19



!?


急に暗くなったぞ。

雲行き怪しいぞ。


!?


ポツポツ来たぞ。

雨だ!?

早く帰ろう。


オレ様山公園の今我輩のいるベンチから田原家まで、猫の足で10秒だ。

猫ダッシュなら5秒だ。

花壇からなら普通で3秒だ。

これは前に言ったな。

凄く近い、一気だ。

それでもチョッと濡れた。

チョッとな。


!?


洗濯物まだ干してるぞ。

ママさんに教えなきゃ、雨の事。


オットー!!


言い忘れてたぞ。

田原家には我輩専用の出入り口がある。

パパさんが作ってくれた。

といっても台所の窓を我輩が出入り出来る位開けてあるだけなんだヶどな。

それに泥棒よけの格子が付いている。

結構頑丈なヤツが。

窓は開かないように固定してある。

それも泥棒よけだ。

窓付けクーラーを想像すると分かりやすい。

クーラー横の下側部分が我輩の出入り口になっている。

そんな感じだ。


窓の外には我輩専用の踏み台が置いてある。

窓が高い位置にあるからだ。

内側は、流しに一旦飛び乗ってから出入りする。

隙間風が入らない様に出入り口は板暖簾(いたのれん)になっている。

それでも多少隙間風が入る。

だから冬はチョッと寒い。

夏は夏で窓が開けられないからチョイ不便だ。


!?


誰も文句を言わない。

我慢してくれている。

我輩のために。


信じられない事だが、あの美琴も一言も文句を言わない。

これは驚きだ。

ホントは 『良いヤツなのかな?』 等と錯覚さえする。

そして裏切られる。

お約束のパターンだ。


そして、この我輩専用の出入り口にはちゃんと名前が付いている。

といっても我輩が付けたんだヶどな。

この我輩が。


そ、の、名、も、 『俺様ドアー』 だ。


どうだ?

中々だろ。


『俺様ドアー』


うん、中々だ。


しかし、アリス達は 『俺様ドアー』 とは呼ばない。

自分たちで勝手に名前を付けている。

こうだ。


『ポチ戸』


・・・!?

おいおいアリス〜。

誰が言い出したか知んねえヶんど、ポチ戸はねぇだろ、ポチ戸はょー。

どういうネーミングのセンスしてんだ、どういう。


チッ。


ポチ戸だってょ〜、ポチ戸。


ウウウウウ。

何か悲しくなって来るぞ。


『ポチ戸』


『ポチ戸』


『ポチ戸』


ウウウウウ。

悲しいぞ。


ま、言ってもしょうがない事なんだヶどもょ。


!?


美琴がいない。

塾かな。

まだ早(はえ)ぇんじゃねか、塾の時間まで。

それとも二階でお勉強か。

勉強家だからな、美琴は。

だから成績優秀だ。

否、成績優秀だから勉強するのか。


まぁ、どっちでもいいゃ、発声練習終わったんならな。

あの悪魔の雄叫(おたけ)びが終わったんならな。


オットー!!


それどころじゃなかったぜ。

ママさんどこだ。

ママさんママさん。


!?


いたいた、リビングだリビングだ。

のん気にテレビみてるぞ。

何に見てんだ。

エッチなヤツか?

って、それどころじゃねぇんだ。


「ニャーニャー」 (ママさんママさん)


「ん!? ポチ何? どしたの?」


「ニャーニャーニャー」 (雨だ、雨。 雨降って来たぞ)


「ん? 何? どしたの?」


「ニャーニャーニャー」 (洗濯物、濡れちゃうぞ)


「あら、ポチ。 濡れてるじゃない・・・。 あ!? 雨か!? 洗濯物洗濯物。 入れなきゃ入れなきゃ」


!?


ママさん。

縁側からツッカケ履いて飛び出したぞ。

素早い。

ウ〜ム、猫みたいだ。

ウ〜ム、俺様みたいだ。

洗濯物、全部取り込んだぞ。

パパさんのパンツとシャツ、それにパジャマもだ。


!?


という間だ。

ウ〜ム、素早い。

猫みたいだ。

俺様みたいだ。


「ポチー、おいで〜」


「ニャー」 (何だい、ママさん)


「お前、お利巧だったねぇ。 ご褒美あげるょ」


「ニャーニャー。 ニャー」 (何だ何だ、何くれんだ)


「ほ〜ら、お前の大好きなミルクだょ。 お腹空いてんだろ」


「ニャーニャー。 ニャー」 (うんうん、空いてる空いてる)


「ピチャ、ピチャ、ピチャ」


プハー、うめー!!


やっぱミルクは好いですなぁ。

実に美味いですなぁ。

きっと、

こんな時言うんだょな。

こういう、セ、リ、フ。


『ウ〜ム。 デリシャス』


って。

そぅ、こんな時に。


『ウ〜ム。 デリシャス』


って。


我輩はミルクが大好きである。




19 完