#341 『満身創痍』の巻



『ハッ!?


13人の戦士達が・・・息を呑んだ。


終に内道が追い詰められたのだ。

崖っぷちに。


だが、


幸か不幸か?


内道はそれに気付いてはいなかった。

両目を潰され周りが全く見えない、今の内道にそんな物は何も。


しかし既に内道、満身創痍(まんしんそうい)。


「ハァ、ハァ、ハァ、・・・」


肩で息をしている。

殆(ほと)んどエネルギーを使い果たし、残るは気力のみ。


猛吹雪の中・・雪女の引き起こしている猛吹雪の中。

その内道に余裕のヨッチャンかましているヤツがユックリと近づいて来た。



(ニヤニヤニヤ・・・)



内道を見下(みお)ろし見下(みくだ)し含み笑いを浮かべ、そいつが実に嬉しそうにこう言った。


「破瑠魔内道とやら、ワラワを相手に良くぞココまで戦(たたこ)ぅた。 褒めて遣わす。 じゃが、それもこれで仕舞いじゃ」


そう言うが早いか雪女は、五指を鋭い氷柱(つらら)に変えた右手を左肩まで振り上げた。

そのまま内道に向け、一気に振り下ろした。

氷柱に変わった指は雪女の手から抜け、



(ビューン!! ビューン!! ビューン!! ビューン!! ビューン!!



吹き矢の矢のように、矢継ぎ早に素早く内道目掛けて飛んで来た。

狙いは内道の胸。

それも心臓。

そのど真ん中。

そこに、それは正確に飛んで来る。


『ダ、ダメだ!? よ、避け切れん!?


『ダ、ダメだ!? よ、避け切れん!?


『ダ、ダメだ!? よ、避け切れん!?


 ・・・


それまで固唾(かたず)を飲んで見守っていた、この戦いのために内道に付き従った女切刀の里選り抜きの戦士13人全員がそう思って顔を背けた。

内道の負けを見るに忍びなかったのだ。


だが、


誰もが雪女のこの五指氷柱(ごし・ひょうちゅう)が正確に内道の胸を、心臓を、捉(とら)える。











そう思った次の瞬間・・・







つづく







#342 『渓谷の奥へ』の巻



(ギラン!!



終に、内道が手にした軍駆馬を引き抜いた。


既に満身創痍で瀕死状態、且、両目は潰され気力のみで立っている内道が、逃げ回りながらも決して放そうとはしなかった神剣・軍駆馬を、終に抜いたのだ。

長さおよそ1メートル、重さ約5キロの軍駆馬を。


そればかりか、次に内道が信じられない行動に出た。



(クヮッ!!



それまで瞑(つむっ)っていた両目を、雪女に潰されまだ血が滴り落ちている両目を 『クヮッ!!』 っと見開き、飛んで来る氷柱を睨み付けた。

最早、見えないはずの両目で氷柱を睨み付けたのだ。


そして、


「キエィ!!


気合一閃(きあいいっせん)、



(ブヮーン!!



抜いたばかりの神剣・軍駆馬を素早く振るい、



(カンカンカンカンカン)



飛んで来た五指氷柱を全て跳ね返すと、直ぐさま軍駆馬を持ち替えた。

刃を上に向け、その中央部近くを下から掴み、残った気力を振り絞り、


「キエィ!!


再び鋭い気合と共に、軍駆馬を雪女目掛けて槍投げの槍のように投げ付けた。



(ビヒュ〜〜〜ン!!



軍駆馬が飛ぶ、雪女目掛けて。

それは一直線に雪女の胸目掛けて飛んだ。

雪女は五指氷柱を投げ付けた直後ゆえ、まだ体勢が整ってはいない。


そこへ、



(ビヒューン!!



激しい唸り音を上げ、軍駆馬が一直線に信じられない速さで飛んで来た。

まるで軍駆馬その物が意思を持ち、その意思が自分自身が飛ぶ事を意図したかの如く。


『クッ!? は、速い!! か、かわせぬ!!


雪女は思った。


次の瞬間、



(ドスッ!!



胸に突き刺さった。

雪女の胸に。

チチとチチの間に。


「ヒグァーーーーー!!!!!


雪女が悲鳴を上げた。

そのまま悲鳴を上げながら雪女がのた打ち回る。

ボインボインのチチをプルンプルン揺すりながら、いや、ブルンブルン振り乱しながら雪女がのた打ち回っている。

着ている白衣(しらごろも)から右チチがハミチチだ。 先っぽまで見えてるぞーーー!!



          ノ´⌒`ヽ 

      γ⌒´      \

     .// ""´ ⌒\  )

     .i /  \  /  i )    

      i   (・ )` ´( ・) i,/    

     l    (___)  |      

     \    `ー'  /       

.      /^ .", ̄ ̄〆⌒ニつ   ピンクだ!? (キリッ!!

      |  ___゛___rヾイソ⊃   

     |          `l ̄        奇麗な・・・  

.      |         |         



妖女・雪女(ようじょ・ゆきおんな)。

その傷口からは一滴の血も流れ出ない。

だからエロい、このスチィエーションは。

そのハミチチを激しくブルンブルン振り乱して雪女がのた打ち回っている。

雪女がブルンブルンと激しくハミチチを振り乱してのた打ち回っているのだ。


雪女は必死に軍駆馬を抜こうとした。

だが、

相手は神剣。

普通の剣とは違う。

例え雪女と言えども、簡単に扱えるような代物(しろもの)ではない。

加えて雪女の右手の指は抜けたまま、まだ完全に復元されてはいなかった。

だから、

抜こうにも抜けないのだ。


「キィィィィィーーーーー!!!!! リィィィィィーーーーー!!!!!


甲高(かんだか)い声で悲鳴を上げながら、ボインボインのハミチチをブルンブルン振り乱してのた打ち回る雪女。



ウ〜ム。 エ〜〜〜チチや。


雪女と言えば “抜けるような色白、黒々とした長髪、スラッとして美形、そして純白無地の和服の似合ういい女” と相場が決まっている。


加えて “チチプリン”。


しかも “さきっぽハミチチ”。


それを “ブルンブルン”。


クッ!? タ、タマラン!!


こ、このスチィエーションは・・・!?



だが、


残念ながら内道は、こんな美味しい光景を見る事はなかった。


なんとなれば・・・


その時内道、



(ズルッ!!



太刀を・・・神剣・軍駆馬を投げた弾みで足を滑らせ、


「ゥアーーーーー!!


そのまま崖から真っ逆様(ま・っ・さかさま)、渓谷の奥へ奥へと落ちてしまったからだった。











だが・・・







つづく







#343 『総括1』の巻



ナゼ、内道は潰されて見えない筈の目で雪女を見る事が出来たのであろうか?


その理由は・・・


それまで内道は必死で逃げ回っていた。

だがそれは、ただ徒(いたずら)に逃げ回っていたのではなかった。

逃げ回りながら、内道は空間念写を試みていたのだ。


知っての通り、空間念写とはエネルギーを見る技。


ならば、それは何処(どこ)で見るのか?


心眼だ。

それは心眼で見るのだ。

目で見るのではない。

実は、空間念写はエネルギーを視角で捕らえるのではなく、第三の目・・・そぅ、第三の目。

即ち、眉間にある “神秘の眼(め)” で見るのだ。


然(しか)らば、その眉間にある “神秘の眼” とは何か?


これは漢方で言う所の “印堂穴” に当たり、

インドのヨガではこれを “アジナー・チャクラ” と呼ぶ。



内道は雪女の執拗な攻撃を受けながらも、音を頼りに空間念写の時間差を必死で詰めていたのだった。

これには雪女が狩りを楽しんだ事も幸いした。

もし、そんな事をしないで一気に止めを刺しに来ていたら、その時点で既に内道は倒れていた筈だ。

しかし、雪女がお調子こいて余裕のヨッチャンかまして攻撃を楽しんだため、内道は徐々に時間差を詰める事が出来るようになり、終には現実と空間念写を同期出来るまでになったのだった。

それもこんな短時間に。

これは内道の類稀(たぐい・まれ)なる天分に加え、この危機的状況が生んだ 『火事場の馬鹿力の結果』 とも言えよう。


だが、


何という運命の皮肉。

この境地に達した時、既に内道は崖っぷちに立たされていたのだ。

文字通り、崖っぷちに。


もし、後僅(あと・わず)か。

ホンの1メートル 否 50センチ崖から離れていれば結果は全く違った物になっていた筈だ。

その50センチが勝負の明暗を分けたのである。


しかし・・・











一方で・・・







つづく







#344 『総括2』の巻



もし、雪女が余裕のヨッチャンかまさなければ疾(と)っくに勝負は付いていた。

これは事実だ。


だが、


実は内道にもビッグなチャンスがあったのだ。


それは何時(いつ)か?


雪女を岩石破砕波で撃ち落した直後だ。


あの時内道は、大岩盤城結界で勝負に出た。

しかしあそこは、本来なら軍駆馬で雪女の首を一気に刎(は)ねに行くべき所だったのだ。

だが、内道はそれをしなかった。


ナゼか?


内道は雪女 否 妖の姫御子・雪の境遇に同情していたからだった。

同情、即ち、情けを掛けてしまっていたのだ、内道は妖の姫御子・雪に。

それが内道も気付かぬほど僅か、識閾下(しきいき・か)で影響し、自分でもそうとは分らぬ内に、直接雪女の首を刎ねるという選択肢を忌避(きひ)してしまっていたのだ。


つまり、内道が掛けた妖の姫御子・雪への憐憫(れんびん)の情が却って災いし、同じ自らの手で仕留めるにしても直接ではなく間接に、という選択をさせてしまったのだった。


全く、内道も余計な真似をしたものだ。

この余計な真似のために、みすみすたった一度きりの勝機を逃してしまったのである。


そぅ・・・


女切刀呪禁道1400年にして随一の使い手と謳(うた)われた男・・・破瑠魔内道。


その・・・


一世一代の・・・











不覚であった。







つづく







#345 『総括3』の巻



雪女は消えた。


地面には内道によって投げられ雪女の胸を刺し貫いた、神剣・軍駆馬(しんけん・いくさかりば)が転がっているだけだった。

あの猛吹雪もいつしか完全に収まっていた。

当然だ。

季節は夏真っ盛り、真夏の夜の出来事だったのだから。


時は午前3時丁度。

丑の刻から寅の刻への境目。

辺りはまだ暗い。


崖から落ちた破瑠魔内道の遺体が見当たらない。

落ちた先は深い渓谷。


「内道様ー!!


「内道様ー!!


「内道様ー!!


 ・・・


内道に随従した女切刀の戦士達が必死になって探している。

だが、見つからない。

暗い上に足場が悪い。

しかし、諦めるものは誰一人いない。

全員が内道の無事を祈る気持ちで探し続けた。


「内道様ー!!


「内道様ー!!


「内道様ー!!


 ・・・


午前5時を回ったのか?

徐々に夜が開け始めて来た。

空が白々し始めた。


そこへ、この戦いのために避難していた里人達を破瑠魔中道が引き連れて戻って来た。

中道達は、使いとして走り、そして一足先に再びこの場所に戻った13人の戦士の内の一人から一言『終わりました』とだけ告げられていた。

従って、まだ詳しい状況は把握出来てはいなかった。

使いの戦士が何も語らなかったのは、結果が曖昧で現場を見なければ理解し難(にく)かったからだった。


そして、一人ここに残り番をしていた戦士に中道が聞いた。


「勝ったのか?」


「はい。 恐らく」


「恐らく? 恐らくとはどういう事じゃ?」


「はい。 雪女は内道様の軍駆馬に胸を突き抜かれ七転八倒の苦しみを味わった後消滅いたしました」


「ならば勝ったのではないのか?」


「それが少々腑(ふ)に落ちない点が」


「腑に落ちない点?」


番をしていた戦士が、軍駆馬が転がっている辺りの地面を指差して言った。


「はい。 いかに妖女(ようじょ)とはいえ、その死に際して何らかの痕跡を残す筈。 しかしアレ。 アレをご覧下さい。 雪女はなんら痕跡を残す事なく消滅致しました。 それが少々不自然に思われまして・・・。 ですから、勝利の狼煙(のろし)も上げられず又、軍駆馬も中道様に見て頂くまではとそのままにしてあります」


「じゃが、雪女の引き起こす吹雪は収まっておるではないか?」


横から品井山 孟是が聞いた。


「はい。 確かに吹雪は雪女消滅と同時に・・・」


中道が辺りを見回した。


「内道は? 内道はどこにおる?」


「はい。 ・・・」


戦士は口ごもった。

表情が暗い。

それを見て中道は状況を察した。


「そ、そうか・・・」


「い、いや。 まだハッキリ死んだとは・・・。 今、我等残りの者皆で全力で探しております」


「済まぬのぅ。 頼む」


中道はガックリと肩を落とした。

そしてユックリと軍駆馬に近づき拾い上げ、慎重にその周辺を見て回った。

辺りには戦士の言ったように雪女の痕跡は全くなかった。

一渡(ひとわた)り調べた後で、

恐らく内道が軍駆馬を抜いた時そうしたのであろう、崖っぷちの地面に刺さっている鞘を引き抜きそれに軍駆馬を収めた。


そして・・・


それから・・・











3年後。







つづく