#116 『悲鳴』の巻




「グギァ〜〜〜!!


大蝦蟇が大声で悲鳴を上げた。

その大声は辺り一面に轟き渡(とどろ・き・わた)った。


そして、



(ドドドドドド・・・)



大地を揺るがせた。

まるで大地震だ。


その凄まじさは宛(さなが)ら、

GIBSON のベースギター THUNDER BIRD ” の一弦を “ Marshall 200W ベースアンプ Model:5522” に繋(つな)ぎ、

ボリューム全開で目一杯チョッパーした時のようであった。




解説しよう。



チョッパーとは?


別名 『スラップ』 と言い、弦をひっぱたいて音を出すエレクトリック・ベースギター奏法の事である。


その演奏法は、


基本的に、


1.親指で弦を垂直に振動させる様にタタク。

 手首には力を入れず、団扇(うちわ)で扇(あお)ぐカンジ。

 力加減としては、弦の反動で親指が跳ね返されない程度。


. 右手の人差し指を鉤状(かぎじょう)に曲げ、弦を垂直に振動させる様に引っ張る。


この2つの組み合わせが基本・・・らスい。





(ガブッ!!



蛇が、自分を握っている大蝦蟇の左前足の親指の働きをしている一番上の指に噛み付いた。

さらに、



(ブチッ!!



その指を食いちぎったのだ。

大蝦蟇の柔らかい指が災(わざわ)いして、

それは簡単に食いちぎられてしまった。


そして、


「ペッ!!


蛇は食いちぎった指を吐き捨て、


「シァー!!


鋭い威嚇音を上げ、

大蝦蟇に握られながらも逆に襲い掛かろうとしていた。



(ギン!!



顔面に怒りを露(あらわ)にして大蝦蟇が握っている蛇を睨み付けた。

そして、

そのまま握り潰そうとした。


だがその時・・・その時だ。


もし・・・


この場所が古代ローマの “殺せ有無” 否 “コロセウム(Colosseum)” だったとして、

超満員の観衆がいて、

この戦(たたか)いを観戦していて、

それまでこの攻防に大声援を上げていたとする。

まるでハリウッド映画 『ベンハー』 や 『グラディエーター』 の戦いのシーンのように。


その大観衆が、

一瞬、シーンと静まり返るであろう。


と、


思われる出来事が・・・











起こった。







つづく







#117 『雷鳴のような悲鳴』の巻




(ギン!!



大蝦蟇は怒りに任せて蛇に視線を向けた。


その瞬間、



(シュッ!!



外道の足元付近(あしもと・ふきん)から何かが飛んだ。


外道の足元付近から “何か” が・・・確かに。


しかし、

怒りの余り冷静さを失っている大蝦蟇はそれに全く気付かなかった。

そして、

親指の働きをしている指先を食い千切(ちぎ)られた手で掴(つか)んでいる蛇を、握り潰そうと力を入れた。


その時、



(ヒュー!!



空気を切り裂く鋭い音が聞こえた。

慌てて大蝦蟇が音のする方に目を向けた。


そして、


『ハッ!?


仰天した。


大蝦蟇の右目目前(みぎめ・もくぜん)に何かが迫っていた。

それは、

既に、目の前30センチにまで接近していた。

反射的に大蝦蟇は掴んでいた蛇を投げ出し、

両手を上げ、

それを叩き落そうとした。


だが、

一瞬遅かった。



(ズボッ!!



大蝦蟇の目に。

大蝦蟇の右目に。

それは突き刺さった。


それは何か?


それは・・・白蛇の下半分。

そぅ、

外道の蛇の尻尾だったのだ・・・それは。


「グギャー!!


一声、

凄まじい雷鳴(らいめい)のような悲鳴を上げ、



(グジュ!!



両手で右目に突き刺さっている蛇を引き抜き、



(グチャ!!



それを一気に握り潰(つぶ)した。


その時、


「シャー!!


今度は、

今、投げ出された蛇の上半分が鋭い威嚇音(いかくおん)を上げ、再び大口を開けて大蝦蟇に襲い掛かった。

大蝦蟇は握り潰した蛇の下半分を握ったまま威嚇音のする方に振り向いた。


だが、

その瞬間。



(ガブッ!!



それは大蝦蟇の左目にかぶりついた。

そして、



(ブチッ!!



大蝦蟇の左目を食いちぎった。


「グギャー!!


地面にもんどり打つ大蝦蟇。

両手で両目を覆っている。


大蝦蟇は凄まじい悲鳴を上げながら、



(ゴロンゴロン、ゴロンゴロン、ゴロンゴロン、・・・)



地面の上を転(ころ)げ回っている。



(ドドドドドドドド・・・)



その度(たび)に地響きがする。

否、

地鳴りと言ったほうがいいか?


この時、



(ブチッ!!



蛇の頭が潰れた。

転げ回る大蝦蟇の下敷きになったのだ。


しかし大蝦蟇はまだ、


「グギャー!!


悲鳴を上げ続けている。

大地を転げ回っている。


そして今、

辺りには誰もいない。

この目撃者は誰もいない。

外道の他には誰も。


ただ一人・・・外道のみ。

外道のみが、冷静にこの一部始終(いちぶしじゅう)を見ているだけだった。

仁王立ちした外道が、腕組みをしたまま全く動こうとはせず。


ただ、ジッと見つめている・・・











だけだったのである。







つづく







#118 『常山の蛇』の巻




解説しよう。



孫子 九地篇第十一” には、以下の件(くだり)がある。


即ち、


『故善用兵者 譬如率然 率然者常山之蛇也 撃其首則尾至 撃其尾則首至 撃其中則首尾倶至 ・・・』


『故(ゆえ)に善(よ)く兵(へい)を用(おこ)なうとは、 譬(たと)えば率然(そつぜん)の如(ごと)し。 率然とは常山(じょうざん)の蛇(へび)なり。 其(そ)の首(しゅ)を撃(う)たば則(すなわ)ち尾至(び・いた)り、 其の尾を撃たば則ち首至り、其の中(ちゅう)を撃たば則ち首尾倶(しゅ・び・とも)に至る。 ・・・』


『故に、戦(いくさ)の際(さい)の上手な兵(へい)の動かし方と言うのは、率然に譬えられよう。 率然と言うのは常山に住んでいたとされる “両頭の蛇” の事である。 この蛇はその頭(こうべ)が攻撃されると即座にその尻尾(しっぽ)が襲って来る。 又、その尻尾が攻撃されると即座にその頭が襲って来る。 更に、その腹を攻撃するとその頭と尻尾が同時に襲って来る。 ・・・』



ここで重要なのは上記の 『其の中(ちゅう)を撃たば則ち首尾倶(しゅ・び・とも)に至る』 の部分である。

今回、外道はここを用いたのである。



(注)


常山とは?


支那(シナ=現在のユーラシア大陸の一部)五岳、

即ち、


東岳泰山(とうがく・たいざん)

中岳崇山(ちゅうがく・すうざん)

南岳衡山(なんがく・こうざん)

西岳華山(せいがく・かざん)

北岳常山(ほくがく・じょうざん)


の一つ、

支那河北省曲陽県にある北岳常山の事である。




以下は余談だが・・・


聞く所によると、


今、

中国では深刻な環境汚染並びに破壊が進み、


日々、

数々の奇形生物が誕生しているそうだ。

(この中には人間も含まれている)


http://chiquita.blog17.fc2.com/blog-entry-2523.html (ショッキング画像注意 : 以下 同)

http://chiquita.blog17.fc2.com/blog-entry-2562.html

http://chiquita.blog17.fc2.com/blog-entry-2556.html

http://chiquita.blog17.fc2.com/blog-entry-2553.html 

http://chiquita.blog17.fc2.com/blog-entry-2545.html

http://chiquita.blog17.fc2.com/blog-entry-2542.html


etc.etc.etc.etc.etc.・・・



ひょっとすると近い将来、

頭部・尾部共に頭を持つ常山両頭の蛇の出現も有るかも知れない。


現に・・・


浙江省で両頭のヤモリ : http://chiquita.blog17.fc2.com/blog-entry-2522.html


四川省で双頭の牛 : http://chiquita.blog17.fc2.com/blog-entry-2580.html


etc.etc.etc.etc.etc.・・・


が発見されているそうだ。



【オススメ and 参考ブログ】 


HEAVEN 』 さん : http://chiquita.blog17.fc2.com/







つづく







#119 『油断』の巻




『油断』 と言う言葉がある。


“相手を見くびって気を緩める事”


“高(たか)を括(くく)って気を許す事”


“不注意”


等の意味だ。




外道の切絵の蛇は不細工(ぶさいく)だった。

異様に頭がでかかった。

これには以下の二つの狙いがあった。


一つ目は、

外道は端(はな)っから大蝦蟇のただ一点のみを狙っていた。

それは “目” だ。

影留めも百歩雀拳も通用しない対大蝦蟇戦に勝機を見出すには、これしかないと判断したからだ。

念力技が効かない相手には力技で挑まなければならない。

だが、

力技で歯が立つような相手ではない・・・大蝦蟇は。

そのため外道は大蝦蟇の目を奪う事により、圧倒的に格上の相手を互角のレベルに引き下げようと目論んだのである。

将棋で、初心者でも飛車角抜きなら上級者ともやり合えるのと同じ理屈だ。

もっとも、

セッカチな外道はなかなか勝負の付かない将棋は好まなかったのだが。


しかし、

将棋に非常に良く似てはいるが、比較的短時間で勝負の付くチェスは好きだった。

そしてチェス用語にこういうのがある。


『一点突破、全面展開』


序盤の布局が済んだ中盤以降に於(お)いて、いち早く相手の弱点を見出してそこを突き、一気呵成に畳み掛ける。

というような事を意味する。


外道はこれに倣(なら)った。

即ち、

目を潰す・・・これが一点突破。

その結果互角の戦いに持ち込み、倒す・・・これが全面展開。

である。


そのためには、

蛇の “牙” は出来るだけ大きくなければならなかった。

だから、

必然的に頭がでかくなってしまった。

しかもオムスビ型。

つまり毒蛇。

それも強毒性。

普通の人間ならこれに噛まれたら一溜まりも無い。

生命の危機・・・命が無い。

もっとも人間と比べ遥かに強い生命力を持ち、シンプルな肉体構成の蝦蟇、それも大蝦蟇には残念ながらこの蛇の毒性は余り効果は無かったが。


二つ目は、

こっちの方が今回の戦術上より重要なのだが、

蛇を敢(あ)えて不細工に見せる必要があった。


ナゼか?


それは、

大蝦蟇の油断を誘うため。


加えて、

最初、この蛇はトグロを巻いていた。


ナゼか?


簡単だ。


この蛇はA4版の白紙に切った物だった。

このサイズの紙に普通に蛇を切ると長さを取れない。

だが、

狙いは身の丈3メートルの大蝦蟇。

だから、

長さを増すために、外道は敢(あ)えてトグロを巻いた蛇を切ったのだ。


しかし、

トグロの理由はそれだけではなかった。


蛇にトグロを巻かせた真の理由。


それは、

“大蝦蟇にこの蛇の尻尾を見られたくなかった”

からだった。


つまり、

この蛇がその頭部のみならずにもう一つ。

そぅ・・・

もう一つ尾部にも頭(こうべ)を持つ蛇、

即ち、

常山両頭の蛇である事を外道は大蝦蟇に知られたくなかったのだ。


結果は、

外道の目論見(もくろみ)通りになった。

相手は、千年という永きを生き抜いてきた強(したた)かな千年蝦蟇法師。

一筋縄(ひとすじなわ)で行くような相手ではない。


だが、

流石(さすが)の蝦蟇法師も、切絵の蛇の不細工さについ “ゆ・だ・ん” してしまった。

加えて、

散々外道の心理戦に揺さ振られ冷静さを失っていた。

そのため、

後先(あとさき)考える事無く、襲ってきた蛇を安易に一刀のもとに両断してしまったのだ。

つまり、

まんまと外道の策に嵌(はま)ってしまったという訳だ。


正に、

孫子の兵法 『兵は詭道なり』 【戦(いくさ)と言うものは、如何(いか)に相手の裏をかき欺(あざむ)くか】 を地(ぢ)で行(ゆ)く、

外道、会心(かいしん)の・・・











タクティクス(戦術・駆け引き)だった。







つづく







#120 『逆襲』の巻




「おのれおのれおのれ外道!! よくもよくもよくもこんな真似を!!


一頻(ひとしき)りのた打ち回ってから、元のように座り直して大蝦蟇が怒鳴った。

全身に怒りのパワーが満ち満ちている。



(ビシビシビシビシビシ・・・)



それが周囲の空間を震撼させる。

凄まじいパワーだ。



ウ〜ム。 蝦蟇法師恐るべし!?



だが、

大蝦蟇の両目からは真っ赤な血が滴(したた)り落ちている。

既に、

大蝦蟇の両目は使えない。


「だ〜から言ったろ。 お前は惨(みじ)めにも、紙切れ一枚に敗れ去るんだ・・・とな」


相変わらず腕を組み、

スックと立ったまま外道が言った。


「クッ!? 抜(ぬ)かったわ」


大蝦蟇はもう落ち着きを取り戻している。

この辺りの立ち直りの速さは流石(さすが)だ。

伊達(だて)に千年生きてはいない。


更に、


「目など見えずとも、お前ゴトキ倒してくれるわー!! 喰らえー!!


突然、そう叫んだかと思うと、



(ガバッ!!



大蝦蟇が大口開けて大鎌を吐き出した。

それを、



(グルン、グルン、グルン、グルン、グルン、・・・)



巧みにベロを操って素早く頭上で何度か回転させた。

そして、



(ビヒューン!!



外道に向かって投げ付けた。

否、

外道のいると思われる方に向かって。



(ブヮーン、シュルシュルシュルシュルシュル・・・)



それは、

正確に外道に向かって飛んで来る。

信じられない程正確に。

視力を失ったのが嘘のように。

これが蝦蟇法師の底力。

下等生物の持つ・・否・・下等生物だからこそ却(かえ)って持ち合わせている能力。

人間には無い・・否・・仮に有ったとしても既に失われてしまった能力。

その名を “野生の本能” という。


『ウッ!?


外道は驚いた。

その余りの正確さに。

だが、

感心している暇は無い。

これをかわさねばならない。

しかし後に飛んだのでは当たってしまう。


本能的に、



(バタッ!!



外道は地面に平伏(ひれふ)してこれをかわした。



(シュルシュルシュルシュルシュル・・・)



それは、

大蝦蟇の元へと返って行く。

大鎌に実体化させたとはいえ、

元々は蝦蟇法師のエネルギー体。

操るのは自在だ。


再びこの、



(グルン、グルン、グルン、グルン、グルン、・・・)


(ビヒューン!!


(ブヮーン、シュルシュルシュルシュルシュル・・・)



が始まった。

前と全く同じように。

まるでビデオテープでも見ているかの如く。

大蝦蟇が目を失ったのが嘘のように。

唯一の違いは、外道の体を大鎌が掠(かす)らなくなった事だけだ。

やはり、大蝦蟇の目を奪ったのは正解だった。


暫しの間、これが何度か繰り返された。

その度に外道は前後左右に飛び回り、地面に身を伏せてこれをかわした。


そして最後の一投がそれまで同様、外道の体を僅かに外して飛んで行った。

それが同じように、



(シュルシュルシュルシュルシュル・・・)



大鎌が大蝦蟇の元へと返った。



(ガブッ!!



それを飲み込んで大蝦蟇が言った。







つづく