#371 『済まぬ』の巻



空間念写!?


空間念写を思わせた、その時の光景は。

空間念写の術を思わせたのだ、その時の光景は。


場面が転換する。

次々と。


外道から大道。

大道から変わり果てた妖の姫御子・雪の姿。


次に場面は一転して、魔王明神本殿に。


本殿は燃えていた。

その中で大道が鋭い気合一閃、軍駆馬を振るった。

妖の姫御子・雪の身代わりとなった女神像の首を刎ねたのだ、涙を呑んで。

大道の表情に、愛する者を手に掛けねばならぬ悲壮感が溢れ出ているのが、一目で分かった。


再び場面は転換し、大道行なう所の秘術・大炎城結界へと変わった。


そこに見た物は、大火炎城の中で悲鳴を上げながら逃げ惑い、絶叫しながら生きたまま焼け死んで逝く人々の姿だった。

皆、雪女の知っている顔だった。

その中からユックリと大道が歩み出て来た。

すると、重磐外裏(えばんげり)の里を覆い尽くしている大火炎城は突如出現した大竜巻に包み込まれ、更にそれを大門扉が飲み込み、未知の空間へと消え去った。


更に場面は、重磐外裏庵へと変化した。


そこには、妖 玄丞(あやし・げんじょう)、妖一族、そして妖の姫御子・雪の供養のため、一心不乱に荒行に励む大道の姿があった。

それは実に一千日にも及ぶ過酷な物で、生きていられるのが不思議な程だった。

その一千日の間、大道は殆んど眠る事なく経典を誦し、滝に打たれ、護摩を焚き続けていた。

しかも、五穀断ちさえしていたのである。

雪女には、その荒行が自分達の供養のためであり、それに大道が命を懸けているのがハッキリと分った。

雪女にはそれがハッキリと分かった。


最後は、いよいよ大道入定の場面だった。


そこには悟り切った大道の姿があった。

しかし大道はやつれていた。

過酷な断食により、既に骨と皮だけに成り果てていた。

それでも一心不乱に鈴を鳴らしながら読経を止めなかった。


だが、


それを止めなければならない瞬間が、終にやって来た。

大道入場の瞬間である。



(ガクッ!!



大道が事切れた。


だが、


事切れる寸前、



(クヮッ!!



両目を大きく見開いた。


そして一言、こう言い放った。


「雪殿!! 済まぬ!!











と・・・







つづく







#372 『ユックリと・・・確実に・・・』の巻



信じる事が出来なかった。


誰も全く信じる事が出来なかった。


雪女のそんな姿を誰も全く信じる事が出来なかった。


雪女のそんな姿を中道及び13人の戦士達は全く信じる事が出来なかった。



(ポロ。 ポロ。 ポロポロポロ・・・)



雪女の両目から涙が溢れ出ていたのだ。

そのままその涙が頬を伝わる。



(プルプルプルプルプル・・・)



雪女の体は小刻みに震えていた。

前歯で下唇を噛み締めている。


たった今、雪女の眼前でまるで走馬灯のように繰り広げられた物語は、既に全て消えていた。

その代わりに雪女の前には、再び大道が立っていた。


大道は何も言わず、雪女の眼(め)をジッと見つめていた。

雪女も黙ったまま瞬(まばた)き一つせず、大道を見つめ返していた。


雪女が大道に向かって口を開いた。

何かを大道に語り掛けた。


だが、


「・・・」


言葉は空しく風になった。


その雪女に大道が優しく語り掛けた。


「そぅじゃ、雪殿。 それで良いのじゃ。 それこそワシに、このワシに心底愛(しんそこ・いと)ほしいと思はしめた雪殿じゃ。 それこそが雪殿の真の姿じゃ。 何処(どこ)までも優しく、美しく、素直な雪殿じゃ。 あの心から花鳥風月(かちょうふうげつ)を愛(め)でる雪殿じゃ。 これでワシも成仏出来そぅじゃ。 心置きのぅ成仏出来そぅじゃ」


もう一度、雪女が大道に何かを告げた。

やっと聞き取れるほどの大きさで。


「た・・い・・ど・・う・・さ・・ま」


と。

そぅ、

やっと聞き取れるほどの・・・大きさで。


しかしそこから先は、


「・・・」


再び風に変わった。


大道がニッコリと微笑んだ。

そして一言、


「さらばじゃ、雪殿」


雪に別れを告げた。


それと同時に、



(スゥー)



静かに大道の姿が消え始めた。


ユックリと、ユックリと・・・











確実に、確実に・・・







つづく







#373 『心の叫び』の巻



「大道様ーーー!!


雪女が叫んだ。



(スゥー)



ニッコリ微笑んだまま大道が消えて行く。


その後を追うように、崩れ落ちたまま、まだ完全に指が復元していない右手を力の限り前に伸ばし、叫び続ける雪女。


「大道様ー!! 大道様ー!! 大道様ー!! 雪も!! 雪もご一緒に!! ご一緒にお連れ下さーーーい!! 大道様ーーー!!



(スッ)



大道は消えた。

空の果てに。

虚空の中に。


雪女は、まだ叫び続けている。


「大道様ー!! 大道様ー!! 大道様ー!! ・・・」


そして最後に一言、


「イヤーーー!!


悲鳴とも思える叫び声を上げた。

その声は雪女の心の叫びだった。


無間(むげん)の孤独の中にただ一人生きる雪女の発した・・・


心からの叫び声だったのである。











その声は・・・







つづく







#374 『完全決着』の巻



『ハッ!?


雪女が我に返った。


既に大道の幻影は消えていた。

外道の秘術・金剛秘密主・阿尾捨の法によって生み出された大道の幻影は。


そぅ・・・


たった今起こった不可解なこの一連の出来事は、死頭火が自らの命と引き換えに行った現身(うつしみ)の術による導きの元、外道の修した “秘術・金剛秘密主・阿尾捨の法” が生み出した幻影だったのだ。


そして雪女の目の前には、既に大道は消え、その代わりにその秘術を修した外道が立っていた。

先程同様、外道はまだ根本印を組み、必死の形相で、


ЩЭ%$#♪★?£ё・・・」


根本陀羅尼を上げ続けている。

外道にしてみれば、まだ雪女との戦いは終わってはいないのだ。


“決着が付くまで、決して攻撃の手は緩めない”


これが、サラブレット外道の持って生まれた本能だ。

その本能が、外道にまだ攻撃の手を緩めさせなかったのだ・・・完全決着が付くまでは。


だが、


状況は一変していた。

それは誰の目にも明らかだった。

顔ががらりと変わっていたのだ、雪女の顔が。

ホンのチョッと前とは全く別人の顔だった。


それに雪女がそうしたのではないにも拘(かかわ)らず、何時(いつ)しか吹雪も止んでいた。

その代わりに、



(ポロポロポロポロポロ・・・)



雪女の目からは大粒の涙が溢れ出ていた。

それが頬を伝って、流れ落ちている。

その流れ落ちる涙は止まらない、止まろうとはしない。


静かに、そしてユックリと雪女が外道に歩み寄った、軍駆馬に胸を刺し貫かれたまま。

既に雪女の顔からは、一切の怒りと苦しみが消えていた。

肉体の結晶化も完全に収まり、元の姿に戻っている。


外道はまだ緊張した面持で、自分に近付いて来る劇的に顔形(かおかたち)が変化した雪女の眼(め)をジッと見つめていた。

だが、真言は上げ続けている。

勿論、印も結んだままだ。


外道の顔はたった今、雪女が見た大道の顔その物だった。

外道は大道に瓜二(うり・ふた)つだったのだ。


その大道に瓜二つの外道に向かい、雪女が言った。


「もぅ良い。 もぅ良いのじゃ、外道。 ソチの勝ちじゃ」


雪女のこの言葉に反応し、



(スゥー)



外道の体から力が抜けた。

緊張が解けたのだ。

それまでの張り詰めていた緊張が。


顔も、それまでの必死の形相から不思議そうな表情に変わっている。

雪女に何が起こったのか、まだ理解出来ていない所為(せい)で。


何が何だか訳が分からぬまま外道が真言を止め、印を解いた。

その瞬間、信じられない事が起こった。



(ズルッ!! ボトッ!!



軍駆馬が雪女の体から抜け落ちたのだ。

誰も何もしなかったのに。

あれほど深く雪女の胸を刺し貫いていた筈なのに。

なのに軍駆馬が雪女の体からボトッと抜け落ちたのだ。

それも自然に。


その刃の色も元の鋼色(はがねいろ)に戻っている。


足元に落ちた軍駆馬を左手でソッと横にどけ、右膝を雪面に突き、雪女がしゃがんだ。

目線を外道と同じ高さにするために。


外道に動く気配は全く見られなかった。

最早、外道は雪女を恐れてはいなかった。

戦う相手とも見てはいない。

雪女に全く殺気が感じられなくなっていたからだ。


相変わらずその場に突っ立ったまま、不思議そうな表情で自分を見つめている外道に向かって、



(スゥー)



雪女が両手を伸ばした。


そして、



(グィッ!!



外道を引き寄せ、



(ギュッ!!



抱きしめた。


まるで・・・


母が愛する我が子を抱きしめるように。

恋する乙女がその愛しい恋人を抱きしめるように。

しかも両目から溢れ出ている涙は、まだ止まらない。


その雪女が外道の耳元で、静かに、そして一言一言ハッキリと語り始めた。

あたかも何かを外道に教え諭(さと)そうとでもするかのように。


「外道。 ソチはワラワの大道様じゃ。 もぅ離さぬ。 もぅ離さぬぞ、外道。 ソチはワラワの大道様じゃ。 もぅ離さぬ、もぅ決して離さぬ。 良いか、外道。 良く聞くのじゃ。 何時(いつ)か・・・何時の日にかワラワはオナゴに、人間のオナゴに再び生まれ変わってソチの元に参る。 そしてソチと添(そ)い遂(と)げる。 ワラワはこの世でソチと添い遂げるのじゃ。 そのためにオナゴに、人間のオナゴにワラワは生まれ変わる。 ソチとこの世で添い遂げるためにワラワは生まれ変わるのじゃ、人間のオナゴに。 もぅ離さぬ、もぅ決して離さぬ。 忘るるでない、忘るるでないぞ、外道。 ソチは、ソチこそはワラワの、このワラワの大道様じゃ。 ワラワの物じゃ。 ワラワの外道じゃ。 もぅ離さぬ、もぅ離さぬ、もぅ決して離さぬ。 ・・・」


そう言う雪女のその顔は、つい先程までのあの残忍で狂暴で凶悪な雪女のそれではなく、元の妖の姫御子・雪の顔に戻っていた。

あの優しく、優雅で美しく、何処までも健気(けなげ)で気高い妖の姫御子・雪の顔に。


そして、


強く外道を抱きしめたまま・・優しく外道に語り掛けながら・・雪女 否 妖の姫御子・雪が、



(スゥー)



まるで氷が溶けるようにその一部を外道の体に・・肩に・・左肩に・・残したまま、溶けて消えた。

音もなく静かに溶けて消えた。

成仏したのだ、雪女は 否 妖の姫御子・雪は。


外道の足元の雪面には雪女が残した水溜りがあった。

だが、それも直(す)ぐに雪に飲まれて消え去った。

この地上に、全く雪女の痕跡を残す事なく消え去った。

何時(いつ)しか雪女の身に着けていた白衣(しらごろも)も、雪の中に溶けて消えていた。

やがてその雪も静かに蒸発し始めた。

雪女の名残(なごり)、その全てを飲み込んだ雪も。

真夏の・・・例えまだ夜が明けてはいないとはいえ真夏日の暑さで。


この瞬間、

終に、

史上最強の妖怪・雪女は消え去ったのである。


神剣・軍駆馬の真の使い手、破瑠魔外道の手に掛かり・・・


この世から・・・











完全に・・・







つづく







#375 『勝利の白球』の巻



(シュ〜〜〜!! シュルシュルシュルシュルシュルーーー!! バーーーン!!



白玉(しろだま)が上がった。

勝利の白球が。

13人の戦士の内の一人がそれを上げたのだ。

戦士達は皆、既に身を起し、立ち上がっていた。

勿論(もちろん)、中道も。


だが、


誰一人その場を動こうとする者はいなかった。

否、動けなかった。

今、彼等に出来た事はといえば・・外道を・・外道の姿を・・ただ黙ってジッと見つめている事だけった。


外道はユックリと歩いていた。

しかし、その方向は母・死頭火の倒れている所ではなかった。

外道は死頭火の脱いだ羽織袴に向かって歩いていたのだ。

死頭火が変わり身の術を使った時に脱いだ、あの羽織袴に向かって。


13人の戦士と中道が見つめる中、外道が死頭火の羽織袴を拾い上げた。



(ズキズキズキ・・・)



両肩の痛みはまだ全く和(やわ)らいではいなかった。

左肩からの出血は、既に止まってはいたのだが。


死頭火の羽織袴は溶け始めた雪を吸い、重くなっていた。

その重さは今の外道には辛い物があった。

両肩の痛みがまだ全く和らいではいない上、雪女との激戦で疲労困憊(ひろうこんぱい)していた、今の外道には・・・とても辛い物が。

それでも外道は母・死頭火の羽織袴を拾い上げ、引きずりながら再び歩き始めた。


母・死頭火の元に向かって。


一歩ずつ、一歩ずつ・・・











ユックリとユックリと・・・







つづく






#376 最終回 『女切刀の夜明け』の巻



ただ・・・


目に涙を浮かべている事だけだった。

その時、中道達に出来た事は。

何も出来ずに、ただ、目に涙を浮かべて外道の姿を見つめている事だけだった。

その時、中道達に出来た事はといえば。


外道がしゃがんだ。

倒れている母・死頭火の右横に。

そして掛けた。

両肩の痛みに堪えながら引きずるようにしてそこまで運んで来た死頭火の羽織袴を、うつ伏せのまま裸で倒れている死頭火の上に。


外道は知っていた、既に死頭火が死んでいる事を。

死頭火の黒い鉢巻が舞い落ちた時にそれを感じ取っていた。

外道はあの時・・それを・・確かに。

それでも外道は雪女と戦い続けた。

決して止めようとはしなかった。

そして打ち破った。


それこそが戦士。

真の戦士。

それこそが魔性と戦う事を運命付けられた女切刀の真の戦士の姿であり、父・内道、母・死頭火から受け継いだ外道の戦士としての血であり、行く行くは里の総領とならねばならぬ者としての本分だった。


その外道が死頭火にソッと語りかけた。


「かー様。 雪女は外道が・・・。 外道が倒しました」


そこへ中道達が集まって来た。

中道は13人の内の一人に脇を抱えられていた。

軍駆馬とその鞘を戦士の一人が拾い上げ、持って来た。

中道がそれを受け取り、脇を抱えられた不自然な体勢のまま鞘に収めた。

そして全員が輪になって外道と死頭火を囲んだ。


だが、


誰も何も言わなかった。

否、言えなかった。

中道も戦士達も皆、ただ黙って死頭火と外道を見ている事だけしか出来なかった。


死頭火はうつ伏せの状態で、顔を右に向けている。

外道がまだ痛む右腕の、その手の甲で死頭火の右頬をソッと撫(な)でた。

死頭火の頬は、ヒンヤリと冷たかった。

しかし、外道の手も冷え切っていたため、それを感じ取る事はなかった。

ジッと死頭火の顔を見つめたまま、外道が死頭火の右頬を右手の甲で繰り返し何度も何度も撫でた。

万感の思いを込め・・ソッと・・そしてユックリと・・繰り返し何度も・・何度も。


外道のその姿を見つめながら、中道が外道に詫(わ)びた。


「済まぬ、外道。 許せ。 堪(こら)え切れずワシが咳いたばかりに・・・」


突然、



(ポロ。 ポロ。 ポロポロポロポロポロ・・・)



外道の目から涙が溢れ出した・・・それまで必死に流さないように我慢していた涙が。

中道の一言が切っ掛けとなり、抑えていた感情が一気に爆発したのだ。


冷たくなった死頭火の背中に覆(おお)い被(かぶ)さり、すがるように死頭火の体を何度も何度も何度も揺(ゆ)すりながら外道が叫んだ!!


「かー様、かー様、かー様ーーー!! ゥワーーー!!


外道の叫び声が女切刀の里中に響き渡った。


そして外道は泣いた。


「ウッ、ウッ、ウッ、ゥワーーー!! かー様、かー様、かー様ーーー!! ウッ、ウッ、ウッ、ゥワーーー!! ・・・」


声の限り泣いた。

悲しくて泣いた。

母・死頭火のために泣いた。

父・内道のためにも泣いた。

泣いて泣いて涙が枯れるまで泣き続けた。


そして、この日を限りに外道は涙を捨てた。


そこへ品井山 孟是と里人の何人かが一足先に帰って来た。


事情を何にも知らない孟是達は、走ってその輪に近付いた。

急いだのだろう皆、息を切らせている。

しかし、気が気でなかったため一番手前にいた13人の戦士の内の一人を捕まえて、孟是が聞いた。


「ハァハァハァハァハァ・・・。 ど、ど、どうじゃった、どうじゃった、どうじゃった? 本当に、本当に、本当に雪女に勝ったのじゃな? 白玉(しろだま)が上がった故、勝ったのじゃな? 本当に、本当に、本当に勝ったのじゃな? ハァハァハァハァハァ・・・」


聞かれた方(ほう)は黙ったまま、ただ頷(うなづ)く事しか出来なかった。


それに歯がゆさを感じた孟是が、輪の中に一歩足を踏み入れた。

瞬間、孟是がその場で立ち竦(すく)んだ。

絶句している。

言葉を出せずにいる。

死頭火と外道の姿が目に入ったからだ。


孟是と一緒に来た里人の何人かも又、孟是に続き、全く同様の反応を示した。

輪の中に入れば、否応なしに外道と死頭火の姿を見る事になったからだ。


そこへ次々と里人達が帰って来た。

皆、意気揚揚としている。

当然だ。

勝利の白玉を見て戻って来たのだから。

その気配に気付き、13人が輪を広げた。

そこに一人、又、一人と入って来た。

そして皆、一様に孟是達と全く同じリアクションをした。

嫌でも、その輪の中心に横たわっている二人の姿を見なければならなかったからだ。


気分は一転して全員の気持ちが、それまでとは打って変わって暗くなった。

皆、目に涙を浮かべ、ただ黙って死頭火と外道を見つめた。

中にはすすり泣く者達もいた。

外道の気持ちを慮(おもんばか)っての事だった。


だが、

外道は既に泣き止んでいた。

否、

もう泣く事が出来なくなっていた。


外道はその時、雪女との死闘で疲労困憊しきっている上、まだ癒えぬ両肩の激痛。

加えてそれ以上の痛み・・・母・死頭火を失った悲しみ。

その悲しみで既に気を失っていたのだ。

母・死頭火の背中にすがるように覆い被さったまま。


すると、



(スゥー)



急に辺りが明るくなった。


!? 夜明け・・・か?


そぅだ!! 夜明けだ!!


日が差して来たのだ!!


その眩(まばゆ)いばかりに輝く朝日は、間髪(かんはつ)を入れず一気に女切刀を・・女切刀の里を・・里全体を、



(サァー!!



眩(まぶ)しく照らし出した。

空には雲一つなかった。

晴天だ。

否、

青天だ。

青天白日だ。

完璧なまでの青天白日だ。


そして、何処(どこ)までも澄み切り、限りなく透明な空気の中。

女切刀の里を・・里全体を・・女切刀の里全体を覆っている木々が目覚め、俄(にわ)かに活気付き、息吹を開始した。

その木々の葉も又、キラキラと鮮やかに、そして美しく輝き始めていた。

まるで何事も起こらなかったかのように。

先程までの “アレ” が全く嘘だったかのように。


この瞬間・・・


女切刀呪禁道1400年・・・


幾多の魔性との激しい戦いの歴史の中・・・


その一番長い夜が・・・


終に・・・


明けたのである。



時に外道、若干四歳。

まだ年端(としは)も行かぬ幼子。

その真夏のある良く晴れた暑い日の、夜明け前の出来事であった。



「そぅだ、外道。 今は静かに眠れ。 明日(あした)のために・・・」







外道外伝 “妖女(あやしめ)” お・す・ま・ひ (パチパチパチパチパチーーー)






外道外伝 “妖女(あやしめ)” 「番外編」 #377 『補足』の巻



補足です。


作者は 『不動心呪』 を、あえて 『慈救咒』 と書きました。

これらは同義です。


そして、 『慈救“咒”』 を 『慈救“呪”』 と書く流儀もあります。

どちらでも良いみたいですね。


『不動心“呪”』 も同様、 『不動心“咒”』 でも OK のようです。


又、


慈救咒真言を


「ノウマク サンマンダ バサラダン センダマカロシャダ ソハタヤ ウンタラタ カンマン」


と書きました。


しかし、不動行者、あるいは不動信仰を持つ修験者達がこの真言を上げるのを聞いていると、


「ノウマク サーマンダー バーザラダンセンダン マーカロシャダー ソワタヤ ウンタラター カンマン」


と、聞こえます。


実際その方が言い易いのは確かでせぅ。


『もし読者の中で違和感を感じる人がいたら・・・?』


と思ひ、蛇足ながら補足してみますた。




蛇足ながら補足・・・・・・・・・・ホントはコレが言いたかったのでアリンス




そして、補足の補足。


慈救咒(じくじゅ)


「ノウマク サンマンダ バサラダン センダマカロシャダ ソハタヤ ウンタラタ カンマン」


の意味は、


ノウマク = 帰命(きみょう)


サマンダ = 普遍(ふへん)


バサラダン = 諸金剛(しょこんごう)


センダ = 暴悪魔障(ぼうあくましょう)


マカロシャダ = 大忿怒者(だいふんぬしゃ)


ソハタヤ = 摧破(さいは)


ウン = 恐怖(きょうふ)


タラタ = 忿怒聖語(ふんぬ・せいご)


カンマン = 不動明王(ふどうみょうおう)


!?


なるらすい。



そしてその意訳は、


確かワタイの記憶が正しければ、


「普(あまね)く諸金剛に帰依(きえ)し奉(たてまつ)る、暴悪の相・大忿怒をなせる金剛尊よ、願わくば我が心中の魔性の障(さわ)りを尽(ことごと)く摧破したまえ」


だったと思われるのだめカンタービレ。



更に、補足の補足の補足。


作者はかつて数多くの修験者、密教者(否、密教屋あるいは密教君と言ふべきか・・・?)の類(たぐい)に会ったり見たりする機会がありました。


その数たるや、結構な数だピョン。


大は新興宗教の教祖様(損し 否 尊師つった方がいノン・・・?)から、小は殆(ほと)んどダメポの占い師に至るまで、数多くです。

その中には、結構デッカイ教団のそんでもって恥を後世に残すとも知らんと、い〜〜〜っぱいツマラン本なんか書いちょる、自称教祖の愚かなジッちゃんもいましたし、寺の坊さんなんかもイラッシャリますた。


ソイツ等って結構有名な “ヤーツーラー” だピョン。


み〜んな、慈救咒をカッチョ良く上げておったでござる。


but 


その意味を語った 否 語る事が出来た者は、唯の一人もおり申さなんだのでアリンス。


そぅ、たったの一人も自分が唱えている真言の意味を述べる事が出来た者がオジャラなかったチュゥ訳ですネン。


そいつ等全員とクッチャべった訳ではなかったので、皆そうだとは断言出来ないザンスが、恐らくその殆んどが意味を知らなかった 否 それどころか意味を考えた事すらなかったのではないかと思われマンモス。


もっとも、これは宗教で飯を食ってる連中の絶対多数に見られる事で、取り立てて言うまでもありませんヶどネ。。。



まぁ、


「真言は不思議なり、読呪すれば即ち通ず・・・」


っポイ言葉を何処かで見た希ガス。


もしかすたら、単に其奴等(そやつ・ら)は、この言葉に素直なだけかも知れませヌが・・・



・・・・・・ by コ・マ・ル