#121 『最後の攻撃?』の巻




「目など見えずとも良い。 外道ょ。 ワレには分かるぞ。 ウヌの居場所がな。 ウヌの息づかい、体温、動く気配。 それら全てで確実にウヌの居所が分かるというものょ」


「・・・」


「どうだ外道。 動けまい」


『クッ!?


「ここまでは良くやった。 褒(ほ)めてやろう。 だが、外道ょ。 既にウヌは満身創痍(まんしんそうい)。 その上、切絵ナンタラとやらの蛇も潰(つぶ)れてしまった今となっては・・・もう他に打つ手はあるまい」 


「・・・」


外道は何も言わない。

だが、

何もしていない訳ではない。

考えていたのだ。

次の一手を。


大蝦蟇の言う通り、既に外道は精(せい)も魂(こん)も尽き果てていた。

恐らく、

次の一手。

次の攻撃。

それが最後になるであろう。


外道はそれを良く承知していた。


大蝦蟇もそれを感じ取っていた。


そぅ、次が・・・











外道、最後の攻撃になるであろう事を。







つづく







#122 『容赦なしの連続攻撃』の巻




「どうした外道? 動いてみょ」


「・・・」


外道は無言のまま答えない。


「来ぬようだな。 ならばこっちから!!


そう言うか言わない内に大蝦蟇は大鎌を吐き出し、



(グルン、グルン、グルン、グルン、グルン、・・・)



ベロを使って素早く回転させ始めた。

そして、



(ビヒューン!!



外道がいるであろうと思われる方向へそれを投げ付けた。



(ブヮーン!! シュルシュルシュルシュルシュル・・・)



大鎌はブーメランのように回転しながら、カーブを描きながら、外道に向かって飛んで来る。

しかも、

相変わらず狙いは正確だ。



(ササッ)



横に飛び、



(サッ!!



地面に身を伏せ、何とかそれをかわす外道。

だが、

動きが鈍い。


疲労のためか?


しかし外道の動きなどお構いなし。


大蝦蟇は攻撃の手を緩めない。

容赦(ようしゃ)なしだ。


三度(みたび)、これが始まった。

大鎌を投げ付けては受け止め、投げ付けては受け止め、

の連続攻撃が。


その度に、



(ササッ、サッ!! ササッ、サッ!! ササッ、サッ!! ・・・)



ひたすら避け続ける外道。


だが、

何度目かの攻撃を受けた時、



(グラッ!!



外道がバランスを崩した。

体勢が崩れた。


石にでもつまずいたのか?

それともワザとか?

何か考えでも有っての事か?


そこに大鎌が飛んで来た。

そして、



(パスッ!!



終に大鎌が外道の体を掠(かす)めた。

それはホンの僅(わず)かだったが、間違いなく外道の胸を掠めた。


「ヌッ!? そこかー!!


大蝦蟇はそう叫んだが速いか、

戻って来た大鎌を受け止め、

空かさず大鎌を外道目掛けて投げ付けた。



(グルン、グルン、グルン、・・・。 ビヒューン!!



大鎌が外道を襲う。



(ブヮーン!! シュルシュルシュルシュルシュル・・・)



大鎌が外道目掛けて飛んで来る。

外道の首目掛けて飛んで来る。

狙いは正確だ。

避け切れなければ間違い無く首が飛ぶ。


どうする外道!?


これをどうする!?


果たして外道はこれを避け切れるのかー!?







つづく







#123 『妙案?』の巻




(ブヮーン!! シュルシュルシュルシュルシュル・・・)



大鎌が迫って来る。

激しく空気を切り裂きながら。

大きくカーブを描きながら。


だが、

外道に焦りの様子はない。


それどころか、



(ジィ〜〜〜)



大鎌の動きを見ている。

外道が大鎌の動きをジィーっと見ている。

それまで逃げ回ってばかりいた外道が。


どうした外道?


居直ったか?


それとも何か妙案でもあるのか?



(ブヮーン!! シュルシュルシュルシュルシュル・・・)



激しく回転しながら大鎌が外道の目前まで迫って来た。



(ブヮーン!! シュルシュルシュルシュルシュル・・・)



もうあと一回転で外道の首が飛ぶ。


その時、



(サッ!!



外道が素早く屈(かが)んだ。

それまでのように地面に這いつくばらず、屈んだだけだ。

そしてこれを避けた。


この瞬間終に、外道は大鎌の動きを完全に見切ったのだ。


だが、それには前がある。

それまで、唯、逃げ回っていたのではなかったのだ・・・外道は。

大鎌をかわす度にそのタイミングを計っていた。

つまり、大鎌をかわしながらその軌跡と自身の身の置き所の間合いを計っていたのだ。

そして大鎌の軌跡を見切ったと確信した時、外道は捨て身の勝負に出たのだった。


“肉を切らせて骨を絶つ”


という捨て身の勝負に。


実は、

先程グラついたように見えたのは、


“わざと”


だった。

外道はわざとグラついたのだ・・・三つの目的を持って。


先ずは、フェイク。

既に外道の体力が残っていないという事を大蝦蟇にアピールするため。


次に、

自分の計った計算を試すために。

そぅ、大鎌の軌跡を見切った事を試すために。

そして大鎌が胸を掠(かす)めた時、その時外道はハッキリとその軌道を、大鎌の軌跡を見切った事を確信したのだった。

しかも体もそれに付いて行く事が出来た。

これが二つ目。


更に、

それが故意にで有るにせよ、無いにせよ。

大鎌をその身に受けるという事は、同時に、今、外道のいる正確な位置を大蝦蟇が知るという事を意味する。

とすれば、大蝦蟇は次も同じ軌跡で大鎌を投げつけて来る・・・筈。

言い換えれば、大蝦蟇は同じ攻撃をして来る・・・筈。

という事になる。

これが三つ目の目的。


そして外道の思惑通り、大蝦蟇は前回と殆んど同じ攻撃をして来た。

殆んど変わらぬ軌跡で大鎌が飛んで来たのだ・・・外道に向かって。


とすれば・・・


飛んで返る軌跡も殆んど同じ・・・筈。



(ブヮーン!! シュルシュルシュルシュルシュル・・・)



大鎌が外道の頭の僅か上を掠めて飛んで行く。


そして、

大蝦蟇の元へと返って行く。

大蝦蟇の頭上2メートルへと。


例によって、



(ニュ〜)



大蝦蟇が長くて気持ちの悪〜い “あの” ベロを伸ばして大鎌を受け止めようとした。


だが、

正にその瞬間、


「キェーィ!!


鋭い気合一閃(きあいいっせん)、



(シュッ!!



外道が飛んだ。

大ジャンプだ。


度重なる念力技の使用に加え、

強力な蝦蟇法師の攻撃を受け続け、

最早エネルギーは尽き果て、

体力の限界に達している外道が信じられない大ジャンプを見せた。

歯を食いしばり、

残された気力の限りを尽くした大ジャンプを。


もう、外道に後はない。


これから外道が見せるであろう一連の攻撃は、

その全存在を賭けた、

命を懸けた、











外道、最後の攻撃である。







つづく







#124 『外道、最後の攻撃』の巻




(ニュ〜〜〜)



戻って来た大鎌を大蝦蟇が、

長くて気持ちの悪〜い “あの” ベロを伸ばして受け止めようとしている。

シュルシュルシュルっとベロの先を大鎌の柄に巻きつけようと伸ばしている。


そこへ、


「ジョヮッチ!!


外道が大ジャンプして来た。


そして、



(トン!!



大鎌の刃の上に飛び乗った。



(ガクン!!



瞬間、


大鎌の軌道が変わった。

外道のメタポッコリの体重分と飛び乗った時の衝撃分、

それは下に下がったのだ。


これは大蝦蟇にとって予想外の出来事だった。

両目の潰れた大蝦蟇にとって・・・

既に両目の視力を失っている大蝦蟇にとって・・・











これは全く予想外の出来事だったのである。







つづく







#125 『ホンの数人であろうと数百万人であろうと』の巻




そのシーンには誰もが言葉を失った。 (つまり、シーンとしていた。・・・なんちゃって)


もし、

この戦いを初めから見ている観衆がいたならば。

例えそれが、ホンの数人であろうと数百万人であろうと。


その時、そこで、その場所で・・・

誰しもが予想だにせぬ出来事が・・・

全く予期せぬ出来事が・・・

起こっていた。



(ガクン!!



外道が飛び乗った衝撃で大鎌の軌道が変わった。

大蝦蟇が大鎌の柄に舌先を絡みつけようとした正にその時に。


『クッ!?


大蝦蟇は焦った。

恐怖に顔が引き攣った。


『ま、まさか!?


の、

外道の攻撃。


だが、

時既に遅し。


次の瞬間、



(スパァー!!



大蝦蟇の首が飛んだ。

大蝦蟇の首だけが飛んだ。

大蝦蟇の胴体から離れて首だけが飛んだ。

大鎌に切られたのだ。

外道が飛び乗った大鎌に。

大蝦蟇の大鎌に。



(ビューーーン!!



大蝦蟇の首は、切られた時の衝撃で・・・か?

それとも自らの大鎌で首を切られないよう、避けようとした弾みで・・・か?

あるいは自らの意思で・・・か?

それは信じられない勢いで飛んで行く。

まるで 『平将門(たいらのまさかど)の首』 のように。


飛んだ方角は井戸。


間違いない。

あの古井戸のある方角だ。



(ビューーーン!!



大蝦蟇の首はあの古井戸目掛けて飛んで行く。


その時、



(ズサッ!!



大蝦蟇の首を刎ねた大鎌が地面に突き刺さった。



(ドサッ。 ゴロンゴロンゴロンゴロンゴロン・・・)



その反動で外道が地面に投げ出された。

外道は慌てて起き上がり、



(ジィ〜〜〜)



首の行方をしっかりと見定めた。


だが、

外道は後を追わない。

追おうとはしない。

まだやらなければならない事が有るからだ。

今しなければならない事が。

それがまだ残っているからだ。


目の前には首のない大蝦蟇がいる。

四つん這いのままで。

こっちを向いたままで。

首のない大蝦蟇が。


そして、

この大蝦蟇は普通の生命体とは違う。

蝦蟇法師のアストラル体の実体化した姿だ。


だから、

そんな事が出来るかどうかは全く分からないが、

もし、

あの首が戻って来て、

これに繋がるような事が有ったら、

それこそ厄介だ。


“アストラル体の実体化”


これは外道にとって未知の領域。

何がどうなるのか全く掴(つか)めない。

大蝦蟇の完全復活が起こりうるという事も否定できない。

だから、

外道が真っ先にやるべき事は唯一つ、


“一つ一つ始末する”


それだけだった。



(ピクッピクッピクッピクッピクッ・・・)



首のない大蝦蟇が痙攣している。



(プシュー!! ドクドクドクドクドク・・・)



首から血が滴り落ちている。

真っ赤な血が。


見るに耐えない不気味さだ。

この気色の悪さを表現する言葉が見当たらない。

それ程だ。


もし今、

この光景を目撃する者がいたら、

その余りの気持ち悪さのため間違いなく全員顔を背ける事だろう。

たったの一人を除いて全員が。


そぅ・・・


たったの一人を除いて・・・全員が。


そして、

そのたったの一人が呼吸法を始めている。

百歩雀拳の呼吸法を。

残っている気力、その全てを振り絞って。


出るか?


百歩雀拳!?











外道渾身の・・・







つづく