#291 『ジックリと』の巻



(ゴクッ!!


(ゴクッ!!


(ゴクッ!!


 ・・・


勝負を見守る13人の戦士達が生唾を飲み込んだ。


「アハハハハハハハハハ・・・」


宙から、

宙の一点から、

吹雪が吹き込んで来る宙の一点から、

ユックリと旋回しながら、

高笑いをしながら、

雪女が舞い降りて来たからだ。


「アハハハハハハハハハ・・・」


高笑いを止める事なく、雪女が内道の頭上10メートルの高さまで降りて来た。


「アハハハハハハハハハ・・・」


まだ高笑いを止めずに旋回している。(何回? 千回。 ナンチャッテ!? ??? ・・・。 フゥ〜。 お後が宜しいようで)


それを見て内道は思った。


『これが・・あの・・あの伝説の大技・飛行薬叉の術か?』


と。


「アハハハハハハハハハ・・・」


終に、内道の頭上5メートルまで降りて来た。

相変わらず高笑いをしながら、その高さでユックリと千回 否 旋回している。


「アハハハハハハハハハ・・・」


まだ笑っている。

しかし、その眼(め)は笑ってはいない。

ジッと内道の眼を見つめている。

雪女は内道を観察しているのだ。

ジックリと。


内道も、頭上5メートル付近を旋回しながら視線を飛ばして来る雪女の眼を見つめたまま逸らさない。

ユックリと頭を回して雪女の動きに合わせている。


再び内道は思った。


『これが妖の姫御子か? なる程、美形だ。 大道が心を奪われたのも頷ける。 チチもデカイし(これは作者が思いました)』


そぅ・・・


その時内道も又、雪女を観察していたのである。











モッコリと 否 ジックリと・・・







つづく







#292 『一人』の巻



(スゥーーー。 スタン)



音もなく静かに雪女が地上に降り立った。



(ジィー)



視線を一点に向けたまま逸らさない。

視線の先は勿論、内道。


内道も又、目線を一ヶ所に固定している。

その対象は当然、雪女。


二人は、 ン!? 一人と一匹は、 ン!? 一人と一頭、 ン!? 一人と一個、一本、一丁、・・・


ントー、

ントー、

ントー、


一間、一尾、一升、・・・


ントー、

ントー、

ントー、


一妖、二妖、・・・ ン!? 一怪、二怪、・・・ ン!? 一妖怪、二妖怪、・・・


ントー、

ントー、

ントー、


ウ〜〜〜ム、妖怪の数え方が分からん!!!!!



と、いう訳で、


“一人”


という事でオネゲェ致しやずやの香酢。 やずややずや。。。



二人は、黙って相対峙した。

だが、二人ともただ黙っているのではなかった。

互いに相手の力量を計っているのだ。


暫しの沈黙が続いた。


その沈黙を雪女が破った。


「ソチか? このワラワに対し、先ほどから妙な真似をしておるのは?」


「・・・」


内道は黙っていた。


再び、雪女が言った。


「ソチには見覚えがある。 前にも一度、詰(つ)まらん術を使(つこ)ぅた愚か者じゃ」


「・・・」


やはり内道は黙っていた。


それを無視して雪女が続けた。


「ソチは大道縁の者か?」 (あの〜、分かってくれてるとは思うヶど、 “大道縁” は 『たいどう・ゆかり』 と読みまする。 『おおみち・ゆかり』 とは読まないでおじゃる。 そこんとこ、ヨ・ロ・ピ・コ)


ここで初めて内道が口を開いた。


「そぅだと言ったら?」


「フッ」


思わず雪女が含み笑いを浮かべた。

その笑いは先ほどの高笑いとは違っていた。

声だけでなく、

嬉しそうに “眼(め)” も笑っていたのだ。


そして・・・


然(さ)も楽しげに雪女はこう言った。


「殺す!!


と。


キッパリ・・・


一言・・・











内道の眼を見据えて・・・







つづく







#293 『天才』の巻



「一つ聞く?」


内道が言った。


「何じゃ?」


雪女が聞き返した。


「お前が妖の姫御子・雪か?」


「フン。 そのような時もあったかも知れぬ。 じゃが、忘れた。 今更どうでも良い事じゃ」


「やはり大道はお前を・・・」


内道がそこまで言った時、言いたい事を察して雪女が内道の言葉を遮った。


「あぁ、そぅじゃ。 その通りじゃ。 大道が斬ったのは女神像、魔王明神ご神体の方じゃ。 お陰でワラワはこうして甦れた」


「妖怪としてな、妖怪・雪女としてな」


「フン。 好きに申せ」


「ならば言おう妖の姫御子・雪 否 妖怪・雪女!! お前の魂胆は分かっている」


「ン!? 分かっておるとな?」


「そぅだ!! 分かっている。 お前の魂胆は、我等への復讐。 違うか?」


「ホゥ!? だから何じゃ!?


「だから探す手間を省いてやった」


この言葉を聞きそれまで内道を見下すように話していた雪女の表情が一変した。

それまで含み笑いさえ浮かべていた雪女の表情が急変したのだ。


「だから探す手間を省いてやったじゃと? それで? それで何が言いたい? ン? 手間を省いた代わりに助けて下さいませか? 大道様のような真似はなさらないで下さいませか? 無抵抗の者を殺さないで下さいませか? ・・・」


みるみる雪女の顔に怒りが込み上げて来た。

語気も荒くなった。


「どうかお願いでござりまする。 無抵抗の我等を焼き殺さないで下さいませか? 大道は・・・。 ソチの、ソチのあの大道は、ワラワの一族を。 何もせなんだワラワの一族を。 無抵抗のワラワの一族を。 年寄り、オナゴ、病人、子供、果ては赤子に至るまで。 その全てを焼き殺したのじゃ。 それも生きたままじゃ。 生きたまま無抵抗の者達を皆、焼き殺したのじゃ。 分かるか? 分かるかソチに? ン!? ソチに分かるか、ワラワの怒りが? このワラワの怒りがソチに分かるか? ワラワが・・ワラワが助けたばかりに・・このワラワが助けたばかりに、その助けた相手に我が一族は皆殺しにされたのじゃ。 生きたまま焼き殺されたのじゃ。 生きたまま皆、焼き殺されたのじゃ。 大道に・・あの大道に・・あの破瑠魔大道に・・・。 許さぬ!! 許さぬぞ、決(けっ)して!! 大道は・・あの大道縁(たいどう・ゆかり)の者は・・あの大道縁の者は全て、全てこの手で。 ワラワのこの手でこの世から消してくれようぞ。 地獄を見せてくれようぞ。 ワラワのこの手でな。 ワラワのこの手でソチ達大道縁の者全てに、塗炭(とたん)の苦しみを味わあせてくれようぞ。 アーハハハハハハハハ、アーハハハハハハハハ、・・・」


再び雪女が高笑いを始めた。

しかし目は笑ってはいない。

これは先程と同じだ。

だが、今回の笑いは先程とは違い、高揚した気持ちのやり場をそれに求めての笑いだった。

笑う事によって、気分の高まりにより不安定になったエネルギーを安定させようとの狙いがあったのだ。

そしてその狙い通り、笑い終えると同時に雪女は冷静さを取り戻していた。

あの氷のように冷たい冷静さを。


そぅ、この気分転換の早さ。


こんな所にも又・・・


雪女の天才が・・・











見て取れた。







つづく







#294 『ホンのチョッと』の巻



それはホンのチョッとだった。


そぅ、それはホンのチョッとだったのだ。

だが、そのホンのチョッとが勝負の明暗を分ける事になろうとは・・・

その時内道は、それに全く気付いてはいなかったのである。


「哀れなヤツ」


内道がポツリと言った。

雪女が冷静さを取り戻した直後だ。

それは先ほど取り乱した雪女の姿に対してではなかった。

内道は知っていたのだ。

妖の姫御子・雪の悲しい境遇を。

大道が善道に、善道だけに、切々と語っていた雪の境遇を。

大道が即身仏の行に入る直前、弟・善道に切々と語って聞かせていた大道と雪の出会いから最後まで。

内道はそれらを全て知っていたのだ。

友人に解読してもらった善道の手記を通して。



その善道の手記の中にはこう書かれてあった。


「善道ょ、良く聞くのじゃ・・・」


から始まって・・・











こぅ・・・







つづく







#295 『大道の訓戒1』の巻



「善道ょ、良く聞くのじゃ」


大道が語り出した。

相手は勿論、千座の修法終了直後、即身仏の行に入る直前、伝書の符術にて女切刀の里から呼び寄せていた弟・善道。


ここは破瑠魔大道終焉(しゅうえん)の地・重磐外裏の尾根に構えられた重磐外裏庵(えばんげり・あん)。


「ワシはこの手で多くの人の命を奪った。 その殆(ほと)んどが 否 全てが何らの罪をも犯しておらぬ者達じゃ。 その彼等をワシは焼き殺した。 生きたまま焼き殺したのじゃ。 この手で、ワシのこの手での。 大炎城結界での」


「しかし兄ぢゃ。 それは天命ゆえ・・・」


「否。 例へ天命であろうとなかろうと、生きたまま焼き殺した事に違いはない。 ワシは・・ワシの耳には・・ワシの耳の奥には、今でも彼等の断末魔の叫び声が残っておる。 今この瞬間も、彼等の叫び声が耳の中で木霊(こだま)しておる。 これはワシが死ぬまで決して消ゆる事はないであろう。 あの逃げ場を失のぅた人々の絶望と悲しみと苦しみの叫び声は・・・。 地獄じゃった。 あれは、あれこそは正に地獄じゃった。 阿鼻叫喚地獄(あびきょうかん・じごく)じゃ。 そしてその地獄は、ワシが、ワシのこの手が引き起こしたのじゃ。 この三年という年月(としつき)、ワシは心安らかに過した日は一日(いちじつ)として 否 一刻としてなかった。 恐らく未来永劫ないじゃろう。 ワシが生き続ける限りこれは消えぬのじゃ」


「・・・」


善道は黙って聞いていた。


その善道に大道が静かに語り掛けた。


「善道」


と。


「はい」


ジッと大道の眼(め)を見つめ善道が返事をした。


「ソナタには才(ざえ)がある。 ソナタはそれに気付いておるかも知れぬ、おらぬかも知れぬ。 じゃが間違いのぅソナタには才がある。 ワシには分る。 ワシにはそれが良ぅ分る。 しかもその才はワシ同様、火じゃ。 ソナタはワシ同様火の技を使(つこ)ぅ炎の使い手じゃ。 いずれワシに勝るとも劣らぬ使い手になるじゃろう。 否、恐らくワシ以上じゃ。 だから今、言ぅて置く」


大道はここまで言って言葉を切った。

しかし、その眼(め)は、逸(そ)らす事なく善道の眼を見据えている。


「・・・」


「・・・」


暫し、二人は黙っていた。

一呼吸置いて大道が続けた。


「善道ょ」


「はい」


再度、善道が返事をした。

その返事を確認してから大道が再び語り始めた。


「大炎城結界は使(つこ)ぅてはならぬ。 決して使ぅてはならぬ・・・」











と。







つづく