#66 『燈台下暗し』の巻




“照明塔の脚部”


そぅ・・・


照明塔の脚部に蝦蟇法師は飛んでいた。

ここならば直接光を浴びない。

つまり影が出ない。


ズバリ!?


『燈台下暗し(とうだいもとくらし)』


且つ、

照明塔の脚部は、如何(いか)に乗っ取った肉体が大男であっても身を置くのに充分な大きさだった。

これを背にすれば後ろは取られない。


蝦蟇法師はバカではなかった。

充分、機知(きち)に富んでいたのだ。

戦う上での機知に。


「やるな!? 蝦蟇法師」


背後を取るのを諦めて、前に回って外道が言った。


「フン。 だから言ったろ。 俺が何年生きていると思っておる・・・とな」


「あぁ。 聞いた。 だが、何年生きようと蝦蟇は蝦蟇だ」


「フン。 負け惜しみを。 そんな台詞(せりふ)は勝ってから言え。 この俺様にな。 この俺様に勝ってから言え」


「あぁ。 そうしよう」


「ならば外道。 次はどうする?」


「ウ〜ム。 ・・・」


外道は即、次の攻撃に出られなかった。

直ぐには打つ手が思い付かなかったのだ。


それを見て、


「フッ、フフフフフ・・・」


蝦蟇法師が外道を見下し、鼻先三寸でせせら笑った。


「どうした? 外道。 何を躊躇(ためら)っておる。 さぁ。 掛かって参れ」


「ウ〜ム。 ・・・」


だが、

外道は躊躇(ちゅうちょ)していた。

決着を付ける事を。

百歩雀拳を繰り出せば一気に方が付く。

しかし、

それは同時に井戸の番人の命を奪う事になる。

だからといって蝦蟇法師のアストラル体を攻撃した先程の外道の “九字” は、全く通用しない。

何とかして井戸の番人の肉体から蝦蟇法師のアストラル体を引き離す策(さく)を講じなければ、外道に打つ手はない。

しかし、

今の外道にはその方法が思いつかない。

だから、

外道は躊躇(ちゅうちょ)していた。











すると・・・







つづく







#67 『鉄塔』の巻




「どうした? 外道。 ナゼ来ぬ? 臆(おく)したか? ・・・ (外道が躊躇している様子を見て) ・・・。 ならば、コッチから」


そう言ったか言わないうちに。


「キィィィィィ〜〜〜ィ!! リィィィィィ〜〜〜ィ!!


又しても、

あの凄まじい蝦蟇法師の雄叫びだ。

それと同時に、

蝦蟇法師が驚くべき行動に出た。

信じられない程の大ジャンプを見せたのだ。

空中高く飛ぶという。


しかし、

それは外道に向かってではなかった。

飛んだ方向は外道に向かってではあったのだが、

外道の頭上遥(はる)か上を飛び越えたのだ。


蝦蟇法師が飛んだ方向。

それは、

“照明灯を点ずるのに絶対に必要な場所”

“それがなければ電気が通じなくなる所”

即ち、

高圧鉄塔だった。




解説しよう。



知っての通り、今外道達が戦っている所には野球場並みの照明設備がある。

当然、

消費電力は半端(はんぱ)じゃない。

だから、

高圧線が必要になる。

それも、

普通の高圧線ではなく “特別” 高圧線が。

そして、

高圧線は専用の鉄塔上に配線されている。

これを “高圧鉄塔” と言う。


(注)

電気は発電所から “送電線” を通り、さらに “配電線” にのって家庭や工場に届けられている。

配電線には “高圧線”、 “低圧線”、それに “特別高圧線” の3種類がある。

このうち高圧線で送る電気の電圧は6,600ボルト。

又、

6,600ボルトより高い電圧を必要とする工場等は22,000ボルトで工場まで電気を送る。

これが特別高圧線である。




な、何をする気だ蝦蟇法師!?


そんな所で。


そんな所に飛び移って。


蝦蟇法師ょ・・・一体、お前は・・・











何を考えているんだ〜〜〜!?







つづく







#68 『消された・・・』の巻




(バス、バス、バス、バス、バス、・・・)



蝦蟇法師が手刀で “高圧線” を切り始めた。

2線が一個の碍子(がいし)に繋(つな)がれている高圧線が12本、

単線の様に見える高圧線が2本、

全部で14本を。 



(バス、バス、バス、バス、バス、・・・)



「アッ!?


と言う間に14本全てを切ってしまった。


その瞬間、



(バチ!!



屋敷中の照明が消えた。

当然庭の照明も。

恐らく、この屋敷と共にこの高圧線を利用している照明並びに電気製品・・・その全てが・・・消えたに違いない。


又、

運の悪い事に、先程迄出ていた月も今は雲に隠れている。


という事は・・・


この瞬間、


“蝦蟇法師の影も消えた”


という事になる。



(スタッ!!



蝦蟇法師が再び地上に降り立った。

照明等の脚部を背にして。

そして、上から目線で外道を見下してこう言った。


「どうだ外道。 これで最早(もはや)影留めとやらは使えまい。 フン。 ウヌの自慢の・・・な」


「ウ〜ム。 ・・・」


外道は呆然(ぼうぜん)としていた。

身動きが取れなかった。

戦況は “不利” の一言だった。

これまでの戦いで蝦蟇法師は常に外道の上を行っていたのだ。

つまり、これまで外道は蝦蟇法師に出し抜かれ続けて来た・・・という事だ。


正に “孫子の兵法”、


『兵は詭道(きどう)なり』 《戦(いくさ)と言うものは、如何(いか)に相手の裏をかき欺(あざむ)くか》


を実践され続けて来たのだ。

流石、蝦蟇法師・・・確かに千年生きて来ただけの事はある。

良く兵法に通じている。


その良く兵法に通じている相手に対し、今の外道にはその上手を行く次の一手が思い浮かばない。

即ち、

蝦蟇法師のドコをどう攻めたら良いのか、皆目検討(かいもく・けんとう)が付かないのだ・・・今の外道には。

外道の表情に焦(あせ)りの色が浮かぶ。


だが、

そんな外道に蝦蟇法師は容赦ない。


一気に畳み掛けて来た。


「セイッ!!


気合一閃、

蝦蟇法師が外道の懐(ふところ)に飛び込んだ。







つづく







#69 『前回とは違う展開』の巻




(グゥ〜〜〜ン!!



蝦蟇法師の右拳(みぎこぶし)が唸(うなり)りを上げた。

狙いは外道の腹部だ。



(ドカッ!!



激しく外道の腹部に直撃。

この攻撃は先程と全く同じだった。

まるでビデオでも見ているかのように。


しかし、


前回は、

その驚異的な破壊力に、一瞬にして外道は吹っ飛んだ。


だが、


今回は、

見た目は全く同じボディ・ブローなのだが、

全く同じボディ・ブローに見えたのだが、

吹っ飛ぶ代わりに、打たれた腹部を両手で押さえ、外道がその場で地面に両膝ついて屈(かが)みこんだ。


「グハッ!!


外道の呻(うめ)き声だ。


こ、これは効いているぞー!?

目が虚(うつ)ろだ。

さっきまで怒りに燃えて灼眼だった外道の目が、

今は虚ろだ。

その場に蹲(うずくま)ったまま立つ気配が見られない。


どうした外道・・・早く立て。

蝦蟇法師の次が来るぞ。


何をしている外道!?


早く立て!?


立つんだ外道!?


このままむざむざ遣(や)られてしまうつもりなのか〜〜〜!!!!!







つづく







#70 『見えないスイング』の巻




(ブォーン!! シュルシュルシュルシュルシュルー!! ブヮゥーン!!



凄まじい唸りを上げて蝦蟇法師の右鉄拳が振り下ろされた。

狙いは・・・その場で蹲(うずくま)り、虚ろな目で地面を見つめ、顔を上げようとしない外道の右コメカミ。

それはまるで竜巻のように高速旋回している。

その旋回の速さは、まるで “アームストロング・オズマ” の “見えないスイング” だ。




解説しよう。


アームストロング・オズマ” の “見えないスイング” とは?


かつて日本で放映された “スポ根アニメ” の代表作の一つに 『巨人の星(原作:梶原一騎、作画:川崎のぼる)』 というのがある。


星飛雄馬(ほし・ひゅうま)

星一徹(ほし・いってつ)

星明子(ほし・あきこ)

花形満(はながた・みつる)

伴宙太(ばん・ちゅうた)

左門豊作(さもん・ほうさく)

・・・

etc.


が、

主な登場人物だ。


その中の一人に、

このアームストロング・オズマがいる。


『巨人の星』 の放送期間は1968330日〜1971918日で、1話30分の全182話であった(らしい)。


「たった一球投げるのに30分かけて、その結果を知るのに一週間待たなきゃなんなかったんだぜ」


な〜んて懐(なつ)かしそうに、そんな事を “ほざく” オッサンもいる。

中々良いアニメだったらしい。


さて、


このアームストロング・オズマだが、

彼は幼少時代極貧の生活を送り、そのため “野球ロボット” としてしか生きられない宿命を背負う。

ある時オズマは、今現在 “田口壮” 所属の米大リーグ・チーム “セントルイス・カージナルス” の一員として来日し、星飛雄馬所属の “読売巨人軍” と対戦する。

オズマはその試合ではレギュラーとしてではなくピンチヒッターとして登場する。

そして、星飛雄馬の “大リーグボール1号” と死闘を演じる事になる。

その対戦で飛雄馬に自分と同じ野球ロボットの臭いを感じる。

彼は帰国すると直ぐ、渋るカージナルスのオーナーを自ら説得し、たったの1年という期限付きながら中日ドラゴンズに入団する。

これは、その時、中日でコーチをしていた星飛雄馬の実父、星一徹の強い要望でもあった。

希望通り中日に入団したオズマは、星一徹の厳しい指導の基、終に大リーグボール打倒ギブスによりそのあまりの早さ故肉眼では見る事が出来ないスイング、即ち、見えないスイングを完成させる。

この完成された見えないスイングにより、星飛雄馬投ずる大リーグボール1号は完膚(かんぷ)なきまでに叩き潰される。


この見えないスイングは・・・


野球ロボットと揶揄(やゆ)される程のオズマが受けた英才教育。

加えて、

オズマ自身が持つ鋼の意思、鋼鉄の肉体、機械のように正確な選球眼のみがなせる技であった。


又、

オズマには、

やがてベトナム戦争に出兵しそこで負傷し、それが原因で野球選手としての選手生命が絶たれる。

という悲しい運命が待っている。


この悲劇のヒーロー、アームストロング・オズマには、 『明日のジョー』 に出てくる “あの” 力石徹(りきいしとおる) と比べても決して引けを取らない魅力があるかも知れない。


最後に、

アニメ 『巨人の星』 の中で、この “アームストロング・オズマ” の “見えないスイング” を見てアナウンサーがこう絶叫したそうである。


「スロービデオでも見えないスイング!?


と。




(ブォーン!!



空(くう)を切る激しい唸り音を上げながら振り下ろされる蝦蟇法師の右鉄拳。

それは凄まじい破壊力を持っている。

まるで “アームストロング・オズマ” の “見えないスイング” だ。


狙いはその場でジッと蹲(うずくま)っている外道の左コメカミ。


これを食らったら一溜(ひとた)まりもない!!


どうする外道!?


これから逃れる術はあるのか!?



(シュルシュルシュルシュルシュルー!!



そうしている間も激しく唸りながら、容赦無く外道の左コメカミに迫り来る蝦蟇法師の右鉄拳。



(ブヮーン!!



終に、それが振り下ろされた。


だが、

その瞬間、



(スッ)



外道は体を捻(ひね)って、間一髪これをかわした。


日頃の鍛錬の賜物であろう。

外道は反射的にこの強力な蝦蟇法師の鉄拳をかわした。

それも紙一重で。

目で見る事無く、気配だけに反応して。


しか〜〜〜し、



(パスッ!!



完全にはかわし切れなかった。

僅(わず)かに蝦蟇法師の鉄拳が外道の額(ひたい)に触れていた。

否、

触れていたのであろう。



(プッ、シュ〜〜〜!!



外道の額が切れ、血が飛んだ。

例え触れたとしても、ホンの軽〜く触れたようにしか見えなかったのに。

否、

実際には全く触れていなかった筈だ。

まるで鋭利な刃物にでも切られたかのように血飛沫(ちしぶき)が上がった。


こ、これが・・・蝦蟇法師の鉄拳の威力か!?


!?


待てょ!?


まるで鋭利な刃物にでも切られたかのように・・・

まるで鋭利な刃物にでも切られたかのように・・・

まるで鋭利な刃物にでも切られたかのように・・・


 ・・・


も、もしや・・・


こ、これは・・・


バ、バカな!?


そんなバカな!?


そんな事がある筈が・・・!?







つづく