#131 『執念?』の巻




(ベチャ。 ズルズルズル。 ベチャ。 ズルズルズル。 ベチャ。 ズルズルズル。 ・・・)



蝦蟇法師の首は、

巧みにベロを手足の代わりにして地を這っている。

目指すは血みどろになって倒れている井戸の番人の大男。


先ず、



(ベチャ)



ベロを伸ばして前面進行方向に投げ出し地面に付ける。


次に、



(ズルズルズル・・・)



先っぽを地面に付けたままベロを縮めて首を引っ張る。


そして、

もう一度ベロを伸ばし、それを縮める。


この繰り返しだ。



(ベチャ。 ズルズルズル。 ベチャ。 ズルズルズル。 ベチャ。 ズルズルズル。 ・・・)



蝦蟇法師が行く。

大男の元へ。

一度に1メートルずつ。


蝦蟇法師の顔が歪む。

苦しいのであろうか・・・?

蝦蟇法師の顔が苦痛に歪んでいる。


だが、

蝦蟇法師は行く。

大男の元へ。

外道に証を見せるために。



(ベチャ。 ズルズルズル。 ベチャ。 ズルズルズル。 ベチャ。 ズルズルズル。 ・・・)



「ハァ、ハァ、ハァ、・・・」


蝦蟇法師の息が荒い。

苦痛の表情は更に険しさを増している。


しかし、

蝦蟇法師は止めない。


ナゼだ?


理由は分からないが蝦蟇法師は止めようとはしない。



(ベチャ。 ズルズルズル。 ベチャ。 ズルズルズル。 ベチャ。 ズルズルズル。 ・・・)



蝦蟇法師は行く。

大男の元へ。


外道に証を見せるために。

自分の後にユックリと付いて来ているであろう外道に交叉の証を見せるために。

他には何も考えず、唯それだけのために。


蝦蟇法師は行く。

大男の元へ。


蝦蟇法師、

最早執念・・・











か?







つづく







#132 『風と共に・・・』の巻




「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、・・・。 見ょ、外道!!


大男の元に辿(たど)り着いて荒い息で蝦蟇法師が言った。

続けて、


「これが証だ!!


そう言うと蝦蟇法師は “あの” 不気味なベロをニュ〜っと伸ばして大男の傷口を、

心臓を抉(えぐ)り取った時に出来た傷口を、



(ベロ〜リ)



舐(な)めた。

大男の心臓は無駄だと思いつつも先程、外道が元有った所に戻してあった。


すると、



(ビクッ!!



大男の体が大きく1回震えた。


死後硬直か?


その瞬間、

胸の傷が見る見る消え始めた。

そして、

直(す)ぐにそれは完全に消えてなくなった。


ホンの数秒で、

蝦蟇法師のたったの一舐めで、

それは完全に消えてなくなった。



(ズズズズズッ!!



蝦蟇法師の首が地面を擦(こす)りながらユックリと回転して来た。

外道の方に向き直った。

そして見えない目を見開いて外道を見た。

見えない目で外道を。


だが、

確かに目は見えなくなってはいたが、蝦蟇法師には外道が見えていた。

言葉なくジーっと自分を見つめている外道の姿が。

最早、

尊敬と表現しても過言でない万感の思いを胸に秘め、

ジーっと自分の行動の一部始終を見つめている外道の姿が、

蝦蟇法師の見えない目に、ハッキリと見えていた。


「見たか? 外道」


蝦蟇法師が外道に聞いた。


「あぁ、確かに」


外道が答えた。


「フッ」


満足そうな表情で蝦蟇法師がニッコリと微笑んだ。


そして、

静かにユックリと目を閉じた。

視力を失った両目を・・静かに・・そして・・ユックリと。

その瞬間、

蝦蟇法師の動きが止まった。

呼吸も停止した。



(スゥ〜〜〜)



生気が失せ始めた。



(スゥ〜)



蝦蟇法師の顔から生気が・・徐々に・・消えて行く。



(スゥ〜・・スゥ・・ス・・・)



終に、

それは完全に消えてなくなった。

この瞬間、

蝦蟇法師は事切(ことき)れたのだ。

外道に最後の攻撃を仕掛ける事無く。


ここを以って、

あの、

無敵の、

千年蝦蟇法師は死んだ。



(サッ!!



無意識に外道は直立不動の姿勢を取った、

事切れた蝦蟇法師の首に向かって。

指先をピンと伸ばした左手を体幹にピタっと付け、

こぶしを握った右手は胸に・・心臓の位置に・・付けている。

外道最強の敵、千年蝦蟇法師。

その “死” に対し、反射的に外道が見せた敬意の礼だった。


その時、



(ピュ〜〜〜!!



風だ!?


風が舞った。


この風は、ただの風なのか?


それとも蝦蟇鼬(がまいたち)の・・・?


そして、



(スゥー)



静かに蝦蟇法師の首が消え始めた。

まるでその風に乗ったかのように。


静かに・・静かに・・ユックリと・・ユックリと、

蝦蟇法師の首が消えて行く。


そのまま、

静かに静かに、

ユックリユックリ、

蝦蟇法師の首が・・・。


やがて、

蝦蟇法師の首は完全に消えてなくなった。

同時に、

あの大鎌も消え去った。

地面に突き刺さっていたあの大鎌も。

蝦蟇法師のアストラル体の一部から成っていたあの大鎌も。


蝦蟇法師は消えたのだ。

この世界から・・・完全に。


千年蝦蟇法師という恐るべき存在のいた事を知るたった一人の生き証人、

互いに全存在を懸けて死闘を演じたその相手、

今、自分に最高の敬意を表してくれているこの世でたった一人の友、

破瑠魔外道という類稀(たぐいまれ)なる技の使い手に見送られながら、

千年蝦蟇法師は今、この世界から完全に消え去った。


果たして蝦蟇法師はその最後のアストラル体を外道のアストラル体と交叉させたのであろうか?


それとも、

何もせず、

風と共に去ったのであろうか?


それを知る由はない。











全く・・・







つづく



おことわり:


あの〜。


首だけの蝦蟇法師が・・どうやって呼吸を???・・肺、ネェーじゃん!?


つー、突っ込みは・・・無し!!!


!?


オネゲェー致しやす。。。


“構成上の効果”


と言ふヤツでオジャル。。。


!?


ふぃくしょんだしサ・・いいょネ・・こん位。。。 ( by コマル)







#133 『足音』の巻




(スゥ〜)



外道の全身から力が抜けた。

そのまま、



(ドサッ!!



地面に崩れ落ちた。


それと相前後して、



(ピカッ!!



屋敷の明かりが点(とも)った。

庭の所々にある庭園燈も一緒に。


この屋敷にはどうやら補助電源が有ったようだ。

誰かがそれを使ったのだろう。

目覚めた誰かが。

無間(むげん)の眠りから覚醒した誰かが。

蝦蟇法師の夢幻(むげん)の呪縛から解放された誰かが。



(ガヤガヤガヤガヤガヤ・・・)



人の話し声がする。


その声が徐々に大きくなる。

声の主がこっちに近づいて来る。


初めのうちは何を言っているのか分からなかった。

だが、

それも次第にハッキリして来た。


こう言っていた。


「ナナー!! 破瑠魔殿ー!!


「ナナ様ー!! 破瑠魔様ー!!


「ナナ様ー!! ナナお嬢様ー!!


 ・・・


秀吉、大河内、使用人達の声だった。



(ドタドタドタドタドタ・・・)



足音が近づいて来る。

数人の足音が。


その内の一人が大声を上げた。


「オォー!? ナナ、ナナ!? こんな所にこんな所に!?


秀吉だった。



(タタタタタタタタ・・・)



こっちに向かって誰か走って来る。



(ピタッ!!



足音が止まった。

それと同時に、声が聞こえた。


「は、破瑠魔様!?


と。


声の主は・・・











大河内だった。 







つづく







#134 『一体何が?』の巻




「シ、シッカリなされょ、破瑠魔様!!


大河内が地面に倒れこんでいる外道を抱き起こした。


「大河内さんか?」


「ハ、ハィ!! お、大河内です。 (秀吉のいる方に振り向いて) 旦那様ー旦那様ー旦那様ー!! 破瑠魔様がー破瑠魔様がー破瑠魔様がー!!


大河内が叫んだ。


「い、否、いい、私はいい!! あの人だ、あの人!! 早くあの人に輸血を!! 急いで!!


大河内に抱き抱え(だ・き・かかえ)られながら、

外道が、たった今、蝦蟇法師が蘇生させた大男を指差してそう言った。

それからナナともう一人の番人が倒れている辺りを順次指差した。


「ナナさん、それから向こうで倒れている人の手当ても!!


「ハ、ハィ!! 承知致しました」


大河内は後から駆け付けてきた家人達に命じた。


「オィ!! ナナお嬢様とあの二人を急いで不良(ぶら)先生の所へ運んでくれ!!


その時、



(タタタタタタタタ・・・)



秀吉が小走りにやって来た。

そして外道に声を掛けた。


「オォー!? は、破瑠魔殿!? こ、これは・・・これは一体どうした事ですか? 一体何が?」


だが、

外道は何も答えようとはしなかった。

否、

答えられなかったのだ。











既に意識を失っていて。







つづく







#135 『事件現場』の巻




ある TV のワイドショー番組に於いて ―



(レポーター) 「こちら現場からの中継です。 昨夜、ココ、ペケペケ県ポコポコ市にある高圧鉄塔の送電線が何者かによって全て断ち切られるという事件が起こりました。 その影響でこの付近一帯全戸が停電した模様です。 原因は現在、警察と電力会社が調査中ですが、ハッキリした事はまだ分かっておりません。 あ。 丁度ここに、現場付近にお住まいの方がいらっしゃるようなのでチョッとお話を伺ってみたいと思いま〜す」 


レポーターが近くにいるオッサンにマイクを向けた。


(レポーター) 「すみませ〜ん。 あのー、チョッとお聞きしても宜しいでしょうか?」


オッサンが振り向いた。


(オッサン) 「ハィハィハィ、何でしょうか? ハィハィハィ。 (テレビの取材だと気付いて) オッ!? こ、これはテレビですかな?」


(レポーター) 「はい」


(オッサン) 「ど、どこの局ですかな? どこの局?」


(レポーター) 「はい。 今日も元気だ捏造(ねつぞう)だ。 捏造一直線でお馴染(なじ)みの “NHTBSK 日手ウジ夕日” で〜す」


(オッサン) 「オーオーあの捏造で有名な。 知ってます知ってます知ってます。 あの嘘こき放送局ですな、古舘 伊痴呆(ふるたち・いちほう)や鳥肥 糞太郎(とりごえ・ふんたろう)なんかのいる。 あの大嘘つきで有名な。 知ってます知ってます知ってます。 ところで今ワシ写っとるンですか? ワシ今テレビに写っとるンですか?」


(レポーター) 「はい。 チャ〜ンと写ってますょー」


(オッサン) 「そ、そうですかそうですか」


そう言うとオッサンは、レポーターから無理矢理(むりやり)マイクをもぎ取り、姿勢を正すとカメラに向かってこう言った。


眼(め)〜〜〜輝かせて。。。


(オッサン) 「エー、コホンコホン(軽い咳払い)。 ウ〜ン(痰を切って)。 有権者の皆様コンヌツヮ。 ワシが羽柴 精巣 秀吉(はしば・せいそう・ひできち)であります。 次期衆議院議員選挙に立候補予定の 『は・し・ば・せ・い・そ・う・ひ・で・き・ち』 であります。 サンギインではありまっしぇん。 シュウギインに立候補予定の 『は・し・ば・せ・い・そ・う・ひ・で・き・ち』 であります」


そのオッサンは秀吉だった。

慌てて秀吉からマイクを取り返してレポーターが言った。


(レポーター) 「す、済みません。 そんな事じゃなくって、あの送電線の事をお聞きしたいのですが」


再びマイクをもぎ取って、


(秀吉) 「そうですかそうですか。 送電線の事ですか送電線の事ですか。 ハィハィハィ。 分かりまスた分かりまスた分かりまスた。 ハィハィハィ。 ワシが羽柴 精巣 秀吉であります。 次期衆議院議員選挙に立候補予定の・・・」


再びマイクを取り返して、


(レポーター) 「す、すみませ〜ん!! みのさんみのさん、みのもんちっちさ〜〜〜ん!! な、なんか勘違いこいてるオヤジがいるので一旦マイクをお返ししま〜〜〜す」




― 画面がスタジオに切り替わる ―



(みの) 「ハィハィハィ。 滝川さ〜ん。 滝川クリキントンさ〜ん。 分かりましたー。 ご苦労さまーン。 取材の続き頑張って下さ〜〜〜い。 (改めてカメラに向き直って) いゃ〜、驚きましたねぇ。 ナンですかあれは? 衆議院に立候補予定だそうですょ、奥さん。 参りましたねぇ、全く。 世の中には変わった人がいるモンですなぁ、ホ〜ントに。 ワタシだってねぇ、このワタシだってねぇ。 実は今回の選挙出たかったンですょ、罠醜党(みんしゅとう)から。 でもねぇ、待てど暮らせどそのお誘いがなかったモンですからねぇ、諦めたってのにねぇ。 『肝炎だー!! 肝炎だー!!』 って、訴訟起して大騒ぎこいた、あの肝炎直って大酒呑みの河豚田 衣里子(ふぐた・えりこ)な〜んて河豚女なんかが出てんのにねー。 あぁ〜ぁ。 やってらんねぇょ、全く」


手元に置いてあったコップの水を一口飲んで、

大きく息を吸って、

みのもんちっちが叫んだ。


「チッキショー!! 何で俺が選挙出れねんだー!! こんちくしょー!! ふざけんなー!! 大ッ嫌いだ真っ赤な太陽なんてー!! 夕日のバカヤロー!! ガッデム!!


って。。。


その時・・・


突然、

画面がコマーシャルに切り替わった。











不自然に。。。







つづく