#136 『夢』の巻




(タタタタタタタタ・・・)



今、


一人の女子高生が、

短〜〜〜いスカート姿の女子高生が、

額に汗を掻(か)き掻き、

こっちに向かって走って来る。


相変わらずパンツは見えそうで見えない。

だが、

色は想像がつく。


          ノ´⌒`ヽ 

      γ⌒´      \

     .// ""´ ⌒\  )

     .i /  \  /  i )    

      i   (・ )` ´( ・) i,/    

     l    (___)  |      

     \    `ー'  /       

.      /^ .", ̄ ̄〆⌒ニつ  白だ!? (キリッ!!) 

      |  ___゛___rヾイソ⊃   

     |          `l ̄     

.      |         |         



多分。。。


否、


ベェージュって手も有るか?


ウ〜ム。




さて、



(タタタタタタタタ・・・)



どんどんどんどんどんどんどんどん・・・近づいて来る。

自転車置き場からココまで。

そして、


「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、・・・」


息を切らせてこう言った。


「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、・・・。 センちゃんさん!! ブッちゃんさん!! コウちゃんさん!! 先生はー? 先生もう帰って来たー? まだー? ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、・・・」


そぅ・・・


その女子高生の名は、雪。


そしてココは、

日本のとある痴呆 否 地方にある 『女木戸(めぎど)の丘公園』 という立派な名を持つ公園内に勝手に作られたテント村。

あのブルー・シャンティだった。


このブルー・シャンティのボス、センちゃんが言った。


「ヤー、雪ちゃん。 こんにちは。 どうしたのそんなに慌てて? 先生まだだょ」


その一の子分、ブッちゃんが言った。


「ヤー、雪ちゃん。 こんにちは。 ウン。 まだだょ、先生」


その二の子分、コウちゃんが言った。


「ヤー、雪ちゃん。 こんにちは。 まだね〜、先生帰って来ないんだょ」


「あ。 ごめんなさい。 センちゃんさん、ブッちゃんさん、コウちゃんさん。 こんにちは。 そっかー、まだか〜」


粗い呼吸を整えて、遅れた挨拶を済ませたと同時に、雪の表情が曇った。

空(す)かさずそれを見て取って3人が言った。


(センちゃん) 「大丈夫だょ雪ちゃん。 心配しなくても」


(ブッちゃん) 「そうだょ雪ちゃん。 まだあれから三日しか経ってないんだから」


(コウちゃん) 「心配性だなぁ。 雪ちゃんは」


それに雪はこう答えた。


(雪) 「ウン。 普通ならね、心配しないんだけどぉ・・・。 でもね、三日続けておんなじ夢見たんだぁ、アタシ」


(3人声を揃えて) 「どんな?」


(雪) 「ウン。 先生死ぬ夢。 先生がねー、化け物に食べられて死んじゃう夢。 でっかいガマガエルに食べられて先生死んじゃうンだょ。 こ〜んなでっかいガマガエルに食べられて。 こ〜んな・・・。 そんな夢」


雪が大袈裟な手振りを交えてそう言った。


(3人声を揃えて) 「おんなじ夢? 三日続けて? でっかいガマガエルに食べられちゃう? ・・・」


(雪) 「ウン。 アタシの夢見、当たるんだ。 だからね、だからアタシ心配で心配で、もう死にそう・・・」


(センちゃん) 「ダ、ダイジョブだょ雪ちゃん。 あの先生に限って・・・。 アハ、アハ、アハハハハハ」


(ブッちゃん) 「そ、そうだょ雪ちゃん。 ダ、ダイジョブだょ。 あの先生なら・・・。 アハ、アハ、アハハハハハ」


(コウちゃん) 「ワ、ワシもダイジョブだと思うょ。 げ、外道先生に限って・・・。 アハ、アハ、アハハハハハ」


ナンゾと笑って誤魔化してはみたものの、

急に不安になっちまった・・・

脇役3人衆なのであった。











あのひょうきんモンの・・・







つづく







#137 『部屋』の巻




「ゥ、ゥ〜ン」


男は静かに目を明けた。

部屋は暗かった。

意識がボンヤリしている。

再び目を閉じた。

別に眠るためではなかった。

目を開けているのが辛かっただけだ。

そのまま何も考えずにボーっとしていた。

暫(しばら)くそのままでいると音がしている事に気が付いた。

その音に注意を払った。



(チッ、チッ、チッ、チッ、チッ、・・・)



置時計が秒を刻む音のようだった。


『時計・・・か?』


男は思った。

そして、



(チッ、チッ、チッ、チッ、チッ、・・・)



何も考えずにその音を聞いていた。

頭の中がボーっとしていて何も考えられなかった。

全身の感覚が麻痺しているようだった。

まるで雲の上にでも寝ているような、

そしてそのまま虚空を漂(ただよ)ってでもいるかのような、

全くの無感覚。


唯、

時計の秒を刻む音だけが耳の奥で反響している。

男は暫(しばら)くジッとその音に耳を傾けていた。


突然、



(ポッ!!



体の中で何かが弾けた。


すると、

それまで思考が停止していたのが嘘のように一気に記憶が甦(よみがえ)って来た。

まるで真夏の夕立。

いきなり降り出す雷雨のように。


『ハッ!?


男は素早く目を開けた。

起き上がろうとした。


しかし、



(ズキッ!!



「ウッ!?


全身に激痛が走った。

あまりの痛さに起き上がるどころか動く事さえ出来なかった。


『クッ!? な、何がどうなっているんだ? こ、ここは? ここは一体?』


男は部屋の中を見回すため頭を動かそうとした。


だが又しても、



(ズキッ!!



「ウッ!?


痛みが走ってそれすら出来ない。

仕方がないので目だけで見える範囲をチェックした。


自分は今、どうやらベッドに寝ているようだ。

顔中包帯が巻かれているらしい。

出ているのは目、鼻、口、耳だけのようだ。

この分なら、まるでミイラ男か透明人間のように全身巻かれているかも知れない。


目線を動かしてみた。


天井は白かった。

壁は淡いクリーム色をしている。

この状態では床の色までは分からなかった。

他に見えた物と言えば、

あまり大きくない窓が1つ。

それは出窓のようだ。

その窓から見える外の日差しは強そうだった。

それを清楚な感じの空色のカーテンが適度に和らげている。

部屋の広さは20畳位か?

目視(もくし)だけではハッキリした広さまでは分からなかった。


『ここは・・・一体?』


男は再びそう思った。











その時・・・







つづく







#138 『出会い』の巻




新たな物語は・・・


この言葉から始まった。


「気が付いたか?」


誰かが話し掛けて来た。

聞き慣れない男の声だった。


と、


同時に、



(カチッ!!



何かのスイッチが入る音がした。


ややあって、



(ピカッ、ピカッ、ピカッ)



部屋の明かりが点った。


この部屋の照明は天井にではなく、壁に取り付けられていた。

天井から30センチ位下に奥行き20センチ位の棚があり、

その棚に天井向きに蛍光灯が据え付けられている。

明かりが直接目に入らないための工夫のようだ。

さほど強くはないが、それでも読書をしても目が疲れない程度の光量はあった。


再び同じ声がした。


「気分はどうだ?」


そう言いながら、ユックリとその声の主が視界に入って来た。

長身でスリム。

優に190cm以上あるだろう。

白衣を着ていた。

整った顔立ちで999.9(フォーナイン)のメガネを掛けている。

軽いパーマの掛かった髪は黒々として長く、うなじが隠れていた。

それを頭の真ん中から分けている。

年齢は30代半ば位か?

まだ40には達してはいないように思われた。


「アナタは?」


男が聞いた。


「医者だ」


そう言いながら、その長身の男が覆い被さるようにして寝ている男の目を覗き込んだ。

具合を見るために。


長身の男と寝ている男・・・


竜虎相見(りょうこ・あいまみ)えた瞬間である。


途轍(とてつ)もない男達が・・今・・始めて視線を交えたのだ。


だがその時はまだ、

二人共全くその事に気付いてはいなかった。


「たいした生命力だ。 普通ならとっくに死んでいたぞ、その傷じゃ」


「ここはどこですか?」


「俺の診察室だ」


「診察室? 一体何が・・・?」


「それはこっちの台詞(せりふ)だ。 お前は三日三晩意識不明だったんだぞ、ここで」


「三日三晩!?


「あぁ、そうだ」


「アッ!? か、彼は!? 彼はどうしていますか?」


突然、男は何かを思い出した。


「お前と一緒に連れ込まれた男か?」


「はい。 多分」


「あの男の事なら心配はいらん。 チャンと輸血はして置いた。 お前が大河内さんに言付(ことづ)けたようにな」


この言葉から察するに、寝ている男は・・・恐らく外道。

否、

間違い無く外道だ・・・話の流れからして。


「じゃ、じゃぁー。 彼は生きているんですね? 助かったんですね?」


外道と思われる男が興奮して起き上がろうとした。


だが、



(ズキッ!!



「ウッ!?


全身に激痛が走った。


「ダメだ、ムリをするな!! お前はまだ動けるような体じゃないんだ」


医者だと言った男が叱り付けた。

そして続けた。


「心配するな。 何があったかは知らんが。 不思議な事に全身血塗(ぜんしんちまみ)れだったくせに傷一つなかったぞ、あの男。 もっとも、傷がなかった代わりに血がなかったがな」


「そ、そうですか、それは良かった」


外道はあの大男が無事だと聞いてホッとした。

だが、

直ぐに、


『ハッ!?


気付いた。

井戸の番人の大男はかなりの時間、心臓の機能が停止していた。

つまり全身に血液が全く回っていなかったという事になる。

とすれば、脳や内臓の細胞が壊疽している筈。

それに気付いたのだ、外道は、その時。

即座に外道が聞いた。


「い、意識は? 彼に意識はありますか?」


「あぁ、意識はハッキリしている。 もっとも完全回復までにはもう少し時間が必要では有るがな」


「脳に異常は? チャンと会話は・・・」


「脳に異常?」


「はい」


「そんな物は全くない。 衰弱が少々酷いだけだ。 だがそれも時間の問題だ」


「そうですか、それは良かった。 ・・・」


そう言って外道は黙った。

安心したのだ、大男が無事だと聞いて。

だが、

それだけではなかった。

それと同時に、

外道は改めて蝦蟇法師の能力(ちから)に驚いていた。

一度死んだ筈の人間を蘇生させてしまった、あの蝦蟇法師の能力(ちから)に。

それは神のみに許される事だからだ。

否、

神すら持ち合わせてはいないかも知れない能力(ちから)だ。

外道の頭の中には今更ながらこの言葉が思い出されていた。


「・・・。 ワレは、ワレこそは自(みずか)らのエネルギー体を意のままに操(あやつ)れる生命体。 究極の生命体。 即ち、 “神” ゾ。 ・・・」


蝦蟇法師の言ったこの言葉が・・・

そのため外道は沈黙していたのだ。

だが、

そんな外道に、


「フン。 妙な事を聞くヤツだ」


その長身の男がクールに言った。

その言葉を聞き、


『ハッ!?


外道が現実に返った。

と同時に、

ナナともう一人の井戸の番人の事が閃いていた。

閃いた時には言葉にいなっていた。


「アッ!? ほ、他の、他の二人は?」


「あぁ、皆(みんな)無事だ。 今、別室で安静にしている。 まだ点滴が必要な状態だが命に別状はない。 ところで何があった?」


「・・・」


外道は答えなかった。

一瞬、表情が険しくなった。

目の前にいる医者だと言った男。

もしかすると自分の命の恩人かも知れない。

その恩人かも知れない男の問い掛けだ。

だが、

外道は頑な(かたくな)に答えようとはしなかった。


『守秘義務を全うする。 だから喋らない』


その覚悟、決心が眼(め)に現れていた。

医者だと言った男は素早くそれを読み取り、


「言いたくなければそれでも構わん。 余計な詮索(せんさく)は好まん。 (もう一度、具合を見るために外道の両目を覗き込んで) フン。 ヘテロクロミアか。 妙なヤツだ」 《ヘテロクロミア : アニメで言う金銀妖瞳の事。 医学用語では虹彩異色症(こうさいいしょくしょう=オッド・アイ)と言う》


そう言った。

クールに、そしてドキッとするほど冷ややかに。

この男には感情がないのか?

そう思われても仕方がない程冷淡に。


だが・・・偶然か?


それとも・・・必然か?


奇妙な事にこの医者だと言った男の目も又、

オッド・アイ 《=虹彩異色症、即ち、金銀妖瞳(ヘテロクロミア)》 だった。

その眼色が寝ている男とは左右対称の。











そこへ・・・







つづく







#139 『絶対安静』の巻




(トントン。 カチャ!!



ドアをノックする音。

続いてドアノブの回る音がした。


それから、



(ギー、 パタン!!



誰かが入って来た。

様子を見ながらユックリと近付いて来る。

寝ている男と立っている男、

二人の男の様子を見ながらユックリと。


そして寝ている男に向かってこう言った。


「オォー!? 破瑠魔殿!? 気が付かれましたか?」


秀吉だった。


破瑠魔殿と言われた以上、

やはりそこに寝ている男は・・・外道だった。


秀吉が医者だと言った男に聞いた。


「先生。 如何(いかが)ですか? 破瑠魔殿の具合は?」


「絶対安静だ」


「そうですか。 じゃぁ話す事も?」


「否、話位ならいいだろう。 ただし10分。 いいな。 10分だ」


「はぁ、10分ですな。 承知しました」


そう言うと秀吉は寝ている外道に言葉を掛けた。


「教えて下され破瑠魔殿。 あの晩一体何が有ったのですか?」


「・・・」


だが、外道は黙っていた。

それを見て何かを感じたのだろう。

医者だと言った男が、


「俺は失礼したほうが良さそうだ。 何か有ったらベルを押すように。 緊急連絡用のベルを。 コレだ」


秀吉にベルの場所を指し示し、

表情一つ変えずに部屋から出て行った。


秀吉は軽い会釈で見送り、

再び外道の方に向き直った。

その秀吉に外道が聞いた。


「今の人は?」


「あぁ。 不良(ぶら)先生。 不良孔雀(ぶら・くじゃく)先生。 うちの旅館の専属医です。 客や使用人に何か有った時のためにと、お願いしていてもらっております。 凄腕ですぞー。 チョッと気難しいのが玉に瑕ですが・・・。 アハ、アハ、アハハハハハ。 兎に角、腕の立つ先生です。 大袈裟なようですがゴッドハンドという言葉は正にあの方のために有る言葉、お世辞抜きで世界に二人といない名医です。 こんな事を言うのもなんですが、うちの旅館には全く持って勿体無い逸材です」 


「と、いう事は、ココは?」


「はい。 うちの旅館据え付けの診察室です。 実は、ワシの屋敷の裏手は旅館になってましてなぁ。 はい。 ココはその旅館の方です」


「診察室? 旅館に?」


「はい。 何せうちは湯治やリハビリのために来る客が多いもんでして・・・。 もっともそれが売りの一つでもあるんですが。 はい」


「あぁ、そうですか〜。 あぁ、な〜るほど」


ここで一旦外道は言葉を切った。

こう思っていた。


『そう言えば確か、蝦蟇法師も言ってたっけ。 湯治に来た客が井戸でなんとか・・・。 そんな事を』


そして続けた。


「しかし、何で又そんな名医が?」


外道は自分の置かれている状況が徐々に分かって来た。

それと同時に、不良に少し興味を持った。


「はぁ。 それには色々と訳が・・・」


秀吉が言葉に詰まっている。

何やら言いにくい訳がある様子だ。


「言いにくそうですな。 野暮な事は聞きますまい」


「はぁ。 申し訳ござらん・・・。 そんな事より破瑠魔殿。 お聞かせ下され。 あの晩一体何が?」


秀吉は再び外道に同じ質問をした。


しかし、

外道は直ぐには答えなかった。

目覚めて間もないため、まだ上手く考えが纏(まと)められなかったのだ。







つづく







#140 『あの晩の出来事』の巻




(フゥ〜)



「そーですかぁ。 そんな事が有ったんですかぁ」


秀吉が短足 否 嘆息(たんそく)してそう言った。

何とか記憶を整理し、あの晩の出来事を外道が語ったのを聞き終えた後に。

そして続けた。


「千年蝦蟇法師ですかぁ?」


「はい」


秀吉の目を見ながら外道が答えた。


「恐ろしい話ですなぁ。 あの井戸に、あの井戸の中にそんな恐ろしい化け物が住んでおったとは。 正に知らぬが花でしたなぁ」



(ピクッ)



秀吉の言った 『恐ろしい化け物』 という言葉に外道はチョッと引っ掛かった。

が、

黙っていた。


「じゃぁ、何ですな。 その呪いとやらは今、破瑠魔殿の体のどこかに?」


「否、その心配はないでしょう」


「ナゼですかな? その化け物が死ぬ前に掛けたんじゃぁ・・・」


コレを聞き、外道は一瞬、目を閉じた。


『化け物かぁ・・・』


やはり外道には化け物という言葉が引っ掛かかったのだ。


その圧倒的強さ故、外道最強の敵、千年蝦蟇法師。

化け物という言葉は余りにも侮辱が過ぎた。


『ま、一般人には無理か。 やっぱ化け物・・・。 そうなるか』


外道は、そう思い直して目を開けた。

そして秀吉に向かってキッパリと言った。


「否、彼にはワタシに呪いを掛ける時間はありませんでしたょ」


「どういう事でしょう?」


怪訝(けげん)そうに秀吉が聞き返した。


「千年蝦蟇法師はあの井戸の番人の彼の傷を治す事に精一杯で、ワタシに呪いを掛ける暇は無かったのです。 もっとも、そうなるようにワタシが仕向けたのですが。 だから心配は無用なのです」


この言葉を聞いて合点がいったのだろう、秀吉の表情が一気に明るくなった。


「あぁ、そういう事ですか。 そうですかそうですか、流石(さすが)は破瑠魔殿。 一石二鳥の見事な作戦勝ちと言う訳ですな、一石二鳥の作戦勝ち。 ワハハハハハ」


「そういう事です」


視線を秀吉から天井に移して外道は思った。


『千年蝦蟇法師ょ。 アンタはヤッパリ・・・。 蝦蟇だった』







つづく