#101 『秘策?』の巻




大蝦蟇は戻って来た大鎌を受け止め、

例の如(ごと)く柄にベロの先を巧みに巻き付けた。


だが、

又しても頭上で振り回すかと思われたその大鎌を、



(ガブッ!!



今度はナンとそのまま飲み込んだ。

大蝦蟇口(おおがまぐち)を開けて。


その様子は見るに耐えない。

余りの不気味さ故に。


そして大蝦蟇が言った。


「ホゥ。 その眼(め)!? ガッツを取り戻したという訳か? だが、何時(いつ)まで逃げ切れるかな? 外道ょ」


「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、・・・」


外道は肩で息をしている。

息が上がっている。



(カクカクカクカクカク・・・)



膝も笑っていた。


無理もない。

外道は今、圧倒的に強力な蝦蟇法師の攻撃を受け続け、最早(もはや)立っているのさえ不思議な程、満身創痍(まんしんそうい)だったからだ。


だが、


そんな外道のその眼(め)には、

アニメの主役張(しゅやく・ばり)の虹彩異色症(ヘテロクロミア)の外道のその眼には、

ハッキリと光が戻っている。


一度は諦めたように見えた外道だったが、

今のその眼には “やる気” という光がハッキリと出ている。


コレはいい。


コレはいいぞ、外道。


そのやる気。


何かあるのか、秘策でも?


ン?


ありそうだ!?


何かありそうだ!?


外道には何か秘策がありそうだー!?







つづく







#102 『“何か”を』の巻




(キッ!!



蝦蟇法師の目を見据(みす)えて外道が言った。


「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、・・・。 まさかコレを俺に使わせるとは・・・。 大したヤツだ、蝦蟇法師。 ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、・・・」 


「ン?」


「蝦蟇法師ょ。 今こそ見せてやろう。 ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、・・・」


「何を?」


「我が念法を。 ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、・・・」


「ホゥ? まだ何かあるのか? 影留めやら百歩ナンたらの他にも?」


「あぁ。 ある!! (キリッ!!) ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、・・・」


外道は一人目の井戸の番人の返り血をバッチリ浴びていた。

そしてその血で真っ赤に染まった服の内ポケットから、

何かを取り出した。


そぅ・・・


何かを。


次に繋(つな)がりそうな・・・











“何か” を・・・







つづく







#103 『そんなせこい』の巻




「フッ、ヮハハハハ。 ウ、ヮハハハハ。 ウ、ヮハハハハ。 ワハハハ。 ワハハハ。 ワハハハ。 ワッ、ハ、ハ、ハ、ハ。 何かと思えば紙切れ一枚か。 外道ょ。 気でも違ったのか? そんな物で何をする気だ? ン? そんな物で? そんな物でワレを倒す気か? 倒せるとでも思っておるのか、ワレを? そんなせこい紙切れ一枚で。 ン? フッ、ヮハハハハ。 ウ、ヮハハハハ。 ウ、ヮハハハハ。 ワハハハ。 ワハハハ。 ワハハハ。 ワッ、ハ、ハ、ハ、ハ」


「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、・・・。 あぁ。 思っているさ。 お前はこのせこい紙切れ一枚に敗れ去るんだ。 惨(みじ)めにもな。 ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、・・・」


外道が内ポケットから取り出した物。

それは、

一枚の紙と小さなカッターだった。


紙の大きさは、四つ折にされたA4版の白い紙。

井戸の番人の心臓を受け止めた時に受けた返り血は付いてはいなかった。

内ポケットに有ったのが幸いしたのだろう。


外道は素早く、しかし大切そうにその紙を広げた。


外道のその姿を、



(ニヤニヤニヤニヤニヤ・・・)



面白可笑(おもしろ・おか)しそうに。

否、



(ワクワクワクワクワク・・・)



何が始まるのかワクワクしながら身を乗り出し、ジッと外道の動きに見入る大蝦蟇。

その姿は、ヤッパリ不気味だ。


紙を広げ終わると外道が言った。

大蝦蟇の目をキッと見据(みす)えて、


「フゥー、フゥー、フゥ〜〜〜」


荒い呼吸を整えて、


こぅ・・・


「蝦蟇法師ょ。 良〜く見るがいい。 我が念法を。 我が・・・」







つづく







#104 『秘奥儀』の巻




「蝦蟇法師ょ。 良〜く見るがいい。 我が念法を。 我が外道念法秘奥儀(げどう・ねんぽう・ひおうぎ) “切絵生動(きりえ・せいどう)” を」



(ワクワクワクワクワク・・・)



相変わらずのワクワク感丸出しで蝦蟇法師が聞いた。


「ホゥ。 秘奥儀・・・切絵生動!? とな」


「あぁ。 そうだ。 秘奥儀・切絵生動だ」


そう言うと外道は、手にした紙の上部を左手でつまみ上げ、右手でカッターを入れた。

そして慣れた手付きで何かを切り始めた。

しかも素早く。

それは書道家が紙に筆で文字を書く以上の速さだった。



(ワクワクワクワクワク・・・)



大蝦蟇は何が起こるのか期待しながら外道を見つめている。

不気味な姿で。

不気味なワクワク感丸出しの姿で。


だが、


そんな事にはお構いなし。



(シャッ、シャッ、シャッ、シャッ、シャッ、・・・)



外道は、無心で何かを切り上げた。

そぅ、

無心で何かを・・・











一気に。







つづく







#105 『オムスビ』の巻




「フッ、ヮハハハハ。 ウ、ヮハハハハ。 ウ、ヮハハハハ。 ワハハハ。 ワハハハ。 ワハハハ。 ワッ、ハ、ハ、ハ、ハ。 何だ、それは? 何の心算(つもり)だ? フッ、ヮハハハハ。 ウ、ヮハハハハ。 ウ、ヮハハハハ。 ワハハハ。 ワハハハ。 ワハハハ。 ワッ、ハ、ハ、ハ、ハ」


大蝦蟇が呆れ果てたと言う表情で腹を抱え、

大笑いしながら言った。

外道が切り終えた紙を見て。


それは切絵(きりえ)だった。


そしてその切絵は・・・トグロを巻いた蛇だった。

外道は切絵の輪郭をカッターで切り抜き、大蝦蟇の大鎌に切られた傷口から滲(にじ)み出ている自らの鮮血をカッターの刃の先に着け、それでその切絵の蛇の目、舌、あるいは鼻の穴、それにトグロを巻いた部分など、手を加えなければならない所を巧みに書き込んでいた。

しかもそれをホンの一瞬んで。


だが、

その切絵の蛇は頭が異様にデカかった。

そのため、

見ようによっては巻きグソに乗ったオムスビに見えなくもなかった。

否、

そう見えた。

それが大蝦蟇には滑稽(こっけい)だったのだ。

しかし外道は真顔(まがお)だ。

否、

その表情には余裕さえ伺(うかが)える。

まるで勝利を確信してでもいるかのような。


どっから来るんだこの自信は?


一体どっから?


外道念法秘奥儀 “切絵生動(きりえ・せいどう)”。


果たして・・・


ハッタリや・・・











否(いな)や?







つづく