#21 『外道が使った技の名』の巻




外道が使った技の名・・・


そ、れ、は、


“祝!?痴呆 否 縮地法(しゅくちほう)”


といった。




解説しよう。


一瞬にして相手との間合いを詰める “瞬間移動の技”。

コレを “縮地法” という。

仙術の技の一つとされる。

日本では、もっぱら “ Teleportation (テレポーテーション)” という名で呼ばれる事の方が多い。

(縮地法を Google 先生に聞くと、色々面白い話を教えてくれますょ : 作者)


外道お得意の技だ。

先程のナナの部屋でのナナの意表をついた素早い動きもコレだったのだ。




ジィーっと、しかし油断無く、外道は井戸の中を覗きこんだ。

手にした懐中電灯のお陰でシッカリと観察が出来た。

先程感じた妙な悪寒と動きは無かった。

が、

強い瘴気は相変わらずだった。


用心深くジックリと慎重に、そして丹念に井戸の中を調べる外道。

その間、約10分。


それから外道はユックリと井戸から離れた。

体の向きを変えずに。

つまり後ろ歩きでだ。

そして、同じ姿勢のまま鉄格子の外へ出た。

鉄格子の扉を閉めて始めて体の向きを変えた。

先程見せたあの一瞬の動きと全く正反対の外道のその慎重な行動が、返って秀吉達の不安を一層煽(あお)った。

それは秀吉達が、瞬(まばた)き一つせず、息を殺して外道の動きに見入っていた事で明らかだった。


ズーンと辺りの空気が重い。

言葉を発する者は誰もいない。


外道が腕組みをして考え始めた。

その動きに合わせるかのように大河内が鉄格子の扉に鍵をかけた。



(カチャ!!



鍵の掛かる音がした。

大河内が振り返った。

それを見て外道が言った。











「瘴気の本が行動を起こすまで待ちましょう」







つづく







#22 『超セレブ』の巻




「ワシらはこれからどうすれば・・・?」


心配そうな顔で秀吉が聞いた。


「先ず屋敷に戻って。 詳しい話はそれから」


外道が答えた。


外道達3人が屋敷に着いたのは10分後だった。

しつこいようだがそれ程この庭は広かった。

その間誰一人声を出す者はいなかった。


外道は考えていた。

どうすれば良いかを。

その存在は確かなのだがまだ実体が掴めていない何者かを、どうしたら良いかを。

しかし、


『考えても無駄か? 待つしかないか?』


コレが結局結論だった。


屋敷に着くと外道は “いわゆる” 4階に案内された。

ナゼ “いわゆる” か?

前にも言ったがこの屋敷にはどうも隠しフローが存在していそうだからだ。


そこにはだだっ広いリビングダイニングがあった。

広さがどの位有るのか外道には見当がつかない。

一寸したレストラン位は楽に有りそうだ。

他に、ナナの部屋同様、白いロココ調の家具で統一されたゴージャスとしか言いようの無い客間が二つ。

その2つの客間にはそれぞれ、高級デパートに有るような超豪華トイレとチョイとした銭湯一個分のバスルームが設けられていた。

バスルームには地下から汲み上げた温泉が引いてある。


大河内の説明によると泉質は、

“カルシウム(マグネシウム)、炭酸水素塩泉、ナトリウム炭酸水素塩塩化物泉” の “重曹泉” との事だった。

俗に言う “美人の湯” という奴だ。


何から何まで “超セレブ”。


そぅ。


“超セレブ”


それしか表現の仕ようが無い。

何をすればこんな屋敷が建てられるのか?

貧乏人の外道には皆目見当がつかなかった。


そして問題の “ナナの部屋” も・・・











このフロアーに有った。







つづく







#23 『遅い夕食』の巻



「破瑠魔殿。 これからワシ達は、どうすればいいでしょうか?」


長い沈黙を破って再び同じ質問を秀吉がした。

今、超高級レストランを思わせるだだっ広いリビング・ダイニングに、外道、秀吉、大河内の3人がいる。

中央には、

まるで中世ヨーロッパの貴族が使うような白いリンネルのテーブルクロスで覆われた、超豪華な長〜いテーブルがある。

当然、テーブルの上には超高価な純銀製と思われるアンティーク調のスリーアーム・キャンデラブラ(3本枝の燭台)が乗っている。

その燭台の各アームには、普通のキャンドルの代わりに上品な香りのアロマ・キャンドルが焚かれていた。

そこに主人と主賓(しゅひん)が座るように秀吉と外道が対峙(たいじ)して座っている。

大河内が世話係だ。

テーブルには、後から後から超が2つも3つも付きそうな豪華な食事が運ばれて来る。

調理場で作らせているのだろうか?

フレンチのコース料理だ。

ただし、状況が状況なだけにアルコール類は無い。


料理は、あのブラックラグーンのロベルタを思わせる、しかしナナの世話係とは別の制服姿の女が入り口まで運び、それを大河内が受け取り外道と秀吉の下へと運んだ。

食器は全てこれまた超高価なマイセンのブルーオニオン。

ナイフ、フォーク、スプーンは皆、刻印入りクリストフルのスターリングシルバー925

そして仕上げのコーヒーは、トアルコトラジャ。

それが、やはりマイセンのコーヒーカップに注がれた。

当然スプーンもスターリングシルバー925のティースプーンだ。

全てが超セレブ御用達(ごようたし)だ。


二人はその料理を無言のまま食べ続け、丁度今食べ終わったところだった。


『しっかし、いっくら極上の食いモンでもこんなに食器に傷つけないよう気にしながら食ったんじゃ、旨くもなんともねぇょな』


本音ではそう思いながら外道が言った。


「ご馳走様でした」


「お粗末様でした。 お口に合いましたかな?」


テーブルナプキンで口を拭(ふ)きながら、満足そうに秀吉が聞いた。


「そりゃもう」


一応社交辞令でそう答える外道ではあった。


が、


『合うわきゃねぇょ』


そう思っていたのは言うまでも無い。



そして先程のあの問い掛けがあったのだ。


「破瑠魔殿。 これからワシ達は、どうすればいいでしょうか?」


というあの問い掛けが。

それに、


「ここで時間が来るのを待ちましょう。 丑三つ時を」


と外道が答えた。


「丑三つ時を? で? ワシ達は何を・・・?」


「先ずナナさんには見張りを」


「先程の3人ではダメでしょうか?


つー、まー、りー、・・・


『駄目ーーー!! 駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目ーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!


でしょうか? 他に誰かを?」


「否。 彼女達で充分です。 しかし、彼女達は一体いつ休んでいるのですか?」


「あぁ、それなら昼間ローテーションで一人ずつ。 その間必要があれば、ワシか大河内か手の空いてる方(ほう)が代わって付き添っております」


「なる程なる程。 (部屋の隅の、しかし目立つ所にある立派な柱時計を見て) まもなく10時ですな。 シッカリ腹ごしらえも出来た事だし、チョッと遅かったですが」


「も、申し訳ございません」


「あ!? イャイャ。 そういう意味ではありません。 誤解なさらずに。 何せ事情が事情ですからな。 アハ、アハ、アッハハハハハ・・・」


「そう言って頂けますと。 はい」 (汗)


「ところで、空いてる部屋はありますか?」


「ございますが。 何か?」


「えぇ。 丑三つ時にはまだ時間があるのでチョッと一眠り。 休める部屋をお借りしたいのですが」


「あぁ、そういう事でしたか。 ならばナナの隣の客間をお使い下さい」


そして大河内に合図した。


「オィ!! 破瑠魔殿を薔薇(ばら)の間へ」


「畏まりました」


大河内が一礼した。


このフロアーの客間は夫々(それぞれ) “薔薇の間”、 “百合(ゆり)の間” という名前で呼ばれていた。

薔薇に百合?

フムフム。

なる程なる程。

その名に相応しい部屋だ。

勿論、超豪華という意味でだ。

なにせ日本の超一級ホテルの最高級スィートルームも真っ青のグレードだったからだ。


大河内が外道に言った。


「破瑠魔様。 どうぞこちらへ」


「かたじけない。 (秀吉に) では、後ほど」


「はい。 ごゆっくりお休み下さい」


秀吉の視線を背後に感じながら大河内の案内で、


“薔薇の間”


へと向かう・・・











外道であった。







つづく







#24 『ナナの寝姿』の巻




「あぁ。 その前にチョッとナナさんの様子を」


そう言って、外道はナナの部屋に近付いた。

大河内は立ち止まって成り行きを見ている。



(コンコン)



「ナナさん。 失礼」


外道がナナの部屋のドアノブを掴んだ。

ドアに鍵は掛かっていなかった。



(ガチャ。 キー)



ドアを開けて部屋の中の様子を伺(うかが)った。

3人の世話係の女達が一斉に外道を見た。


「ナナさんは?」


女の一人が答えた。


「まださっきと同じ。 ズーっとお休みになられたままです」


外道はベッドに目をやった。

先程同様ナナは眠っている。

布団は掛けずに。


ん?


先程同様?


布団は掛けずに?


つー事は、


ナナは浴衣姿で、手に鎖。


且、


“はみチチと迄は行かないもののチョビットだけ。 そぅ、チョビットだけチチコンニチハ状態”


しかもその姿で、


“ね、 て、 い、 る”


こ、これは!?

こ、これは美味しい!?

こ、このシチュエイションは美味しい!?


とっても オ ・ イ ・ シ ・ イ ・ !?



『しっかし、エェ乳(チチ)やなぁ〜〜〜』



(ゴックン)



生唾(なまつば)ゴックンの外道であった。


当然、


今の外道に緊張感は・・・


全く・・・











無い。







つづく







#25 『深夜1時の目覚まし時計』の巻




(ペーペケ、ペケペケ、ペッ、ペッ、ペッ。 ペーペケ、ペケペケ、ペッ、ペッ、ペッ。 ぺ〜〜〜。 ペーペケ、ペケペケ、ペッ、ペッ、ペッ。 ペケ、ペーペケ、ペッ、ペッ、ペッ。 ・・・)



目覚(めざ)まし時計のお目覚め音楽だ。

曲は “エドワード・エルガー( Edward Elgar )” の 『愛の挨拶( Salut d'amour )』。

時間は午前1時ジャスト。


「ゥ、ゥ〜ン」


外道が目覚めた。


「ファ〜〜〜ァ、・・・。 アァ〜。 良く寝た。 何時だ? (目覚まし時計を見る) 1時か。 良し」


外道は素早く飛び起きた。

そして、

シャツとパンツ姿のまま (外道は寝る時はいつもシャツとパンツだけだった。 それは冬でも) 照明を点け、部屋備え付けの洗面化粧台で顔を洗った。


タオルで顔を拭きながらフト前を見た。

鏡に顔が映っている。

動きを止めて鏡に見入った。

ウットリとその鏡に映った己の顔に見入っている。

暫(しば)しウットリこいてから、一言こう言った。


「いゃ〜。 いっつ見ても、エェ男やな〜。 ホンマ〜・・・」


って。


ついでにこうも思った。


『コレ、この目。 この左右色違いのこの目。 正式名称は虹彩異色症(こうさいいしょくしょう)。 しか〜し!! アニメなんかじゃ金銀妖瞳(ヘテロクロミア)って言うんだょな、こういうの。 カック良いー。 そ・れ・に、この唇!! このキスしたくなるようなこの唇。 コレ、コレが女にはたまらんのじゃー。 コレがー。 エヘ、エヘ、エヘヘヘヘ・・・』


って。


そんでもってそんでもって、


「ニマ〜、ニマ〜」


ってした。


外道はとっても・・・ナルナルだったのだ。


それから据付の姿見に姿を映し、ポーズを取って再びウットリこいた。

取ったポーズはゴリラのポーズ。

ボディ・ビラーの良くやるアレだ。

あのゴリラのポーズ。


外道はユックリとボディ・ビラーのやる一連のポーズ、

即ち、ゴリラのタンゴを踊りきった。

それで充分満足したのだろう。

少しく悦に入ってから、フッと力を抜いた。

途端(とたん)に、プクッとお腹が出た。


ポッカリお腹だ!?


そぅ、


“ポッカリお腹”。


つまり、


この頃外道は、


“ポッカリお腹のメタボ君”


だった。











のであった。







つづく