#16 『稽古のお時間』の巻

 

 

「しっかし、叶美香の乳(ちち)はいつ見てもエエのう」

 

脂下(やにさ)がった顔で玄龍斎が言った。

 

「俺はエビちゃんだな、エビちゃん。 ヤルんだったら絶対エビちゃん。 あの太ももムッチリがぁ」

 

雲竹斎はもっと脂下がっていた。

 

今、二人はテレビを見ている。

丁度、昼食が終わったところだ。

 

「あの女の乳が好い」

 

だの、

 

「この女は太ももムッチリだー」

 

だのと無邪気に話し合っている。

緊張感の欠片(かけら)さえ無く。

 

社門家沙は心配だった。

見えない圧力を感じていた。

『不吉な予感』という見えない圧力を。

 

「若、雲竹斎殿。 そろそろ稽古の時間かと」

 

二人は気付かなかった。

 

「若!! 雲竹斎殿!!

 

もう一度言った。

もっと大きな声で。

 

相変わらず二人は気が付かない。

 

というのも、その時二人は・・・

 

テレビの画面に顔をへばり付けていたからだ。

ダイニングルームに設置されている100型プラズマテレビの大画面には、ミニスカート姿のリアディゾンが映し出されている。

二人は夢中になって、そのスカートの中を下から覗こうとしていたのだった。

画面に顔をへばり付けて・・・

 

 

この二人の頭の中にはそれしかないのかーーー!? (はい。 ありません : 作者)

 

 

「コホンコホン。 (大きく息を吸ってー) 若ー!! 雲竹斎殿ー!!

 

家沙が怒鳴った。

 

『ハッ!?

 

『ハッ!?

 

正気に戻った二人は、無意識に取っていた自分達の格好を見てお互いに照れ笑いをした。

そして玄龍斎が言った。

 

「ウッ、ゥゥ、ウン。 そ、そろそろ稽古の時間だな、稽古の。 ハハハハハ」

 

「そ、そうだったな。 そぅそぅ。 稽古の時間だ、稽古の。 ハハハハハ」

 

雲竹斎が応じた。

 

玄龍斎に雲竹斎。

こんな事でホントにこの二人は・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大丈夫なのか〜〜〜!?

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

#17 『今、目前の危機』の巻

 

 

「全艦停止せょ!!

 

艦隊総司令キューピー・チャンの命令だ。

クピド艦隊は今、ワープにワープを重ね地球の大気圏目前に迫っていた。

 

「タバサ様。 あれが地球でございます」

 

チャンが言った。

 

キューピー艦司令塔前面大パネルには地球が映し出されている。

 

「美しい!? アレが地球か?」

 

「ハッ!!

 

「日本は何処(どこ)じゃ? 何処にあるのじゃ?」

 

チャンが日本を指差した。

 

「おぉ。 アレが日本か。 ならば女木戸(めぎど)の丘は何処じゃ」

 

パネルの画像を拡大してチャンが答えた。

 

「ココでございます」

 

「おぉ、ココか? しかし、これではまだ様子が分からん。 もっと拡大するのじゃ」

 

「ハッ!! 画像を最大倍率まで拡大せよ」

 

チャン司令の命令で女木戸の丘が大写しになった。

するとそこに車座の中で動き回る3人の男達の姿が映し出された。

 

ん? 3人の男達?

 

そぅ。

 

それは、方術の稽古に励む奥村玄龍斎、小磯雲竹斎、社門家沙の3人であった。

 

「オォー!?

 

「オォー!?

 

「オォー!?

 

 ・・・

 

クピド艦隊全艦から一斉に声が上がった。

驚きとも怒りとも付かぬ声が。

そして、タバサの発した大声が司令塔内に響き渡った。

 

「ゲ、ゲンリュウサインじゃ!? ラー・ゲンリュウサインのヤツじゃ。 おのれゲンリュウサインめ。 200年前の恨み、今こそ思い知らせてくれようぞ。 チャン司令、ヤツはまだ我等の存在に気付いてはおらぬ。 今がチャンスじゃ、この機を逃すな。 ラー・ゲンリュウサインに総攻撃を掛けるのじゃー!!

 

「ハッ!! 承知致しました」

 

タバサに一礼し、キューピー・チャンが号令を発した。

 

「全速発進!! 目標女木戸の丘!! 全艦密集隊形を取れ!!

 

 

ボバーッ!!

 

ボバーッ!!

 

ボバーッ!!

 

 ・・・

 

 

女木戸の丘に向かってクピド艦隊が再び発進した。

密集隊形を取って。

しかし、

奥村玄龍斎達がこの事に気付いた様子は・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全くなかった。

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

#18 『新・必殺技』の巻

 

 

(航海士) 「拡散波動恋愛一直線砲、射程距離到達まで、後(あと)30万宇宙キロ」

 

(チャン司令) 「拡散波動恋愛一直線砲・・・発射隊形へ!!

 

チャン司令の号令の元、クピド艦隊が拡散波動恋愛一直線砲発射隊形を取った。

 

(砲撃手) 「ラー・ゲンリュウサイン捕捉」

 

(チャン司令) 「良し。 全艦、拡散波動恋愛一直線砲エネルギー注入!!

 

 

(キュィン、キュィン、キュィン、キュィン、キュィン、・・・)

 

 

艦隊全艦内部にエネルギー注入音が響き渡った。

 

(航海士) 「射程距離到達まで、後1分」

 

(チャン司令) 「拡散波動恋愛一直線砲・・・用意!!

 

(砲撃手) 「拡散波動恋愛一直線砲発射用意!!

 

(機関長) 「エネルギー弁閉鎖。 エネルギー充填開始」

 

(砲撃手) 「ターゲット・スコープ、オープン。 電影クロス・ゲージ、明度20。 目標・・・女木戸の丘、ラー・ゲンリュウサイン。 目標への光源誤差0.002修正。 セーフティ・ロック、解除」

 

(機関長) 「エネルギー充填120%」

 

(砲撃手) 「対ショック、対閃光防御用意」

 

(機関長) 「代(だい)オキシン粒子抽入。 エンジン内圧力上昇。 安全弁解除」

 

 

 ・・・

 

 

 

「ん?」

 

社門家沙は殺気を感じた。 (いつだ? さっきだ。 ナンチャッテ)

急いで辺りを見回した。

しかし、それらしい人影は見えない。

 

『気のせいか?』

 

もう一度、見回した。

だが、同じだった。

 

『少し神経質になっているようだな。 (フッ) それともよる年波で、わしも少しモウロクしたか? そろそろ息子に後を譲る頃合か?』

 

社門家は代々、社門流呪術を持って奥村家の執事として使えるという事になっていた。

表向きはだ。

しかし、本当の役目は奥村家の指南役であり、 “影” として奥村家を守り続けて来たのである。

つまり、

代々の玄龍斎達は社門家の指南の元、奥村流幻術を伝えて来たのだった。

“真の達人”

社門家沙こそがそれだった。

 

『ん? おかしい。 やはり何かがおかしい』

 

家沙は直感していたのだ、この時。

あの世にも恐ろしい拡散波動恋愛一直線砲の存在を。

その世にも恐ろしい拡散波動恋愛一直線砲が自らの主君、奥村玄龍斎影虎に照準を合わせている事を。

 

家沙が言った。

 

「若!!

 

「何だ?」

 

「お気を付け下さい。 何やら不穏な気配が」

 

「ん!? そうかぁ? 俺は何も感じぬが。 (向きを変えて) 雲竹斎、どうだ? 何か感じるか?」

 

「いや、俺も何も感じぬ。 が、老師がそう仰(おっしゃ)るからには、何かあるのかも知れん。 気を付けるに越した事はない」

 

「ウム。 確かに・・・。 あ!? ところで雲竹斎」

 

「何だ?」

 

「お主、さっき確か・・・。 新しい必殺技がどうとか言っていたが、アレはどうなった」

 

「見たいか?」

 

「あぁ、見たい」

 

「・・・。 良し。 見せてやろう。 我が新・必殺技。 その名も 『ハイパー・アポーン・ハメハメ波』 を」

 

「ん!? ハイパー・アポーン・ハメハメ波?」

 

「そうだ。ハイパー・アポーン・ハメハメ波だ。 我が先祖が魔界軍最強と謳(うた)われたあの巨神兵軍を薙(な)ぎ払ったと伝えられている、アポーン・ハメハメ波をバージョン・アップしたものだ」

 

「面白い。 では、見せてもらおう。 そのハイパー・アポーン・ハメハメ波とやらを」

 

「ウム」

 

雲竹斎が頷(うなづ)くや、即座に玄龍斎が身構えた。

そのまま、

 

 

(サッ!!

 

 

背後へ大きく飛び退(の)き、ふさわしい “間(ま)” を取った。

 

「スゥ〜〜〜 フゥ〜〜〜」

 

雲竹斎が呼吸法を始めたからだ。

ハイパー・アポーン・ハメハメ波の。

 

 

(ビシビシビシビシビシ・・・)

 

 

みるみる、雲竹斎のエネルギーが増幅する。

 

 

(ビリビリビリビリビリ・・・)

 

 

周囲が・・・雲竹斎の周りが、その発するエネルギーに共振する。

 

つ、終にベールを脱ぐのか?

 

驚天動地(きょうてんどうち)!?

 

小磯雲竹斎兼持の新・必殺技、あの魔界軍最強と謳(うた)われた巨神兵軍を薙(な)ぎ払ったと伝えられているアポーン・ハメハメ波のバージョンアップ版、ハイパー・アポーン・ハメハメ波が・・・

 

終にそのベールを・・・

 

脱ぐ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

のか?

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

#19 『女木戸(めぎど)の丘の戦い』の巻

 

 

「玄龍斎・・・参る!!

 

「来い・・・雲竹斎!!

 

 

 

「拡散波動恋愛一直線砲、発射10秒前」

 

「9、 8、 7、 ・・・」

 

(ピッ、 ピッ、 ピッ、 ピッ、 ・・・)

 

 

 

「ハイパー・・・」

 

 

 

「6、 5、 4、 ・・・」

 

(ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、・・・)

 

 

 

「アポーン・・・」

 

 

 

「3、 2、 1、 ・・・」

 

(ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ、・・・)

 

 

「全艦、拡散波動恋愛一直線砲、発射ー!!

 

(ボバーッ!! ボバーッ!! ボバーッ!! ・・・)

 

 

チャン司令の号令の下、クピド艦隊全艦の主砲 『拡散波動恋愛一直線砲』 が一斉に発射された。

もちろんその標的は、我等が奥村玄龍斎影虎であるのは言うまでもない。

 

 

「ハ〜メー、ハ〜メー、波ーーー!!

 

 

それと相前後し、小磯雲竹斎兼持の新・必殺技 『ハイパー・アポーン・ハメハメ波』 が炸裂した。

 

危うし!? 玄龍斎!!

 

前門の虎、後門の狼だ。

 

果たして、我等が奥村玄龍斎に・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明日はあるのか〜〜〜!?

 

 

 ♪ あしったがある〜 あしったがある〜 あしったがあぁるぅさ〜〜〜 ♪

 

 

 

 

 

 

ナンチャッテ

 

 

 

 

 

#20 『拡散波動恋愛一直線砲とは何か?』の巻

 

 

その日は、曇り空だった。

一日中ドンヨリと暗かった。

 

瞬間、

 

 

(ペカッ!!

 

 

天空が燦然(さんぜん)と輝いた。

まるで100万人収容できるサッカー・スタジアムがあり、そこでサッカーの試合が行なわれ、その試合開始と同時に客席から一斉に焚かれたカメラのフラッシュのようだった。

凄まじい閃光の嵐だ。

まともにそれを見たらおそらく目がつぶれるであろうと思われる程の。

拡散波動恋愛一直線砲のエネルギーである。

 

 

 

解説しよう。

 

拡散波動恋愛一直線砲とは何か?

 

昔、ギリシャにエロスという名の神がいた。

愛と美の女神アフロディーテの児で、ゼウスがその父である。

紅顔の美少年で背中に一対の翼を持ち、金、鉛、二本の矢とそれを射るための弓を携(たずさ)えていた。

この矢で射られた者は激情に支配される。

金の矢なら恋情の思いに、鉛の矢なら嫌悪の情に。

それは人間はおろか神々の心までも操る事が出来た。

 

そして、

その弓と矢は時と共にグレード・アップし、バージョン・アップを繰り返し、終に 『波動恋愛一直線砲』 という名の最終兵器へと進化したのである。

この波動恋愛一直線砲に撃たれた生命体(神を含む)はその直後、一番初めに目にした生命体(それが何であっても)に生涯その精神を捧げる事に成るという真に恐るべきものであった。

そしてこの波動恋愛一直線砲の完成型を 『拡散波動恋愛一直線砲』 という。

クピド艦隊には主砲として、この世にも恐ろしい拡散波動恋愛一直線砲が装備されていたのである。

 

そぅ。

 

この世にも恐ろしい拡散波動恋愛一直線砲が・・・

 

艦隊全艦の主砲として・・・

 

 

 

天空の輝き。

それは奥村玄龍斎影虎への 『拡散波動恋愛一直線砲』 の頭上からの攻撃であった。

 

そして玄龍斎は今、前面から発せられた凄まじい極大エネルギーのうねりを感じている。

小磯雲竹斎兼持の放った 『ハイパー・アポーン・ハメハメ波』 の極大エネルギーのうねりを。

 

頭上から来る拡散波動恋愛一直線砲のエネルギー弾。

前面から放たれたハイパー・アポーン・ハメハメ波の極大エネルギー。

 

一体全体・・・

 

奥村玄龍斎は・・・

 

この状況に・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どう対処するのか〜〜〜!?

 

 

 

 

 

 

つづく