(第一話) 『 Rose Garden (ローズ・ガーデン)』

 

 

そこは・・・レストランに変わっていました。

 

 

私は朝霧麻美(あさぎりあさみ)。

25歳。

独身。

恋人なし。

デザイナーです。

子供の頃から絵が好きで、美大に進学しました。

今は東京のデザイン事務所で働いています。

 

それは私が高校2年生の終わりに起こりました。

当時、私の両親は “バラ園” を経営していました。

さほど裕福ではなかったものの両親、私、弟の4人暮らしの明るい家庭でした。

ところが突然、父が倒れたのです。

病名は “すい臓癌”。

三ヵ月後に亡くなりました。

母は立ち行かなくなった “バラ園” を手放し、私と弟を連れて実家に帰る事に決めました。

 

その当時、私には恋人がいました。

幼馴染(おさななじみ)でイッコ年上の加藤健一(かとうけんいち)君です。

私は 「健ちゃん」 と呼んでいました。

 

私は健ちゃんが大好きでした。

健ちゃんは成績優秀でスポーツ万能。

加えてハンサムでお金持ち。

女の子達の憧れでした。

でも健ちゃんは、私以外の女の子には全く関心を示しませんでした。

私だけ・・・この私だけを見ていてくれました。

生意気なようですが、私達は将来を誓い合った仲だったのです。

 

その健ちゃんのお父さんがウチのバラ園を買ったのです。

その時からです、二人の間に亀裂が入ったのは。

お互い気まずくなってしまいまいした。

私は九州にある母の実家に引越しました。

健ちゃんは地元の国立大学に合格していたので、多分進学したと思います。

私達は離れ離れになりました。

それ以来、一度も連絡を取り合った事はありません。

もう終わってしまったのです。

 

そして今日。

 

私は・・・

 

私のふるさと、私の生まれ故郷に帰って来ました。

休暇を利用して近くの温泉に一人で保養に来た帰りに寄ってみたのです。

余り時間がないのですぐに帰るつもりでいました。

 

ふるさとは7年前とあまり変わってはいませんでした。

 

でも、一つだけ・・・

 

そぅ、一つだけ変わっていました。

私達のバラ園です。

レストランになっていたのです。

私は呆然とそのレストランを見つめていました。

涙が止まりません。

 

だって・・・

 

だって、私が生まれて育ったバラ園が、

私が育てていたバラ達が、

消えていたんだもの。

 

自分の思い出が全て消えてしまった時の悲しみ、分かりますか?

その時の私の悲しみが。

 

ほんの2〜3分位の出来事だったヶど・・・

 

その間、時間が止まっていました。

それから 「ハッ!?」 っと我に返り、急いで立ち去ろうと思いました。

 

でも・・・

 

でも、心と裏腹に体は。

私の体は吸い込まれるようにそのレストランに向かっていました。

中に入ると、バッハのバイオリン曲 『シャコンヌ』 が流れていました。

 

『そう言えば健ちゃん、バッハが好きだったな・・・』

 

そんな事を思い出しながら店内を見渡すと、お客さん結構入っています。

でも、知っている顔はありませんでした。

 

『入った以上何か飲もう。 あればローズ・ティー。 なければ紅茶でも』

 

そう思いながら適当な席を探しました。

すると、壁に掛けてある一幅の絵が目に留まったのです。

 

次の瞬間。

 

私は愕然としてその絵に見入っていました。

目から出る涙は止まらず、金縛りにでもあったように体が動きません。

どの位そのままだったでしょうか?

不意にウエイターさんに声を掛けられ、我に返りました。

 

「お客様。 どうぞこちらへ」

 

突然だったので、何も考えずに付いて行きました。

 

『どしたのかな? 今日は涙もろいな・・・』

 

そう思いながら案内された席はその絵の掛かっている壁際で、テーブルには奇麗で可愛い一輪挿しの花瓶に挿した一本の、 “あなたを愛します” という花言葉を持つ赤いバラの花と、

 

Reserved (予約席)”

 

のカードが置かれていました。

私が怪訝そうな顔をしていると、テーブルから椅子を引き、そのウエイターさんがこう言ったのです。

 

「どうぞお掛け下さい。 ただ今、ローズ・ティーをお持ち致します」

 

「で、でも、私。 何も・・・」

 

「いえ、チャンと当店の主(あるじ)から仰(おお)せ付かっております」

 

「エッ!? 何を?」

 

「はい。 もしこの絵をご覧になられて先程お客様がお見せになられました、あのようなご様子をされる方がいらしたら、このお席にご案内してローズ・ティーをお出しするようにと」

 

「・・・」

 

何も言わず、訳も分からぬまま私は手に下げていた旅行用の、でも少し小さ目のボストンバッグを横に置き、その椅子に座りました。

その時の私に出来た事はと言えば、

 

「ここはお客様のためのみに、当店の主が御用意致しておりましたお席でございます」

 

そう言い残して奥に引っ込むウエイターさんの後ろ姿を、ただジッと見つめている事だけでした。

きっと私の顔は、鳩が豆鉄砲でも食らったようだったと思います。

そして何がなんだか分からないうちに、先程のウエイターさんが戻って来ました。

手にしたトレィの上にローズ・ティーとチョコを乗せて。

 

「特別なお客様のみにお出しする、当店自慢のローズ・ティーでございます」

 

そう言いながら、ウエイターさんが私の前にティーカップを置きました。

それを見て、一瞬、私は驚きました。

そのセンスの良さと高級さにです。

 

だって、

出されたカップとソーサーはとってもシンプルで涼しげな、まるで霧を含んだように見える柔らかな発色の、ロイヤルコペンハーゲン・ブルーフルーテッドのプレイン。

スプーンは、クリストフルスターリングシルバー925のティースプーン。

だったんですょ。

この組み合わせは私的に見て、ローズ・ティーが一番映えると思われるコンビネーション。

だから昔、健ちゃんが私の家に遊びに来た時、よくこの組み合わせのカップとソーサー、それにティースプーンでローズ・ティーを入れて上げた物でした。

今でも時々、引っ張り出しては一人で飲んでいます。

加えて、

そのローズ・ティーには、綺麗なそして形の整った淡いピンクのバラの花びらが1枚入っていて、とても甘い香りがしました。

チョコは最高級の黒トリュフのショコラです。

 

『まぁ、なんてセンスのいい・・・』

 

そう思いながら、目の前に置かれたティーカップに手を伸ばそうとしました。

その時です。

背後から私の名前を呼ぶ大きな声が聞こえたのは。

 

「麻美ちゃん」

 

聞き覚えのあるとっても懐かしい声です。

 

 

(ドキッ!!

 

 

一瞬、私の心臓は止まるかと思いました。

 

突然の事に驚いて・・・

 

私はそのままそこで固まっていました。

怖くて振り返れません。

誰の声か分かっていたからです。

 

「麻美ちゃん」

 

もう一度、

今度はもっと大きな声で。

店中に響き渡る位大きな声で。

 

私の名前を・・・

 

そういう時って不思議です。

自然と体が動いて振り返っていました。

そこにいたのは紛れもなく健ちゃんでした。

 

「ケ・・・ン・・・ちゃん?」

 

すっかり大人っぽくなっていました。

当たり前です。

健ちゃんはもう26なんだから。

そして、きちんと櫛(くし)の入った髪からは “グリース” の香りが漂っていました。

私の体から “シャネル” が香るようになったのと同じように。

 

健ちゃんは紺のタキシードにオレンジのカマー&チョウタイ姿。

手にはバラの花束。

私は普段着のティーシャツとジーンズなのに。

 

そして店中に響き渡る声でこう言ったのです。

 

「麻美ちゃん。 僕は・・・。 僕は今でも君が好きだ。 だからもう一度。 もう一度やり直そう。 僕の元に帰って来てくれ」

 

そう言って、手に持ったバラの花束を差し出しました。

 

「・・・」

 

私の口からは言葉が出て来ません。

 

そしてもう一度。

 

「麻美ちゃん。 僕は君が好きだ。 今でも君が・・・大好きだ」

 

「ウッ!? 健ちゃん!!

 

気が付いたら椅子から立ち上がり、健ちゃんの胸に飛び込んでいました。

 

「ウッ、ウッ、ウッ、・・・」

 

私には他には何も出来ませんでした。

ただ泣く事だけしか。

 

その時・・・

 

店中から拍手と歓声が沸(わ)き起こったのです。

それまで全く気付きませんでした。

居合わせた人達全員が、私たち二人の言動を固唾を飲んで見守っていた事に。

お店のお客さん達もウエイターさん達もコックさん達までもが出てきて、拍手と歓声を上げてくれました。

その場に居合わせた人達全員に私達は祝福されたのです。

 

気が付いたら・・・

 

もうバッハは流れていませんでした。

代わりに、私がバラを育てながらいつも口ずさんでいた曲。

リン・アンダーソンの 『ローズ・ガーデン』。

そう、リン・アンダーソンの 『ローズ・ガーデン』 が流れていました。

きっと健ちゃんの指示で。

 

余りに突然の出来事で私はどうしていいか分からず、ズーッと健ちゃんの胸の中で泣いていました。

 

そして・・・

 

溢(あふ)れる涙を拭くためにハンカチを取ろうとボストンバッグに手を伸ばしたその時初めて、テーブルの上のメニューに目が留まりました。

そのメニューの表紙には、さっき私が見つめていた絵が印刷されてあったのです。

その絵にはハッキリとサインも書き込まれていました。

 

ハッキリと・・・こぅ。

 

 

Congratulations! to Kenichi from Asami

 

 

そうです。

その絵は、健ちゃんの大学合格祝いとして私が描いて贈った “バラの絵” だったのです。

 

それと、その時気付いた事がもう一つ有ります。

その時まで店の名前なんて全く気にしていませんでした。

でも、メニューには私の描いた絵の他に、店名も大きく印刷されてあったのです。

私が書いたサインの上に、私のサインと重ならないように店名が大きく。

 

そしてそのメニューに印刷された “店の名”。

それは・・・

こうなっていました。

 

 

 

 

 

 

Rose Garden (ローズ・ガーデン)』

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・と。

 

 

 

 

 

 

Rose Garden 』 Lynn Anderson

 

I beg your pardon I never promised you a rose garden

Along with the sunshine there's gotta be a little rain sometime

When you take you gotta give so live and let live and let go oh oh oh oh

I beg your pardon I never promised you a rose garden

 

I could promise you things like big diamond rings

But you don't find roses growin' on stalks of clover

So you better think it over

Well, if sweet talking you could make it come true

I would give you the world right now on a silver platter

But what would it matter

So smile for a while and let's be jolly love shouldn't be so melancholy

Come along and share the good times while we can

 

I beg your pardon I never promised you a rose garden

Along with the sunshine there's gotta be a little rain sometime

I beg your pardon I never promised you a rose garden

 

I could sing you a tune and promise you the moon

But if that's what it takes to hold you I'd just as soon let you go

But there's one thing I want you to know

You'd better look before you leap still waters run deep

And there won't always be someone there to pull you out

And you know what I'm talking about

So smile for a while and let's be jolly love shouldn't be so melancholy

Come along and share the good times while we can

 

I beg your pardon I never promised you a rose garden

Along with the sunshine there's gotta be a little rain sometime.....

 

I beg your pardon I never promised you a rose garden

Along with the sunshine there's gotta be a little rain sometime.....

 

 

 

(第一話) 『 Rose Garden (ローズ・ガーデン)』 お・す・ま・ひ

 

 

 

 

 

チョッと薀蓄 『 Rose Garden

 

 

2006/12/07 のコマルのコラム

 

 

Lynn Anderson の 『 Rose Garden 』 は、youtube で聞けますょん。

 

URL は、 

 

http://www.youtube.com/watch?v=-h7PWkxOiCA

 

と〜〜〜ってもいい曲だぉ。

 

?

 

 歌詞 ↓

 

 

Rose Garden 』 Lynn Anderson

 

I beg your pardon I never promised you a rose garden

Along with the sunshine there's gotta be a little rain sometime

When you take you gotta give so live and let live and let go oh oh oh oh

I beg your pardon I never promised you a rose garden

 

I could promise you things like big diamond rings

But you don't find roses growin' on stalks of clover

So you better think it over

Well, if sweet talking you could make it come true

I would give you the world right now on a silver platter

But what would it matter

So smile for a while and let's be jolly love shouldn't be so melancholy

Come along and share the good times while we can

 

I beg your pardon I never promised you a rose garden

Along with the sunshine there's gotta be a little rain sometime

I beg your pardon I never promised you a rose garden

 

I could sing you a tune and promise you the moon

But if that's what it takes to hold you I'd just as soon let you go

But there's one thing I want you to know

You'd better look before you leap still waters run deep

And there won't always be someone there to pull you out

And you know what I'm talking about

So smile for a while and let's be jolly love shouldn't be so melancholy

Come along and share the good times while we can

 

I beg your pardon I never promised you a rose garden

Along with the sunshine there's gotta be a little rain sometime.....

 

I beg your pardon I never promised you a rose garden

Along with the sunshine there's gotta be a little rain sometime.....

 

 

 

!?

 

この曲・・・

 

チョッピリ南沙織のデビュー曲に似てるでアリンス。

 

17歳』 

 

!?

 

南沙織のこの曲は1971年に大ヒットしちゃいました。

 

これも youtube で聞けちゃいますょん。

 

 

17歳』

作詞・有馬三恵子

作曲・筒美京平

唄・南沙織

 

 

【一番】

 

誰もいない海 二人の愛を 確かめたくて あなたの腕を すりぬけてみたの 走る水辺の まぶしさ 息も出来ないくらい 早く強く つかまえに来て 好きなんだもの 私は今 生きている

 

 

【二番】

 

青い空の下 二人の愛を 抱きしめたくて 光の中へ 溶けこんでみたの ふたり鴎になるのよ 風は大きいけれど 動かないで おねがいだから 好きなんだもの 私は今 生きている

 

あつい生命に まかせて そっとキスしていい 空も海も みつめる中で 好きなんだもの 私は今 生きている 私は今 生きている・・・

 

 

 

と、こ、ろ、で、・・・

 

 

この 『17歳』 は、

 

作曲家・筒美京平が上記 『 Rose Garden 』 をパクって作っちゃったそうです。

 

こんなエピソードが・・・

 

筒美と南が初めて会った時、

 

!?

 

会話。 (内容は、聞きかじりを適当にアレンジ : コマル)

 

筒美 : どんな曲知ってる?

 

南 : 『 Rose Garden

 

筒美 : なら、『 Rose Garden 』っポイのを作っちゃえー

 

!?

 

出来たのが、

 

17歳』。

 

だから、

 

とっても似てるンですね。

 

 

ついでにもう一個。

 

今は、俳優・江口洋介のカァちゃんになっちまってる森高千里が昭和天皇崩御の後、

 

17歳』

 

 

!?

 

カバーしたそうです。

 

売れたかどうかは分かんないヶど。

 

以上。

 

軽い薀蓄ですた。

 

・・・・・・・・・・・・・・ written by コマル