#266 『絶対に起こり得ない事』の巻



突然、



(クルッ!!



雪が振り返った。

そして、



(ギロッ!!



内道を睨(にら)み付けた。

鋭い視線を飛ばして。


当事者の雪が傍観者の内道を睨み付けたのだ。

こんな事は絶対に起こり得ない事だった。

だが、それは起こった。



(ビクッ!!



突然の事に内道は身震いした。

しかし、日頃の修練の賜物か?

素早く、



(サッ!!



立ち上がるや軍駆馬を引っつかみ、



(シュッ!!



後ろへ飛び退(の)いた。

その時内道が直感した雪の間合いと思われる距離の外まで。


予想外の出来事が起こっても、即座に対応出来る。

これが破瑠魔内道の底力だ。

伊達に女切刀呪禁道1400年、最強の戦士と謳(うた)われてはいなかった。


そのまま二人は睨み合った。


1秒、2秒、3秒、・・・


そのままの状態が暫(しば)し続いた。

互いに相手の力量を見定めようとしているのだ。

どちらも呼吸を止めている。

否 出来ずにいる。


どれ位時間が経ってからだろうか?



(スッ!!



雪が体の力を抜いた。

そして、



(ニヤッ!!



笑った。











不気味に・・・







つづく







#267 『言い伝え通り』の巻



「確かに其奴(そやつ)はソチを見たのじゃな?」


中道が内道に問い質(ただ)した。


「確かに」


「くどいようじゃが、再度聞く。 間違いなくソチを見たと断言出来るのじゃな?」


「間違いなく」


「ウ〜ム。 これはどういう事じゃ?」


中道が腕組みをし、考え込んだ。


「内道君。 その妖怪は君に攻撃を仕掛けてはおらんのだな?」


今度は品井山 孟是(しないやま・もうぜ)が聞いた。


「はい」


「じゃが、君に気付いた。 という訳か・・・」


「はい」


この一連のやり取りを聞き、


「ウ〜ム」


「ウ〜ム」


「ウ〜ム」


 ・・・


皆、一斉に考え込んでしまった。

誰一人として口を開こうとする者はいなかった。

その場が重い空気に包まれた。

完全な沈黙だ。

暫らくその状態が続いた。


そしてその沈黙を破ったのは中道だった。

中道が腕組みを解き、こう言った。


「有り得ん、本来全く有り得ん話しじゃ。 じゃがもし今の話が真なら、此度(こたび)の相手は我等の想像を遥かに越えた相手という事か?」


と。


「・・・」


内道が無言で頷(うなづ)いた。


「と、いう事は・・・。 大道は妖の姫御子を斬ってはおらんという事になる」


と、中道。


「言い伝え通りなら妖の姫御子は今だかつて誰も使う事の出来ない伝説の大技、あの飛行夜叉の術を使えるほどの達人。 否、それどころか空間念写に気付いた上、それに干渉して来る程の。 それ程の達人なら、その最後に何らかの術を使っていても不思議ではありません。 大道を幻惑するような何らかの術を」


と、内道。


「つまり、此度(こたび)の相手は大道殿が斬った筈の妖の姫御子。 しかもかつてない強敵という訳か」


と、孟是。


「はい。 そういう事に・・・」


と、内道。


「しかしナゼ今になって・・・500年後の今になって姿を現したのかが解(げ)せん。 それに出てきた以上、妖の姫御子は小重裏虚(しょう・えりこ)の術を破ったという事になるが・・・」


と、孟是。


「そうじゃそうじゃ、小重裏虚・・・? 小重裏虚はいかが致したのじゃ?」


と、中道。

チョッと躊躇いがちに、その問い掛けに内道が答えた。


「それが・・・。 今、孟オジの言った通り破られたのではないかと」


孟オジとは品井山 孟是の事だ。

内道は子供の頃から孟是に可愛がられ、孟是の事をズッと、親しみを込めて孟オジと呼んでいたのだった。


中道が聞いた。


「ヌッ!? 破られた? 小重裏虚が破られたと申すか? あの磐石な小重裏虚が?」


ここからは内道と中道の会話になる。


「ところが磐石ではなかったようなのです」


「磐石ではなかった? それはどういう事じゃ、内道。 詳しく申してみょ」


「はい。 本来、重裏虚は大も小も壁城結界(へきじょう・けっかい)を以って固め、それを消し去る、あるいは封じ込める術。 しかし善道の手記に寄れば、員数不足のため壁城結界の代わりに大道の大炎城結界を用いたとの由(よし)。 火の技、大炎城結界では固めるのはムリ、


つー、まー、りー、・・・


『無理ーーー!! 無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理ーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!


つまり術に不備があったのです」


「壁城結界ではなしに大炎城結界!? そうか。 そんな不備が・・・。 ならば有り得ん話でもないのぅ」


「はい。 それが原因で恐らく・・・」


ここで孟是が口を挟んで来た。


「じゃがしかし、どうすれば人間が500年間も生き存(ながら)えられるかのぅ?」


その孟是のほうに向き直り、内道が言った。


「もし又、言い伝え通りこの姫御子が悪魔の申し子なら、これは有り得ない話ではありますまい」


と。


これを最後に、


「ウ〜ム」


「ウ〜ム」


「ウ〜ム」


 ・・・


皆、一斉に考え込んでしまった。











再び。







つづく







#268 『難題』の巻



「じゃが、どうしたもんか? 姫御子をこのままにはしておけぬであろう」


長い沈黙を破って、中道が言った。


「居場所も分からん事だしのぅ」


と、孟是。


「難題じゃ。 困った事になった」


と、中道。


「内道君。 君の意見が聞きたい。 何かないか? 何でも良いのじゃが」


と、孟是。


「はい、孟オジ。 それが・・・」


と、ここまで言って内道が躊躇(ためら)った。


「ン!? どうしたのじゃ?」


孟是が聞いた。

これに対し内道が、


「これは言い難(にく)い事なのですが・・・」


と、言ったきり今度は黙ってしまった。

それを聞き、中道が命じた。


「どうした内道。 言いたい事が有るならハッキリと申せ」


「・・・。 ウム。 では申し上げましょう」


少し躊躇ってから内道が言った。


「姫御子は、放って置いても何(いず)れここへ、この女切刀へやって来るに違い有りません」


「ナニ!?


「ナニ!?


「ナニ!?


 ・・・


内道のこの一言に、皆一斉に驚いた。

たまらず中道が聞き返した。


「ヌッ!? それはどういう事じゃ、内道?」


「姫御子は復讐のため、必ず我等の元へやって来るという事です」


今度は孟是が聞いた。


「どういう事じゃね? 内道君。 もっと分かるに話してはくれぬか?」


「はい。 これはあくまでも私の推測ですが・・・」


と、前置きして内道が自らの考えを語りだした。


ユックリと・・・


しかし・・・











ハッキリと・・・







つづく







#269 『復讐』の巻 



「知っての通り、大炎城結界はその中にある物全てを焼き尽くす大技。 これに覆われたら人間のみならず動植物のみならず、果ては爬虫類から昆虫に至るまで地表にいる物なら如何(いか)なる物も根絶やしにしてしまう恐ろしい技。 考えようによってはこれ程残酷な技は他にはありますまい。 恐らく大道も如何(いか)に天命であったとはいえ、その残酷さゆえ自責の念に駆られ、出家し即身仏になったのではないでしょうか。 自ら熾(おこ)した炎に焼かれ死んでいった者達全てを供養するために。 当然この中には妖一族も含まれております。 そして姫御子にとって妖一族は仲間。 その仲間を殺され、復讐を誓っても何ら不思議な事ではありません。 それに今のアヤツは、大道が善道に漏らしたような娘とは似ても似つかぬ殺人鬼。 平気で人の首を刎ね、そこからエネルギーを貪り食うあの残虐な姿。 あれこそ正に悪魔。 そぅ、悪魔としか言いようがない。 そのような悪魔なら必ずや復讐を誓っている筈です。 そして私(わたくし)と対峙した時のあの眼(め)、一見冷ややかではありましたがその奥底に秘められたあの怒りと憎しみ。 恐らくヤツは、私が大道縁(たいどう・ゆかり)の者である事を見抜いたに違いありません。 あの眼は間違いなく我等に復讐を誓った眼。 よって早晩(そうばん)ここを、この女切刀をヤツは必ず見つけ出し、襲って来るであろうと思われます」


と、内道が言った。


皆、無言のまま身動(みじろ)ぎ一つせずに 否 出来ずに聞いていた。

暫(しば)しの沈黙が続いた。

それを中道が破った。


「ウ〜ム。 確かに内道の言葉には説得力がある。 その通りかも知れん」



(ザヮザヮザヮザヮザヮ・・・)



この言葉を切っ掛けにその場がザヮつき始めた。

それらを代表するかのように、


「ならばどうしたもんかのぅ?」


と、孟是が聞いた。


「迎え撃つしかなかろう」


と、即座に中道が切り返した。


「そうだそうだ、迎え撃つしかない!!


「そうだそうだ、迎え撃つしかない!!


「そうだそうだ、迎え撃つしかない!!


 ・・・


その場が一気に活気付いた。

それを制するように孟是が中道に聞いた。


「じゃがどうやって?」


中道が言葉に詰まった。


「ウ〜ム。 どうやってと言われると・・・。 まだそこまでは・・・」



(ザヮザヮザヮザヮザヮ・・・)



再び、その場がザヮついた。

皆、一様に興奮しているだけで、ナイスな考えは持ち合わせてはいなかったのだ。

あったのは勢いだけだった。


孟是が内道の方に向き直った。


「内道君、君の考えを知りたい。 ワシ等はどうしたら良いかのぅ。 アヤツを知っておるのは君だけじゃ。 どうじゃ、内道君。 何かないか、良い策は」


「・・・」


内道は無言でユックリと一渡(ひとわた)り皆の顔を見回した。

最後に孟是を見た。


そして驚くべき言葉を・・・











口にした。







つづく







#270 『先制・・・』の巻



内道が驚くべき言葉を口にした。


「先制攻撃」


と。


「ヌッ!? 先制攻撃とな!?


透かさず中道が聞き返した。


「そうです、先制攻撃です。 攻撃を仕掛けるのです、我等の方から」


「我等の方から?」


今度は孟是が内道に聞いた。


「・・・」


無言でコックリ頷いてから内道が続けた。


「事を起こそうと起こすまいと、いずれ姫御子はここを探し出し、襲って来るのは必定。 ならばこちらから先に。 何も手を拱(こまね)いて襲って来るのを待っている必要はありません。 そんな事をしたらそれこそ愚策」


「じゃが、どうやって? ヤツの居場所も分からんのに」


中道聞いた。

この問い掛けに対し、


「・・・」


内道は暫(しば)し黙った。

チョッと考えてから、、



(コクッ!!



自らを納得させるように頷いた。

何かを決心したようだ。


「スゥ〜〜〜。 ハァ〜〜〜」


一度大きく深呼吸をした。

それから一座の皆に向かって座りなおした。


そして・・・


再び、思いがけない言葉を・・・











口にした。







つづく