#11 『サイズ』の巻




「その手械(てかせ)は?」


ナナの嵌(は)められている手械を指差して外道が聞いた。


「はい。 こうして置きませんと、又、夜中に外に出て井戸に飛び込もうとするからでございます」


秀吉がそれに答えた。

表情に 『困った事になった』 という思いが見て取れた。


「昼間は?」


「はい。 昼間は普通に生活致しております」


「普通に?」


「はい。 あ!? ただし、部屋から出るのは風呂とトイレに行く時だけで後はズーっとこもりっ放しで、この頃ではもう誰とも口を利かなくなり、出した食事にもほとんど手をつけない有様。 ほとほと困っております」


「と、いう事は?」


「はい。 娘がおかしくなるのは、決まって深夜2時から2時半に掛けてなのでございます」


「深夜2時から2時半に掛けて? ・・・。 ウ〜ム。 丑三つ時ですな」


「はい」


「チョッと。 お嬢さんと話したいのですが?」


「はい」


頷くと、ナナに向かって秀吉が言った。


「ナナ。 こちらが悪名(あくめい)・・・。 あ!? い、否、有名な破瑠魔先生だょ。 悪霊退治で有名な」


「・・・」


ナナは全く反応を示さない。

ただ、

悲しそうに俯(うつむ)いたままジッと押し黙っているだけだった。


語気を強めてもう一度、


「ナナ」


秀吉がナナに呼び掛けた。


「・・・」


やはり無反応だった。


ナナのベッドは西側に枕が来るように置かれてあった。

ナナはその上に正座している。

つまりナナは東に向いて座っている。

そのナナの正面に外道は立った。

そして声を掛けた。


「ナナさん」


「・・・」


だが、ナナは返事をしない。

もう一度聞いた。


「ナナさん」


「・・・」


やはり返事をしない。

そして、もう一度。

今度はもう一言付け加えて。


「ナナさん・・・。 乳(チチ)のサイズは?」







つづく







#12 『外道の問い掛け』の巻




「乳(チチ)のサイズは?」


『エッ!?


ナナが顔を上げた。

思いがけない問い掛けに反射的に取った行動だ。


外道と目が合った。

二人は暫(しば)しの間見詰め合った。


やはりナナは美しかった。


腰まで届きそうな長くて美しい黒髪。

色白で卵形の顔。

細く、濃く、優美にカーブした眉。

綺麗に通った鼻筋。

上品でプックラとした唇。

そのラインが美しい。


そして、もっとも特徴的な点。


それは、

美しい黒曜石(こくようせき)を思わせるような “黒く濡(ぬ)れた瞳”。

しかし、決して下品でもなければ嫌らしくもない。

が、

ナナの瞳は確かに黒く、そして・・・濡れていた。(作者 否 外道好みに)


ナナは目を切りたかった。

だが、

外道の目がそれを許さなかった。

外道の目はどこか人間離れした凄みというか深みというか、かと言って動物のそれとは違う何かがあった。

それがナナの心を惹きつけた。


「ナナさん」


もう一度外道が話し掛けた。


「はい」


素直にナナが返事をした。


「オォー!!


「オォー!!


「オォー!!


「オォー!!


「オォー!!


秀吉、大河内それに3人の世話係の女達が一斉に驚きの声を上げた。

この数日、ナナは全く声を出さなかったからだ。


外道が続けた。


「乳のサイズは?」


『エッ!?


再びナナは驚いた。

初対面の相手に、それも見るからにスッケベそうなオッサンに、又しても乳のサイズを聞かれたからだ。

だが、目を切れない。

外道の目がそれを許さない。

ナナの目を睨み付けるのではなく、静かにジッと外道が見つめている。

見つめる外道のその目をナナは、


『何て、遠〜い眼(め)』


言葉ではなく感覚でそう感じた。

と、同時に。

その目の前には一切の嘘、見栄、虚飾といった物が無意味で有る事も感じ取っていた。


ナナは今、外道の前に無防備になっている。

否、無防備にさせられていると言った方が正解か?

そして奇妙な感覚を味わっていた。


“無防備の安心感”


という奇妙な感覚を。


すると、

突然、ナナの意思とは無関係に次の言葉が口を突いて出た。







つづく






怨霊バスター・破瑠魔外道・35歳 #13 『コミニュケイション』の巻




92です」


突然!!


ナナの意思とは全く無関係にこの言葉が口を突いて出た。


それは、

外道の 『乳のサイズは?』 という思わぬ問い掛けに意表を突かれ、自分の意思とは全く無関係に条件反射的に口を突いて出てしまったのだった。


そしてナナの声は掠れていた。

ここ数日、言葉を殆んど発していなかったためだ。


このナナの 『92です』 という答えに、今度は外道が反応した。


「ウム。 揉(も)みごろだ」


外道が力強く頷いた。


外道は・・・・・・正直者だった。


「・・・」


ナナは、外道に乗せられてつい正直に答えてしまった事を後悔しているのだろう、


『ハッ!? し、しまった』


という表情を浮かべ、ただ黙っている。

しかし外道から目は切れなかった。

なんとなく気まずそうだ。

一方外道はといえば、相変わらずナナの目を見つめる事は見つめてはいたが、 “感覚の目” は別だった。


そぅ。


外道の感覚の目は全く別の物を見つめていたのだ。

そしてその全く別の物・・・


そ、れ、は、


チチだーーー!!


ナナのチチだーーー!!


ナナのでかチチ、はみチチだーーー!!


その時、外道はジッとナナの乳を見つめておったのじゃった。

それもスッゴク揉(も)みたそうに。


このやり取りを見るに絶えず、


「コホンコホン!! あ、あの〜。 は、破瑠魔様。 そ、そのようなお話は・・・」


大河内が横から嘴(くちばし)を容(い)れて来た。

予想外の方向に進展しつつある話の成り行きが全く見えず、目が泳いでいる。

秀吉の心中を察しての事もあってだが。

その秀吉はといえば、どうリアクションして良いか分からぬといった風で目をパチクリしているだけだった。


外道が大河内に言った。


「あ!? いやいや。 そうでしたそうでした。 アハ、アハ、アハハハハ!! しっかし、コレも又、その〜、ナンです。 関係者とコミニュケイションを取る手段の一つという事で。 事実、ナナさんは口を開いた。 どうです? 違いますかな? アハ、アハ、アハハハハ!! 心配ご無用。 アハ、アハ、アハハハハ!!


「は、はい。 ま、まぁ、そうではございますが・・・」


大河内もリアクションに困っている。


それを尻目に、

再びナナの方に向き直り外道が言葉を掛けた。


「ところでナナさん」


「はい」


「聞かせてもらいましょう。 貴方の言葉で」 (キリッ!!


いきなり凛々(りり)しい・・・











外道であった。







つづく








#14 『外道の左眼』の巻




「幻覚は何時(いつ)頃から?」


外道が聞いた。

ナナは言葉に詰まっている。

色々思いを巡らせているのが見て取れた。


不意にナナの目から、



(ポロ、ポロ、ポロポロポロ・・・)



大粒の涙が溢れ出した。

そして相変わらずの掠れ声で叫んだ。


「ア、アレは幻覚なんかじゃ有りません!! か、観音様です!! た、確かに観音様ですー、観音様なんです〜〜〜!! ゥア〜〜〜!!


ナナが泣き崩れた。

今迄、抑えに抑えていた感情が言葉を発した事により一気に爆発したのだ。

顔を両手で覆いベッドにうっ伏(ぷ)して、声を上げて泣いている。

重い鎖を着けた両手のままで。


この突然の出来事に、一瞬の間があった。

しかしすぐに気を取り直し、秀吉、大河内、3人の世話係の女が急いでナナに駆け寄ろうとした。


だがその瞬間、


『ハッ!?


全員が息を呑んだ。

同時にその場で固まっていた。


既に外道がナナを抱き起こしていたからだ。

その素早さはとても人間業(にんげんわざ)とは思えなかった。

今、ナナと相対峙していた筈なのに、次の瞬間にはナナの体を抱いていたのだ。

次に外道は、強引にナナの両手を顔から外した。

というより、顔から剥ぎ取ったと言った方が正しいか?

そして厳(きび)しくナナに命じた。


「俺の左目を見ろ!!


「・・・」


ナナは絶句している。

半泣きのままで。

そして息を殺して外道の左目を見つめている。


もう、ナナは泣けない、泣く事が出来ない。

リズムが狂ったからだ。


どういう事かと言えば、ナナにはナナの泣くリズムがある。

だが、

この余りに素早い外道の一連の動きに、ナナのリズムは付いて行けなかったのだ。

つまり、この突然の出来事にナナの心の機能が停止してしまい、もうそれ以上泣く事が出来なくなってしまっていたのだった。

そして、今のナナに出来る事はたったの一つ。


心の機能が停止したまま外道の左目を見つめる事・・・











ただ、それだけだった。







つづく







#15 『ジャストフィット』の巻




読者の皆さんには不意に、


“スゥ〜〜〜”


っと意識が遠くなったという経験がお有りだろうか?

めまい、立ちくらみとは違い、 “スゥ〜〜〜” っと意識が遠くなる。

そして、そのまま意識がなくなる。

そんな経験が?


今のナナがそれだった。

外道の左目に見つめられ、“スゥ〜〜〜” っと意識がなくなった。


外道の目には特徴が有った。


“オッド・アイ”


そぅ、オッド・アイ。


即ち、


“虹彩異色症(こうさい・いしょく・しょう : heterochromia iridis)”


という特徴が。




解説しよう。


“オッド・アイ” 即ち、 “虹彩異色症(こうさいいしょくしょう)” とは・・・


虹彩の色が左右の目で異なる。

あるいは、一方の瞳の虹彩の一部が変色している症状。

具体例として、左右が金銀色違いの目をした猫がよく取り上げられる。

それともローゼンメイデンの “翠星石”、 “蒼星石” の目と言った方が分かりが早いか?


異常 否 以上。




翠星石、蒼星石とは違い外道の目は、


右目が黒。

左目が茶。


だった。


もっとも、それ程極端な違いという程ではない。

しかし、

一目で左右の目の色の違いに気付く位には違っていた。


その茶色い虹彩をした外道の左目も又ナナの左目を見つめていた。

そしてナナの左目を通してナナの中の何かを掴み、ナナの感情のコントロール機能を即座に遮断したのだ。

いとも簡単に。

そぅ。

電気のスイッチを切る位、いとも簡単に。

これが外道の眼力である。



(ガクッ!!



外道の腕の中でナナの体の力が抜け落ち、目を閉じ、意識を失った。

普通ならそのままベッドに寝かしつけるところだ。

だが、

外道はそうはしなかった。


その時外道が何をしていたか?


そ・れ・は・・・!?


『こ、このムニュムニュ感が堪らん。 こ、このムニュムニュ感が〜〜〜・・・』


良〜く見ると、

外道の腹部にナナの左乳(ひだり・チチ)がフィットしているではないか。


そ、れ、も、


ジャストフィットだー!!


つー、まー、りー、


ドサクサに紛(まぎ)れてチャッカリ、ナナの乳の感触を楽しんでいる外道なのであった。

そしてその場には、その事に気付いた者は誰一人いなかった。

外道はそのまましばらくナナの乳の感触を楽しんでから、凄く残念そうにナナを寝かし付けた。

凄く、凄〜〜〜く、残念そうに。

こんな漢字 否 感じで、


『も、もうチョッとだけ。 ウン。 もうチョッとだけ。 あとチョッとだけ・・・』


ナンゾと思いながら・・・











ナナを寝かし付けた。







つづく