第3話 『画家』
男は・・・
画家だった。
ある晴れた日の午後、自宅の庭にある花壇の前にキャンバスをセッティングして絵を描いていた。
描いていた絵は美人画で、白いワンピース姿にホワイトソックスと赤いパンプスを履き、その艶のある豊かな黒髪をポニーテイルにまとめたとても愛くるしい女性が、男の家の花壇をバックに両手を後ろ手に組み、両足をピンと伸ばし、上体を少し前に突き出した格好でニッコリ微笑んでいるという絵だった。
そしてその絵の完成は、後(あと)残りワンタッチと微修正までになっていた。
男は筆を執り、キャンバスに向かい、一筆加えようとしていた。
そしてそれが最後の筆になるはずだった。
しかし、なぜか男の手は止まっていた。
残り、後、たったの一筆なのに。
ナゼか?
それはその男にはある計画があったからだった。
男はその絵が完成した暁(あかつき)には、その絵のモデルの女性に交際を申し込むつもりだったのだ。
勿論(もちろん)、結婚を前提とした。
しかし、
「フゥ〜」
男はため息を吐き、静かに筆を下した。
男はその絵を完成させるのを躊躇(ためら)い、しばらくその絵をジッと見つめていた。
それからソッと目を閉じ、物思いにふけった。
すると、どこからともなく一匹の蝶々がヒラヒラと飛んで来て、男のすぐ傍に置かれていたガーデンテーブルの上を暫(しばら)く舞ったかと思うと、再びどこかへ飛び去って行った。
その蝶々が舞ったガーデンテーブルの上には、一通の封の切られた手紙とその中に入っていたと思われる便箋が置かれてあった。
それはその絵のモデルの女からの手紙だった。
そしてその手紙にはこう書かれてあった。
『前略。 わたくし、この度(たび)、結婚する事になりました。 つきましては、もしご都合が宜しければ式にご出席して頂けたらと思い、お手紙お出し致しました。 ・・・』
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第3話 『画家』 お・す・ま・ひ