12



「ただ今ー」


「あら、美琴。 お帰り。 早かったのねぇ」


「うん、今日は半ドン。 あ〜ぁ、お腹減った〜。 ママ、ご飯」


「何にする」


「コイツと一緒じゃなかったら、何でもいい」


!?


な、何だ、美琴。

俺様、指差して 『コイツと一緒じゃなかったら』 って。

その言い草。

第一、この俺様にはねぇのか 『ただ今ー』 の挨拶は。

ん?

ねぇのか?


「パンがいい? それともソーメン茹()でようか? 暑いから」


「ウ〜ン。 どーしようかな〜。 ウ〜ン。 ・・・。 ソーメン!!


「じゃ、これから茹でるから、チョッと待っててね」


「うん。 あ、ママ。 アタシ、先、シャワー浴びてくる。 汗びっしょ」 


「そぅ。 じゃぁ、直ぐ出て来るのょ。 その間に茹でとくから」


「うん」


お、美琴がこっち向いてしゃがんだぞ。

俺様に顔近づけて来たぞ。

何する気だ?


「ニャ、ニャー!!」 (コ、コラ、止めろ美琴!!


右手の人差し指で俺様の鼻先、突付くんじゃねぇー。


「おぅおぅ、ポチ」


何だょ。


「あたしゃ、これからシャワーだ」


それがどした?

勝手にシャワーすりゃ良いじゃねーか。

何で俺様に断んだ?


「覗くんじゃねーぞ、このスケベ猫」


の、覗くわけねーだろ、オメェのシャワーなんか。

な〜に、勘違いコイてんだ、オメェは。

な〜に、勘違い。


!?


分かった。

さてはオメェ、この俺様に一緒に風呂入って貰いてーんじゃねぇのか。

ん? ちがーか?

ん? そーだろ?


嫌なこったい!!


だ〜れがオメェなんかと・・・。


そんな事より。

おい、美琴。

オメェ、その “ウンコ座り” 止めた方が良いんじゃねぇのか。

その、ウ、ン、コ、す、わ、り。

パンツ丸見えだぞ、パ、ン、ツ。

つっても、見えてんのはブルマーだヶどもょ。

黒のブルマー。


“真っ黒ブルマー痴漢除けバージョン” ってか?


しっかし、オメぇなんだ〜。

そんな短けぇスカートでそんな風に股開いてしゃがんじゃって。

人通りのある所でもやってんじゃねーのか?

そのウンコ座り。

ん?


気の毒だよなぁ、パパさんみたいな助平なオッサン。


ククククク。


目に浮かぶぜ。


ククククク。


『じょ、女子高生のパンツがー!? じょ、女子高生のパンツがー!?


喜び勇んでオメーのスカート覗いたら。


ガ〜ン!!


『ブ、ブルマーか・・・』


ガックリ。


肩落とすってか。


ケケケケケ。


おい、美琴。

ホンに罪作りなヤツだぜ、オメぇってヤツゎょー。


ケケケケケ。


「おい、ポチ。 付いて来んじゃねーぞ」


だ〜れがオメェなんかに。

アリスなら喜んで付いて行っちまうヶどもょ。


ここで我輩の特技を紹介しておこう。


『我輩の特技』


そ、れ、は、


ジャーン!!


『猫掻(ねこか)き』


そぅ。

猫掻きである。

つまり我輩は泳げるという事だ。


思い返せば3年前のある日。

気が付いたら我輩はお風呂で泳いでいたのであった。

それも猫掻きで。

(かたわ)らではアリスが髪を洗っていた。

当時のアリスの髪は腰まで届く位長かった。

今はショートだ。

就職と同時に髪を切った。

失恋したからではない。


アリス曰く、


「長髪だとね、ポチ。 髪洗うのに時間掛かっちゃうからだょ。 だからね、ポチ。 髪切ったんだょ」


だ、そうだ。


だが、アリスには可哀そうだが我輩としては、


「失恋したから」


って言って欲しかった。

安心だからだ。


『あぁ、アリスも普通の女の子なんだな〜』


そう思えるからだ。

前にも言ったが、アリスは失恋しようにも恋人が出来ない。

と、いうより作る気がない。

アリスが “キモイ女” なら話は別だ。

そぅ。

キモイ女なら。

しかしアリスは実に可愛い。

恋人が出来ない訳がない位。

だが出来ない。


おい、アリス。 ダイジョブなんかぁ? ホント〜。

俺様、心配だぞ〜。

って、又ボヤいちまったぜ、つったく〜。

いゃー、その何だ〜。


『アリスの事になると、つい向きになってしまう俺様がいる』


な〜んてな。


ん?


待てょ、何でこんな話に・・・。


!?


そうかそうか。

猫掻き猫掻き。

そうだったそうだった。

猫掻き猫掻き。

猫掻きの話だったな。

うん。

猫掻き猫掻き。


つまり何だ〜。

前振りが長かった割には簡単な話だ。

笑っちゃう位だ。


こうだ!!


アリスはお風呂に入る時、いつも子猫の我輩と一緒だった。

という訳だ。

今も時々一緒に入るが。

だから我輩は水が怖くない。

気が付いたら湯船でピチャピチャ泳いでいた。


ね、こ、か、き、で。


だから泳げる。

な。

簡単だったろ?

な?

笑っちゃたか?


これが我輩の特技 “猫掻き” である。

そしてこれにまつわる結構笑える話があるんだが、まぁ、それに関しては別の機会に、という事で・・・。


一方、美琴だが。


言い忘れていた。

美琴は今、夏休みの真っ最中だ。

だが、進学校に通う悲しさか?

サマースクールとかなんとかいうのがあるらしく、時々学校に行く。

大体、午前中で帰って来る。


!?


遊ぶ時間はない。

塾とお稽古事で一日が終わる。

お稽古事はピアノ、声楽、ヴァイオリンそれにクラッシクバレーだ。

他にも何かやってるらしいが、我輩が知っているのはこれだけだ。


美琴は嫌なヤツだ。


でも、見ていて時々可哀そうになる。

全くと言っていい程、遊ぶ時間がない。

遊びたい盛りなのに。

だが、本人はそんな事は全く気にしてないみたいだ。

美琴は嫌なヤツだが、その努力には頭が下がる。

しかし、ナゼそんなに頑張るのか?

理由は簡単だ。

美琴には 『夢』 がある。

あり余る才能もある。

そして努力を惜しまない。

だからその夢が現実になる日が必ず来る。

これは我輩の直感だ。


チョッと褒め過ぎか?


ま、俺様にはどうでも良い事なんだけどもょ。

なんつっても嫌なヤツだからな、美琴は。


俺様がそんな事を考えているとは露知らず、美琴は今、鼻歌交じりでシャワーを浴びている。




12 完