#356 『命令に従って』の巻



(グィッ!!



外道が左手で軍駆馬の柄を掴(つか)んだ。



(ギン!!



雪女が更に形相を険しくし、外道を睨み付けた。


「ヌッ!? な、何をする気じゃ、外道?」


その雪女を、



(キッ!!



睨み返して外道が口を開いた。

だが、それは雪女に答えてではなかった。


外道はこう言ったのだ・・・その時。


「ノウマク サンマンダ バサラダン センダマカロシャダ ソハタヤ ウンタラタ カンマン ・・・」 


と。


そぅ・・・


外道は慈救咒真言(じくじゅ・しんごん)を上げ始めたのである。 (#15 『不動明王と倶利迦羅竜王』の巻 http://syosetu.com/usernoveldatamanage/top/ncode/437731/noveldataid/3047671/ 参照)











声の命令に従って・・・







つづく







#357 『慈救咒真言』の巻



中道は思った。


『ヌッ!? 様子が変じゃ。 外道が慈救咒を・・・慈救咒真言を上げておる』


13人の戦士達も皆、訳が分からず不可解だった。


『慈救咒だ!?


『外道様が・・・慈救咒を?』


『ナゼ、慈救咒を?』


 ・・・


と。


中道及び13人の戦士達が不思議そうに見守る中、


「ノウマク サンマンダ バサラダン センダマカロシャダ ソハタヤ ウンタラタ カンマン ・・・」


外道はボーイソプラノの甲高(かんだか)い声で慈救咒真言を上げ続けた。


軍駆馬の柄を・・・


確(しっか)と・・・











握り締めて。







つづく







#358 『正に鬼の形相で』の巻



瞬間・・・



(ピカッ!!



神剣・軍駆馬が光る。


「ヒグァー!!


雪女が悲鳴を上げた。

そして髪を逆立て、眉間に皺を寄せ、外道を睨み付け、凄まじい顔付きで、雪女がまだ結晶化していない右手で外道の左肩を掴み・・・叫んだ。

正に鬼の形相で。


「おのれ外道ー!! 何をしたー!?


雪女が、外道の肩を掴んでいる右手の指を氷柱に変えた。

それが外道の左肩に食い込んだ。



(タラ〜)



そこから血が流れ始めた。


同時に、外道の顔が益々歪む。


『痛いー!!


痛みを堪えているのだ・・・必死の思いで。


だが、


外道は止めない。

止めようとはしない。


当然だ!!


止める訳がない。

これは遊びではない。

命を懸けた戦いなのだ・・幼子・外道としてではなく戦士・破瑠魔外道として・・親の敵との。

それも差しでの。


外道は、



(キッ!!



雪女の眼(め)を下から見上げ睨み付けたまま、


「ノウマク サンマンダ バサラダン センダマカロシャダ ソハタヤ ウンタラタ カンマン。 ・・・」


慈救咒真言を上げ続けた。

両肩の激痛に耐えながらも。











すると・・・







つづく







#359 『新たな焼き入れ?』の巻



再び・・・



(ピカッ!!



軍駆馬が光った。


「ヒグァー!!


同時に雪女が顔を醜く歪め、苦悶の表情浮かべ、絶叫した。


「ノウマク サンマンダ バサラダン センダマカロシャダ ソハタヤ ウンタラタ カンマン。 ・・・」


慈救咒を上げる外道の声が一層大きくなった。

外道も必死だ。

最早、両肩の痛みなど構ってはいられない。


突然、



(ジジジジジ・・・)



音を立てて刃(やいば)が・・軍駆馬の刃が・・それまでの暗く冷たい鋼(はがね)色から鮮やかなオレンジ色に変わり始めた。

あたかも雪女の胸を貫通したまま、新に焼入れが始まりでもしたかのように。


同時に、



(モァモァモァモァモァ・・・)



空間が歪む、軍駆馬を中心としたその周りの空間が。

まるで真夏の蜃気楼の様に。



(ジージージージージージー・・・)



より一層大きな音を上げ軍駆馬の擬似(ぎじ)焼入れは進む。

みるみる温度は上がり、刃のオレンジ色が白っぽくなる。



(ゴゴゴゴゴ・・・)



終に刃の色は・・軍駆馬の刃の色は・・白光色となる。


瞬間、



(ピカーーー!!



刃は輝き、辺りを照らす。

中天に眩(まばゆ)い太陽のように。


終に・・・


神剣・軍駆馬・・焼き入れ・・完了・・か?











その時・・・







つづく







#360 『一体何が?』の巻



(ドロドロドロドロドロ・・・)



よく見なければ気が付かないほどユックリではあるが、雪女の体が溶け始めた。


気化が始まったのか?


否、違う。


蒸気が上がってはいない。

ただ溶けているだけだ。


この異変は一体何だ?


な、何が起こっているんだ・・・雪女に?


雪女の体に一体・・・











何が!?







つづく