#286 『護木点火』の巻



(バチバチバチバチバチ・・・)



護摩木に点火された。

それを合図に13人の戦士達が同時に胡床(こしょう : 神道行事用の折り畳み腰掛)から立ち上がった。

そのまま素早く壁城結界のための各自の持ち場に走った。


時は、ジャスト丑の刻。


「ウ〜ム!!


護摩の火に内道が念を込める。



(バチバチバチバチバチ・・・)



火の勢いが増す。

内道の念に感応して。



(シャッ!! シャッ!! シャッ!!



その火に向け、内道が蘇油(そゆ)をくべる。



(バチバチバチバチバチ・・・)



火の勢いが更に増す。

護摩木が激しい音を上げ、燃えている。

それに内道の念が込められる。

すると真っ赤に燃え盛る炎が、白光色に変化する。

それは天をも焼き尽くさんばかりに熾烈に燃え上がる。


その護摩の火に向け、内道が・・・



(サッ!!



不動剣印を結ぶ。

すかさず真言読誦。

誦するは摩利子天真言。


「オン マリシエイ ソワカ。 オン マリシエイ ソワカ。 オン マリシエイ ソワカ」


これを言い切るや即座に、


「フゥー!!


結んだ剣印に息吹を掛ける。

印に念を込めたのだ。



(スゥー)



ユックリとその剣印を左腰に置く。



(スッ)



左手鞘印から右手刀印を引き抜く。


そして、



(スゥー)



静かに右手刀印を上げ、それを左肩に当てた。











すると・・・







つづく







#287 『早九字の秘法』の巻



瞬間、



(ピカッ!!



内道の右手刀印が光る。


そのまま一気に・・・


「臨(りん)!!


気合一閃、刀印を真横に払う。



(ボァッ!!



燃え盛る炎が・・白光色の炎が・・音を上げ、上下に真っ二つに割れる。


更に、


「兵(ぴょう)!!


気合一閃、刀印を縦に切り下ろす。



(ボァッ!!



炎が縦にも割れる。


再び、


「闘(とう)!!


炎を真横に切り裂く。



(ボァッ!!



炎が真横に切り裂ける。


「者(しゃ)!!


炎を縦に。



(ボァッ!!



炎が縦に。


「皆(かい)!!


炎を横に。



(ボァッ!!



炎が横に。


「陳(ちん)!!


炎を縦に。



(ボァッ!!



炎が縦に。


「列(れつ)!!


炎を横に。



(ボァッ!!



炎が横に。


「在(ざい)!!


炎を縦に。



(ボァッ!!



炎が縦に。


「前(ぜん)!!


炎を横に。



(ボァッ!!



炎が横に。


これが女切刀呪禁道早九字の秘法だ。


これにより、内道は燃え盛る火を・・白光色の炎を・・格子状に切り裂いた。


次に、右手刀印を高々と真上に・・天に・・突き上げた。











そして・・・







つづく







#288 『袈裟懸けに』の巻



「キエィ!!


鋭い気合一閃、


内道が格子状に切った炎を右上から左下に向け、一気に切り下ろした。

袈裟懸(けさが)けだ。



(ボァッ!!



今度は、内道の切った通りに、袈裟懸けに、炎が激しい音を上げて切れた。

今、炎は格子状に加え袈裟懸けに切れている。

再び、内道は胸の前で不動剣印を結び直した。 

まだ、炎は切れたままだ。


内道が徐(おもむろ)に何か唱え始めた。


「オン キリ キャラ ハラハラ フタラン バソツ ソワカ。 オン キリ キャラ ハラハラ フタラン バソツ ソワカ。 オン キリ キャラ ハラハラ フタラン バソツ ソワカ」


内道がこれを唱え終わると同時に、



(ボァッ!!



切れていた炎が、再び一つに繋(つな)がった。

激しい音を立てて。











その時・・・







つづく







#289 『吹雪』の巻



(ピューーー!!



何処からともなく風が舞う。

それまで無風状態だった女切刀の里に。

加えて、雲一つ無かった夜空を浩浩(こうこう)と照らしていた筈の月明かりも消えていた。

いつの間にか。



(ピュー、ピュー、ピュー、・・・)



それは徐々に激しくなる。

ナゼか粉雪(こゆき)も伴って。

夏なのに・・・真夏なのに。


少々の風や雪ぐらいでは簡単に消えないよう無色透明の耐火ガラスでキチンと風除け、雪避けがなされてある護摩壇の四方を囲む灯明と、やはり大型の無色透明耐火ガラスで天と四方をガードされている神楽殿の四隅に焚かれた焚き火の炎が、揺らめき始めた。

舞い始めた風の影響を受けて。

このガラスには空気取込用の小孔が幾つか開けられていた。

そこから風が吹き込んでいるのだ。


そして、護摩の炎以外でその場にあった明かりはこれだけだった。

真っ暗な中では戦えない。

だが、これだけでも充分だった。

鍛え上げられた女切刀の戦士達の目には、これだけでも充分だったのだ。


その火が揺らめき始めたのである・・・突然。


瞬間、


『来た!?


内道は思った。



(クヮッ!!



それまで半眼にしていた両目を見開いた。



(ビュー、ビュー、ビュー、ビュー、ビュー、、・・・)



風の勢いが更に増す。

それと共に降る雪も。



(ビューー、ビューー、ビューー、ビューー、ビューー、・・・)



風は、漆黒の虚空の一点から螺旋状(らせん・じょう)に吹いて来る。



(ビューーー、ビューーー、ビューーー、ビューーー、ビューーー、・・・)



吹く風は一段と激しさを増す。

その様(さま)は最早、吹雪。



(スッ)



内道が胡床(こしょう)から立ち上がった。



(スタスタスタスタスタ・・・)



神剣・軍駆馬に歩み寄った。



(カチャ!!



軍駆馬を右手で掴み上げた。



(スゥー)



それを左腰に差した。

予め巻いてあった腰紐に。

その腰紐の色・・・それも又、青だった。


そして、



(クルッ)



踵(きびす)を返した。



(スタスタスタスタスタ・・・)



そのまま歩き出した。


それまで座っていた場所を通り過ぎ、神楽殿から降りた。

神楽殿から5、6メートル離れた所で立ち止まり、その場で仁王立ちになった。


その仁王立ちのまま、内道が宙を見上げた。

風の吹き込んでくる宙を。

宙の一点を。


そして・・・


激しい吹雪の中、

降りかかって来る雪を物ともせず、

宙を・・天を・・睨みつけるように眼光鋭く、



(クヮッ!!



両目を見開いた。


ここに、女切刀呪禁道1400年最強の戦士・破瑠魔内道・・・











戦闘準備完了である。







つづく







#290 『地輪』の巻



青羽織(あお・ばおり)に、膝下から足首までを絞った青の伊賀袴(いがばかま)。

胸に青紐で襷掛(たすき・が)け。

腰に青い腰紐。

額に青い鉢巻。


全身、青一色。

今の内道の装束がこれだ。


ナゼか?


それは、内道が五大力(地輪・水輪・火輪・風輪・空輪)の内 “地輪” の技を最も得意としていたからだった。


つまり内道は “大地の戦士” だったのだ。


従って、地輪顕色(ちりん・けんしょく)の青色の羽織袴(はおり・はかま)に青鉢巻。

そして青い腰紐。

これが大地の戦士・破瑠魔内道の戦闘服だ。


この戦闘服に身を包み、雪女を迎え撃つ破瑠魔内道。


果たして内道の・・・











戦法や如何(いか)に?







つづく