#71 『鎌鼬』の巻
も、もしや・・・
こ、これは・・・
“鎌鼬(かまいたち)”!?
バ、バカな!?
そんなバカな!?
そんな事がある筈が・・・!?
解説しよう。
“鎌鼬(かまいたち)” とは?
旋風(つむじかぜ)に乗じて飛来する “妖怪” と言われている。
姿は鼬(いたち)に似ていて、鋭い “鎌” を両腕に持ち、これとすれ違うと刃物で切られたような傷を負うとされる。
その傷の深さは時として骨にまで達する場合があり、切られた直後は何も感じず出血もしない。
だが、暫(しば)らくすると出血が始まり激しい痛みに襲われるという。
理由は分からないが下半身が傷つけられる事が多いらしい。
地方によっては “鼬(いたち)” ではなく “飯綱(いづな)” の仕業である、という所もあるようだ。
『構え太刀(かまえたち)』 が訛(なま)ったという説もある。
『耳嚢(みみぶくろ)』 という随筆集がある。
これは江戸中期に奉行職を歴任した根岸鎮衛(ねぎし・しずもり)という人物が、当時の珍談・奇談を書き留めた物なのだが、その中に・・・
『旋風に巻かれた子どもを助けたところ、その子の着ていた着物の背中一面に無数の “鼬の足跡” らしき物が付いていた』
という話が残っているそうである。
又、
鎌鼬に遭うのは山間部が殆(ほと)んどで、
『“内部に真空状態が生じている山風(やまかぜ)に遭遇(そうぐう)し、それが肌に触れ刃物で切られたような切り傷が出来る” といった自然現象の一つではないか?』
という説もある。
しかし、
それを証明した者は・・・
誰もいない。
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・
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つづく
#72 『蝦蟇鼬(がまいたち)』の巻
「ホゥ!? 外道ょ。 良くぞかわした。 この俺様の “蝦蟇鼬(がまいたち)” をな」
蝦蟇法師が言った。
『意外だ!?』
と言う表情を浮かべて・・・
解説しよう。
蝦蟇鼬(がまいたち)とは?
・・・蝦蟇法師が使う 『鎌鼬(かまいたち)』 だから、 『 が ・ ま ・ い ・ た ・ ち 』
それだけ de STAR 。
絵ッ、屁屁屁屁。
「クッ!?」
外道が小声で呻(うめ)いた。
そして、素早く大きく後ろに飛び退(の)いて立ち上がった。
同時に、
「キッ!!」
蝦蟇法師をにらみ付けた。
目に気が戻っている。
外道復活・・・か!?
その様子を蝦蟇法師は、
自(みずか)らも体勢を立て直しながら見下すようにニヤニヤ笑いながら見ていた。
蝦蟇法師、余裕のヨッチャンだ。
その蝦蟇法師をにらみ付けたまま、
(スゥ〜)
外道が切れた額の血を右手の甲で拭った。
(チラッ!!)
血の付いた右手の甲を見た。
(スゥ〜)
再び、目線を蝦蟇法師に移した。
「・・・」
それを蝦蟇法師は黙って見ていた。
「・・・」
外道も何も言わなかった。
二人は、暫しにらみ合った。
(ヒュー!!)
二人の間に一陣の風が舞う。
二人のにらみ合いはまだ続いている。
だが、
(シュッ!!)
突然、外道がスタンディング・ポジションからいきなり後ろに大きく一回転ジャンプした。
蝦蟇法師の間合いから出るためだ。
そして、
(スタッ!!)
着地した。
これは、今のその場の雰囲気からすると、全く予測出来ない動きだった。
良いジャンプだ!!
実に良い!!
だが、
そこへ、
(シュッ!!)
今度は蝦蟇法師が素早く飛び込んで来た・・・外道の懐の中に。
まるで、そこに外道が着地するのを予(あらかじ)め知ってでもいたかのように。
そして、
(ドコッ!!)
外道の腹部へ強烈なボディ・ブロー。
「グハッ!?」
外道が吹っ飛んだ。
先程のようにその場で蹲(うずくま)らずに。
(ヒュ〜〜〜、 ズサッ!!)
何とか倒れずに踏み止まった。
だが、
そこへ、
(シュッ!!)
再び蝦蟇法師。
そして、
(ドコッ!!)
強烈なボディ・ブロー。
「グハッ!?」
またしても吹っ飛ぶ外道。
(ヒュ〜〜〜、 ズサッ!!)
今回も何とか倒れずに踏み止まった。
だが、
(シュッ!!)
三度(みたび)そこへ蝦蟇法師。
そして、
今度は外道の顔面めがけて、
(グォ〜〜〜!! シュルシュルシュル〜〜〜!!)
まるで高速旋回するアームストロング・オズマの見えないスイングのような強烈な蝦蟇法師の “右” が、
唸(うな)りを上げて襲い掛かかった。
蝦蟇鼬(がまいたち)だ。
(ブヮーン!!)
それが外道の顔面めがけて飛んで来る。
危うし外道!?
これを食らったら命はないぞ〜〜〜!!!!!!
しか〜〜〜し、
(シュッ!!)
瞬間、
外道が消えた。
外道の姿が・・・その場から。
そぅ・・・
外道は使ったのだ縮地法を・・・
残った力を振り絞って。
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つづく
#73 『混乱』の巻
(スタッ!!)
外道が降り立った。
場所はテニスコート。
秀吉のこの屋敷の庭にはその広さを利用し、屋敷の裏手でやはり秀吉が経営している温泉旅館との共用施設として、体育館、プール、グラウンド(野球及びサッカー等が出来る空間)、それにテニスコートが6面ある。
そのテニスコートに外道は降り立ったいた。
だが、
そこに、
あたかも外道がそこに来る事を知ってでもいたかのように、
(シュッ!!)
突然、蝦蟇法師が姿を現した。
それも外道の目の前。
「クッ!?」
外道は焦(あせ)った。
しかし蝦蟇法師は容赦(ようしゃ)ない。
「セイッ!!」
の気合と共に、
(ドコッ!!)
又しても蝦蟇法師のボディ・ブローが炸裂。
「グハッ!?」
一言呻(うめ)いて吹っ飛ぶ外道。
又同じ事の繰り返しだ。
外道が、
(ヒュ〜〜〜、 ズサッ!!)
と吹っ飛び。
そこに蝦蟇法師が、
(シュッ!!)
飛び込んできて強烈なボディ・ブロー。
(ドコッ!!)
「グハッ!?」
外道が呻(うめ)く。
そして外道が縮地法で消える。
だが、チョッと遅れて蝦蟇法師が外道の着地点に姿を現す。
あたかもそこに来るのを知ってでもいたかのように。
しかも眼前。
「クッ!?」
外道は混乱していた。
ナゼ縮地法で逃げ切れないのか?
どうして蝦蟇法師に自分の着地点が分かってしまうのか?
それが分からず、外道は混乱していた。
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つづく
#74 『満身創痍(まんしんそうい)』の巻
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、・・・」
外道の息遣(いきづか)いだ。
酷く荒い。
最早(もはや)外道、満身創痍(まんしんそうい)。
立っているのがやっと。
それも真っ直ぐには立てず、
蝦蟇法師に打たれ続けたボディを両手で庇(かば)い、
猫背になっている。
(ニヤッ)
不気味に笑う蝦蟇法師。
そして言った。
「外道ょ。 いい戦いだった。 良く戦った。 褒(ほ)めてやろう。 だが、これで最後だ。 この一撃でな。 だから何か言い残す事が有ったら聞いてやる」
蝦蟇法師のその高慢な物言いを聞き、外道が言い返した。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、・・・。 最後? これで最後だ? フン。 笑わせるな。 お前のその驕(おご)りが必ず敗因になる。 ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、・・・。 だが、ナゼ? ナゼ俺の着地点が分かる? ナゼだ? ナゼ分かる。 ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、・・・」
「そんな事か。 簡単な事ょ」
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、・・・?」
外道は無言のまま蝦蟇法師の次の言葉を待った。
「フッ。 分からんらしいな。 いいだろう。 教えてやろう。 お前の腹(はら)を良〜く見てみろ」
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、・・・。 腹?」
外道は自分の腹に目をやった。
だが、
何も変わった様子はなかった。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、・・・。 腹がどうした?」
「もう一度、良〜く見てみろ。 お前の心眼でな」
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、・・・。 心眼?」
外道はもう一度腹を見た。
ボンヤリと焦点の合わない “あの” やり方で。
普通では見る事の出来ないエネルギーを見るための “あの” やり方で。
あの “外道流” のやり方で。
しかし外道は、
これまで何度も蝦蟇法師の容赦ない攻撃を受け続けて来たせいか、直ぐには眼(め)を心眼にシフト出来なかった。
それでも徐々にではあるが、シフトする事が出来るようになった。
外道の眼に外道のエネルギー体が見えて来た。
やがてそれは、
外道の肉体と分離してその肉体を覆うエネルギー体(俗に言う“オーラ”)として捉えられるようになった。
するとそこに・・・外道は見た。
明らかに外道のエネルギー体とは異なった見慣れぬエネルギー体が付着しているのを。
緑色をした球状のエネルギー体が付着しているのを。
大人の拳固(げんこ)一個分の球状をした見慣れぬエネルギー体が・・・外道の腹部に・・・確かに付着しているのを。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、・・・。 こ、これは!?」
外道は驚いた。
「あぁ。 そうだ。 それは俺のエネルギー体だ。 この俺のな。 この俺様のアストラル体の一部ょ」
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、・・・。 い、いつの間に!?」
「さっき、お前の腹部に加えた一撃があったろぅ。 お前が蹲(うずくま)った」
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、・・・?」
一瞬外道は考えた。
直ぐに、
『ハッ!?』
閃いた。
「あ、あの時の・・・!?」
「そうょ。 あの一撃は特別な一撃でな。 お前の腹部に俺のアストラル体を置くための一撃だったのょ」
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、・・・!?」
「お前の体にそれが付いている限り、俺にはお前の動きが手に取るように分かる」
外道はそのエネルギー体を取り払おうとして掴(つか)んだ。
だが、それは外道の手をすり抜けた。
もう一度やってみた。
結果は同じだった。
それを何度か繰り返した。
しかし結果は変わらなかった。
「ムダだ!! ムダムダ!!
つー、まー、りー、・・・
『無駄ーーー!! 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!』
それを取り除く事など出来ん。 この俺以外にはな。 この俺以外にそれを取り除ける者などおらん。 だからどうしてもと言うならこの俺を倒す以外に道は無い。 この俺様を倒す以外にはな。 そうすればこの俺様と一緒にそのエネルギー体も消えてなくなるゎ。 ゥワ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ。 ワハハハ。 ワハハハ。 ワハハハ。 ゥワ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ」
「クッ!?」
「ゥワ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ。 どうした外道。 何か言う事はないのか?」
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、・・・」
外道は黙った。
蝦蟇法師をにらみ付けたまま。
「・・・」
蝦蟇法師も黙った。
そんな外道の様子を観察するため。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、・・・」
「・・・」
暫(しば)し、二人の無言のにらみ合いが続いた。
だが、
外道が、
「スゥ〜〜〜。 ハァ〜〜〜。 スゥ〜〜〜。 ハァ〜〜〜。 スゥ〜〜〜。 ハァ〜〜〜。 ・・・」
何とか呼吸を整えて、
(スゥ〜)
ユックリ姿勢を正しくし、
(キッ!!)
蝦蟇法師の眼(まなこ)を確(しっか)と見据(みす)え、先に口を開いた。
キッパリと。
「あぁ、ある」
「フン。 なら聞いてやる、言ってみろ」
「あぁ、言ってやる。 オィ、蝦蟇法師!! お前の敗因は」
ここで外道は言葉を切った。
蝦蟇法師の反応を待ったのだ。
・
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・
・
つづく
#75 『呼吸法』の巻
「はいいん? この俺の?」
「あぁ、そうだ。 お前の敗因だ」
「ナーニ〜? 俺の敗因〜!? この俺様の敗因だとー!? フン。 ふざけた事を抜かしおって。 強がりも程々にしておけ」
「ふざけた事? ふざけた事なもんか。 俺は大真面目だ」
こう言って外道が、
(ギン!!)
蝦蟇法師をにらむ眼(め)に力を込めた。
否、
自然とこもった。
そして続けた。
「オィ、蝦蟇法師!! お前の敗因はだな・・・」
「黙れ!! まだ言うか」
そう言うが早いか蝦蟇法師が外道の懐(ふところ)に飛び込もうとした。
痺(しび)れを切らしたのだ。
蝦蟇法師が一歩踏み出そうと後方に重心を移動しかけた。
だが次の瞬間、
蝦蟇法師の顔色が変わり、
『ハッ!?』
として、
(シュッ!!)
逆に後ろへ飛んだ。
外道の間合いから出たのだ。
その時、蝦蟇法師がこれが外道の間合いだと直感したその外に。
攻撃を仕掛けようとした筈の蝦蟇法師が、
外道の懐に飛び込もうとした筈の蝦蟇法師が、
逆に後ろに飛んだ。
ナゼ?
どうして?
その訳は?
それは、
(スゥゥゥ〜〜〜)
外道が体勢を入れ替えたからだった。
構えに入ったからだった。
あの百歩雀拳の構えに。
『ヌッ!?』
蝦蟇法師は驚いた。
外道が攻撃態勢に入った事に。
これは意外だった。
まさか外道が直接自分の肉体に攻撃を仕掛けるような行動を取るなどとは、
蝦蟇法師は思ってもみなかったのだ、その時まで。
ナゼなら、今の蝦蟇法師の肉体は井戸の番人の肉体。
外道がその井戸の番人の肉体に直接攻撃を仕掛けて来るような行動を取るなどとは、思いもよらなかったのだ。
(ツ、ツゥ〜〜〜。 タラ〜、タラタラ〜)
蝦蟇法師の額から脂汗がタラ〜リ、タラ〜リと流れ落ちた。
そして言った。
「く、来るか外道!?」
「・・・」
だが、
外道は何も答えない。
ただ、
「スゥ〜〜〜。 フゥ〜〜〜。 ・・・」
呼吸法をしているだけだった。
静かに、
そしてユックリと、
呼吸法をしているだけだった。
あの百歩雀拳の・・・呼吸法を。
眼(まなこ)を半眼にして・・・
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つづく