18



あれー?


やっぱ来てないゃ、メリーちゃん。


メリーちゃんは山田さんちの三毛猫だ。

もちろんメスだ。

名前の通りだ。

名前の通りじゃないのは、この辺では俺様だヶだ。

八百屋の加藤さん家のミケや有田さん家のタマ、池山さん家のミー、古川さん家のトラ、・・・。

み〜んな猫っぽい名前だ。

それに引き換え、俺様だヶだ。


『ポチ』


・・・!?

ウウウウウ。

何か悲しくなって来るぞ。


『ポチ』


『ポチ』


『ポチ』


ウウウウウ。

悲しいぞ。


何で俺様だヶこんな名前なんだ。

犬じゃねぇのにょー。

何でこんな名前なんだ〜!?


チッキショー!!


大っ嫌いだー! 真っ赤な太陽なんてー!!


ガッデム!!


思い返せば3年前。

正確には2年半位前。

そう、2年半位前。


!?


春頃だった。


!?


思うぞ、確か。

俺様が初めて俺様の名前が 『ポチ』 だって自覚したのは。

そん時は、俺様もまだ子猫だったから自分の名前の意味が良く分かんなくってょ。

素直に反応しちまったぜ。

こんな感じで。


「ポチ」


「ニャー」


「ポチ」


「ニャー」


「ポチ」


「ニャー」


んでもってょー、んでもって大騒ぎだ、そん時は。


「ママー!! ママー!! チョッと来てー!! ママー!! ママー!! 早く来てー!! 早く早く!!


「ど、どしたのアリス? どしたの? 何があったの? そんな大きな声出して?」


「ママ、ママ!! 凄いょ凄いょ凄いょ!! 凄いんだょ、ママ!!


「何が?」


「ポチがね、ポチがね、ポチがねー!!


「ポ、ポチがどしたの?」


「ポチがねー!! ポチって名前呼んだら返事するんだょ。 ホントだょ。 ホントに返事するんだょ。 ホントだょ。 可愛いょ」


「ホント?」


「うん、ホントだょホント。 見てて見てて」


「うん。 見てるゎ」


「ポチ」


「ニャー」


「ポチ」


「ニャー」


「ポチ」


「ニャー」


「ほらねぇ」


「やだホント。 ホントに返事するゎね。 ママもやってみようかしら」


「うん。 ママも、ママもやってみて」


「ポチ」


「ニャー」


「ポチ」


「ニャー」


「ポチ」


「ニャー」


「あら、やだ。 ホントにチャンと返事したゎ」


「ねねね、ママ。 凄いでしょ。 凄いょね。 かっわいー!! ほら〜、ポチ〜!! ウリウリウリー。 ウリウリウリー。 ウリウリウリー。 かっわいー!!


「ホントねぇ。 ホント可愛いわね。 パパと美琴が帰って来たら教えて上げなくちゃね。 二人とも何て言うかしらね」


「絶対 『かっわいー!!』 って言うよ。 絶対言うよ。 ウリウリウリー。 ウリウリウリー。 ウリウリウリー。 かっわいー!!


その後が又、大変だったぜ。

パパさんと美琴の 『ポチポチポチー』 の連呼に一々返事してたんだからな、一々な。

ったく。


まぁ、今となっちゃー、いい思い出なんだヶどもょ。


それにこの頃からだったような気がするぜ。

アリスの 『ウリウリウリー』 が始まったの。


まぁ、どーでもいい事なんだヶどょ。


そんな事よっか。

どしたのかなぁ、メリーちゃん。

朝も来なかったしな〜。

涼しくなったら来るかな〜。

うん、きっと暑いから来ないんだな。

多分そうだ。

俺様だって来たくて来たわけじゃないもんな。

仕方なしだぜ、仕方なし。

家じゃ、ターザンの雄叫びだもんな。

ターザンの雄叫び。

そぅ。

ターザン美琴の雄叫び。


!?


これ良いな。


『ターザン美琴』


うん、これ良いぞ。


『ターザン美琴』


うん、中々だ。


ってまぁ、つまんねー事感心しててもな〜。

どーすっかな〜。

ここいてもアッチーだけだし。

メリーちゃん来そうにねぇし。

かといって、家帰ってもな〜。

家帰ってもうるせぇだヶだし。

どーすっかな〜。

アッチーけどもうチョッとだけここいて時間潰すか。

うん、そうだそうだ、そうしよう。

ベンチの下ならチョッピリ涼しいし。


しっかし、今日は暑い。

だから、だ〜れも来ない。

人間様もだが猫様もだ。


オレ様山公園はこのあたりに住む猫達の溜まり場でもある。

つまり、オレ様山公園では 『猫の集会が行われる』 という事だ。

だが、我輩は一度もその集会に参加した事がない。

というのも、我輩が近付くとみ〜んな一斉に逃げてしまうからだ。

蜘蛛の子を散らしたように。

ナゼか我輩は嫌われているらしい。

というより、ナゼだか分からないがみんな我輩を恐れているみたいだ。

『いじめっ子』 つー分けでもねぇのにょ、我輩。


ナゼだ?


ナゾだ!?


ただ、メリーちゃんだけが我輩を恐れない。

そのメリーちゃんが来ない。

だから心配だ。

なんつっても我輩のたった一人の理解者、否、たった一匹の理解猫。


!?


メリーちゃんだからな。

だからもうチョッと待って。

そんで来なかったら、夕方涼しくなってから又来よう。


うん、そうだそうだ、そうしよう。




18 完