#111 『勝者が敗者に・・・』の巻




(ニャッ)



外道が笑った。

勝ち誇ったように。


今、外道は・・・


スックと立ち、

両腕を組み、

顎を上げ、

下目使いで、

大蝦蟇を見下(みお)ろし見下(みくだ)している。

自分より遥かに大きい相手の、

座った状態で3メートルもある大蝦蟇を、

1メートル75センチの外道が、

バッチリ見下ろし見下している。


「な、何の真似(まね)だ!? それは?」


大蝦蟇が聞いた。


「分からないのか?」


外道が答えた。


「あぁ、分からん、何だ?」


再び大蝦蟇が聞いた。


「この俺の姿を見て・・・本当に? ン!?


外道がチョッと茶化した。


「だから何だ?」


大蝦蟇は苛(いら)ついている。


「蝦蟇にはムリか。


つー、まー、りー、・・・


『無理ーーー!! 無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理ーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!


か。 やはり蝦蟇には分からないようだな」


「クッ。 さっきから聞いておれば蝦蟇蝦蟇とー。 ナメおってぇ」


大蝦蟇が怒り心頭に発して言った。

その姿を楽しむように半分ニタニタ笑ながら外道が言い返した。


「オィ、蝦蟇法師!! 人間様の世界ではな。 こうやって腕を組み、下目使いで見下して相手を見るのはな。 勝者が敗者に対する時の態度なんだょ。 良〜く覚えておけ」


「勝者が敗者に〜? 勝者が敗者にだ〜?」


「あぁ、そうだ」


「誰が勝者だ?」


「決まってるだろぅ、俺に」


「フン。 世迷(よまよ)い事を。 もう良い。 茶番はここまでだ。 食らえ外道!!


そう言ったかと思うと、

大蝦蟇が大蝦蟇口を開けて大鎌を吐き出そうとした。


だが、











その時・・・







つづく







#112 『二枚目の・・・』の巻




「待て!! 蝦蟇法師!!


外道が言った。


「話は最後まで聞け!!


もう一言(ひとこと)続けた。


「フン。 話〜!? 話だ〜? まだ何かあるのか?」


大鎌を吐き出すのを止めて大蝦蟇が聞いた。


「あぁ、ある」


「なら、言ってみろ。 だが、これが最後だ。 いいな。 これが最後だ」


「あぁ。 そう来なくっちゃなぁ。 やっぱ、最後は二枚目の台詞(せりふ)で決めたいもんなぁ。 二枚目の台詞で」


「フン。 誰が二枚目だ」


「俺に決まってるだろぅ」


「茶化すのは止めろ。 言いたい事があるのなら早く言え」


「まぁ、そう慌(あわ)てるな」


「いいから早く言え!!


大蝦蟇が怒鳴った。


「チッ。 気の短い奴だ。 いいだろう。 言ってやろう。 オィ、蝦蟇法師!!


「何だ?」


「お前の敗因はなぁ。 お前の敗因は・・・」


「エ〜ィ!? 又それか。 もう良い。 聞き飽きた」


堪忍袋の緒が切れ、終に大蝦蟇が大口を開けようとした。

大鎌を吐くために。

だが、

その前に外道が言い放った。


「否、良くない!! 最後まで言わせろ!! お前の敗因はな〜、蝦蟇法師。 ヤッパリお前は蝦蟇だった・・・だ!!


「いい加減にしろー!!


怒りに狂った大蝦蟇が大鎌を吐こうととうとう大口を開けた。


だが・・・










再び、外道が言葉でそれを制した。







つづく







#113 『天を指差すために』の巻




「待て!! 蝦蟇法師!! 今からお前に兵法を教えてやる」


『ヌッ!?


大蝦蟇は大鎌を吐くのを思い止まった。

これで二度目だ。

そして聞き返した。


「兵法!? 兵法だぁ?」


「あぁ、そぅだ!! 兵法だ!! お前の好きな孫子の兵法だ!!


「フン。 孫子の兵法などお前に聞かずとも分かっておるゎ」


「いいゃ。 お前は分かっちゃいない。 な〜んにも分かっちゃいない」


「ナ〜ニー? な〜んにも分かっちゃいないだと〜?」


「あぁ、そうだ」


「ならば聞いてやる。 お前の講釈とやらをな。 だから早く言え」


「そう焦らずとも言ってやる」


「・・・」


「オィ、蝦蟇法師!!


「チッ!!


度重なるこの 『オィ、蝦蟇法師!!』 という外道の呼び掛けにうんざりして、大蝦蟇が舌打ちをした。

いい加減イライラしている。

そして半分怒鳴るように聞き返した。


「エ〜ィ、何だ!?


そんな様子など全くお構いなしに外道が続けた。


「孫子 『九地篇』 を思い出して見ろ」


「孫子? 孫子 『九地篇』 だぁ?」


「あぁ。そうだ。 孫子 『九地篇第十一』 だ」


『ン!? 九地篇第十一? ・・・』


大蝦蟇はチョッと考えた。

何が書かれてあったか思い出しているようだった。


そして次の瞬間、顔色が変わった。


『ハッ!? ま、まさか!?


その変化をハッキリと見て取って、

余裕のヨッチャンこいて外道がこう言った。


「フッ。 どうやら分かったようだな蝦蟇法師。 そぅだ!! その通りだ!! あの蛇は・・・。 あの蛇はなぁ、蝦蟇法師。 初めっからお前に切らせる心算(つもり)だったんだょ」


そう言って、

外道はニャッっと笑った。


それから、

ユックリと右腕を上げ始めた。


人差し指を伸ばして。

他は握って、人差し指だけを伸ばして右腕を上げ始めた。


ユックリと・・・ユックリと・・・











天を指差すために。







つづく







#114 『目の前の・・・』の巻




大蝦蟇の視線は、外道の右手人差し指に向けられていた。


その指は・・外道の指は・・外道の右手人差し指は、

天を指差すためにユックリと・・ユックリと・・上がって行く。


それに連れて大蝦蟇の顔もユックリユックリ上向きになった。

当然、

目も天を見ることになる。


そして、

外道の人差し指が頂点を差した時。


『ヌッ!?


大蝦蟇は目を見張った。


それと同時に、


『ギョッ!?


かつてない驚きを味わった。


目にした真実。


目前の事実に。


瞬間、


大蝦蟇の顔が恐怖に引き攣(つ)った。

目の前の現実に・・・











驚愕して。。。







つづく







#115 『四本指の前足で』の巻




「シャー!!


鋭い威嚇音を発しながら、

さっきの白蛇が空から舞い降りて来ていたのだ。


本来、一刀両断された片割れが外道の足元付近に落ちた以上、もう片方も例え飛んだとしても落下までにこれ程の時間を要する訳はない。

このような事は起こりえない筈。

しかしそれは起こった。


ナゼか?


実はこれも外道の “手” だったのだ。

というのも、この蛇は普通の蛇ではない。

外道分身の蛇。

つまり、外道の意志で動かす事が出来る。

否、

正確には外道の “念” で動いている。

念で動かしている以上、外道は切断された頭部と尾部を自在に操る事が出来る。

そして蛇の頭部と尾部の落下時間差を設ける事により、蝦蟇法師の蛇の頭部への注意力を削いだのだ。

これ程の時間差が有れば、さしもの蝦蟇法師といえども流石に蛇の頭部が空中高く飛んでいた等とは思いもしなかった。

どこかその辺に転がった位にしか思っていなかったのだ。

大いに油断して深く考える事無く、反射的にアッサリと一刀両断してしまったあの時の蝦蟇法師なら。

そして外道が蝦蟇法師を二度言葉で制したのは、この蛇の落ちて来るタイミングを見計らっての事だった。


加えて、

蝦蟇法師をおちょくり回したのも又、外道の策略であり、蝦蟇法師の平静さを失わせるためだった。

まんまとその策に嵌(はま)り、外道の思惑通りに蝦蟇法師は頭に血が上ってしまった。

これは、蝦蟇法師がこれから起こるであろう出来事に対し、冷静さを失ったまま当らなければならない事を意味している。

つまり外道はこの点でも蝦蟇法師を上回っていたのだ。

仕掛けた心理戦にも外道は勝利していたのだ。



「シャー!!


バッサリと胴体を切られた蛇が、

大蝦蟇目掛けて舞い降りて来る。

上半分だけの外道の蛇が、

大蝦蟇の顔目掛けて舞い降りて来る。


否、


顔じゃない!?


目だ!?


大蝦蟇の目だ!?


蛇は大蝦蟇の目を狙っているぞー!!!



「シャー!!


猛然と白蛇が大蝦蟇の左目に襲い掛かった。


蛙のベロのスピードは速い。

だから、

ベロを使えばこんな物は簡単に振り払える。


だが、

今大蝦蟇のベロは口の中だ。

そして、

皮肉にも自らのエネルギーを実体化させた大鎌がその上に乗っている。

だから、

ベロが上手く使えない。

だからベロで対処出来ない。


大蝦蟇は急いで上体を起こして両前足を振り上げた。

四本指の前足を。

その前足で蛇を振り払う心算(つもり)なのだ。


「シャー!!


蛇はもう目前に迫っている。



(ブヮーン!! ブヮーン!! ブヮーン!! ・・・)



大蝦蟇は急いで両前足を振り回した。

その動きは大柄な図体からは想像出来ない程素早い。



(ブヮーン!!



そして、



(ピチッ!!



左前足が蛇に掛かった。

そのまま、

掴(つか)もうとした。


その時、



(シュッ!!



蛇が体をくねらせ、



(スッ!!



そのまま身を捩(よじ)って大蝦蟇の手をかわした。


だが、



(サッ!!



大蝦蟇が素早く手首を返した。

イキナリ180度手首を回転させたのだ。

蛙の手首の軟らかさのなせる技だ。



(ガシッ!!



終に、

大蝦蟇が蛇を掴まえた。



(ギュ!!



4本ある指のうちの一番上の指を親指のように巻きつけ、

蛇の頭(こうべ)から頭(あたま)二つ分下を握っている。

その柔らかい手で確(しっか)りと。 【注 : この蝦蟇は “四六のガマ” である】


そして、


「ニヤッ」


目線を下げ、

外道を見下ろし、

勝ち誇った様子で薄ら笑いを浮かべた。


しかし、


その時・・・











その時突然・・・







つづく