#251 『総括 その3』の巻
結界を張る事。
雪はその時、自分が身を置いている厨子その物に結界を張ったのだ。
それは厨子を包むように張られたエネルギーのバリアだった。
その方法は教えられたものではなかった。
雪の持って生まれた計り知れないエネルギーと類稀(たぐい・まれ)なる天賦の才(てんぷ・の・ざえ)によるものだった。
それにより雪は、火の厨子への進入を食い止めたのだ。
だが、この時行なわれた驚くべき呪術はそれだけではなかった。
厨子に結界を張ったその瞬間、雪は、いくらエネルギーのバリアを張って火の進入を防いだとしても厨子内部が高温になる事を覚知した。
本殿の火事のみならず、次に大道の大炎城結界が来る事を雪はその時ハッキリと予知したのだった。
火の厨子内部への進入防止はエネルギーのバリアで何とかなる。
しかし大炎城結界の熾(おこ)す高熱・・・これはエネルギーのバリア程度ではどうにもならない。
そのため自らの身を守るための最後の手段として、雪はその身を氷に変えようと決心した。
それは “死” を意味するかも知れない。
しかし後へは引けない。
そぅだ!?
その時雪は、自らの肉体を氷に変える事、即ち “仮死” 状態にその身を置く事を選択したのだ。
それには膨大なエネルギーが必要だった。
だが、雪にはそこまでのエネルギーは無かった。
確かに雪は、生まれながらにして人並み外れたエネルギーを持ち合わせていた。
あの破瑠魔大道を凌ぐほどのエネルギーを。
それを冥府魔道主から与えられていた。
しかし、その身を氷に変化させるためには単に持って生まれたエネルギーだけではまだまだ不十分だったのだ。
それを行うためには別の何かが必要だったノダメ・カンタービレ。
そぅ、別の何かが・・・
その別の何かとは・・・
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つづく
#252 『総括 その4』の巻
修練、訓練、弛(たゆ)まぬ努力の結晶。
単調な繰り返しの連続で気が付いたら何時(いつ)の間(ま)にか身に付いている物。
即ち、
『技』
だ。
雪にはこれが欠けていた。
こういう事は付け焼刃では出来ない。
だが時間がない。
時は一刻を争う。
最早、猶予なし。
猶予は全くないのだ、今の雪には。
しかし、我々は知っている。
雪が冥府魔道主の子、即ち、悪魔の申し子だという事を。
それも天界すら震撼させるほどの大魔女の申し子だという事を。
雪はその持って生まれた恐るべき潜在能力をフルに発揮し、本能的にそれをやってのけてしまったのである。
つまり、技を持たない雪が技を使ったのだ。
ある物を起爆剤として。
それを推進力に変えて。
そぅ、ある物を。
その “ある物” とは・・・
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つづく
#253 『総括 その5』の巻
“怒り”
大道に対する “怒り” だった。
その大道に対する怒りのパワーで、雪はその身を氷に変える事に成功した。
それも信じられない事に、その時、身に纏(まと)っていた純白の着物ごと。
雪は厨子の内部にエネルギーのバリアを張り巡らし、その中で着ている着物ごとその身を氷と化す事に成功したのだった。
大道の裏切りに対する怒りのパワーをその起爆剤として、それを推進力に変えて。
これは大道の張った大炎城結界の中に、更に怒りのエネルギーの結界を張り返した事を意味する。
つまり 『結界返し』 だ。
そして自らはその中で氷となった。
雪は眠った。
大道への怒りと共に。
仮死状態のまま氷となって。
そこに大炎城結界が来た。
厨子は炎に包まれた。
雪の眠る厨子は大道の起こした高熱の炎に包まれた。
しかし、雪の張ったエネルギーの結界により厨子その物への火の着火は食い止められた。
だが、厨子の内部は信じられない程の高温になった。
それは100℃を遥かに越えた。
水の沸点は100℃である。
そしてこの条件下では・・・
氷は溶けて水となる。
水は気化して蒸気となる。
厨子の中にはその身を氷に変えた雪が眠っている。
そぅ、氷に変えた・・雪が・・眠っている。
当然、厨子の中で雪は気化して蒸気となった。
しかも生命を失う事なく全てを発散した。
持って生まれた全ての物をその時雪は全て発散してしまったのだ。
たったの一つだけ後に残して。
そぅ、その後にたったの一つだけ残して。
その後に残ったたったの一つとは・・・
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つづく
#254 『総括 その6』の巻
『結界返し』
の元となった物。
即ち、大道に対する “怒りのエネルギー”。
怒りのエネルギー・・・つまり怨念。
雪はその大道に対する怨念で 『結界返し』 を行なっていた。
そして雪は、表面が大道の大炎城結界の高熱に焦がされた厨子の中で、怨念の結界に守られながら500年間という気が遠くなるような長い歳月、気化したまま眠り続けたのである。
その雪の眠る500年間、小重裏虚の術は大地震や地崩れといった幾多の災害を受け続けて来た。
その度に術に僅(わず)かずつだったがズレが生じて来ていた。
それらは全て蓄積され続けた。
そのため、徐々にそのズレが大きくなった。
そこに訓練機と戦闘機の墜落炎上が加わった。
これから受けたダメージは甚大だった。
これにより小重裏虚の術のズレは到頭(とうとう)臨界点を迎えてしまった。
本来ならばこういう事が起きないために壁城結界(へきじょう・けっかい)で確(しっか)りと固めるのだが、あの時、術者の員数不足により大道の大炎城結界を代用しなければならなかった。
その結果、術は外圧に耐え切れずズレの蓄積という現象が起きた。
そしてそれは、残り後一押しという所まで来てしまっていたのだった。
後は時間の問題という所まで。
つまり、この時点で小重裏虚の術が破れ果てるのは時間の問題となっていたのだ。
そしてその時が・・・終にやって来た。
今回の震度6強の大地震。
この大地震の起こったその直後、磐石だった筈の小重裏虚の術は空しく破れ果てたのだった。
この地震により地崩れが起こり、
厨子が・・・
雪の眠る厨子が・・・
気化したまま500年間眠り続けている雪が納まった厨子が・・・
終に地表にその姿を現したのである。
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つづく
#255 『総括 その7』の巻
汚面智昭さま達は・・・
何も知らなかった。
その時、汚面達はその厨子にそんな秘密が隠されていた事など露(つゆ)ほども知らなかったのだ。
そして欲に目が眩(くら)み、厨子を開けた。
この瞬間、500年前雪が張った怨念の結界は破られた。
結界が破られた以上、その結果が現れる。
“熱(ねつ)は熱(あつ)い方から冷たい方に流れる”
時は、残暑厳しき晩夏。
言うまでもなく外気の温度は高い。
厨子はそれまで地中に埋まっていた。
つまり厨子の内部の温度は低い。
即ち、温度差があった。
汚面が厨子の扉を開く。
当然、暖かい外気が厨子の内部に流れ込む。
すると、
“凝結”
という現象が起こる。
だが、何が凝結するのであろうか?
それは・・・
妖の姫御子・雪だ。
気化したまま眠っていた雪だ。
500年間、怨念の結界に守られて眠り続けて来た雪だ。
雪は厨子の扉が開かれた瞬間、流れ込んで来た暖かい外気に触れ一気に凝結した。
そして元の姿形をなした。
これは雪の目覚めを意味する。
つまり復活だ!!
そぅ、500年間という気の遠くなる程の永(なが)き時を眠り続けて来た妖の姫御子・雪が、終に復活したのである。
今・・・
ここに・・・
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つづく
#256 『総括 その8』の巻
雪は全てを捨て去っていた。
たったの一つ・・・怨念のみを残して。
そして復活した。
そこには変わり果てた姿があった。
最早、雪にはかつて身に備わっていた気品もなければ、あの純粋さ天真爛漫さもなかった。
有るのは大道への怒り、破瑠魔への怨念だけだった。
つまり復活と同時に、雪は妖女(ようじょ)として生まれ変わったのだ。
破瑠魔一族に対する復讐心を熾烈に燃え上がらせる妖女・雪女として。
だが、
ナゼ雪は復活後、直ちに破瑠魔を、女切刀を襲わなかったのか?
その答えは・・・
一度気化し、更に凝結したため新たな肉体に馴染む時間が必要だったから。
しかし、必要だったのは時間だけではなかった。
新たな肉体を定着させるためのエネルギー。
これも同時に必要だった。
そして雪はこのエネルギーをある物に求めた。
そぅ、ある物に。
そのある物とは・・・
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つづく
#257 『総括 その9』の巻
ヒトの生命を維持するためのエネルギー。
これを雪は自らの新たな肉体を定着させるために必要とした。
すると好都合にもその復活直後、雪の目前に飛んで火にいる夏のオッサンがいた。
それが汚面智昭さまだった。
そして古館伊痴呆さまであり、邪腹総一郎さまであり、永 雲助さまであり、鳥肥糞太郎さまだった。
この “なんちゃってゴミ… 否 5人男” が好都合にも直ぐ近くにいたのだ。
その結果は知っての通り。
だが、雪女復活のための人身御供(ひとみごくう)たる人数はこの5人ではまだまだ不足だった。
そのため雪はこの場所に1年近く留まり、新しい肉体が定着するのを待ちながら相応(ふさわ)しいエネルギーを持つ者達を襲い首を刎(は)ね続けたのだ。
ナゼ首を刎ねるのか?
それは・・・
人間の主要経絡(しゅよう・けいらく)の多くが頭部を通る。
これは首から上には気、即ち生命活動に必要なエネルギーの大部分が流れ込んで来る事を意味する。
従って雪は、首を刎ね、そこからその人間の持つ生命エネルギーを吸収していたのだ。
そしてその死骸は目立たぬよう、小重裏虚の術が破れた時に出来た崖の亀裂の中に放り込んでいた。
テレビのニュース番組も、初めのうちはこの付近のナゾの失踪事件として連日放送した。
しかし、遺体が一体も挙がらない上、失踪場所も特定出来ず、又、この近くには人も寄り付かなくなって仕舞ったためやがてあまり取り扱われなくなった。
代わりにバラエティ番組等で心霊スポットとして時々取り上げられる程度になった。
よって、これら一連の事件は何時(いつ)しかお茶の間の団欒の語らいや、 『都市伝説』 ならぬ 『田舎伝説』 として面白おかしい茶飲み話となってしまっていた。
ここ女切刀の里以外は全てそうなってしまっていたのである。
だが、女切刀は・・・女切刀の里だけは違っていた。
今・・・
ここに一人、両目を瞑(つむ)り腕組みをし沈思黙考する者がいた。
それは・・・
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つづく
#258 『総括 その10』の巻
内道。
そぅ・・・
外道のチチ 否 父、破瑠魔内道。
女切刀呪禁道(めぎと・じゅごんどう)1400年、随一の技の使い手と称されたあの破瑠魔内道・・・
その人であった。
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外道外伝 “妖女(あやしめ)” 第三部 「怨霊復活編」 完