#321 『その名もズバリ』の巻



「そうだ雪女。 これが我が秘技・岩石破砕波(がんせき・はさい・は)だ」


内道が雪女を見下ろしてそう言った。




解説しよう。



“様々な大きさの石、或いは岩を念力で飛ばす”


大地の戦士・破瑠魔内道、必殺の飛び道具だ。

これにより遠く離れている者を一瞬にして打ち破る事が出来る。


その名もズバリ。


『秘技・岩石破砕波(がんせき・はさい・は)』


これは、この技を使う術者の呪力相応(じゅりょく・そうおう)サイズの岩を、狙った方向にそれに相応(ふさわ)しいベクトルで飛ばし、その岩を空中で念で割り、その砕け散った破片を目標とする対象物に打(ぶ)ち当てるという強力な念力技だ。

岩の散弾銃とでも思えば分りが早い。


内道は今回の戦いのために、あちらこちらに適当と思われる大きさの岩を予め仕込んでいたのだった。

そして今、その内の二つを使ったのである。


又、この技には幾つかのバリエーションがある。


!?


めんどっちぃので今は書かない。。。(許してタモ)







つづく







#322 『内道の策略』の巻



内道は分っていた。


『自らは大地の技の使い手ゆえ地上戦を得意とし、雪女は飛行夜叉の術による空中戦を得意とする』


という事を。


これはこの戦いにおいて、制空権は雪女が握っている事を意味する。

つまり内道に取って勝機があるとするならば、それは地上戦のみ。

よって、如何(いか)にして雪女を地上に・・・自分の土俵である地上に引きずり込むかが鍵だった。


それを内道は充分分(じゅうぶん・わか)っていた。


従って、そのための備えとして適当な大きさの岩を、予めあちこちに仕込んでいたのである。

上空を舞う雪女を撃ち落すため・・・あちこちに。

それにより勝負を地上戦に持ち込み、討ち果たす。

これが内道の策略だった。


そして、ここまでは内道の思惑通りの展開を見せていた。











しかし・・・







つづく







#323 『心理戦』の巻



秘技・岩石破砕波(がんせき・はさい・は)。


ナゼ内道はもっと早くこの技を使わなかったのであろうか?


それには確固とした訳があった。

達人・破瑠魔内道は、チャンと計算した上でこの技を使っていたのだ。


その計算とは・・・


先ず内道は、雪ダルマを使って一度雪女を地上に誘き寄せた。

次に、雪女に時間を与え、再び上空へ逃げるように誘導した。

そして上空に逃げた雪女を撃ち落した。


何もそんな手の込んだ真似をせず、即、撃ち落せば・・・


誰しもがそう思う・・・それが普通だ。


だが、


内道が敢えて一旦雪女を上空に逃がしたのは、雪女の油断を誘うためだったのだ。


!? 油断?


そぅ、油断。


秘技・岩石破砕波・・・


このような難度の高い念力技はそう何度も使えない。

一発必中でなければならない。

失敗、即ち 『ハ・ズ・レ』 は許されないのだ。


と言うのも・・・


一度でもこの技を使えば、その存在を雪女が知る事となり。

もし、しくじった暁には、二度と通用しない可能性が生じてしまうからだ。

それほどの相手なのだ、今、内道が戦っている雪女という妖怪は。

そしてその妖怪は恐るべきエネルギーを有している。

もしかすると類稀(たぐい・まれ)なる予知能力をも身に付けているかも知れない。


と、すれば・・・


そんな恐るべき妖怪・雪女に、もしホンの僅(わず)かでもこの技の存在を悟られるような事があれば、かわされてしまう可能性が高い。

そうなれば空中戦に後(おく)れを取る内道に、勝機は殆(ほと)んどない。

よって内道は、確実にこの技を決めるため、雪女の油断を誘う必要があった。

その道具として雪ダルマを使ったのだ。


初め、地上に誘き寄せられた雪女は騙されたと思った。

そのため若干ではあったが取り乱した。

そこへ内道がさり気なく時間を与えた。

当然、雪女は上空へ避難する。

これが内道の狙い目だった。

この時、いかに達人とはいえ流石の雪女も安心感を得たのだ。

上空は誰も入ってこれない自分だけのエリアだからだ。

だが、それは内道が敢えて与えた安心感だった。

安心感を感じさせる事により雪女の油断を誘う。

それが内道の策略だったからだ。

雪女はまんまと内道のその策略に嵌(はま)り、油断し隙を見せた。

そこに岩石破砕波が来た。

隙を突かれた雪女は、当然かわせなかった。

否、それに気付きさえしなかったのである。


つまり、今回のこれは・・・


内道の見事なまでの勝利だったのだ。











心理戦の・・・







つづく







#324 『今こそ・・・』の巻



内道に付き従った13人の戦士達は皆、一様に同じ事を思った。


『内道様。 今です。 今こそ先ほど見せた大地の壁を落とす時です。 雪女がダメージを受けている今こそ』


と。


それはこの13人に限らずその場にいた者なら誰しもが思った事だろう。

一人を除いて全員が。


そぅ・・・


一人を除いてその場に居合わせた者なら全員がそう思った事だろう。

だが、その一人はそうは思わなかった。


その一人・・・即ち、内道。


内道は感じ取っていたのだ。

今、戦っている相手は、例えあの時、それが磐石ではなかったとはいえ小重裏虚の術を破ったほどの達人。

大地の壁落とし程度で倒せるような簡単な相手ではないという事を。

岩石破砕波ですら撃ち落すのがやっと。

そんな恐るべき相手を、高々壁落とし程度の技で倒せる筈がないという事を。

これまでの技の応酬でそれを・・雪女の強さを・・これは同時に恐ろしさをも意味するのだが・・それを嫌というほど感じ取っていたのだ。



「ハァハァハァハァハァ・・・」


雪女の呼吸が荒い。

四つん這いのままだ。

一旦、内道から目線を切り、再び俯(うつむ)いてから顔を上げようともしない。

立ち上がる気配もない。

その様子から、受けているダメージの強さが分る。


チャンスは今だ!?


さぁ、如何(どう)する内道?


次は如何する?



(サッ!!



素早く内道が両手を胸の前に上げた。

そして印を結んだ。

結んだ印は如来拳印。


「ウ〜ム」


念を込めた。

その内道の姿を見て13人全員が、


『アッ!?


思わず声を上げそうになった。

内道が思ってもみなかった技に打って出たのが、分ったからである。











その時・・・







つづく







#325 『壁』の巻



雪女が顔を上げた。


そして、


『ハッ!?


驚愕した。


突然、



(ビシビシビシビシビシ・・・)



それまで何も存在していなかった自らの眼前に、壁が形作られ始めたからだ。

いきなり大地が隆起したかと思った次の瞬間には頑強な岩盤で出来た壁が、それまで何も存在していなかった筈の自らの眼前に形作られ始めていたからだ。

その有様は、まるでそれまで大地の中に固く封じ込まれていた岩盤の壁の封印が解かれ、猛烈な勢いで一気に生え出て来ているかのようだった。


そして・・・


それは土台から始まった。



(ビシビシビシビシビシ・・・)



岩盤の壁は、一気に組み上げられて行く。

堅牢なブロック塀のように。


それはそのまま急加速度的に速度を増し、



(ビシビシビシビシビシ・・・)



測ったように正確に形作られて行く。

内道の念法により・・・測ったように正確に形作られて行く。


その・・・


自らの眼前で猛然と形作られて行く岩盤の壁を目の当たりにし、素早く体勢を立て直さねばと思い、


「クッ!?


一声呻いて、雪女が立ち上がろうとした。

だが、受けた岩石破砕波のダメージは相等の物。

さしもの雪女もまだ殆んど回復出来てはいない。

体に力が入らず、立てないのだ。



(プルプルプルプルプル・・・)



全身に力が入らず、ただ震えるだけ。


そうしている間も、



(ビシビシビシビシビシ・・・)



壁はグングンその高さを増して行く。

それにつれて辺りも急速に暗くなる。

今の雪女に出来る事は顔を動かす事だけだ。

雪女は顔を動かして左右を見た。


そして、


『ヌッ!?


又しても驚いた。


壁は前のみではなく左右にも出現していたのだ。

当然後ろにも。

それらは雪女の前後左右の空間に隙間なく、矩形(くけい)を形作っていたのだ。


あたかもその中に・・・


雪女を・・・











閉じ込めようとしているかのように。







つづく