『進撃のコマル( Attack on DIABLO )』 #4




突然・・・



「オッ!? 蛇魔子じゃないか!?


背後から声がした。

その声を聞き反射的に、


「クルッ!!


コマルが振り返った。

イヌの蛇魔子も同様だった。


するとコマルの目の前に、身長165センチ程の三頭身でデブンチョ禿の見るからに怪しいオッサンが立っていた。

頭はツルッツルのピッカピカだ。

その怪しいオッサンは蛇魔子を見るや、


「パンパンパンパンパン・・・」


手を叩いて、


「ワッ、ハッハッハッハッハ」


大笑いしながら、


「なんでまたイヌに? どうした、蛇魔子? 何があった?」


蛇魔子に声を掛けて来た。

イヌの蛇魔子が恥ずかしそうに俯(うつむ)き、


「クゥ〜ン」


一声鳴いた。

その姿を見て、身長165センチ程の三頭身でデブンチョ禿の見るからに怪しいオッサンが今度はコマルに話し掛けた。

蛇魔子を指差し、


「コイツは悪さはするが、根っからの悪人じゃぁない。 どういう経緯(いきさつ)でこんな姿に変えられたかは知らんが、コイツにこの姿は流石に似合わん。 それにアンタにとってもコイツがいると何かと不便じゃろ。 どうかな? 一つ、コイツをワシに譲ってはくれんかな? 否、ただでとは言わん」


そう言って、その怪しいオッサンが懐(ふところ)から財布を取り出した。

中から10万円抜き出し、


「これでどうじゃ? ゥン!? ソイツをこれでワシに譲ってはくれんか? ゥン!?


そう言いながら、その10万円をコマルに差し出した。

コマルもこの状況にどうしたもんかと思案に暮れていたため、


「はい。 分かりました。 お譲りします」


と即座にOKした。

そして金を受け取ると鎖ごと蛇魔子を引き渡し、ナゼか理由は分からなかったのだが・・恐らく蛇魔子を騙(だま)してイヌに変えた事を見ず知らずの、それも実に怪しいオッサンにいとも簡単に見破られたからであろう・・それ以上そこにいる事になんとなくバツの悪さを感じたため、


「それでは僕はこれで・・・」


そう言って、そそくさとその場から立ち去ろうとした。

ところがその時、オッサンがコマルのボストンバッグを指差して言った。


「あぁ、そうそう。 アンタのそのボストンバッグの中のもんも頂いとこうかのぅ。 アンタにそれは使えんし、持っていると何かと災いの元じゃ」


「え!?


コマルは驚いた。

自分自身ですら入れて置いた事さえスッカリ忘れていた例の蛇魔子のあの道具を、たった今出会ったばかりのこの超怪しいオッサンが指摘したからだ。

思わずコマルはこう叫んでいた。


「な、何で!? な、何で僕のボストンバックの中身が分かったんですか!?


「ウム。 まぁ、な。 まぁ。 それを言ぅても君には分かるまい」


コマルは突然意表を突かれ、急にこのオッサンが恐ろしくなった。

そしてその警戒心から、


「・・・」


黙っていた。

そんなコマルの心を見抜いたのだろう、オッサンが優しく諭すよう言った。


「いいから早く出しなさい。 その方が君のためなんだよ」


「あ!? は、はい」


コマルもそれに同意し、と言うより逆らってもムダだと分かり、



、ま、り、・・・



「無駄ーーー!! 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!



だと分かり、ここは素直に言う事を聞いた方が良いと判断し、ボストンバッグの中の蛇魔子の道具の入った袋をオッサンに手渡した。

それを受け取ると、


「君の名前を聞いておこう。 何という?」


デブンチョ禿のオッサンがコマルの名前を聞いて来た。


「有栖川呑屋コマルです」


コマルが正直に名乗った。


「ホゥ〜。 有栖川呑屋コマル君か」


「はい」


「いや〜。 大したもんじゃ。 コイツをこんな目に合わせるとは・・・」


そう言うとオッサンは、


「クィッ!!


顎をしゃくって蛇魔子を指示(さししめ)した。


「きょ、恐縮です」


訳も分からずつられて礼を言ってから、暫(しば)しコマルは考えた。

そしてそのオッサンの顔をまじまじと見つめた。


「所で、折角ですから一つ聞いてもいいですか?」


「何かね?」


コマルが蛇魔子の道具の入った袋を指差した。


「はい。 それは一体何なんですか?」


「おぉ、これか!?


「はい」


「ウム。 これは妖術の道具じゃ」


「え!? 妖術の道具!?


「あぁ、そうじゃ。 妖術の道具じゃ」


「・・・」


オッサンの言った 『妖術』 の意味が良く分からずコマルは言葉が出せないでいた。

それが分かったのだろう怪しいオッサンが続けた。


「これはのぅ。 恐るべき妖術の道具なのじゃ。 じゃから普通の人間にこれは使えんし、このような物を普通の人間が持っておると却ってこれの毒気に当てられて、恐ろしい災いを招くんじゃ」


「お、恐ろしい災い!?


「ウム。 そうじゃ」


「そ、そうですかぁ。 知らなかったとはいえ、そ、そんな恐ろしい物を・・・」


「ウム。 その通りじゃ」


ここで禿のオッサンが目を瞑(つむ)り、黙った。

何か考え込んでいる様子だった。

そして暫(しばら)く考えて・・と言っても、ほんの数秒間だったのだが・・オッサンが目を明けた。


瞬間、


「ギラン!!


怪しく輝くオッサンの両眼(りょうまなこ)。


そしてこう言った。


「有栖川呑屋コマル君」


「はい」


「どうやら君には才能がありそうじゃ。 どうかな? 一つ、ワシの下で道術(どうじゅつ)の修行をしてみる気はないかね?」


「え!? 道術の修行?」


「そうじゃ。 道術の修行じゃ」


「あの〜。 済いません。 道術ってなんですか?」


「ウム。 それを説明すると長くなるが・・・。 まぁ。 簡単に言うと、自らの運命を根本から変えてしまう 『大解脱』 の道じゃな」


「だ、大解脱の道!?


「あぁ、そうじゃ」


「ず、随分とまた、す、凄いんですね。 道術って」


「あぁ。 生半可な覚悟では極められんし、極められても命懸けじゃ。 それも一生掛けたな」


「き、極められても命懸け!? い、一生掛けた!?


「ウム」


コマルはその怪しいオッサンの言った、


『極められても命懸けじゃ。 それも一生掛けたな』


という言葉に引っ掛かった。

それを見透かしたかのように、


「クィッ!!


再度、顎で蛇魔子を指示(さししめ)してオッサンが続けた。


「コイツも、初めの内は真っ当な修行をしておったんじゃ。 じゃが、ある時、修業中に発現し出したコイツ生得(せいとく)の超能力に魅入られてしもうてのぅ。 邪道に走ってしもうたのじゃ。 そして今じゃこの有様。 もっともコイツをこんな姿にしてしもうたのは外でもない君なんじゃがな、コマル君」


「あ!? あ、はい。 きょ、恐縮です。 はい」


「いやいや。 恐縮なんぞする事はない。 大したもんじゃ。 コイツをこんな目に会わせるなど、並の人間にはとてもとても。 そんじょそこらの者共には全くマネの出来ぬ芸当じゃ」


「そ、そうですかぁ?」


「あぁ、そうじゃ。 ・・・。 で!?


「ハィ〜?」


「どうするかな? 修行は?」


「あ!? はい」


ここでコマルは少し考えた。


『ウ〜ム。 命懸けの、それも一生掛けた道術の修行かぁ。 ウ〜ム。 面白そうでもあるヶど、恐ろしくもありそうだし・・・。 ウ〜ム。 どうしよう? 超能力使えんのはチットバッカかっちょいいヶど・・・。 でも、チョッとおっかねぇし・・・。 ウ〜ム。 どうしよう? ヶど、超能力使えんのが・・・』


散々(さんざん)迷った挙句、コマルはオッサンに聞いてみた。


「あの〜。 付かぬ事を伺いますが・・・?」


「ん!? 何かね?」


「はい。 あの〜。 その道術の修行っていうのすると超能力が身に付くんですか?」


「あぁ、そういう事か」


「はい」


「それは人による」


「え!? 人による?」


「あぁ、そうじゃ。 人による。 人によっては考えられんような凄まじいい能力を身に付ける者もおる。 じゃが、人によっては表向き大した事は出来ぬ者もおる。 人それぞれじゃ。 つまり、一生掛けた修行したからといって誰もが皆、蛇魔子のようなマネが出来るようになるなんぞという保証はどこにもない。 という事じゃ」


「そうですかぁ。 保証はないんですかぁ?」


「あぁ、ない」


「・・・」


「・・・」


ここで二人は暫し黙った。

その間、コマルは思っていた。


『ウ〜ム。 なら。 やっぱ、オイラにはムリかな〜?



、ま、り、・・・



『無理ーーー!! 無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理ーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!


っかな〜?』


オッサンはそんなコマルの目をジッと見つめたまま、


「・・・」


相変わらず黙っていた。

そのオッサンにコマルが言った。


「申し訳ありませんが、やっぱ、僕には・・・」


ここで口ごもった。


「そうか・・・。 ま。 ムリにとは言わん。



、ま、り、・・・



『無理ーーー!! 無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理ーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!


にとはな」


「はい。 済みません」


「否、構わんよ。 一向に構わん。 決めるのはワシではない。 君なんだからね」


「そう言って頂けると・・・」


「ウム」


「・・・」


ここでコマルはチョッと黙った。



だが・・・











つづく







『進撃のコマル( Attack on DIABLO )』 #4 お・す・ま・ひ