訓練兵は思った。
『クッ!? 最早これまでか!! ならば・・・』
訓練兵は振り返った。
背後にムスタングが迫って来ていた。
『来る!!』
機銃掃射を予感した。
『まだだ!! まだまだもう少し!!』
訓練兵がムスタングを充分引き付けた。
その時、ムスタングのパイロットが掃射桿(そうしゃかん)を握り締めた。
それを訓練兵は直感した。
『良し!! 今だ!!』
瞬間、
(グィッ!!)
訓練兵は操縦桿を目一杯引き、一気に訓練機を反転急上昇させた。
(バババババ・・・)
ムスタングが撃って来た。
だが、
一瞬速かった。
一瞬速かったのだ訓練機の方が。
訓練機は一瞬速くこれをかわすや、最小半径で反転急上昇した。
狙いはムスタング道連れの自爆。
名もなき訓練兵は既にそれを覚悟していた。
残念ながらこの状況では已(や)む無き選択・・・か?
これ以外にない・・・か?
被弾炎上している訓練機の訓練兵が下を見た。
ムスタングが真下に見えた。
「ウッ!?」
訓練兵が無意識に息を詰めた。
そして・・・
そのまま一気に、下を飛ぶムスタングに突っ込んで行った。
こう言い残して、
「父さーん!! 母さーん!!」
と。
この名もなき訓練兵は今、日本のために日本の勝利を信じて敵機に体当たりを敢行しようとしている。
見事な覚悟だ。
そして愛する父母(ちちはは)に最後の別れを告げたのだ。
だが、
それだけではなかった。
それだけではなかったのだ、この訓練兵が最後の別れを告げたのは。
彼は最後に最愛の恋人の名も口にしていた。
そぅ、その名もなき訓練兵の幼馴染(おさななじみ)で許婚(いいなずけ)の名を最後に・・・
一言・・・
こぅ・・・
「雪ちゃーん!!」
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つづく
#227 『言霊(ことだま)』の巻
言霊(ことだま)という言葉がある。
古代日本人の卓見の一つだ。
古代日本人は、言葉という物は単に意思の伝達のためだけの物ではなく、その言葉そのものに霊力が内在し、ある言葉を口から発するという事はその発した内容を実現するためであると信じていた。
以下は筆者の勝手な思い込みではあるが、古代日本人は現代日本人など遠く及ばぬエネルギーを持っていたのではなかろうか?
俗に言う 『念力』 だ。
恐らく我等の先祖達は、時として一般的な会話としてではなくある目的を持って一念込めて何らかの言葉を発し、発した事によりそれを実現する事が出来たのではなかろうか?
それが時と共に、文明の発達と共にその能力が衰え、初めは誰にでも当たり前のように備わっていた筈の能力が、いつの間にか選ばれた一部の人間、あるいはその才能が有り、それを追い求めた修行者のみにしか使えなくなってしまったのではなかろうか?
つまり、真に 『巫女(みこ)』 と呼ばれるに値する者達に。
これにはひとり女のみならず、当然男も含まれる訳だが。
しかしその能力をヒトは誰でも皆、チャンと有しているにも拘らず、眠ったまま全く発揮されないまま死んで行くのかも知れない。
これが現代日本人の姿だ。
筆者は常々、そのような事に思いを馳せる。
言葉の持つ力に・・・
(あのー、2チャンの皆様。 もしこれお読みだったら一言断らせて頂きます。 当方、あの “サンゴにKY” で御馴染(おなじ)みの 『某・・・新聞』 の回し者ではございません。 そこんとこヨ・ロ・ピ・コ)
そして言葉がシンクロする因縁に・・・
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つづく
#228 『偶然の必然』の巻
『偶然の必然』
という現象がある。
読者の中には次のような経験をお持ちの方もいるかも知れない。
どこかに行った時、例えばレストラン。
案内されたテーブル・ナンバーが決まって数字の1が付く。 あるいは2、3、・・・が。
旅館を予約したら 『桜の間』、『梅の間』、・・・だった。
そして家族親戚に 『さくら』 や 『うめ』、・・・の名を持つ者がいる。
そんな事がしょっちゅうある。
こんな時、大抵(たいてい)、
「偶然だネェ」
「ホント」
等等で済ませてしまう。
しかし、ここには偶然の必然という
“目には見えない”
だが、
“天のみぞ知る因果律”
が働いているのかも知れない。
言い方を変えてこれを 『天啓』 といっても良いであろう。
そして古代日本人には確かに備わっていた筈のこの因果律を理解する能力だが、残念ながら筆者を含めた現代日本人はこの能力をどこかに置き忘れてしまっているような気がする。
本当に残念な事だと思う。
参考までに言うと、前者レストランの数字の例。
これを古代日本人はこう言っていた。
『数霊(かずたま)』
と。
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つづく
#229 『偶然』の巻
偶然・・・
偶然だった。
全くの偶然だったのだ。
その名もなき訓練兵の恋人の名が 『雪』 だったという事は。
そして墜落した場所が、不自然に削り取られている所の中心だったというのも又、何らかの因縁、めぐり合わせだったに違いない。
しかも驚く事に、ここにもう一つ偶然が重なっていた。
それは・・・
墜落したもう1機のムスタングのパイロットは平時はミュージシャンだった。
それもカントリー・アンド・ウエスタンの。
ヴォーカルもやるが楽器も演奏した。
そしてその楽器をいつも手元に置いていた。
当然、出撃する時も。
戦闘パイロットのみに許される特権だ。
このパイロットは験(げん)を担(かつ)ぐ性癖だったのだろう、出撃の際いつも手元に愛器を置いていたのだ。
勿論、そうする事によって落ち着きを保つ事が出来たのかも知れない。
別に珍しい事でもなかろう。
だが、
ここには、もう一つ注目すべき偶然があったのだ。
それはこのパイロットが好んで手元に置いていた楽器にあった。
楽器にあったのだ、もう一つの注目すべき偶然が。
そぅ、その楽器。
それはその名を・・・
バンジョーと言った。
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つづく
#230 『蓄積』の巻
大した事ではなかった。
全く大した事ではなかった
全く大した事ではなかったのだ、たかが訓練機や戦闘機が墜落した程度では。
その程度では全く問題はなかったのだ・・・
磐石な小重裏虚(しょう・えりこ)の術には。
だが、
『堤防も蟻の一穴』
あるいは、
『雨だれ石を穿(うが)つ』
等の例えがある。
日本は地震国だ。
火山国でもある。
重磐外裏の尾根は死火山ではなかった。
従って500年という歳月、重磐外裏は間断なく揺れ続けて来た。
実はそれがボディ・ブローのように効いていた。
加えてこの墜落による衝撃。
小重裏虚の術は少しずつではあるが確実にダメージを蓄積していたのだ。
もっとも、まだ破られる程ではなかったのだが。
それでもダメージを蓄積していたのは間違いなかった。
それがどれ程かは分からないが間違いはなかった。
もしかすると、後一押しという所まで来ていたかも知れない。
そぅ・・・
もしかすると・・・
もう後ほんの一押し、という所まで来ていたかも知れなかったのだ。
小重裏虚の術が破られるのに。
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つづく