#271 『手間を』の巻



「ヤツを・・・誘き寄せるのです。 ここへ、この女切刀へ」


この内道の言った一言に、皆一斉に驚いた。


「ナニ!?


「ナニ!?


「ナニ!?


 ・・・



(ザヮザヮザヮザヮザヮ・・・)



再び、その場がザヮめいた。

そのザヮめきの中、中道が聞いた。


「どういう事じゃ? ヤツを誘き寄せるとは・・・? 一体、どういう事じゃ?」


即座に、


「文字通り!!


内道がキッパリと言い切った。

そして続けた。


「先ほども申したように、早晩(そうばん)ヤツは、姫御子は、必ずここを見つけ出すでしょう。 この女切刀を。 だからその手間を省(はぶ)いてやるのです」


「ヤッ!? 手間を省くって・・・」


と、孟是が内道の言葉に対して上手く考えがまとまらないのであろうか、妙な言い回しで反応した。

それは皆同じだった。

その空気を読んで内道が説明を始めた。


「手間を省くと言っても、ただそれをするのではありません。 こちらが確(しっか)りと準備を整えてからです。 私の考えはこうです・・・」











と。







つづく







#272 『内道の策略 その1』の巻



「昨夜一晩掛けて、念写を行い、それを受け、何をすべきかを考えました。 そしてこれが一番であろうという結論に思い至りました。 それには先ずヤツの、姫御子の、特性を知る必要があります。 ヤツは我が空間念写の術に気付き、これに干渉するという驚くべき事をいとも簡単にやってのけました。 とすれば、その保有しているエネルギーは計り知れない物があります。 又、ヤツは飛行夜叉の術のみならず吹雪を操ります」


内道は一旦ここで言葉を切った。

そして、


「ウム」


と、自分で自分を納得させるかのように頷き、それから続けた。


「既にヤツは、大道が善道に語ったという妖の姫御子・雪の面影は全く見られぬ、吹雪を巧みに操る妖怪・雪女と化してしまっているのです」


と、内道がここまで語った時。


「妖怪・雪女!?


「妖怪・雪女!?


「妖怪・雪女!?


 ・・・


と、中道、孟是、そしてそこにいる者たち全員から驚きの声が上がった。

それを受け内道が言った。


「そうです。 ヤツは妖怪・雪女。 最早、吹雪を巧みに操る妖怪・雪女としか言いようがない。 そして、私はそれに注目しました」


ここで、ただ聞いているのに耐えられなくなったのか、中道が口を挟んだ。


「それに注目したとはどういう事じゃ?」


「はい。 本来、吹雪は冬に起こる物。 しかしヤツは真夏にそれを起こすほどの凄まじいエネルギーを有しております。 という事は逆に、もしも、もしも雪女がそれを真冬に起したらどうなるでしょうか。 その破壊力たるや想像を絶する物があります。 つまりヤツと真冬に戦う事は絶対に避けねばなりません。 吹雪の最も弱い真夏こそ戦うべき時。 そして今は夏・・・。 そうです、今こそ雪女と戦う絶好の時なのです。 この期を逃せばヤツの思う壺。 恐らく我等が束になって掛かったとしても敵わず、根絶やしにされるのが落ち。 よって戦うなら今という事に。 次に場所。 これは・・・。 妖怪・雪女と戦うべき場所は日本広しと言えどただ一ヶ所しかありません。 否、恐らく世界中でただ一ヶ所のみ・・・」


「ど、何処(どこ)じゃ何処じゃ!? それは何処じゃ!? 何処の事を言っておる!? ま、まさか・・・?」


再び我慢できずに横から嘴(くちばし)を突っ込む中道。

即座に、内道が応じた。


「そうです。 そのまさかです」


「こ、ここか!? ここの事を言っておるのか?」


今度は孟是が耐え切れずに聞き返した。


「そうです」


その孟是に向かい、キッパリと内道が言い切った。


「ナ、ナゼじゃ!? それはナゼじゃ?」


孟是が聞き返した。


それに対して内道が、次のように答えた。

だが、それは一人孟是に対してではなく中道以下全員に聞かせる意図を持ってだった。

皆が同様の疑問を抱いたのは明らかだったからだ。


そぅ・・・


その時内道は・・・











こう答えたのである。







つづく







#273 『内道の策略 その2』の巻



「大重裏虚(だい・えりこ)のため」


と。


「大重裏虚!?


「大重裏虚!?


「大重裏虚!?


 ・・・


皆(みな)、口々に驚きの声を上げた。

そこで皆を代表するかのように中道が聞き返した。


「大重裏虚!?、大重裏虚とな・・・」


「そぅです。 大重裏虚です」


横から孟是が聞いた。


「小重裏虚はどうじゃ? 小重裏虚ではダメか?」


即座に内道が答えた。


「ダメです」


透かさず孟是が切り替えした。


「ナゼじゃ? ナゼ小重裏虚ではダメなのじゃ?」


内道がその理由を述べた。


「それがどのようにしてかは分かりません。 が、しかし、ヤツは、雪女は既に一度、小重裏虚を破っているからです」


孟是が食い下がった。


「じゃが、じゃがそれは小重裏虚に不備が・・・」


そんな孟是に内道がキッパリと言い切った。


「不備があろうとなかろうと小重裏虚は破られたのです。 ヤツは、雪女は、間違いなく小重裏虚を破ったのです」


今度は中道が口を挟んで来た。


「じゃが内道ょ、大重裏虚は一度だけ。 一度使ったら二度とは使えぬ術じゃ。 今後の事もある、他に手立てはないものか? 大重裏虚以外で・・・」


これを内道が一刀のもとに斬り捨てた。


「ありません」


しかし中道は諦めない。


「ならば、我等戦える者全てでこれを迎え撃つというのはどうじゃ。 それもダメか?」


「ダメです。


つー、まー、りー、・・・


『駄目ーーー!! 駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目ーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!


です」


やはり内道は受け付けない。

ここで再度、横から孟是が聞き返した。


「我等総掛かりでも勝てぬと申すのか?」


「はい。 勝てません。 ヤツの力を見くびってはいけません。 500年の長きを生き抜き、小重裏虚を破ったヤツの力を」


この内道の言葉を最後に、皆考え込んでしまった。


「ウ〜ム」


「ウ〜ム」


「ウ〜ム」


 ・・・


だが、この後・・・


内道の次の一連の言葉に・・・











その場が騒然となったのである。







つづく







#274 『内道の策略 その3』の巻



「ただ徒(いたずら)に大重裏虚を行なうのではありません」


と、内道が言った。


これを受け、中道が聞いた。


「ヌッ!? どういう意味じゃ、内道?」


孟是も。


「そぅじゃ、分かるように言ってはくれぬか」


他の者達は皆、この3人のやり取りを真剣に聞き入っている。


「はい。 先ず、壁城結界を行なえる者を13人選んで頂きます。 これには私(わたくし)は含まれません」


再び、中道が聞いた。


「ン!? ソチを含まん? それはナゼじゃ? 女切刀きっての技の使い手のソチを除くとは」


孟是もこれに追従した。


「そぅじゃそぅじゃ、内道君。 君を差し置いて他に13人はなかろう」


皆、同じ考えだったに違いない。


「ウム」


「ウム」


「ウム」


 ・・・


頷いている。


だが次の瞬間、その場にいた者達全員に緊張が走った。


内道の言った・・・











次の一言で。







つづく







#275 『内道の策略 その4』の巻



「それは・・・。 私(わたくし)が雪女と一騎打ちで戦うからです」


この内道の一言に、中道は驚いた。


「ナ、ナニー!? ど、ど、どういう事じゃ、内道!? 一騎打ちとはどういう事じゃ!?


それは孟是も同じだった。


「そぅじゃそぅじゃ、どういう事じゃ、内道君!? 我等総掛かりでも勝てぬと申した君が一騎打ちとは・・・」


当然、その場に居合わせた他の者達も皆、


「そぅじゃそぅじゃ」


「そぅじゃそぅじゃ」


「そぅじゃそぅじゃ」


 ・・・


口々に、同様の言葉を吐いていた。

暫(しば)し、その場が騒然となった。


その騒然とする中、一渡(ひとわた)りその場を見回して内道が静かに語り始めた。

その口調は実に穏やかだった。

だが、その言葉の端々(はしばし)に内道の強い覚悟と決心がハッキリと見て取れた。


「申した通り一騎打ち。 私が一騎打ちで戦いましょう、姫御子と、否、雪女と。 ヤツに私が差(さ)しの勝負を挑みこれを打ち倒します。 私が勝てばそれまで。 敗れた時は大重裏虚。 そのために壁城結界を成す者13人が必要なのです」


しかし、内道がここまで言った時。


「ならばワシ等も共に戦うぞ。 ソチ一人を戦わす訳には行かん」


と、中道が強い口調で嘴(くちばし)を容れた。


「その通りじゃ、内道君。 君が戦うのならワシ等も共に」 


と、孟是もこれに倣(なら)った。


「そぅじゃそぅじゃ、ワシ等も共にじゃ」


「そぅじゃそぅじゃ、ワシ等も共にじゃ」


「そぅじゃそぅじゃ、ワシ等も共にじゃ」


 ・・・


と、残り全員も同様、皆、一斉に気を吐いた。











だが・・・







つづく