#56 『 tactics 』の巻




tactics : 術策、策略、駆け引き、戦術、作戦、兵法、兵術、・・・


Strategy wins wars ; Tactics wins battles.

戦略に優れば戦争に勝利し、戦術に優れば戦闘に勝つ


コレ即ち


『外道の術策』


なり・・・




解説しよう。



この時、外道はこう考えていた。


先ず、

“影留め” で蝦蟇法師(がまほうし)の動きを封じる。


当然、

蝦蟇法師は身動きが取れない以上、今支配している肉体を手放さなければならなくなる。


即ち、

次の行動を起こすため、その大男の肉体から “離れ” ようとする。


つまり、

蝦蟇法師本来の “アストラル体” に戻り、大男の肉体から飛び出す。


ここまでは、先程、ナナの時に学習済み。


そして飛び出したところを、

あの “百歩雀拳(ひゃっぽじゃんけん)” で仕留(しと)める。




ナイスだ外道、ナイスだぞ。

実にナイスな “術策” だ。

ほぼ完璧と言って良い。


これは、外道 “的” には最善の策であった。

そぅ、外道的には。


だが、

しかし、

相手は百戦錬磨の千年蝦蟇法師。

そんなに簡単に片付く相手とは思えない。

果たして、

外道の思惑通り事は運ぶのであろうか?


何と無く嫌な予感が・・・


一抹(いちまつ)の不安が・・・


そして、

蝦蟇法師が次に取った驚くべき行動に対し、

我々は嘗(かつ)てない恐怖と戦慄(せんりつ)を味わうと共に、

この予感と不安が的中する事になるのである。







ナンチャッテ・・・







#57 『まるで噴水のように』の巻




『ハッ!?


外道は攻撃の手を止め、その場で立ち尽くしたまま、思わず息を呑んだ。

目の前に信じられない光景が展開している。



(ズボッ!!



影留めを食らっている蝦蟇法師(がまほうし)が、自分の胸に頭部以外で唯一自由の利く右手手刀(みぎてしゅとう)を突き刺したのだ。



(プッ、シュ〜〜〜!!



大男の胸から激しく血飛沫(しぶき)が上がる。


まるで噴水のように!!


な、何をする気だ蝦蟇法師?


そ、そこは心臓だぞ!?


『ウッ!?


一瞬、

外道が引いた。

蝦蟇法師の異常な行動に。

蝦蟇法師の狂気の沙汰(さた)に。


その機を捉(とら)えて、


「キィィィィィ〜〜〜!! リィィィィィ〜〜〜!!


又、あの雄叫(おたけ)びだ。

それと共に蝦蟇法師がグィっと胸から手刀を引き抜いた。



(バッ、シュ〜〜〜!!



再び、

激しい血飛沫(ちしぶき)が上がる。


オッ!?


なんだなんだ!?


何か取り出したぞー!?


蝦蟇法師が何か取り出したぞー!?


な、何だそれはー!?


う、動いてるぞー!?


ドックン、ドックン動いてるぞー!?


何を取り出したんだー!?


今、蝦蟇法師が手に持ってる物は一体なんだ〜〜〜!?







つづく







#58 『脈打つ心臓』の巻




(ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、・・・・・・)



し、心臓だ〜〜〜!?


蝦蟇法師は自分の心臓を取り出したぞー!?


ま、まだ、脈打ってるぞー!?



(ゾ〜〜〜!!



外道の背筋に悪寒が走った。

これまで数々の修羅場を潜(くぐ)って来た外道だったが、こんなのは全く初めての経験だった。

流石(さすが)の外道もこれには恐怖した。











その瞬間・・・







つづく







#59 『血塗れ』の巻




(ビュ〜〜〜ン!!



蝦蟇法師が手に持った心臓を外道に向かって投げつけた。



(シュパー!!



辺りに血が飛び散った。



(パスッ!!



外道がそれを受け止めた。

ダイレクトキャッチだ。



(ドロドロドロドロドロ・・・)



外道の全身が血塗(ちまみ)れになった。

まだ動いている心臓からの返り血で。


そしてこの心臓を投げ付けられるという予想外の出来事。

加えて、それを受け止める事で手一杯だったため、外道の注意が一瞬逸(そ)れた。


その時、



(ガクッ!!



体から力が抜け、男が頭をうな垂れた。

同時に、



(シュッ!!



再び大男の中からか?

あるいは背後からか?


影が飛んだ。

あの輪郭(りんかく)が曖昧(あいまい)な、平板で奥行きの感じられない “人影のような何か” が・・・飛んだ。


『し、しまった!?


外道は焦った。

蝦蟇法師の信じられない行動に意表(いひょう)をつかれ、百歩雀拳(ひゃっぽじゃんけん)を放つタイミングを失ってしまったのだ。



(チラッ)



血塗(ちまみ)れの心臓を手にしたまま外道が影の飛んだ方向を見た。

飛んで行く影がハッキリと見えた。

それは井戸に向かって真っ直ぐに飛んでいる。

否、

井戸の側(そば)に向かってだ。

直接井戸にではなく、その直ぐ側に向かって真っ直ぐに飛んでいるのだ・・・その影は。


そして、

飛んだ先には何かがある。

そぅ、何かが・・・

我々の良〜く知っている何かが・・・


そぅだ!?


その通りだ!?


そこには・・・

もう一人の番人が眠っているのだ。

深〜い深〜い眠りに落ちているもう一人の番人が。


“無間の眠り”


という名の深〜い深〜い眠りに落ちている、もう一人の井戸の番人がそこには・・・











眠っているのだ。







つづく







#60 『もう一人の男』の巻




(ムクッ!!



それまでグォーグォー状態だった、

もう一人の井戸の番人が静かに起き上がった。

大男だ。

さっきの番人よりも更に一回りデカイ。

身長は2メートル位か?

眼(め)が異様だ。



(ギラギラ、ギラッ!!



怪しく光っている。


その大男がムックリと起き上がった、不気味(ぶきみ)な笑いを浮かべて。

そして外道に向かって、ユックリとユックリと歩き出した。

慎重に獲物を追い詰めるように。

狙い済ましたように。



(ズシ、ズシ、ズシ、ズシ、ズシ、・・・)



今度はこの男に憑依(ひょうい)したのか蝦蟇法師?

外道とのリターンマッチのためか?


一方、

外道は無駄だとは分かっていたが、手にした心臓を元有った男の胸に戻してから、



(スッ)



立ち上がった。


状況は先程と全く同じだ。

まるでビデオを見ているようだ。

だが、

一つだけ違っている。

今の外道は返り血で血まみれだ。

それがさっきとは違う。


否、


もう一つ、

もう一つ違っている。

さっきともう一つ違っているゾ。


外道の目だ。


“灼眼(しゃくがん)” だ。


外道の目が灼眼だ。

怒りに燃えて灼眼だ。


外道の金銀妖瞳(ヘテロクロミア ・ 別名『虹彩異色症(こうさい・いしょく・しょう : heterochromia iridis)』)の目が怒りに燃えている。


外道の金銀妖瞳の目が、

ヘテロクロミアの目が、

虹彩異色症の目が、

蝦蟇法師への怒りでメラメラと燃え上がっている。











激しく!?







つづく