#241 『汚面智昭さまの災難』の巻



「ソチか厨子を開けたのは?」


女が聞いた。

相手は勿論、汚面智昭さまだ。


女の声は美しく良く通る声だった。


だが、



(ゾクッ!!



ナゼか理由は分からなかったが、その声を聞き汚面の全身に悪寒が走った。

即座に、それまでピッコーンとなっていた汚面自慢の (か!? ドウかは知らんが) のモッコリ砲も萎(な)えた。

その女の声には感情という物が全く感じられなかったからだ。

氷のように冷たく、平板で無感情。

人間の物でありながら人間の物でない・・・声。

そんな感じだったのだ、その声は。


尻餅をついたまま汚面は思っていた。


『厨子? ア、アレ!? アレは厨子かぁ、棺桶じゃなく』


そして返事をしようとした。

しかし、声を出す事が出来なかった。

何か底知れぬ恐ろしさをその女に感じたからだ。


「ゥンゥンゥンゥンゥン・・・」


その時、汚面に出来た事は肯定するために何度も頭を上下に振る事だけだった。



(シンシンシンシンシン・・・)



雪の勢いが強くなって来た。


「フフフフフ・・・」


女が笑った。

無気味な笑いだ。

確かに相好(そうごう)は崩れている。

が、

目が笑ってはいない。



(ゾクッ!!



再び、汚面の全身に悪寒が走った。

尻餅をついたまま女を見上げ、恐ろしくて目を逸らす事が出来なかった。

当然、立ち上がる事も。



(ピュー!!


(ピュー!!


(ピュー!!


 ・・・



粉雪(こゆき)が吹雪に変わった。

激しく降り注ぎ始めた。

その雪が女に掛かる。


その姿を見て汚面は、


『ハッ!?


として、



(ゴクッ!!



生唾を飲み込み、思わず、



(ズサズサズサズサズサ・・・)



尻餅をついたまま後ずさりした。


こう思って・・・











『ゆ、雪女だ!?







つづく







#242 『汚面智昭さまの・・・』の巻



「ヒ、ヒェ〜〜〜!! よ、寄るな化け物!! 寄るな寄るな寄るなーーー!!



(ビュービュービュ〜〜〜)



「ゥ、ゥアー!! た、助けてくれー!! ゥア〜〜〜!!



(ブチッ!!



「アハハハハハ、アハハハハハ、アハハハハハ、・・・」



(ビュービュービュ〜〜〜)



「アハハハハハ、アハハハハハ、・・・」



(ビュービュービュ〜〜〜)



「アハハハハハ、・・・」



(ビュービュービュ〜〜〜)


(ビュービュービュ〜〜〜)


(ビュービュービュ〜〜〜)







つづく







#243 『残りの4人』の巻



「おっせぇなー、汚面のヤツぅ」


と、伊痴呆が苛(いら)つきながらほざいた。


4人は立ち止まっていた。

わざわざユックリ歩いているにもかかわらず、中々汚面が追い付いて来ないからだ。


「この雪で道、分かんなくなったじゃねぇのかぁ」


と、邪腹。


「そんなわきゃねぇだろ、一本道なんだからぁ」


と、雲助。


「しっかしどうなっちまってんだぁ、今頃雪なんて」


と、鳥肥。


「今、夏だぜぇ。 さっきまでセミだってミンミン鳴いてたのによぅ」


と、伊痴呆。


「ホンと考えらんねぇぜ」


と、邪腹。


「山ン中だからじゃねぇんかぁ」


と、雲助。


「バッカ言ぇ。 さっきまでアチーアチーってヒーコラ言ってたの誰だょ」


と、鳥肥。


「ゼッテーおかしいょな、この雪」


と、伊痴呆。


「ウムウム」


「ウムウム」


「ウムウム」


残り3人が首を縦に振った。


「しっかし汚面のバ〜カ。 ナ〜ニをやってんだか、ったくー。 雪積もったら俺ら皆遭難しちまうんだぜ。 しょうがねぇなー、置いてっちまうゾー」


と、伊痴呆。


「そーだそーだ」


「うんだうんだ」


「ホンとホンと」


残り3人が相づちを打った。











その時・・・







つづく







#244 『真っ赤なインクのような液体』の巻



(ピチャ!!



『ン!?


伊痴呆が頬に右手をやった。

何かが降り掛かったからだ。

降りしきる雪とは違う何かが。

それよりも重みを感じる水のような何かが。



(チラッ!!



伊痴呆が右手指先を見た。

真っ赤なインクのような液体が付いていた。


ボソッと口走った。


「ン? これ何だぁ?」


その時、



(ドサッ!!



足元の積もり始めた雪の上に、サッカーボール大(だい)の何かが上から落ちて来た。


『ン!?


伊痴呆がそれを見た。











その瞬間・・・







つづく







#245 『アヮアヮアヮアヮアヮ・・・』の巻



(ドサッ!!



古館伊痴呆(ふるたち・いちほう)さまが尻餅をついた。


「アヮアヮアヮアヮアヮ・・・」


足元に落ちて来た物を指差して何かほざこうとしている。

だが、言葉にならない。

ただ、お小水をお漏らししながら、


「アヮアヮアヮアヮアヮ・・・」


言っているだけだった。

その伊痴呆に邪腹が気付いた。


「オィ、伊痴呆!? 何アヮアヮ言ってんだ? ウッ!? 汚(き)ったね。 お前ションベン漏らしてんじゃねぇか」


そう言いながら伊痴呆の指差す物を見た。



(ドサッ!!



今度は邪腹総一郎(じゃはら・そういちろう)さまが尻餅をついた。


「アヮアヮアヮアヮアヮ・・・」


伊痴呆同様、言葉にならない声を出し、ションベン漏らしながら伊痴呆と同じ物を指差している。

雲助がそれに気付いて二人に近付いて来た。


「何だ何だ!? 2人とも。 何かあったのか? アッ!? 汚ったね。 お前等2人共、漏らしてんじゃねぇか」


そう言いながら雲助が2人の指差す物を見た。



(ドサッ!!



今度は永 雲助(えい・くもすけ)さまが尻餅をついた。


「アヮアヮアヮアヮアヮ・・・」


伊痴呆達同様、言葉にならない声を出し、オシッコお漏らしして同じ物を指差している。



(ピクッ!!



それに鳥肥が反応した。

そして3人に近付いて来た。


「どしたどした、皆(みんな)!? 何かあったのかぁ? アッ!? 汚ったね。 お前等皆(みんな)、お漏らしこいてんじゃねぇか」


そう言いながら3人の指差す物を見た。



(ドサッ!!



鳥肥糞太郎(とりごえ・ふんたろう)さまも尻餅をついた。

前3人同様。

当然、お・も・ら・し・も。


「アヮアヮアヮアヮアヮ・・・」


というリアクションも全く同じだった。


そして4人一斉に始めて言葉らしい言葉を発した。


「おおお、汚面の首ーーー!!


と。











その時・・・







つづく