第1話



「おっ、はよー!! ポチー!! 目ー、覚めたの一緒だねぇー!! ウリーーー!! ウリウリウリーーー! ウリウリウリーーー!!


「ニャーーー!! ニャーニャーニャー!! ニャーニャーニャー!!」 (ウッ!? そ、その 「ウリウリウリーーー!」 って言いながら俺様の額にオメェーのおでこグリグリすんの止めてくれ。 た、頼むから止めてくれ)


オットー!?


言い忘れていたが我輩は “オス” だ。

もう分かってくれているとは思うが。


そしてこのおでこグリグリの妙な奴は、我輩の住んでいる 『田原家』 の長女 『アリス』 二十歳(はたち)。


名前はアリスだが生粋の日本人だ。

中肉中背。 

美形ではないがなかなかチャーミングな顔立ちをしている。

頭は悪くないんだが、やる事がチョッと抜けているというかなんというか。

俗にいう “天然ボケ”。

そう。

天然ボケの典型だ。


性格はオットリしている。

が、

時に逆ギレする。

まぁ、めったにはしないんだが。


しか〜〜〜し、


キレた時は手に負えない。


今年短大を卒業して東京の出版社に勤務している・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・らしい。


何故か恋人は居ない。

不思議な話だ。

我輩の目には 『可愛くて守ってやりたくなるような女』 に見えるのだが。

猫の見る目と人間の見る目は違うらしい。

まぁ、どうでも良(い)い事ではあるが。


さて、


この女だが、コイツが我輩の実質的な飼い主でもある。


「ほれ、ポチー。 高い高い高〜〜〜い。 高い高い高〜〜〜い」


「ニャーニャーニャー!! ニャーニャーニャー!!」 (あ、赤ん坊じゃねぇーんだから、そ、その 「高い高い高〜〜〜い」 つぅーのも止めてくれ。 俺様の 『ア、ソ、コ』 がオメェーの目の前なっちまうだろー、オメェの目の前にー。 は、恥ずかしいじゃねぇーか。 オ、オメェー、しょ、処女じゃねぇーな)


と。

まぁ、こうして我輩のいつもの平凡な一日が始まるのであった。

そしてこうなる。


「アリス〜!! 早く起きなさ〜い!! ご飯できたよー!!


「は〜い、ママー!! 今行くー!! ほれ、ポチー!! ご飯いくよー!!


「ニャー!!」 (待ってました)


我輩を抱っこして階段を一気に下るアリス。

パジャマ姿のまんまだ。


アリスの部屋は2階にある。

六畳の洋室だ。

2階には他に六畳の和室と四畳半の洋室があるのだが、その部屋の使用者がどんな奴らかは・・・。

いずれ明らかになる。


「あら、まだ着替えてないの?」


「うん。 ご飯食べてから」


「歯〜、磨いたの?」


「うん。 ご飯食べてから」


「『うん。 ご飯食べてから』 って、アンタねぇ。 もう少し女の子らしくできないの。 身だしなみって言うものがあるでしょ、身だしなみってもんが〜。 もういい歳なんだから〜。 ま〜ったく誰に似たのかしらねぇ〜。 ホ〜ントに、この子は」


「お母さん」


「・・・」


結構笑える会話だ。

退屈はしない。


「ご飯とパンどっち?」


パンって言え、パンって。

パンならミルクが出てくんだろ。

そうすりゃ 俺様もミルクにありつけんだからよー。

!?

パンって言え、パンって。


「ご飯」


バッカやろ〜〜〜!!

ご飯じゃねぇーだろ、ご飯じゃ〜。

そんなにキッパリ言うんじゃねぇょ〜。

ご飯だと味噌汁じゃねぇか〜。

あ〜ぁ、今日も又 “猫まんま” かょ〜。


「ほら、ポチご飯だょー。 美味しいょー」


美味しかねぇーょ。


「カチャ、カチャ、カチャ」


だーからぁ〜。

そうやってカチャ、カチャ、カチャって、ご飯と味噌汁混ぜんの止めてくんねぇかなぁ。

煮干がくずれちまうんだょ、煮干がぁ〜。

煮干の頭が見分け付かなくなっちまうだろ〜。

俺様、大っ嫌いなんだょ煮干の頭。


「ペッ、ペッ、ペッ」


「あ!? 又ポチ、煮干の頭残してるー」


わりーかよ。


「まぁまぁ、ぜーたくな猫だこと。 飼い主に似て」


!?


ママさん言い返したぞ。


「ピキピキピキピキピキ・・・」


!?


アリスのヤツ切れやがったぞ。

やな予感がするぞ。


「こら、ポチー!! 煮干の頭食えー!!  ほら、食えー!! チャンと食えー!!


「ニャーニャーニャー!! ニャーニャーニャー!!」 (よ、よせ、バカやろー、よせ。 や、止めてくれー。 頼むー。 煮干の頭、俺様の鼻にくっ付けんのー、止めてくれー!!


チッキショー!!


俺様に当たりやがってー!!


「あ!? こんな事してたら遅刻しちゃう。 急がなくっちゃ。 ポチー!! 遅刻したらお前のせいだからね!!


お前のせいだろ。


それからが素早い。

のんきな性格とは裏腹に一気に着替えとトイレを済ます。

勿論、


「シャカシャカシャカシャカシャカ・・・」


歯磨きも忘れない。


「行って来まぁ〜す。 ポチ行って来るよー!!


「ニャー」 (はいはい、行ってらっしゃい)


かくして本日の第一ラウンドは終了だ。



1話 完